─── 天石教 教義5条 ───
カジミエーシュに、耀騎士と呼ばれた騎士が居た。騎士の中で最強は誰か?と聞かれれば名が上がる程の騎士である
耀騎士は不慮の事故から感染者となり、その事実と商業連合からの圧力から騎士競技を引退し、放浪の旅へと出た
その手に握られた一冊の冊子を元に、とある場所に寄るのも当たり前の事であり、同時に、彼女が使徒へとなるべく必要な事だと言えるだろう
貧者よ、孤児よ、感染者よ、迫害され弾圧され世から排除されようと言う遍く人々よ、天石教に来たれ
街の片隅、誰も相手にしない中、男は声高らかに布教を続けていた
誰も気にも止めない。身に着けている甲冑から騎士競技に敗れた男の戯言であり、敗者に次は無いこのカジミエーシュにおいて、彼の言葉は無力だ
彼の足元に置かれている冊子は一冊として取られず、彼はその事実に落胆しながらも声高らかに告げる
─── 感染者も非感染者も同等の生活を ───
この言葉を聞いた耀騎士は、布教を続ける男に近付いていた
「すまないが、その冊子を1部貰って良いか?」
「よ、耀騎士……!?も、勿論です!!貴女に貰って頂けるとは思ってもいませんでした」
気のいい騎士だったのだろう、兜により顔は見えないが彼女は声のハツラツさからそう判断し、冊子を受け取ればその場を後にする
中に書かれているのは天石教の教義の1部と、とある場所を指し示す地図と、その場所に向かう為の方法が書き記されていた
とてつもなく怪しいし、何よりもこの場所は辺境である。聞いた事の無い宗教に、騎士の告げていた一言。放浪の旅に出るのであれば、これくらいの寄り道はしても問題無いだろう
最早この街から出ていく決心をしていた彼女の行動は早く、地図を頼りとして辺境へと足を進めた
「はい、これでもう大丈夫ですよ」
「ありがとうございます、教主様。お手を煩わせてしまい、なんと申し訳ない事か……」
「そんな事はありません。孤児院の建設に携わって頂けるのですから、寧ろこれくらいは私の義務です」
天石教は着実に大きくなっていた。他に行く場所の無い者。弾圧され逃げ延びてきた者。貧しく明日すら見えぬ者。俗に言う弱者達が集まり、ゆっくりと、だが確実に村の規模を大きくし、共同体としての力を付けていく
噂は噂を呼び、人は人の繋がりを呼ぶ。天石教の噂は、最早カジミエーシュだけに留まらない
「失礼。貴方が教主だろうか?」
「ええ、そうですが……貴女は?」
教主が患者達の治療を終えて診療所から出ると、1人の女性から声をかけられた
見慣れぬ金髪に、しっかりとした体幹。騎士競技の人間だと言う事に気づくのに時間はいらなかった
然しながら、教主は知らない。この女性がかの耀騎士だと言う事を。元より世間に興味が無かった事と、睡眠食事入浴以外休み無く働き続けるブラック労働を毎日続けている為だ
「私は……そうだな、ニアールと呼んでくれ。単刀直入に言わせて貰おう、私を用心棒として雇ってくれないだろうか」
「用心棒、ですか」
正直に言えば、別段必要無い。しかしながら村人からも、最初の子供達からも、果てはこの地にやってきた新たな信者達にまでも危機感の無さを指摘され、せめて護衛くらい雇えと言われる事に疲れたのも事実であるが、そもサルカズである自分にとって、護衛が居られるのはどちらかと言えば迷惑だ
何よりも彼女は強いのだろう。こうして話しているだけでも分かるが、身体にブレが無く、じっとコチラを見上げてくる目には輝きが宿っている
「……そうですね、でしたら孤児院の警備員になってくれますか。給料はコレ位で……住む場所は孤児院の近く、この条件で良いのであれば、契約成立です」
もし教主が、目の前に居る女性が耀騎士ニアールだと知っていれば、何かしらに利用しただろう。しかしながら世間知らずで働き詰めの彼はそんな事露知らずにニアールを普通の警備員として雇った。騎士競技時代から比べれば端金である程度の額を提示された彼女はようやく、耀騎士を知らぬ者に会えたのだと気づき、内心何処かホッとしていた
「構わない。……孤児院があるのか?」
「ええ。昼は村の子供達全員を集めて教育の場として。それ以外では親を亡くした子供達や捨て子、スラムで生活していた子供達を集めて共同生活させています。感染者も非感染者も分け隔て無く、ね」
丁度孤児院に向かうところですから、一緒に来ますか?と教主が声をかければ、ニアールは頷いた。2人が隣合って歩く姿を見ていた信者の1人が噂を広める事は当たり前であり、その噂が外に広まるのも早かった
───曰く、耀騎士は天石教の使徒である
後年、ニアールは当時の事を聞かれてはこう答えたと言う
「少なくとも、私は彼等の使徒になったつもりは無い。そして、意見としてはシャイニングと同じだ」
次作を書こうと思いますが……
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天石教の続き(教主を更に追い詰める)
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他作(色々考えてはいます)