天石教ーてんごくきょうー   作:rezeaizen

21 / 42

トレイターズの反乱から数年後 天石教は黄金期を迎えようとしていた
そして信奉者は踊る 教主すら知らぬ暗闇にて

警告
─ 本書は極秘事項が含まれており、許可無き閲覧の場合即刻処断されます ─

─── ようこそ 暗部へ ───

AM6:00 教主様起床。服を着替え、顔を洗い、歯を磨き、散歩へと向かわれる 日課なれど散歩される姿さえ美しい。また散歩のルートは毎日違うルートを通られる

AM7:00 教主様大聖堂へとお戻りになる。夜勤を終えて帰る者や早朝から働く肉体労働者へと声をおかけになり、彼等からの挨拶や感謝の言葉に笑顔で返す 教主様のご尊顔が笑顔になるのを見られた者はその日1日が幸せになると言われている

AM7:10 大聖堂の食堂にて我等と共にお食事を摂られる。今日の朝食はパンとスープとサラダ。至って普通の朝食であるが、1口ずつ噛み締めて味わっておられた  出来るのであれば教主様のそのお口で噛み締められるパンや飲み込まれるスープになりたい

AM7:40 朝食を食べ終わる。教主様手ずからで食器を返却なさり、調理した者達に直々に声をかけ、礼を述べておられた 
教主様直々に礼を言われるのは最早絶頂すると言っても過言では無い

AM8:00 トイレや小休憩を挟み、朝の説法の為に大聖堂演説上へと登られる。教主様曰く苦手だと仰るが辞める事は無い   多くの人々の為に毎日激励する姿はとかく美しい

AM8:10 説法終了。皆が活力に満ちた顔で出ていくのを見届けた後、執務へと赴く 皆が出ていくのを見る様子は正に神が我が子らを見送るような視線であり、その視線に背中押される者は幸せ者だ

AM9:00 決算書類や認可が必要な物を秘書たる最初の子供達の1人と共に最終確認を行いながら判を押される  秘書となっているあの方の手腕は素晴らしい。教主様が疑問に思った事に的確に返答する様は見習わねばならない

AM10:00 執務は一旦終了。大聖堂近くへ移転した孤児院兼学習院へと向かい子供達と遊ばれた後、教主様自ら授業を行う   教主様と共に遊び、触れ合えるのは子供の特権である。我等のような者達が触れれば汚れてしまう

PM12:00 授業を終え、再び大聖堂の食堂へと向かわれる。昼食はチーズとケチャップだけが乗ったシンプルなピザを食べられる あのピザは我等が作った物であり、我等の信仰が教主様へと入っていく様こそが我等の求めるものだ

PM13:00 昼休憩を終え再び執務へ。各支部の報告書や治療経過等に目を通される 巫女や神子の方々が亡くなられたと聞けば涙を流し、自らを責める教主様のなんとお優しい事だろうか

PM14:00 執務を終え病院へと向かわれる。教主様自らが診察なさる事は設備や医師の充実によって少なくなったが、初志貫徹する為にと仰り、宣教師や医師見習いの者達の為の講義や実習を行われる  今回の実習は高所落下して骨折と裂傷を負った現場猫氏だった。確か3メートル程から落下したのだが……何故生きているのか分からない

PM20:00 病院での勤務終了。遅めの夕食を病院の食堂で済ます。様々な具材の入ったシチューとパンを食される 疲れ果てたお顔をしながら温かいシチューを食べてほう、と息を吐かれる教主様のお顔は美しい。額に入れて飾るべきだ

PM21:00 自室へと戻られる。日記を付け、ロドスより購入した医学書を読む 他の医学書も買っておられるが鉱石病治療及び現場処置最前線であるロドスの医学書が良いと仰って購読しておられる

