─── 天石教 教義18条 ───
「君のアーツは素晴らしいね」
ドクターがマグカップをテーブルに置き、対面に座った教主を見据える。先程までストレッチしていた身体に見えた源石結晶の事は触れず、かと言って無視出来るような内容では無い話だ
教主たる男もマグカップ内に入っているお茶をゆっくりと飲み、ふぅ、と息をつく。落ち着いたのか、はたまた覚悟を決めているのかは分からないが、その目にある真意を読み取る事は出来ない
「素晴らしい訳無いでしょう。こんなの対症療法以下だ」
教主は内心を吐き出すように呟いた。目の前に居るドクターに嘘をついても何の得にもならないと言う事と、ドクターに対しては嘘をついたとしても見透かされると言う事が理解出来ているからだ
全てを見透かしているような目をしている。教主がドクターを見た時の感想はその一言だった
「いや、素晴らしいとも。少なくとも移す側を完治させる事が可能だし、先程のような緊急時において君のアーツは非常に有用だ」
「アレは本当に緊急時だからさ。医療オペレーターから聞いたが、ここでは鉱石病を完治させる為の研究してるんだろう?そっちの方が1番良いに決まってる」
教主がマグカップに再度口をつける。音もさせずに中身のお茶を飲み、ドクターの真意を探るようにじっとフードの中から見える目を見据える
対するドクターも器用にもフード内にマグカップを入れてお茶を飲む。その仕草に気付いた教主が一瞬だけギョッとしたのを見逃さなかったが、あえて言う必要も無かった
「ふぅ……君、宗教に関してはどう考える?」
「宗教?いいんじゃないか。縋る物があるのはいい事だ。人は何かに縋らなきゃ生きていけない。死の間際には誰もが祈る」
「そうだね。人は何かに縋る。だから君がその縋る先を作ると良いんじゃないかな?」
「……………………は?」
一体何を言っているのか。このドクターは俺に宗教を作れと言っているのか。と言うかロドスから見れば俺のしている事はロドスを脅かす事だろう。色々な考えをひっくるめて、教主の口から出たのはたった一言だけであった
ドクターの内心は分からず、同様にその目から真意を汲み取る事など出来ない
「新興宗教でも作れと?そこら辺で布教し、感染してない人達から石を投げられろ、と?」
「宗教自体は悪い事じゃないし、悪い物じゃない。君もそう言ったじゃないか。問題はソレを誰がどう使うかだ。君は多くの人を救える宗教を立ち上げる事が出来るだろう?」
狂人。正にその二文字が相応しい男が目の前に居る。内心を恐怖に埋め尽くされそうになるのを耐え、理解を拒む脳を動かし続ける
不可能だ。そんな言葉が出そうになるのを必死に耐えながら、まるでさも当然とばかりにドクターと呼ばれる男は話を続ける
「『感染者も非感染者も同等の生活を』。これを主目標として掲げよう。もうすぐカジミエーシュの辺境を通るから、そこを本部として……」
「待て待て待て、俺はやるなんて一言も言ってないぞ。大体、俺にはそんな事……」
「出来るさ、君なら。君にしか出来ないんだから」
ドクターと呼ばれる男のその一言が、この天石教を作り上げたと言っても過言では無い
つまるところ──────コレは最初から、たった一人の男の欲望から出来上がった宗教なのだ
次作を書こうと思いますが……
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天石教の続き(教主を更に追い詰める)
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他作(色々考えてはいます)