天石教ーてんごくきょうー   作:rezeaizen

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神とは自らの内に居るものであり、他者に押し付ける物では無い

─── 天石教 教義第19条 ───


5話

「どういう事ですか!?バレるだけならまだしも、攫われるなんて!!」

 

「極秘の監禁場所だったんです。あのホテルが特定されるなんて本来は有り得ません」

 

「御託は良いです、早くお父様を探し出して下さい。お父様をすぐに返してくれれば、こんな事にはならなかったんですよ」

 

ラケルが珍しく声を荒げ、カジミエーシュ側の捜査本部責任者に詰め寄っている

当たり前ではあるが、目の前で狼狽える男はあくまで責任を押し付けられただけの捨て石である。しかしながら、この男に対して詰め寄ってやらねば、この男が捨て石とされた意味が無い。この男を通さずに上へと詰め寄る事は悪手なのだ

 

天石教とカジミエーシュ警察は、今や協力体制にある。当たり前ではあるが、このような失態を犯した政府側は、責任を警察へと押し付けた

教主が攫われてから既に2週間が経過している。捜査の網を広げているものの一向に見つからず、捜査は最早難航しはじめていた

かく言うのも、政府側は見栄の為に騎士達を派遣したは良いが、それの監督責任を警察へと丸投げし、現場を余計混乱させる結果となった

 

大手を振って賄賂をせびる者。無差別に逮捕しようとする者。正義に酔いしれて全く関係の無い事をする者。移動都市からは逃げられないと言えど、このような有様では捜査が進む筈も無い

聖都側はこの惨状を鑑みて独自に動かざるを得なくなり、結果として2つの捜査本部が出来上がり、お互いの進捗を報告し合う為に会議を開き、どう捜査するかを会議し、捕まえた者達の事で会議し……会議は踊る、されど進まず

 

更に最悪なのは、カジミエーシュの騎士達が、基本的に聖都側の警察機構と連携を取らない事である

指揮権がカジミエーシュ警察にあるから当たり前ではあるが、天石教の信徒を捕まえた際に一切確認を取らなかったり、下部組織と誤認して暴力を振るう事まで多々発生しており、余計な混乱の元とまで成り下がっている

 

「……諜報部からの報告はどうなっています?」

 

「ダメですね。騎士連中に捕まったり、他の下部組織連中の妨害で一向に進んでません」

 

「そうですか……」

 

落胆するつもりは無い。手が増えているのは事実である。しかしながら、余りにも現場の混乱が酷い

移動都市から出られないようにされているとは言え、地下区画まで完全に把握している訳では無い。潜伏しているのだと考えれば真っ先にその区画なのだろうが、カジミエーシュ警察すら手が出せない場所に、自分達が手が出せるはずも無い

諜報部は活動出来ず、警察も役に立たない。騎士連中が自由に動くのがここまで困るとは。ラケルは思わず、深いため息をついていた

 

─────────────────────

 

「……ここは?」

 

「手狭ですが、我等の拠点の1つです」

 

廃教会。恐らくは何処かの宗教団体もどきが建て、儲けが無くなったが故に放棄された場所

しっかりとした作りなのか、外壁に多少の剥がれがあれども、内側はほぼ無傷である

掃除も終えたのか、教主たる自分が座る玉座のような椅子が、神前に鎮座している

 

「教主様。我等天石教の使徒は貴方様がこのような事態に巻き込まれた際、貴方様を助ける為に組織されました。どうぞ、我等の玉座へ」

 

騎士達が剣を掲げ、アーチのような形にする。騎士の部下達が一斉に立ち上がり、聖都で歌われる聖歌を歌い始める。どうやらこの使徒と言う連中は思った以上に手広くやっているようだ

 

「……悪いが、私にその資格は無いよ。君達と言う存在を作っておきながら、私は今の今まで、君達の事を忘れていたのだから」

 

「元より使徒とはそう言う物でしょう、教主様……いえ、ドクター■■■■」

 

昔、あの騎士を治療した時に使った名前を呼ばれる。思わず振り向けば、そこに居るのは私の罪の証であった

深紅に染め上げられたフルプレート。一見すれば返り血を拭い忘れたのかとすら思える程に、その鎧は紅く塗られている

嗚呼、過去と言う物は何処までも追いかけてくるらしい。若気の至りか?否、これはただ純粋に、今も昔も私が馬鹿だっただけだ

 

「……いつのまにかあの場所から居なくなったと思ったら、こんな所に居たんだな、ストレイド」

 

「私は使徒ですから」

 

ストレイドに先導され、私は玉座へと向かう。嗚呼、これが私の罪か。今まで懺悔して来た事よりも、もっと見るべき事があったのだと言う罰か

1歩、1歩、歩を進める度に騎士達とその部下達の声が静かになっていく。騎士達は通り終えた後から剣を納め、膝をつく

玉座の前に到着すれば、教会の中はしんとした静けさを取り戻していた。騎士は動かず、部下は呼吸すら乱さない様子で此方を見守っている

 

「……すまなかった。もっと早く、君に教えを説いておくべきだった」

 

「これから幾らでも時間がありますよ、教主様。我等使徒は、ようやく貴方様の元へと戻る事が出来たのですから」

 

教主が玉座へと腰を据える。まるで最初からそうであったかのように、教主にぴったりの玉座は、教主の身体から生えている源石に反応し、黄金色を取り戻す

 

「見よ使徒達よ!!!!これこそが我等使徒の使命也!!!!」

 

歓声が、教会の中を木霊した

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