シンラたちがオーブに身を寄せている頃、オーブ沿岸のとある場所で釣りをしていると思われる人間が2人いる。
「来たぞ」
一人がそう口にすると、海面からひょこっとダイバースーツ姿の人間が複数現れる。
続々と海岸に上がる人数は四人。彼らがダイバー用の装備を脱ぐとその正体は、ここまでアークエンジェルの追撃を行っていたアスラン・ザラ率いるザラ隊であった。
「クルーゼ隊、アスラン・ザラだ」
「ようこそ、平和の国へ」
それを待っていた前述の釣り人2人は、実はプラントからオーブへの密偵として送り込まれていた工作員である。
彼らは事前に用意していた、アスランたち四人分の偽造IDパスと身分証明書それぞれ手渡す。
「そのIDで工場の第一エリアまでは入れる。だがその先は完全な個人情報管理システムでね、急にはどうしようもない。が、無茶はしてくれるなよ。騒ぎはごめんだ。獅子は眠らせておきたいってね」
そうプラントの工作員からの説明を受けた彼ら四人は、用意していたモルゲンレーテ社の作業員服の姿で、オーブへの潜入活動を始める。
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オノゴロ島のモルゲンレーテ機密工場内部ではシンラとキラの前に広がる、複数同形のモビルスーツが並んでいた。
「あっ!これ…」
オーブ出身であるキラにしてみれば、このオーブにモビルスーツがこんなにも幾つも在ることに驚くのは当然のこと。しかしオーブのモルゲンレーテは既に自国の中立コロニーで地球軍のモビルスーツを開発している。
そのことを考えると此処本国でもやってない筈がないのだ、動揺しているキラにエリカ・シモンズは笑みを浮かべて説明する。
「そう驚くこともないでしょ?貴方もヘリオポリスでストライクを見たんだから。これはMBF-M1・M1アストレイ。モルゲンレーテ社製のオーブ軍量産型の機体よ」
その彼女が説明した時である。
「これが中立国オーブという国の本当の姿だ」
「あ、カガリ...」
そこに居たのはカガリであった。しかし右頬が赤く腫れている、まるで誰かに叩かれたかのようになっている。
だがそんな彼女を無視するようにシンラは、エリカに対し問いかける。
「このモビルスーツたち...オーブはどうするつもりですか?」
「シンラ...」
眼を鋭くして聞いているシンラに、不安げに見つめるキラ。だがエリカでなくカガリが話しに割って入る。
「これはオーブの守りだ。お前やキラも知っているだろ?オーブは他国を侵略しない。他国の侵略を許さない。そして、他国の争いに介入しない。その意志を貫く為の力さ」
そう毅然として説明するカガリ、しかしその顔が段々と怒りに染まっていくのが分かる。
「オーブはそういう国だ。いや、そういう国のはずだった。父上が裏切るまではな」
「え?」
裏切りと言うカガリにキラは啞然とした。そんなカガリにエリカは困った様子で弁解するように話した。
「あ~ら、ま~だ仰ってるんですか?そうではないと何度も申し上げたでしょ?ヘリオポリスが地球軍のモビルスーツ開発に手を貸してたなんてこと、ウズミ様は御存知…」
「黙れ!そんな言い訳通ると思うのか!国の最高責任者が、知らなかったと言ったところでそれも罪だ!」
カガリとしては父親がオーブの理念、そして理想を捻じ曲げたと考えている。国の最高指導者が自国コロニーでモビルスーツ開発をしてた事を知らぬ筈がないと怒っている。
オーブの理想を自ら裏切るような真似をした父ウズミを、カガリは勝手ながらに軽蔑し嫌悪しているのだ。
「あれほど可愛がってらしたお嬢様がこれでは、ウズミ様も報われませんわね。おまけに昨日のあの騒ぎでは、確かにほっぺの一つも叩かれますわ」
「え?!」
キラはカガリの顔を見て叩かれた痕を見つける。だがシンラは...