PM22:00 医学書を読み終え、大聖堂地下の隔離室へと向かわれる。源石結晶の塊前にて膝を着き、殉教した者、巫女や神子になった者達への懺悔と謝罪を繰り返し、泣きながら名を読み上げ続ける 殉教した者達も、巫女や神子となった者達も、皆教主様に覚えられている。羨ましいが、我等もそうなれると信じねばならない

AM0:00 懺悔と謝罪を終え、ふらつく足取りで自室へと戻られる。着替えを終え、就寝なされる 眠りに入る時でさえ謝り続け、懺悔なさっている。嗚呼、その痛みを我等が肩代わり出来たらどれ程良いだろうか


狂信者達
情勢


天石教はトレイターズの反乱、通称「権利無き者達の反逆」を経て、更に勢力を拡大した。その総数は、隠れ信徒を含めてしまえば6桁は下らないと言われる程にまで広がり続けており、天石教の名は広く知られて行く事となる

 

その背景には、鎮圧に当たった軍人達の一部、鉱石病感染を隠していた者達とその家族、身持ちを崩した中間層や最底辺富裕層がこぞって天石教に保護を求めたのだ

 

 

かく言うのも、トレイターズの反乱中に起こった株価の乱高下は体力を持たぬ最底辺富裕層を排除し、教会近くに店を構えていた者達は暴動によって店を荒らされて文無しとなり、鉱石病を隠していた者達は家族と己の身の危険を感じ、鎮圧に当たった軍人達の一部は感染者となったせいで兵士としてだけでなく、一般人としてすらの人権まで剥奪される結果となった為である

 

無論、一方的に権利を剥奪された軍人達は抗議した。ただでさえ身命を賭して鎮圧したと言うのに、年金どころの話では無い。自分達が排除してきたトレイターズと同じ、否、今までとは比にならぬ程に徹底的に管理され、内も外も警備の厳重な源石鉱山へと送られると言うのだから、当たり前の抗議であった

 

更には、各国の法曹達がトレイターズへの責任追及が不可能であると言い出した。独裁的な政治を行っていたり、力こそが全てのような国家では裁かれる前に縦や横へと捌かれたが、問題は表立って法が存在している国家である。これは、感染者に対する人権の剥奪が問題となった為だ。人権とは裁かれる権利も含んでおり、人権を剥奪された彼等は裁かれる権利を持たず、また、そう言った者達を裁く法律も無かった

 

唯一の例外として、トレイターズの首領及び幹部は行政側の書類及び事務の不備によって現在も市民として登録されており、人権は未だ存在しているとされ、司法は内乱、テロ、大量殺人の扇動、国家反逆を行ったとして死刑を言い渡し、首領及び幹部は一切の抵抗もせず判決を受け入れた

 

 

 

こう言った時に暗躍し、率先して排除する為に動く者達が動けなかったのは、メディアや天石教の護衛が24時間体制で張り付いている事、天石教を利用している者達が見えない圧力をかけてきた事、民衆の目が司法と言う物の裁きを1種の娯楽として捉えてしまっている事、上げていけばキリが無いのだが、何よりも民意がそれを許さなかった

 

こうなってしまえば不審死として消す事は不可能である。結局の所、トレイターズの首領及び幹部以外は無罪として釈放される事となり、人権を剥奪された元兵士達によって警護されながら聖都へと向かう列車へと乗り込んだ

 

メディアは釈放から列車に乗るまでの間生中継を続けており、この反乱によって全てを失ったり、彼等によって殺された兵士の家族による恨みを持った犯行や、ただ有名になりたいが為の愉快犯が彼等を襲撃したり、人権が無いと言う事で軍による掃討が行われるのでは無いかと期待していたが、軍も警察も動く事は無く、整然とした動きによって混乱も無いが故につまらない結果を報道する事となった

 

 

