天石教ーてんごくきょうー   作:rezeaizen

35 / 42
悪事に手を染めたなら 共にその手を濯ぎましょう

─── 天石教 教義第16条 ───


4話

「…………はぁ」

 

高級そうなホテル。軟禁と言いながら監禁に近いこの状態に、教主は溜息を着く事しか出来なかった

待遇が悪いと言う訳では無い。寧ろかなり良いと言っても過言では無い。だが、今まで自分がしていた日常を考えれば、退屈極まりない

 

「教主様、お食事をお持ちしました」

 

「ありがとう。……しかし退屈だ。君の話を聞かせてくれないか?」

 

1日ごとに、2人の護衛兼監視員が交代する。話しかければしっかりと応対してくれるし、雑談にも応じてくれる

勿論警戒されているのもしっかりと感じ取れる。重要な部分はぼかされているし、自分の内情を話すつもりも無いようにしっかり教育されているらしい

 

「…………」

 

護衛との雑談を終え、医学書を読む。どう頑張ったとて地上8階のホテルから逃げる事など不可能なのだから、早々にこの事態が収まってくれる事を願う他無い

聖都に戻りたい。自分の受け持っている患者達が心配であるし、まだ聖都の拡張工事の様子も見ていない

最近になってようやく薬草畑の更なる拡張工事に入ったし、薬草畑の管理をしているフランはもうすぐ出産だと言っていた

思えば、遠くまで来てしまった。小さな、それこそ自分達が食べていける程度の暮らしで良かったはずなのに、いつの間にかこんな所にまで来てしまった

 

「貴様ら何……ぐあっ!!!!」

 

「絶対に通すな!!!!奴を渡すな!!!!」

 

廊下が騒がしい。少なくとも天石教の信徒では無い事は確かだろう。信徒であれば暴力行為は禁じている故に、こう言った事はしない

部屋の扉に閂がかけられ、バリケードが形成される。護衛の手にはマチェットが握られており、冷静に対処するつもりは毛頭無いらしい

廊下からの音が聞こえなくなり、護衛の1人が扉に近づいた瞬間、扉は閂ごと吹き飛んだ

 

『教主様、お迎えに上がりました』

 

フルプレートの騎士達。早々に護衛の2人を気絶させて無力化し、クリアリングを終えると、彼等は教主の前へと跪いた

12人の騎士。階下もこの騎士達の部下によって制圧されているらしく、手際の良いホテル制圧は、正に圧巻としか言えない

代表らしき人物が兜を脱ぎ、顔を見せる。見覚えは無いが、彼の目はよく知っている。救いと言う物に縋る目だ

 

「他の者が兜を脱がない無礼をお許しください。まだ脱出が残っていますので」

 

「……構わないとも。君達は、どのような名前なのかな?」

 

抵抗する事は出来るだろう。だが抵抗したとて自分に何が出来るだろうか?

このままここで待っていれば良いのか?子供たちがどうにかするのを信じて?他の幹部達がどうにか動くのを信じて?

カジミエーシュ政府はこの事態を想定している。だからこそ乗ってやるのも悪くない

 

「私達は天石教の使徒。創始者は現聖都の場所にて、裏騎士競技へと参加していた、と」

 

「……まさか。いや、そんなはずは。確かに、認めた。だが、君達がその、使徒の……」

 

「お話は後で。今は脱出する事に専念しましょう」

 

過去は追いかけてくる。最悪の形で。12人の騎士に連れられ、教主は白昼堂々の脱出劇を演じる事となる

 

─────────────────────

 

号外

 

白昼堂々の連れ去り事件!?目的は教主の身柄か!!!

 

〇月×日 午後13:00 それは白昼堂々起こった。8階建ての高級ホテルが突如として騎士甲冑を身に纏った者達の襲撃を受け、最上階に軟禁されていた天石教教主が誘拐されたのだ

 

襲撃時間は約10分。更には護衛として割り当てられていた政府側のSP40名は全員が気絶させられていた。ホテル側からの通報は電話線が切られていた為不可能であり、事態に気づいたのは、定時報告が無かった為に現場へと急行したSPの増員であった。その見事な手際は警察関係者が舌を巻いた程である

 

教主がこの高級ホテルに居ると言う情報は政府筋の極1部とホテル支配人にしか知らされて居らず、政府及びホテル側は何処から情報が漏れたのかを調査しており、それと並行して教主の身柄を確保する為に騎士競技参加者まで使っての捜索を展開しており、自称天石教下部組織に対して強制捜査や取り調べが行われている

 

それと同時に、今回の1件で更に自称下部組織が現れ、至る所で教主を救ったのは自分達だと喧伝している姿が目撃されている。警察は「そう言った人物を見かけたら直ぐに通報してほしい」とコメントしており、本件に関しての捜査の力の入れようを明示した

 

天石教側もまたコメントを発表しており「どうか手荒な真似はしないで欲しい。我々は力を持たぬ者達の為の教義を掲げており、誰かを傷つける為の教義など存在しない。そしてどうか、教主様を傷つける事無く返して欲しい」と述べ、引き続きカジミエーシュ政府と協力して教主の行方を追うことを表明した

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。