「....所詮世間知らずのお子様だ。叩かれて当然だ」
「なに!!」
「し、シンラっ....」
彼の一言にカガリは怒り食って掛かった。キラは彼を止めようと叫ぶが、しかしシンラは言葉を止めない。
「君がどう言おうが決めるのは国の指導者だ、そこに何も知らないだけの子供である君が介入する余地はない。そんな事も分からず、ただそんな不貞腐れた態度は見ていて哀れだ」
「お前!!」
「やめなさい!!....ハァ、まったくもう...」
っと困るように口にするエリカ。そこへ作業員が近づいてきた。
「シモンズ主任、アークエンジェルのエイダさんが来ました。すでに指令センターに案内しています」
「分かったわ。さ、2人とも、こんなおバカさんは放っといて、来て!」
「あ!おい!」
エリカを先頭にしてシンラとキラは、彼女の後を追う。その後ろをカガリが言ってもいないのに付いていく。
四人が到着した場所は、モビルスーツのテスト運用する為に設けた指令センターである。
窓の向こうにはオーブのモビルスーツであるM1アストレイが三機、控えていた。
更に此処指令センターの中央には、既にアークエンジェルから此処に来ていたエイダが作業服姿で彼ら四人を待っていた。
「ドクター」
「エイダさん」
「来たのね。2人とも」
2人を待っていたエイダはゆっくりと近寄る。カガリはエイダに対して嫌いな意識を持っている所為か、つい警戒してしまう。
「あら、お姫様。右の頬っぺたどうしたのかしら?お父様に殴られたの」
などと冷淡に尋ねる。これにムッとなってカガリは「お前には関係ない」とそっぽ向いてしまうが、そんなの知ったことではないとエイダはエリカと此処で会話を行う。
「初めましてエリカ・シモンズさん。アークエンジェルより来ましたエイダです」
「ウズミ様より聞いています。よろしくお願いします」
握手を交わした後、エイダはポケットよりある物を取り出した。
「此方を。パワードの戦闘データ及び開発データを納めたUSBメモリーです」
「ありがとうございます。あとで拝見します」
エリカは喜んでUSBメモリーを受け取る。エリカは彼らと共に窓際まで移動、ガラスの向こうのテストフィールドにいる三機のM1アストレイにインカムで呼びかける。
「アサギ、ジュリ、マユラ!」
通信から三人の女性たちの声が聞こえる。
《あ!カガリ様?》
《あら、ほんと》
《なーに、帰ってきたの?》
「...悪かったなぁ」
通信越しでクスクスと笑われるカガリはムスッと拗ねたが、そんなことを余所にしてエリカが彼女らに「始めて!」とテストの開始を合図する。
三機のM1アストレイは起動し動きだした。それぞれ移動したり、ポーズをしたり、違う動きをする。
だが....
「相変わらずだな」
M1アストレイの動きを見て落胆したようにカガリは呟く。確かに彼女の言う通り、三機の動きは余りに良いとは言えないお粗末なものであった。
シンラとキラの今までの操縦に比べて雲泥の差と表現してもいい。
「....遅いわね」
「でも、倍近く速くなったんです」
腕組みし率直に言うエイダに、エリカは耳が痛いと苦笑交じりに言う。だがやはり動きが遅い、これでは戦闘には使えない。
「だから、私達はあれをもっと強くしたいの。キラさんのストライクと...そしてユーリ大尉のパワードの様にね」
「え!?」
エリカの発言にキラは驚くが、シンラとエイダは横目で眼つきを鋭くしながら見つめる。
「貴方たちに技術協力をお願いしたいのは、あれのサポートシステムのOS開発よ」
「....なるほど、了解しました。ではまずOSの現状を確認しましょう」
エリカよりM1アストレイのOSデータを預かり、それをアークエンジェルに持ち帰る。
その時、エリカがエイダより受け取ったUSBメモリーを手にして、その中にあるデータに期待するように笑みを浮かべている。
そんな彼女に気付かれず一人、エイダの口角が不敵に上がるのだった...。
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オノゴロ島内部の機密ドックでは既にオーブ側のアークエンジェル修理が着々と進んでいる。
「驚きました。もう作業がここまで...」
ブリッジより作業の様子を見ているノイマンが、余りの作業の始まりの速さに驚いていた。
「ああ。それは本当にありがたいと思うが...」
だが一方、ナタルは昨日の会談でのやり取りを思い出しながら呟く。「所で...」っとノイマンがナタルに聞いてくる。
「艦長はいかがしたんですか?」
「何がだ?」
「いえ、昨日から艦長の様子が、何かこう険しいというか...」
前回の会談からマリューの様子が変であった。どう変と言うと、眉間に皺を寄せて物々しい雰囲気を纏って誰も、ムウやナタルでさえ声を掛けにくかった。
「艦長はどうしたんですかね?」
「恐らくだが....」
そのマリューはと言うと.....
