天石教ーてんごくきょうー   作:rezeaizen

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全部クソくらえだ


最終話

分厚い肉を殴打する音が、隔離室内に響く

ニアールが馬乗りになり、その拳が教主の顔を、体を、肉塊にする為に殴りつける

 

「そうだ!!私はあの子のように、何十人も犠牲にしてきた!!」

 

サルカズ特有の頑強な肉体がニアールの拳を受け止め続け、普通の人間ならば最早死亡していてもおかしくない、致命傷を防いでしまう

ニアールの口端からは白い息が漏れている。この隔離室が寒い訳では無く、殴打によって上がり過ぎた体温が呼吸から漏れ出て吐息を白くしており、詰まるところそれだけの怒りが表に出ている

 

「幼い頃から鉱石病に感染した子供は!!成長するにつれて症状に合わせて適応していく!!!ゆっくりと感染症状が進んで行けば、通常の成人患者よりも重篤な症状になるのが遅くなる!!!」

 

ゴシャリ、と音をさせて良い拳が頬に入った。歯が折れたのか2発目の拳によって犬歯らしき歯が飛んでいく

それでも、ニアールの拳は止まらない。蹴りを入れないのはそこまで頭が回らないのか、それとも手加減しているのか。ニアールの息が切れ始めても、教主の言葉は止まらない

 

「鉱石病に適応した身体は、重篤症状になるまでの間普段通りに動かし続ける事が可能になる。要するに死ぬ間際まで普段通りさ!!!どうした!!!殴れ!!!私を殺せ!!!あの子達に症状を押し付ける事しか出来ない私を殺せ!!!」

 

ニアールの手が止まる。肩で息をし、その手と頬は返り血で濡れており、もし武器を手にしていれば、今の彼女は躊躇無く使用するだろう

しかし、それでも彼女は手を止めた。殴り続ける拳を止めた。仮に殺したとしても、ソレは教主が望んだ事だと理解してしまったからだ

 

「……何人だ」

 

「まだ3人だ、死んだのはね。これからもっと増えるし、もっと被害の規模も大きくなる。大の為の小の犠牲は、続ければ無視出来ない数になっていくだろう」

 

再度、ニアールは拳を振り上げた。この体勢なら鼻から打ち抜けば殺れる。被害を止められる

───本当に正しいのか?

その3人で一体どれだけの人間が救われた?大の為の小の犠牲なんて自分がした事じゃないか

家の為、妹の為、関わってきた大勢の人間の為に身を引いた自分と何が違う?

命かプライドかの違いだろう、それに子供達だってよーく分かってるだろうに

頭の中のもう1人の自分が煩い。きっと昨日の時点で子供達は分かっていたんだ。もう二度と会えない事も、もう二度と関われない事も。だから思い出作りと言ってきたんだ

 

「3人の子供達の犠牲で、14人の人間を救えた。ルーツ、エヴァ、ハイン……彼等の事を忘れるなんて出来ないだろう。彼等の犠牲のお陰で、天石教はコネと寄付を手に入れた」

 

殺れ、殺ってしまえ、コイツを殺って正義を為すんだ。この男が居なくなれば───

居なくなればどうなる。コイツを頼ってやって来た人達が路頭に迷い、そんな連中と現地民による争いが始まる

短絡的な正義で、今の比ではない程の被害が出る

 

「───私は、お前を許さない」

 

「…………意外だ。殺してくれると思ったんだがね」

 

誰かが言った、死は救いである、と。教主は背負い過ぎていて、死を以てその荷物を放棄しようとした

そんなのを許す訳にはいかない。これから増える被害も、自分の言葉で死んで行く者達の事も、全部全部背負わせる

ニアールがゆっくりと教主の体の上から退く。アドレナリンが出ているせいか、それとも殴られ過ぎたからか、教主は寝転んだまま動かず、大きく呼吸する

 

「お前がしてきた事も。お前がこれからする事も。私は絶対に許さない。だが……しなければならないと言う事も、理解できてしまう」

 

「………………理解したとしても、私を絶対に許さないでくれ。ずっとずっと許さないでくれ。私が地獄に堕ちたとて許さないでくれ。このまま突き進む事しか知らない私を、許さないでくれ」

 

懺悔のようだった。人に懺悔させる男の唯一と言える懺悔であり、同時に、自分を許さない人間が居る事に嬉しさを覚える言葉である。ニアールが立ち上がって隔離室から出ていくのを見る事すらせず、教主は仰向けに寝転がり、煌々と光る源石ランプを見つめるしか出来なかった

最早退く事など出来ない。前に進み続けるしか無い。例えその先にあるのが地獄であったとしても、教主たる自分に許されるのはその地獄に真っ先に入る事だけだ

覚悟を決める事しか出来ない教主は、自らの折れた歯を回収し、この部屋で死んで行くであろう子供達に詫びながら、隔離室を後にする事しか出来なかった

 

───翌日、ニアールはこの辺境から姿を消し、大聖堂は2階部分の工事が始まった




最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。稚拙な文章であり、稚拙な内容でありましたがなんとか完結するに至りました

天石教はこれからも続いていきます。血を吐きながらのマラソンを続け、いつかこの血が止まる事を願いながら、その血を吐き出させた本人は償う事すら出来ず、ただ縋るように謝り続けるしか無いマラソンを続けます
もしアークナイツ本編で治療薬が完成したら恐らくは続きます。その時は是非とも読んで頂ければ幸いです

最後に、お気に入り500件超、平均評価8越えありがとうございます。初めての事で正直かなり衝撃を受けていました。まさか自分の書いた物がここまで評価されるとは思ってもいませんでした。コメントをして下さった方々、しおりを挟んでくれた方々、評価をして下さった方々、お気に入りをして下さった方々、またこれを読んでくれた方々、皆様にお礼を言わせて頂きたいと思います

本当にありがとうございました。皆様の小説ライフが良きものでありますように

次作を書こうと思いますが……

  • 天石教の続き(教主を更に追い詰める)
  • 他作(色々考えてはいます)
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