─── 天石教 教義第24条 ───
『我らこそ天石教の騎士也!!!』
『吠えるな!!!我等こそ認められし聖戦士也!!!』
『我等が教主は常にその身を削る。であれば我等も削らねばならぬ』
『救済を!!!貧しき者も富める者も全てに救済を!!!』
堰を切ったように吹き出してくる自称下部組織。自称するだけならばまだしも、奴等は実害を与える
まるで誰かに唆されたように。誰かが後ろに居て操っているんじゃないかと思える程に
ライルの考える最悪の事態が起こっていた。今までなあなあにして来たが故に起こっている事実に、頭を抱えるしかない
トレイターズの比では無い。増えすぎた信者の数によって管理の行き届いていない連中は独自の宗教のような物をお題目としている
「最悪だ、クソ……これだから各国に諜報を放ってたのに!!!」
「落ち着けライル。こっちもツテを使って事態の収拾を図ってはいる……」
「全部後手に回ってるわ。教会にだけは手出しをしないのが逆に困っちゃう」
こう言った時に必要な教主はカジミエーシュ首都に弁明へと向かい、政府によって軟禁状態を受けている。その事は表沙汰になっていない筈なのに、教主の居るホテルは何度か自称下部組織の襲撃を受けており、カジミエーシュ政府は対応に追われている
警察組織か、それとも政府内に内通者が居る。政府側及びライルお抱えの諜報部が協力し、教主弁明の前に内通者の炙り出しを行ってはいるが、未だに現れていない
「聖都内に居るんじゃないのか?内通するならここが1番だろう」
「炙り出しもしたが出なかった。もっと酷くやったら出るとでも?」
「一々噛み付かないで。教主様に会えないのが苦痛なのは分かるけど、その不機嫌を撒き散らさないで頂戴」
「───そうですよライル。お父様に会えないのは皆一緒なのですから」
背筋に冷たい氷を押し付けられたような感触。ライルとアリアが姿勢を正し、オズウェルが座りやすいように椅子を引き、丁寧な礼と共に椅子へと座る女性
最初の子供達の1人。彼が教主になる前から支え続け、天石教を立ち上げた創始者の1人
─── ラケル・フォート ───
姓はお父様、教主と同じ姓であり、この姓を使っていいのは天石教内において教主と最初の子供達だけと言うのが暗黙の了解である
ライルやアリアが来るまでの間教主を支え、天石教を支えてきた実績を持つ彼女には、この円卓において誰も頭が上がらない
「アランはどうしましたか?」
「まだ仕事中だから報告だけ受けます、と」
「そう。では会議を始めましょうか」
静かな、透き通るような声。だがその声には何処か生気が無く、言うなれば、ハーピーの唄声のような美しさを持つ
人を惹きつけ、誘い込み、喰らう。先程からラケルの方をじっと見つめているオズウェルは、その最たる例とも言えるだろうか
魅入られている。アリアもライルもその事に気付いてはいるものの、口には出せなかった
「お父様が移動都市にて軟禁され、既に2週間。お父様が声明を出せば全て解決すると言うのに、何故政府側は動かないのでしょう?」
「政府側はトレイターズ反乱にて失墜した権威を再度手に入れると為に、内部粛清、反乱分子の掃討、ガス抜きの全てを行う為でしょう。事実、自称下部組織に対しての掃討作戦は順調に進んでいます」
ライルが手元にある資料を配り、内容を読み上げる。自称下部組織が最も多く出てきているのはカジミエーシュであり、中には自称ボランティア団体まで含まれている
それらに対して政府側は騎士競技の騎士を派遣して対処に当たらせ、商業連合側との取引まで成立させている
「成程。天石教としては一刻も早くお父様の解放を望みますが、他国……特にヴィクトリアも内部事情は同じなのですね?」
「ヴィクトリアの報告は私が。スカイストーン筋からの情報ですが、ヴィクトリアはこれを機に実戦経験を積ませたいが故に長引かせたい考えがあるようです。前線に出ていた訓練生と教官からの話ですので、信用度はあまり高くありませんが……」
アリアが報告すると同時に、オズウェルがホワイトボードへと書き込んでいく。スカイストーンは製薬会社であると同時に医療サービスも提供している。今回のテロ事件を受け、スカイストーンはヴィクトリアでの事業展開を拡大、自称下部組織撲滅の際に発生した怪我人や感染者の治療を無償で行っている
「……そうなると、まだ暫くの間お父様の解放は無いと考えた方が良いのでしょう。聖都内での強制捜査はどうなっていますか?」
「芳しくない……と言うよりは、証拠も何も無いと言った方が良いでしょう。教主様の日記まで持ち出して精査していましたが、我々とは何の関わりも無い、と言う事だけが分かったようです」
警察組織として協力───と言っても場所を提供しているだけなのだが───しているオズウェルが報告書を提出する。当たり前ではあるが、天石教は今回の事態に全く関与していない。自称下部組織は、本当に独自に動いているが故に、この事態は収まらない
「まだ捜査は続くのでしょうね。ガス抜きも兼ねているなら尚更……嗚呼、お父様。それでも我々は救わねばならないのですか」
正直な感想、とでも言えば良いのだろうか。ラケルは少しばかり天を仰ぎ、大きくため息をついてから、手を組み、祈り、ぐるっと皆を見回した
「長引かせるのは我々にとって下策です。お父様を解放するようカジミエーシュ政府に天石教としてお願いしましょう。強制捜査班の方々には失礼の無いように丁重におもてなしを。スカイストーンはそのまま医療サービスを提供し続けて下さい。ライルは最悪の場合、諜報部を使ってでもお父様を脱出させる事も視野に入れておいて下さい」
「「「全ては教主様の為に」」」
全員の意志を纏めて指示を出す。円卓に集った者達の意思決定権は常にラケルが握っている。教主では出来ない事を、自分達がする為に
狂信者達が1人ずつ立ち上がり、円卓を後にする。次に集まるのは、事が終わった時と言わんばかりに