─── 天石教 教義8条 ───
「切傷、矢傷、裂傷、刺傷のある患者はこれで全員ですね?」
殴打傷や骨折は取り敢えずの処置を終えて別室に隔離し、現在処置室内に居るのは感染者だけにし、全員の病状を確認する
患者の数は全部で10人。切傷5人、裂傷1人、刺傷1人、矢傷3人
1人は先程の喉を掻き毟っていた男だ。元々鉱石病だったからか重度になっても落ち着いてはいるが、喉の異物感が取れないのか、しきりに喉仏付近を触っている
残りの3人は意識を失ってはいないものの、肌表面に源石結晶が現れ始めており、刺傷の患者に関してはエーテル麻酔で眠らせている為どの程度感染が進んでいるかも分からない
切傷と裂傷の患者は軽度と言っていいだろう。血中に入った源石粉塵が感染者にしたものの、ギリギリ発症程度の症状しか出ていない
「ここの設備でどうにか出来ますか?」
一抹の希望と共に、これだけの医療設備があるのであればどうにか出来るのでは無いか。教主たる男が医療オペレーターに聞くも、彼女はゆっくりと首を振った
鉱石病の完治は出来ない。ロドスの使命として目指してはいるものの、未だその場凌ぎの処置しか出来ていないのがロドスの現状である
「分かりました。では全員の鉱石病を私に移します」
「は、はいぃ!?」
この人は何を言っているのだろうか。そう考える暇もなく、教主は刺傷のあった新人オペレーターの身体に触れ、子供の1人にアーツを使わせた
淡い発光。子供のアーツは新人オペレーターの体から発光する何かを集め、触れている教主の手へと移していく
奇跡でも見ているような気分だった。子供達が代わる代わるアーツを使い、教主が触れる患者の身体から鉱石病を移していく。体表に現れる源石の事なんて気にせず、最後の1人の鉱石病を自らの身体に移させると、喉を掻き毟っていたオペレーターが喉を触るのを止めた
「……良かった。全員、これで…」
立ち上がろうとした教主は立ち上がる事が出来ず、その場に倒れ込んだ。意識は朦朧とし、Aceと呼ばれた喉を掻き毟っていたオペレーターによって肩を担がれた所で、教主の意識は暗闇の中へと落ちていった
最後にみた物は、自分の体の体表に現れ始めた源石結晶であった
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「…………」
目を覚ます。サルカズ用のベッドは無かったのか足がはみ出ており、足置きによって延長されている
酸素マスクをゆっくりと外して起き上がり、辺りを見回す。病室らしく、意識を失っていたのはそれなりに時間が経っていたらしい
荷物は部屋の端にまとめられており、子供達の姿は無い
痛み止めの点滴のお陰か、旅の途中から悩まされていた頭痛が無くなっている
「目が覚めましたか?」
医療オペレーターらしき人物が戸をノックせずに入ってきた。手にはカルテと栄養剤を持っており、栄養剤の量から推測して、24時間以上は経っている事を理解する
それと同時に、この艇が動いている事も。窓の外から見える景色が動いているのは奇妙なものだ
「子供達は?」
「今は私達の手伝いをしてくれています。医療技術は全部貴方が教えたんですか?」
「ああ。子供達は飲み込みが早いからね」
そうなんですね、と言いながら点滴を変えようとするのを手で制止してチューブを抜く。自分の身体の事は良く分かっているつもりだ
着替えるから出ていてくれないか?と告げれば、医療オペレーターは一礼して部屋から出ていく
窓の外に見える山岳の景色を見つめながら、ここなら自分が出来ることがあるのではと言う淡い希望を抱いていた
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「あのアーツは危険だ。ロドスの理念を揺るがす物だ」
「あのアーツが無かったら彼等は死んでいました。それに移す側は完治しています……少なくとも彼等は必要です」
「だがそれはあくまで彼等が自分達に押し付けたからだろう?他の誰かに押し付けなければならないなんて、そんなの流行病と変わらない」
「多数の為に少数を犠牲にする。問題はその多数が増え続ける事だ。仮に彼等が一時的に根絶をしたとしても、鉱石病が無くなる訳じゃない。それに少数が絶対に救われないじゃないか…」
艦内と言う性質上、話が広まるのは早い。彼等によって救われたオペレーター達から、彼等のアーツを見たオペレーター達から、手伝いに来ている子供達から、あらゆる場所から彼等の話が上がり、食堂はその話題と共に、議論へと発展していく
そして、ドクターの耳に入る事に時間はかからなかった
「君が、噂の───かな?」
病室内でストレッチしている教主に、ドクターはそう問い掛けた
次作を書こうと思いますが……
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天石教の続き(教主を更に追い詰める)
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他作(色々考えてはいます)