「エイダさん」
「ん?」
モルゲンレーテから帰還したエイダを呼び止める声に振り向くと、そこにマリューが真剣な顔でいた。
エイダは彼女の様子を見て、何となく察しため息を吐いてしまう。
それでもマリューはエイダに確かめたいことが幾つもあった。
「...カンパニーという組織...何故説明してくれなかったの?」
「あら、説明する理由や義務はないでしょ?貴女に」
飄々と笑みを浮かべて自らそんなの知ったことではないと言うエイダ、その彼女のあからさまな態度に機嫌が悪くならない筈がないマリュー。
「ここまで行動を共にしてきた間柄ではある筈だし、何よりも貴女たちはモルゲンレーテの人間だと噓までついている。アラスカ本部まで道のり、これ以上の隠し事は此方としても困るのよ」
「でもそんな私たちが居たからこそ、アークエンジェルはここまで何とか生き残れて来たんじゃないの。私たちカンパニーの技術と、シンラとパワードの力のお陰で...違う?」
「ならどうしてウズミ様からの要求を素直に受け入れたの?貴女」
そう。エイダはウズミからの要求であるパワードの戦闘データとその開発データを、全てオーブ側に提供することを承諾したのだ。
それを間近で聞いていたマリューたちは驚いていたのは記憶に新しい。何せパワードは五機のXナンバーの開発データを素にして作り上げた謂わばGATシリーズの傑作とも言える機体である。
自分たちが心血注いで作り上げた物を他人に委ねるなど、常人ならそう易々と受け入れるなんて出来はしない。
だがそれなのに彼女はそれを良しとしたのだった。
「貴女のあの判断は、ブルーコスモスにとってもアズラエル財団にとっても不利になるはずよね?矛盾しているわ」
「そう思いたいなら、そう思ってくれて結構よ。ただ私には私なりのやり方があるだけ...それにね」
「なに?」
訝しげに尋ねるマリューに、エイダはクスッと笑う。
「別に、それに私としてもウズミ様に条件はだしたからいいのよ」
「それって、私たちを退出させた後の...?」
「ええ、そうよ」
それは前回の会談の最中、エイダがウズミから要求を出された時である。彼に対してその承諾をしたエイダではあるが、代わりにと此方も条件があるとウズミに申し入れていた。
その際にマリューたち三人には部屋より退出して貰いたいと、彼女本人から頼みとウズミからの促しによってマリュー、ナタル、ムウは部屋より出ていった。
その内容はエイダと共に中に居たウズミしか分からない。
「何を話していたの?」
「さぁ?」
エイダは見え見えの素知らぬふりを見せる。「じゃあ私は自分の仕事がある」と言ってその場から去っていく。
その彼女の背中を睨むマリューは、昨日の部屋から聞こえたウズミの怒りとも言える声を思い出していた。
あの時のウズミの怒鳴り声、あれは一体どういうことか?それにその直後に部屋より出たエイダの余裕の顔...あの時の事をウズミに問いかけることは難しく、彼女に至ってものらりくらりと躱されるのは明白である。マリューの中で晴れぬ気持ちが残っていた。
そのマリューとのやり取りを終えたエイダは格納庫に入る。
「皆悪いわね。任せっきりで」
「ドクター、お疲れ様です...あの」
「どうしたの?」
部下の一人がエイダに近づき、話しがあるのか複雑な顔をしている。それを彼女が問いかけるも、部下が「実は...」っとエイダを案内しつつある所へ向かう。
「あれは...」
エイダが見たもの...それは
「くそ!!この!!」
それはパイロット育成のシミュレーターを使って、奮闘しているフレイ・アルスターがそこにいた。
実は彼女、以前カガリが砂漠に居た際にここのシミュレーターを使っていた様子を隠れて見ていたのだ。
それ以降、彼女はマードックたちに使い方をレクチャーしてもらい、機会を見つけてはコソコソとシミュレーターを使っていたのだった。
「....」
エイダはフレイの様子をじっくり見つめる。フレイは宇宙で父親を失っている、その喪失感は今も残っているのであろう。
以前にアルスター家の家族構成を調べたことがあり、フレイの母親は彼女を出産して間もなくして亡くなっている。
つまりフレイ・アルスターは天涯孤独とである。なので明日の“午後からの面会”には彼女は行くことはない。
「やめさせますか?」
部下からの問いにエイダは首を横に振り、そのままシミュレーターに真剣になって周りが見えてないフレイに近づく。
「この!!」
「頑張ってるわね」
「っ!!」
突然声をかけられてビクッと身体が跳ねるフレイ。怒られるのではと危惧していたが....
