天石教ーてんごくきょうー   作:rezeaizen

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天石教において、鉱石病とは恐れる物では無い。我等にとってそれは祝福であり、神に至る為の必要な苦痛なのだ

─── 天石教 教義12条 ───


1話

「初めまして。当教会に来られるのは初めてですか?……成程、感染者になってしまったと。ご安心下さい、ここでは感染者も非感染者も平等に……おや、寄付をなさりたいと?成程、では此方へ……」

 

修道服に身を包んだ女性に案内され、祝福室と書かれた扉を潜る

俺は運が悪かった。源石の欠片を踏んで感染者になるなんて、考えてもみなかった

感染者になったと周囲にバレる前に家財を売り払い、金を作った。風の噂で、ココに来ると鉱石病が治せると噂の教会。事実として、スラム街の感染者の何人かは金を積んで鉱石病を治し、龍門での検査も通り、非感染者として働いている

その連中も喧伝していた事を思い出す。まだ軽度である自分も、ここで治して貰えば、元の生活に戻れる

「おかけになってお待ちください。巫女と教主を呼んで参ります」

白を基調とした部屋だ。祝福室と書かれていたが、ここでならどんな説教も祝福となるだろう

部屋の中央に鎮座する椅子へと座り、丸テーブルの上に掻き集めてきた金を置く。30万龍門幣、俺が出せる全財産であり、端金と言われればそれまでの額

 

「お待たせしました、巫女と教主の両名に御座います」

 

案内してくれた修道女が、サルカズの男と、感染者である巫女を連れてきた。話にはきいていたが、どうやらこのサルカズの男が教主らしい

サルカズたる角はあるものの、白いローブを身に纏ったその物腰は柔らかく、部屋に入るなり深々と一礼してきた

さすがにそこまでされるとは思っておらず、思わず椅子から立ち上がり、こちらも一礼する

巫女と言われている女性は修道服に身を包んでいるものの、手足に源石が出現している。重度の感染者だと言う事が分かるが、その動きはまるで痛みを感じていないようである

 

「お話を聞かせて頂けますかな、何故感染したのかを」

 

先程の修道女が持ってきたティーセットを受け取り、教主直々に入れた紅茶がティーカップに注がれていく。対面に座る巫女と自分の前に差し出され、ゆっくりとカップを傾ける

美味い。金を作る為にドタバタしていたせいか、身体中に染み渡るようだ

カップの中身を空にし、落ち着いて事の顛末を話し出す

 

「運が悪かったんです。仕事で長期間残業があり、いつも以上にヘトヘトでした。普段なら通らないような路地裏を近道に使って帰宅しようとしたんです。そしたら、足元に源石の欠片が落ちてて……靴も買い替える直前で、穴が開く寸前の物を履いていたが為に、私は源石の欠片を踏み、足の裏を傷つけて……血が出ていたんです」

 

そこからは早かった。風の噂で聞いたここに来て、感染者として判断される前に治してほしい

自分は感染者になる訳にはいかない。独身ではあるがまだ若く、働き手として重要なのだから

この2つは飲み込み、丸テーブルに置いた30万龍門幣を差し出す。これで治してくれ、運が悪かっただけなんだ、と言いたげに

 

「落ち着いて下さい。これは貴方の全財産でしょう?全て受け取る訳にはいきません。何よりも今回は本当に運が悪かった。したくもない残業に奉仕し、靴を買う暇すら惜しんで働き、他の誰かに迷惑をかけまいとする貴方を、一体誰が責められましょう。ここに来るまでずっと気が抜け無かったでしょう、お疲れ様でした」

 

気が付けば、教主が自分の隣に膝を着き、俺の手を握っていた。サルカズ特有のザラりとした肌ではあるが、その手は温かく、それでいて深い皺が刻まれていた

涙が出そうになるのを抑え込み、喉から声を絞り出す

 

「俺は……俺は、治るのでしょうか」

 

