天石教ーてんごくきょうー   作:rezeaizen

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兄弟姉妹達は我等を見ている。我等の行いに恥ずべき事が無いように

─── 天石教 教義14条 ───


17話

『ただいまカジミエーシュ前線は大混乱を極めています!!ご覧下さい!!天石教の教主が今、1人で封鎖線の先へ入っていきます!!!』

 

マスコミが教主を撮影しながら、怒声にも似た報道を続ける。つい先程突然現れた教主は軍人と2~3言葉を交わし、封鎖線を易々と越えた

無論、コレには報道陣から怒涛の突き上げがある。封鎖線を張っていた何名かは教主の後を追う為にカメラマンとレポーターだけで突撃し、報道陣を止める事に精一杯な兵士達はソレをわざと見逃した

キルゾーンまで数百メートル、レポーターは教主への質問攻めを行い続ける

 

『何故いきなり前線にやってきたのでしょうか?これまでの被害を見てからの行動に何かしら思うところが?』

 

「これ以上看過出来なくなっただけです。もう落とし所だと言う事ですよ。彼等が受けてきた弾圧も虐殺も何もかもを表沙汰にしてきました。そしてソレを行ってきた政府や政府機関の事も。彼等の思うことも理解出来る。しかしながらこれ以上は更なる軋轢を生みます。最早テロと言う言葉では収まりが付かなくなってしまう」

 

取材に答えながら歩く教主の姿を捉えながら、彼等はキルゾーンに到着する。軍人の亡骸だった源石結晶を前に教主は跪き、祈りの言葉を捧げる

静寂が周囲を包み込む。教主の言葉だけが紡がれるように、カメラマンは教主を捉えて離さない

小さく呟く祈りの言葉は聞こえないが、その姿は堂に入っており、同時に、それだけ多くの祈りを捧げて来た事を裏付ける

 

「教主様!!」

 

突然、結晶近くの地面が浮き上がり、1人の男が現れた。巧妙に偽装してあった地下通路の出口のひとつらしく、カメラマンもレポーターも全く気付かなかった

身に纏っている服から天石教の神父らしい、と言うのは予測出来るが、教主は祈りを終えるまで彼を一瞥すらせず、祈りを終えて立ち上がり、ようやく神父の方を向いた

 

「よく生きていましたね、アーチ。トレイターズの方々もその中に?」

 

「はい、教主様……申し訳ありません、私では止めることが出来ず……」

 

「君の力が足りなかったのではありません。彼等の思いが強かったのです。君はもう行きなさい、ここからは私の領分です」

 

アーチ、と呼ばれた神父は安心感から泣きながら教主へと縋る。教主は自らの服が汚れる事すら厭わず抱きしめ、ゆっくりと神父の頭を撫でて落ち着かせ、彼を軍に保護させる為に送り出した

カメラマンがアーチの背中を撮影し、ほんの数十秒後に再度教主の方へと振り向いた時には、トレイターズの面々が地下通路から這い出てきては、彼の前に跪き、リーダーらしき男が口を開く

 

「教主様、ずっとお会いしたかった。我々を罰して下さい。我々は教義に背き、他者を害し、取り返しのつかない事を繰り返しました。教主様が我々の為に動いていた事を知っていたと言うのに、我々は止まれませんでした」

 

異様な光景である。これまで軍相手に1歩も引かず、それどころか徹底抗戦を続け、虐げられた者の怒りを露にしていた者達が、たった1人のサルカズの男の前に膝をつき、許しを乞うように見上げ、懺悔している

 

「……ふ、ふざけるな。ふざけるなよ!!そんな自分勝手、通る訳無いだろ!!!こんな事しといて止まれなかった!?この教主に罰して欲しかった!?お前ら遺族の前でそんな事言えるのかよ!!!」

 

「…………ならどうしたら良かった。どうしたら良かったんだ!!!家族から引き離されて!!!連絡なんてとれもしない!!!毎日同じような連中がやってきて!!!毎日何人も死んで!!!俺達は何千人だって死んでも良いって言うのかよ!!!」

 

先に声を荒らげたのはレポーターである。余りにも自分本位だと言う彼の言葉も理解出来る。同時に、感染者である彼等の言葉も理解出来る。権利など無く、奴隷以下の扱いで消耗される消耗品

魂の叫びと言わんばかりの怒声は、教主が2人の間に立ちはだかる事によって遮られた

 

「そこまでだ、ここでする話では無い……もう終わりだ。これ以上は君達も、君達の家族も、軍人も、国家も、誰も幸せにならない。皆が互いの意見をぶつけ合い、殺し合うだけだ。……君達の家族は天石教が保護し、安全な所に転居させたから心配はいらない。ここが分岐点なんだよ、アーサー」

 

「私の名前を……!?か、家族は、息子は無事なんですか!?妻は……!!」

 

「それを知りたいのなら、降伏するんだ。大丈夫、必ず家族に会わせる」

 

先程までとは打って変わって、アーサーと呼ばれたリーダーはまだ家族が生きている事に安堵する。レポーターは最早言葉を紡ぐ事が出来なかった。要するに人質じゃないか、家族の為に死ねと言っているような物だ、なんて言葉をかけたい衝動に駆られたが、ソレを言ってしまえば、自分は畜生に堕ちると理解していた

トレイターズの全員が武装解除し、教主と共に軍の居る方へと歩き始める。教主を先頭にしたその一行は、まるで殉教者の行進であった

 

───以後、トレイターズの反乱は一気に鎮静化されていく

次作を書こうと思いますが……

  • 天石教の続き(教主を更に追い詰める)
  • 他作(色々考えてはいます)
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