─── 天石教 教義第15条 ───
小さな綻びから、全てが瓦解して行く事は多々存在する
今も昔もそれは変わらない。天石教にとっての小さな綻びは、彼等の全く知らない所で起こり始めていた
「この水は教主様自らが祝福をなさり、我等の為に祈りまで込めて下さった物だ。これを飲めば我等の体に祝福と祈りが宿り、神子様達と同格になれるだろう」
大きくなり過ぎた物は、末端から腐っていく。スカイストーンの情報収集力やアランの作った諜報部からすり抜けた者達は先鋭化し、教えにそぐわぬ行為をしたとて自己正当化を繰り返す
「おお……おお……!!!素晴らしい、素晴らしい!!!」
彼等の飲む水に含まれているのは、砕かれた源石である。無論、源石自体は消化吸収がされる訳も無いが、源石病患者が飲めば話は違ってくる
この場に居るのは全員が源石病患者である。彼等は1度天石教の治療を受けており、不完全ながらアーツの使用が可能である
そして、彼等は知らぬ間にアーツを発動させている。水を飲み干した際、彼等はアーツを使用して胃の内部に入った源石を触媒として、体を発光させる
そうなればどうなるか?本来消化吸収されない源石が、アーツの発動によって胃粘膜を通過し体に定着する
源石を携えた感染者の完成である。もし彼等が何かの拍子に死亡でもすれば、源石爆発の規模は通常の感染者の比ではない
「教えを守らぬ者に死を!!!」
「非感染者と同等の生活を!!!」
「我等死徒也!!!天石教死徒也!!!」
天石教において自己防衛以外の暴力は許されない。聖都すらその教えに準拠しており、警備部の人間が常に四苦八苦している
だが、彼等にそんな物は存在しない。自らが正当化されれば何も関係無い。天石教と言う大きな母体を背後に着けたと勘違いする輩そのものである
だが、被害を受けた者にとって、そんな事は些細な問題なのだ
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「ふぅ〜、疲れたぁ」
「お疲れさん、昼飯奢ってやるよ」
「マジすか!?アザーッス!!!」
ヴィクトリア帝国 首都ロンディニウム PM12:05
いつもと変わらない、当たり前の日常だった。重い荷物を運び終えた青年は先輩である男性と食事に向かう途中だった
何を食べようか、ガッツリいきたい、そんな話をする中で、青年はローブを纏った男と肩がぶつかる
「おっと。すいません、大丈夫ですか?」
「おお、大丈夫ですよ。すいません、ここはエリゼ通りでしょうか?なにぶん地理に疎くて」
「ええ、そうですよ。この道を真っ直ぐ行った所に広場もあります」
「それは良かった。親切にどうも……1つ言っておきましょうか。暫くの間屋内に居た方が良いですよ」
「?はあ、ありがとうございます……?」
青年が先に歩いていた先輩から声をかけられ、慌てて昼飯の為に店へと入る
不思議な人だったな、けどあんなにも硬い感触したのはなんだったんだろう?そんな不思議な感想は昼飯の為の思考に消え、青年はこの事を警官に報告しなかった事を酷く後悔する事になった
親切にしてくれた青年の初々しいそんな姿をローブ姿の男が笑いながら見つめた後、ゆっくりとその広場へと向かった
───大量の源石結晶を抱えながら
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ヴィクトリア帝国 首都ロンディニウムにて 同時多発自爆テロが発生
黒いローブに身を包んだ男性が広場にて何かしらの演説を行った後、懐から刃物を取り出し、天石教の為にと言いながら自殺。推定天石教信徒と思われる女性が救助の為に近づいた瞬間源石爆発が発生した
男はローブの中に大量の源石結晶を抱えていたと推定される。源石爆発後源石粉塵が周囲一帯を覆い、推定500人以上が源石病に罹患したと思われる
広場での源石爆発後、同時多発的に人通りの多い場所で黒いローブの男が自殺し、源石爆発が多発。自殺した全員が天石教の為にと呟いてから自殺したと言う多数の証言があり、ヴィクトリア帝国は天石教に対し説明を求めると共に、今後このような事が起こらぬよう更なる警備増強を約束した
また、この事態を受けてカジミエーシュ政府はヴィクトリア帝国に対し、天石教本部、通称聖都に対しての強制捜査許可を出した。天石教と言う目の上のたんこぶの排除と共に、他国を巻き込んでの大捕物を演出しようと考えたのである
これに対し、天石教側は被害にあった人々への謝罪と共に、天石教は一切関与していないと表明。カジミエーシュ及びヴィクトリアからの捜査にも協力する旨を発表し、あくまで天石教の名を借りた悪質なテロである事を宣言し、仮に他国でもこのような事を行おうと考えているのであれば、即刻そう言った行動を辞めるよう、教主自らが発信した
地獄の蓋は開いた。誰も止める事は出来ない。先を行くは一体誰か