─── 天石教暗部 訓示第1条 ───
「教主様、こんなところまで足をお運び頂くなんて……」
「いえいえ、我々の為に働いているのですから当たり前の事ですよ」
聖都より少し離れた小高い丘に、ソレは建設された。天石教初となるフロント企業であり、新たな資金源及び、カジミエーシュ政府からの要望に応える為に作られた新たな企業
総合医療サービスを提供する製薬会社『スカイストーン』
業務内容は総合医療サービスの提供(外科、内科、鉱石病緩和、リハビリテーション、入院、等々)、市販薬の製造販売、新薬の開発。ロドスと違うのは鉱石病に関しては一切触れていない所だろうか。当たり前ではあるが、天石教にやってきた知識層及び研究者たちによって構成されている事、天石教独自のアーツがある為に全く視野に入れていないのだ
正直に言えば、教主はこの会社名をあまり気に入らなかった。まるっきり天石教のフロント企業だと言う事が分かってしまうし、何よりも全てを一社で独占しているように思えるからである
それとなくこの会社を作り上げた元富裕層であり現社長の男に言った所、それはそれは見事なまでの絶望顔を披露された為、慌てて冗談だと言わざるを得ず、教主はまるで自分の影響力が強くなり過ぎたのかと一瞬考えてしまったものの、そんな事はあるまいと考え直してしまった
しかしながら、現在教主の影響力は急速に大きくなっていると言わざるを得ないだろう。信徒になる者の数は日に日に増えており、6桁を切ることは最早有り得ないだろう
「教主様!!!」
「アリア、走ると危ないですよ」
アリア・ウェルザー。社長曰くこの聖都に来るのも、会社の設立も、全てを計画、実行してきたのが社長の一人娘であるアリアだと言う
ぱたぱたと音をさせて走って来ては嬉しそうに笑いながら目の前で止まる彼女を見て、本当にそんな聡明な事が出来るのだろうかと思わず考えてしまうが、人は見かけによらないと言う事を肝に銘じておかねばならない。以前研究熱心な研究者と会った時には五体投地された事を思い出す
「すいません教主様、以後気を付けます。来て下さるなら言ってくれれば良かったのに!私直々に案内しますのに」
教主の隣に立つ自らの父親の事など気にもしておらず、手に持っていたやることリストと書かれたバインダーを父親に手渡せば、教主の左腕に自らの身体を擦りつける
バインダーを受け取った社長は教主に一礼し、廊下の奥へと消えて行った。教主からしてみれば少しばかり見て回って従業員たちと接したかったのだが、どうやらアリアはそんなことをさせたくないらしい
……いや、もしかして以前の五体投地が原因かもしれない。従業員たちも少なからず天石教の信徒であるし、教主である自分が行けば仕事にならなくなると考えられてもおかしくはない
「研究室を見られます?製薬?今休憩している従業員の人たち?」
「では今休憩している従業員の方達に会いましょう。その後順番に案内してくれますか?アリア」
「もちろんです!!教主様はお優しいのですね」
そんな目で見ないでくれ。俺は優しいんじゃない、卑怯なだけなんだ。こんなのは欺瞞だって分かってるのに辞める勇気も無い卑怯者なんだ
教主の思いが伝わったのか、それとも表情に出ていたのか、アリアは自らの手をゆっくりと教主の左手に重ねる。指を絡ませ、ゴツゴツとした手を柔らかな両手で包み込む
その柔らかさで教主が意識を取り戻し、咳払いをしてから案内を頼めば快く引き受け、笑いながら従業員の休憩する休憩室へと案内を始めた
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可哀想な教主様。ずっとずっと謝り続けて、ずっとずっと皆を背負ってる。きっと貴方の師匠もその未来が分かっていたから次会う時は殺すって言ったんでしょうね
自分の始めた事だから。自分のわがままでここまで来たから。自分しか出来ないから。今まで犠牲にしてきた人達よりも多くの人達を救わないといけないって抱え込む可哀想な人
誰にもそんな事言えなくて。誰にもそんな事吐き出せなくて。だからずーっと謝って、許されない許しを乞う可哀想な人
皆許してるのを分かってても自分自身が許せない可哀想な人。自分がその死を押し付けたと考えて、自分がこんな事を始めなければなんて考える可哀想な人
だから、私が支えます。貴方が望めば何でもします。この身体だろうと、この会社だろうと、私の命だろうと、貴方の命だろうと。でも貴方の命は円卓のみんなが許してくれないかも
でも、それでも。他の人達が出来ない事を私はしてあげたい。貴方が絶望している時に支えてあげたい。貴方が殺してほしいと願う時に殺してあげたい。貴方が逃げたいと呟く時に逃がしてあげたい
教主様。教主様。教主様。どうか私に支える許可を下さい。貴方の隣で一緒に祈る許可を下さい。そしてどうか……貴方の最期の時に隣に居させて下さい