─── 天石教 教義 第7条 ───
1話
「ドクター、スカイストーンから物資が届きました」
ロドス本艦 ドクターの執務室
物資目録を手にしたアーミヤが執務室へと入れば、ドクターとケルシーがアーミヤへと視線を向ける
どうやらスカイストーンの事について話していたらしく、目録をドクターへと手渡せば、ケルシーが溜息をつく
珍しい、なんて考えをアーミヤが巡らせればドクターもまた溜息をついた
「これだけの物資をほぼ無償で、か。これではスカイストーンロドス支部のようだな」
「ケルシー先生!」
ケルシーの口から出た言葉はアーミヤからしてみれば到底許せる物では無かった。ケルシーもそれを理解してはいるだろうが、謝る事はせず、寧ろ受け入れろと言わんばかりに言葉を紡ぐ
「スカイストーンからのこの物資は、最初の子供達である2人からの寄付及び、2人が治療を受けていると言う名目で払われる治療費代わりだ。名目上はそうなっているが、実際はどうだ、アーミヤ」
「……」
「スカイストーンからの物資がロドスを支え始めてしまっている。我々は確かに規模は大きくないが自活出来た。だが今では、スカイストーンが作った医療機器や医療器具が導入されはじめている。もっと言うなら、今まで天石教に対して忌避感を抱いていたオペレーター達が、スカイストーン名義で送られてくる食品や娯楽を受け入れ、彼等の教えを受け入れ始めてしまっている」
「なら……何でスカイストーンは、ロドスを買収しないのですか?これだけの事が出来るのであればロドスを買収する事も可能な筈です」
「出来ない理由は、聖都及びスカイストーンが商業連合やカジミエーシュとの折り合いがついていないから、だろうね」
ドクターが口を開く。目録を確認して判を押し、フルーツティーを飲みながら答えれば、やっぱり美味いな、と一言零して
「それと何の関係があるんです?ドクター」
「商業連合はスカイストーンの存在を認めない。認めたくない。宗教を母体とした経済基盤を認めると言う事は、自分達の商業主義とは全く違う形体だからだ。カジミエーシュ側は税金を搾り取る為に今は他企業の買収をされたく無い……何よりもスカイストーンは、未だ新興企業である事には変わらないのに買収をする、なんて言うのは外聞が悪い」
「詰まるところ、『まだ』買収や吸収には時間がかかると言う事だ」
ケルシーの一言にアーミヤはホッと胸を撫で下ろす。だがまだと言う事は、可能性があると言う事を示唆している
ドクター曰くあの教主はそんな事しないよ、なんて呑気な事を言ってはいるが、問題は教主では無くその周囲なのだから
アーミヤは何処か危機感を覚えながらも、この危機感の行き先が何処にも無い、行き詰まりなのだと気づくのにほんの少しだけ時間を要してしまっていた
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「教主様こそこの世を導くお方!!!我等の神である!!!何故それが分からぬ!!!」
「黙ってろ!!!クソ、どれだけ逮捕しても湧いてきやがる」
最近、龍門ではこう言った演説を路上で行う連中が現れ始めていた。天石教側も認知していない、いわゆる野良信徒と言う存在だ
天石教側はそう言った事を止めるように通達を重ねてはいるものの、こう言った狂信にイカれた者達の耳に届く事は無い
現に、こうして牢屋にぶち込んでも、反省の色すら見せない自称信徒には手を焼くばかりである
「レユニオンが終わったと思えば次はコイツらかよ……まあコイツらはまだマシか?」
「少なくとも、武装したりは絶対にしないからな。法に触れてると分かってるから大人しく捕まりもする」
「抵抗しないのが逆に不気味だぜ。おい、良いか?そう言うのは静かにやるもんだ。そうしないと話を聞いてくれる奴なんざ居ないんだからな」
最近では近衛局内に、自称信徒から没収した冊子が溢れかえってしまっている。暇潰しに冊子を読んでいる者も少なくないし、近衛局に冊子を取りに来る隠れ信徒も少なくない
教え自体は良いんだが、なんて言いながらたまの休みに教会に足を伸ばしている局員まで居るのだから、段々と浸透してきているのが分かってしまう
しかし、誰もそんな事を気にしない。休みの日に何をしてようが問題無いし、誰にも害を与える物でもないから
「取り敢えずそこで2日ほど頭冷やしとけ。そんなに叫ぶと喉痛めるぞ」
「おお局員さん、貴方には天石教の教えがあるようだ。どうだろう、今度の日曜に炊き出しの手伝いでも」
「ダメだこりゃ」
そう、誰もがこの浸透に気付いている。だが止めない、止めるつもりが無い。何せ害が無いから
最近ではスラムと近衛局との関係改善にも繋がっていると言っても過言では無い。スラムの住民と近衛局職員で揉め事が起こりそうになれば、天石教の信徒が間に割って入り、諍いを納める
今までは一方的に近衛局側が力を使って取り押さえていた事が、天石教と言うクッションのお陰で両者の対話が成り立つ
スラムも近衛局も悪感情を持たないで済む在り方。ゆっくりとではあるが、確実にその道を進んでいる筈だと、近衛局もスラムも、そう思っていた
水面下でゆっくりと進む侵食に危機感を抱くのは、いつだってその事実を知った権力者であり、同時に、それがもたらす脅威を認識するのも彼等である