何故軍や警察が動かなかったのか?様々な憶測が飛び交ったが、事の経緯は簡単であった。軍部及び警察のサボタージュである。どれだけ身命を賭したとて感染者になってしまえば国家は簡単に切り捨てる。トレイターズ及び元軍人達は感染者であり、排除する際に返り血でも浴びたら感染するのでは無いかと言う予測が飛び交い、結果として軍と警察は上も下も容易に動けなくなってしまった

 

これに関しては、政府側が一方的に悪いとは一概に言えないだろう。今まで感染者達に対して自分達がしてきた事であり、そこに例外を作る訳にはいかない。莫大な富を持っていたり、権力を持つ者のみの特権である例外を、たかだか市民や一兵士に与える事は出来ないし、何よりもそのような特権を認めてしまえば、その特権に群がる為にやってきた者達が国家を食い荒らすのは目に見えている

 

 

各国から流れてきた天石教の新たな信徒達を含め、カジミエーシュは代表として各国への賠償金を払う事と、聖都に移住してきた者達を含めた住民税を支払うよう天石教へ命じた。被害にあった国家としては当たり前の請求であり、要求額はカジミエーシュの年度予算の3%にも匹敵する額である。無論、コレらは細部を詰めている訳では無い為天石教側は細部までしっかりと詰める為に役人及び弁護士を招致した

 

─── その役人から本庁へとヘルプが出たのは、到着して2日後であった ───

 

弁護士の方は簡単に話が纏まった。天石教側は請求を呑んできちんと額を払う算段もつけた。弁護士はこの案件を大々的に手柄として名を挙げると告げてそのまま電車に乗りこみ、大量のお土産を買って帰っていった

 

問題は役人側である。感染者故に戸籍も無ければ名前すら自己申告ばかり、更には流入して来た者達全員の正確な数すら把握出来ていない。当たり前ではあるがこのような事務作業を行っているのは最初の子供達だけなのだ

 

今までのようなゆっくりとした増加であれば問題は無かっただろう。だが良くも悪くも有名になってしまった天石教に流入する数はあっという間に彼等のキャパシティを越えて事務作業は滞り、書類は貯まり現場は踊る。やってきた役人が現場に入った瞬間に捕まり、彼等と共に税金を算出する為のあらゆる事務作業に従事せざるを得なかった

 

丸二日かけてなんとか一段落がつき、役人は這う這うの体で電話を手にして本庁へと増援の連絡を取り、聖都に仮設役所が出来るのに時間はかからなかった

 

述べ100人超えの役人が本庁から派遣され、全員が修羅と化しても終わるかどうかも分からない戦いは1ヶ月を越え、最後の一人の処理が終わった時、そこには感染者も非感染者も無い、共に書類地獄を生き抜いた歓喜の声を挙げる集団がそこにはあった

 

 

そうして、漸く算出された額を天石教はカジミエーシュへと納めた訳ではあるが、その額はあまりにも少額であった

 

当たり前ではあるが、落ちぶれてきた者と言うのは資産と言う物を持っている方が珍しい

精々現金に変え損ねた宝石や貴金属などがほんの僅かにある程度であるし、元々カジミエーシュに在住していた者達からは二重徴税になる為不可能であるし、病院の経営もお布施と言う形である以上税金はかからない。更には今回の支払いで天石教の懐自体もかなり寂しくなった為に残っているような資産も無い

 

フロント企業など持っていない為多くなった住民税や広くなった土地資産税しか取れず、商業連合はこの失態を「政府の懐は紙切れでいっぱいだ」と揶揄し、嘲笑した




Q.記憶を失う前のドクターって天石教で何しようとしてたの?

A.感染者の保護施設、治療施設、保養施設等を考えていました。天石教が保護し、ロドスが治し、ロドスだけでなく遍く人々の為にコレを作ろうと考えていたものの、ドクターはその事を教主に伝えず、自分の頭の中だけで考えていました
そしてドクターは記憶を失い、教主はその事を露知らず大きくせざるをえませんでした。そのせいで教主は1人で地獄の縁に立っています。ドクターくんのせいです。あーあ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。