─── 天石教 教義30条 ───
『カジミエーシュから始まった教主直々の説得により、トレイターズの反乱は収まりを見せています。近く行われる裁判では天石教から弁護士が派遣され、源石鉱山は天石教によって発表された内情の悲惨さや死亡率の高さを改善する事が約束されましたが、現在ソレを確約しているのはカジミエーシュ政府のみであり……』
テレビの電源を落とし、ドクターは大きく伸びをする。支援も何もさせない為に急遽動かした教主による説得は功を奏し、天石教からはロドスに何の支援も出来ないように落とし込んだ
無論、コレに際してはアーミヤとケルシーから嫌という程詰められたが。ケルシーからはフロント企業と見られようと有効活用すべきだっただの、アーミヤからはこんな危ない事二度としないで下さいだの、口煩い2人に両耳から情報を流し込まれるような感覚を味わった
「ドクター、失礼します」
変わった事があるとすれば、最初の子供達である2人が正式にロドスへ加入する事になった事だろうか
天石教との繋がりは切れていないし、寧ろ今回の件で更に強く繋がりを持つ結果となったが、入室してきた巫女を見れば、戦闘と治療現場で大いに役立ってくれる彼女を手に入れられたのは大きな収穫と言えるだろう
「今回の件について教主様にお礼として此方を渡せと仰せつかりました」
今回は教主たる男の思惑を潰した形で事を収めた。ロドスと言う企業が協力するでも無く、ドクター個人として協力し、教主1人で事を収めさせ、被害も最小限に抑え込んだ
故に天石教としてのお礼は出来ず、このような小包を送る程度の事しか出来ない。自分の思惑通りであると同時に、もう少し欲張っても良かったのでは、とも考えてしまう
巫女が小包を執務机の上に置き、一礼して部屋から出ていくのを見送れば、小包の包装を開け、アーミヤと一緒に中身を確認する
アーミヤとドクターを象った小さな人形と、ティーセットだった。紅茶の淹れ方の説明書と、天石教本部近辺でのみ栽培されている茶葉も入っており、贈答用としては素晴らしい程のお礼である
「……ふふ。ドクター、紅茶を淹れましょうか」
アーミヤが笑いながらティーセットと茶葉を取り出し、備え付けてある湯沸かし器を使って紅茶を淹れはじめるのを横目に、2つの人形を机の端に置いて眺める。久しぶりにいい時間が流れそうだ
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『我々は兄弟姉妹であり、そこに差別があってはならない。今回の反乱によって大多数の感染者や貧者、追われた者達が我らに保護を求めた。我々は彼等を受け入れ、彼等に我々と共にあるよう求め、彼等もそれを了承し、我々は更なる発展を遂げる機会を得た。我々の進む道は先に逝った兄弟姉妹達の放つ光りに照らされ、ソレを導とする我々は、後から来る者達の為に道標を残す事が出来るだろう』
大聖堂の演説台にて。各地の天石教教会に逃げ延びてきた者達の名簿を見ながら、教主は演説する
当初の思惑からは外れてしまったものの、天石教は今回の反乱によって多数の中間層や極一部の落ち延びた富裕層を手中に収めた。中には今回の鎮圧に当たった軍人達も何名か含まれている。トレイターズによって感染者になったものの、政府は感染した軍人を良しとしなかったのだ
この演説を聞いている新参信徒達の胸中にあるのは憎悪である。黒く渦巻き、未だ溢れる場所の知らぬソレを、誰も御する事など出来ない
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とある新聞記事の切り抜き
そも、何故トレイターズが現れたのか?源石鉱山労働者は毎日働き詰めで疲労困憊、死ねば源石になり死体も残らない。昨日まで話していた友が今日死んだ。成程確かに動機としては十分だ。しかし監視も警備も厳重であり、反乱を起こせば家族の身に危険が及び、更には1箇所だけでは即座に鎮圧される、並びに武器や防具とて足りていないだろう
しかし、まるで示し合わせたかのように一斉に蜂起し、我々市民の生活を脅かす後一歩まで迫り、天石教の教主が矢面に立ってようやく鎮圧した
そして、暴動や株価の乱高下によって多数の人間が天石教による保護を受ける事となった。今回の反乱だけで、天石教の信者の数は少なくとも1000人単位で増加している
───あらゆる偶然が重なって、と言ってしまえばそれまでである。しかしながら、我々は何か重要な事を見落としているのでは無いだろうか?
何故一斉に蜂起できたのか、何故反乱者達の家族を先んじて保護したのか、何故警備が薄い時間を把握出来ていたのか、何故管理職だけが残る時間ができたのか
偶然と言うには些か怪しすぎる点ばかりが列挙できる。もしかすると今回の反乱は、何かもっと大きな事の前触れに過ぎないのでは無いのだろうか
次で最終話です
感想及びお気に入りありがとうございます。質問等があれば感想に書いて頂ければ、最終話執筆後に出来る限りお答えします
また、書かれている感想の質問等にも出来る限りお答えさせて頂きます
次作を書こうと思いますが……
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天石教の続き(教主を更に追い詰める)
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他作(色々考えてはいます)