「怒るつもりはないわ」
「....え?」
鳩が豆鉄砲を食ったような、眼が点になって間の抜けた声を漏らすフレイ。その彼女にエイダは....
「貴女がこうしてるのは、遊びでやってる訳じゃない...そうよね?」
「あ、あの...」
「敵と戦いたい...そうでしょ?」
「...........はいっ!!」
その問いにフレイの顔付きが変わる、彼女は眼を鋭くして力強く頷いたのだった.....。
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翌日、作業は行われた。エイダはシンラとキラと共に格納庫でOS作成作業に取り掛かる。
2人とも作業服姿で仕事に取り掛かって無言でキーボード操作している。その中でキラは、やはりずっとシンラに横目でチラチラと見ていた。
声をかけたい....このままずっと互いに言葉をかけられないのは、彼女としても嫌である。
彼女は意を決して...
「あの!!シンラ!!」
「え?」
「あのね!!私、あやまり...」
その時エイダが...
「シンラ、申し訳ないけど...私一旦席を外すわね」
「え?何かあるんですか?」
突然エイダが外出すると言いだし、その理由を話す。
「えぇ、実はこの後ウズミ様と会談があるのよ」
「分かりました。いってらっしゃい」
エイダはその場を後にして出ていく。するとシンラは先ほどキラが何かを言おうとしたのを思い出し問いかける。
「それで....なに?」
「え....あ、うん...なんでも、ないの...ごめんなさい」
「.....そう」
「うん....」
ぎこちない雰囲気となりながらも、シンラとキラは作業を継続するのだった。
その時刻...サイ、トール、ミリアリア、カズイの四人は、漸くヘリオポリスから離れ離れとなっていたそれぞれの両親と再会できていた。
彼らはヘリオポリス崩壊以降、安否不明だった両親とこうして故郷であるオーブで再会できたことへの喜びと感涙で、互いに抱きしめ合う。
そして此処ウズミ・ナラ・アスハの執務室にて、2人の男女が重い表情で椅子に座ってウズミが来るのを待っていた。
そして扉が開き、ウズミが入ってくると2人の男女は立ち上がる。その二人にウズミは口を開く。
「ヤマトご夫妻、ですな」
ウズミがそう尋ねると彼ら...キラの母親であるカリダ・ヤマトと、父親ハルマ・ヤマトは深々と頭を下げる。
頭を上げると、カリダが眉をひそめて言う。
「ウズミ様…二度とお目に掛からないという約束でしたのに…」
「運命の悪戯か、子供等が出会ってしまったのです。致し方ありますまい」
ウズミの言葉にカリダとハルマは、運命というものを呪うかのように悲痛な表情をする。
っが....そこへ。
「確かに運命の悪戯よね。こうして貴方たちと再会できるなんて....」
「「!?」」
ウズミの背後より女性の声がする。その声に聞き覚えがあるのか、カリダとハルマは信じられないと言った顔をする。そんな彼らの前に姿を見せたのはエイダ、彼女は険しい顔で呟く。
「久しぶりね、カリダ...メンデル以来かしら」
「エイダ...どうして...」