「ええ、治ります。治りますとも。貴方が真っ先にここに来て、誰にも迷惑をかけなかったから。誰かを傷付けたり、酒に溺れたりして、自暴自棄にならなかったから。貴方の善行は報われねばなりません」

 

教主は左手で俺の肩に触れ、右手で巫女の肩に触れた。巫女と教主は目を閉じ、祈り始める

釣られて俺も祈り始める。手を組み、誰に祈っているかも分からないが、祈る。治ってくれと

身体の中から何かが抜けていく感覚が生じていく。血液中にある鉱石病の原因である何かが抜き取られていくような感覚

だるかった身体が回復していく。喉奥の痒みが取れ、出そうだった咳が止まる。奇跡だ。目を開けると、巫女と呼ばれた女性の身体に生えている源石が、ゆっくりと成長している事に気付く

 

「終わりましたよ、これで貴方の善行は報われました」

 

教主の声を聞き、手は喉を触り扁桃腺の腫れが無い事、身体のだるさが完全に無くなった事を確認する。善行は報われ、教主の手は再度俺の手を握った

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「いえ、良いのです。貴方の善行が報われた結果ですよ」

 

教主の手を思いっきり握り、自分の判断は間違っていなかった事、この人に治療して貰えて良かった事を拙い言葉で伝える

巫女と教主は良かった良かったと笑い、共に祝福室を出ていけば、俺と同じような人物が入れ替わりで入っていく

教主と別れて裏口へと行けば、案内してくれた修道女が待っていた。手には盆を持ち、寄付を待ち望んでいるようだ

まるで夢のような一時だった。気付けば3万龍門幣をその盆の上に置き、改めて修道女に対して礼を告げていた

 

「何時でもお越しください。それと、貴方のようになってしまった方の為に、治った事を広げて上げて下さいね」

 

修道女はそう告げると、裏口の戸を開けた。生まれ変わった気分だ、俺は今生まれ変わったのだと、頭の何処かで考える。今の仕事を辞めてもっといい所を探そう、そんな事を考える足取りは、二度とあんな物を踏まない為に靴屋へと向かっていた

 

─────────────────────

 

「まだ痛むかい」

 

教主がそんな事を言いながら、巫女の腕に生えている源石結晶をゆっくりと撫でる。痛みの原因であると同時に、巫女と教主の罪の証でもある

教会の地下深く。長い階段を降りた先にあるのは、爛々と輝き、巨大な結晶となった元感染者達の爆発によって生じた源石である

 

「いいえ、教主様。これも祝福のお陰でしょうか、全く痛みを感じないのです」

 

彼女は末期の鉱石病である。痛みも感じる事も出来ず、いつ源石爆発を起こしてもおかしくはない

しかし、巫女と呼ばれた女性はニコリと笑う。教主と呼ばれる男のアーツの被害者であるにも関わらず、教主の貼り付けられた笑みと慈悲に、本心から感謝の意を示す

 

「そうか、それは良かった……巫女としての役目を全うし、我等の神となる時が来ているのは、分かっているね」

 

「はい、教主様。この身に受けた祝福の数々が、私を神とする為に与えられし物であり、先に行った兄弟姉妹達と共に、神となる。私はこの教義を聞いた時から、そうなりたいと願っていました」

 

巫女の身体の源石が明るくなっていく。教主の鉱石病を、新たな神子である修道服を着た男へと移す為にアーツを使い、教主の鉱石病を治さない程度に、神子を鉱石病に感染させた

巫女の身体の源石が爛々と輝きを帯びる。時間は無く、最早爆発するのを待つだけだ

 

「巫女よ、先に行って兄弟姉妹と待っていて下さい。私も責務を果たしたら其方に伺います」

 

「はい、教主様……いいえ、お父様。先に行って、お待ちしております」

 

教主と神子が部屋を出て、重厚な扉を閉める。巫女と呼ばれた女性が最期に見たのは、源石の結晶が美しく輝く様であった

次作を書こうと思いますが……

  • 天石教の続き(教主を更に追い詰める)
  • 他作(色々考えてはいます)
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