─── 天石教 教義3条 ───
『トレイターズの反乱から2週間、現在も源石鉱山に続く道は軍によって封鎖されており、何台もの軍用車両と何百名もの兵士が投入され続けていますが鎮圧の目処は立っておらず……』
『源石を使用しているあらゆるインフラがダメージを受けています。源石価格は上昇を続けており…』
『1部企業による市場源石買い占めの噂が飛び交っており、株価指数は乱高下を……』
どこもかしこもこんな話ばかりだ、うんざりする。テレビの電源を切る気力も無く、ソファに寝転がる
トレイターズの反乱は即座に鎮圧される筈だった。見込みでは2、3日で終わると言う見込みもあったと言うのに、未だ鎮圧も出来なければ、鉱山の再開も叶っていない
軍隊が投入されれば直ぐに終わる。誰もがそう考えていた。だが敵はトレイターズだけでなく、各国のスパイやレユニオンも混じりあう混沌を生み出した
鉱山へと続く道は源石爆弾によって吹き飛ばされ、崖崩れを起こされて封鎖され、素直に通れたかと思えば兵士の1人が源石爆発を起こす
死体を処理しようにも次々と連鎖的に発生する爆発に対処する術は無く、軍隊は鉱山特有の山岳地帯に攻めあぐねていた
源石爆弾は恐らくはスパイ、崖崩れはレユニオン、源石爆発はトレイターズ、死体の数が増えれば増えるだけ、彼等は有利な戦線を展開する事が可能になる
無論、軍隊とて無能では無い。徹底的なゲリラ戦術に対してローラー作戦を展開。軍用車両を中心に兵士を展開させ続け、ゆっくりと確実に対処をしているが、それ故に戦線の動きは遅く、道路復旧作業も遅々として進まない
『天石教支部前は酷い状況です!!信徒達が壁を作って暴徒に対抗していますが……あ、今衝突しました!!』
『各地の天石教支部前には信徒達が盾を持って壁を作っています。天石教はトレイターズに対して即時の解散及び投降を促していますが、未だトレイターズからの返答も投降もありません』
『天石教信徒の数は減少していると言われていますが、実態は増え続けています。真っ先に切り捨てられるスラムや低所得者層が門戸を叩いており……』
もし地獄があるのだとすれば、きっと今のような事を言うのだろう。政府は原因たる自らの行いから目を背けて天石教を批難し、民衆は己が生き残る為にあらゆる物を利用する
対して天石教のスタンスは一切変わらない。炊き出しは盾を持った信者達が警護する中行われ、誰であれ門を叩けば身体検査の後受け入れ、暴徒になった民衆が怪我をすれば治療する
徹底した平等、徹底したスタンス、歪みなく、一心に自らの教義を遂行する
それ故に信徒も揺るがない。正義を己が成していると分かった時の人は恐ろしく強くなるものだ
……そして、その正義こそが地獄へと続く道の1本なのだ
「ドクター。2人が話をしたいそうです」
声の主は休憩中の自分に声をかける。アーミヤと呼ばれる少女は何かしら不満があるのか、その声は酷く不機嫌さを帯びていた
言いたい事があるなら言えば良い。なんて言うのは簡単だが、恐らくその不機嫌の原因は話をしたい2人の事だろう。分かった、の一言の後にアーミヤもついてくるか?とそれとなく聞いてみる
「……そうですね、着いていきます」
少しの沈黙の後、アーミヤは残っている仕事を後で片付ける事に決めたらしい。それとも自分の事が心配なのか、2人が自分を人質にでも取るのかと考えているのか
今回の件は天石教が悪い訳では無い。寧ろ彼等は『良い事』をしており、それ故に余裕が生まれてしまい、それまで臭い物に蓋をしてきたツケを払わされているに過ぎない
自分達の行いが返ってきている。大小関わらず、ソレが起こっているだけに過ぎない
「話して貰えないと思っておりました」
医療区画休憩室。2人を除いて誰も居ないそこに入るだけで、アーミヤは警戒心を高める
アーミヤ。と一言告げて警戒する必要は無いと暗に告げ、2人の対面へと座る
空気が張り詰める。紅茶を淹れる音だけが響き、4つのカップが配られ、全員が1口、口を湿らせる程度に飲む
「この茶葉、丁度この4杯で切れた所なんです」
「それは大変だ。貰いに行かなくてはいけないな」
彼女たちが使うこの茶葉は市販品では無く、天石教本部でしか採れない。平等を原則としている中での、教主たる男の唯一のワガママで、最初の子供達にのみ渡される茶葉だ
何処か懐かしく、それでいて優しい味わいのソレは、多くの者が飲んだことがあると言うが、誰もが何処で飲んだかを覚えていない
「まあ、それは良かった。このような時勢では御座いますが、教主からドクターを天石教本部へと誘うよう言われているのです。勿論ですが、ご希望であればロドスの皆様でも問題ありません」
教主たる男はロドスを利用しようとしている。アーミヤがすぐにソレを察し、断ろうとするのをドクターは手で制した。考える素振りすら見せず、ドクターは2つ返事で了承した
「ドクター!!」
「アーミヤ、紅茶は美味しかっただろう?何、この茶葉を貰えるだけ貰おうじゃないか」
「でしたらアチラで幾らでも用意致しますわ。断られると思っていましたもの」
「お互い目指す先は同じだからね」
2人の目尻が少しばかり反応したのをドクターは見逃さず、敢えてそれを見過ごして、アーミヤと共に休憩室を出た
天石教からの迎えが数日内にやって来ると背中越しに告げられ、ドクターは手を振って応えた
次作を書こうと思いますが……
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天石教の続き(教主を更に追い詰める)
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他作(色々考えてはいます)