─── 天石教教義 第20条 ───
教主が誘拐されてから2週間。自称下部組織の出現が止んだ
まるで最初から仕組まれていたかのように、これまで騒いでいた連中が居なくなったばかりか、姿すら消したのだ
騎士達すら困惑する程に、立つ鳥跡を濁さず……否、痕跡すら残さず消えた為、集団失踪事件として扱わざるをえなくなり、捜査本部に新たな1文が書き加えられた
問題は、これが教主を攫った連中の主導だった場合である。少なくとも彼等は教主と言う切り札を手にしており、その教主の威光を使って組織を拡大しているのだとしたら、少なくとも手に負える数では無くなるだろう
「けどどうするんです?手掛かりは無し、一時的に拘束してた連中も釈放後姿を消して……手詰まりですよ、これじゃあ」
「……行くしかあるまい。下層区画に」
騎士達が暇になり、ようやく警察による統率が取れてきている現在。この戦力を持って最も怪しい区画へと向かわざるを得ない
裏社会に属しているような連中ですら、下層区画にだけは絶対に近付かない。機関部まで含めるその場所は厳重な警備区画と、最早誰も把握していない、スラムとすら呼べない混沌が広がっており……その内情は誰も把握出来ていない
だからこそ行かねばならない。そこに教主が居ると信じて
「でしたら、私達も連れて行って下さいませ」
ラケル・フォートの声。私達、なんて言っているが、来るのは恐らく警察機構……詰まる所元軍人連中だろう
だとすれば戦力的には全く問題無い、騎士達も上位陣が居ないとは言え手練は多い。ドブさらいの人員はどれだけ多く居ても良いが、何故か不安が拭えない
何か、何かが引っ掛かっている。あまりにも捜査の網に引っかからない事か?ぱったりと止んだ事?いや、きっとどこか、何かを見落としている
地図を見る。様々な人員が職質や騒動で捕まえた者達の場所がバツ印で書き込まれており、最早バツ印の無い所の方が少ない程だ
……そう、少ない。この箇所に何かあるのでは無いだろうか?
「そう言えば、ここには教会がありましたね。天石教のでは無いようでしたが」
部下の1人がそんな事を言いながら、バツ印の着いていない箇所を指差す。確かこの場所はホームレス連中が占拠していた場所だ。新興宗教の連中が資金繰りが厳しくなって……
「そうか!!!おい、このバツ印の無い所だ!!!全部元宗教施設だったハズだ!!!」
「コチラで調べましたわ。でも何も……」
「地下空間があるハズなんだよ、こう言う施設は」
基本的に、天石教以外の宗教はやましい事をする為に地下施設を作る。移動都市で言う所の下層と上層の間くらいに場所を作るのだが、それを調べていない事は大いに有り得る。この情報だって、新興宗教がヤバいクスリを資金源にしようとした際に発覚した事だ
すっかり忘れていた。これまでの忙しさに忙殺されていたが故に
事態が一気に動く音がする。けたたましいまでの足音と、怒号にも似た指示が飛ぶ音だ
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「おい、上騒がしくないか?」
「また警察か、けど此処はバレねえよ。それに、俺達を捕まえたって証拠なんざ何も無い……おい、なんだそのメモ」
とある教会の地下空間。2人の男性が上に聞こえないように話ながら、倉庫の整理を行っている
ここにあるのは主に食料である。表に出れない現在、この食料は生命線とも言える場所だが、先程から執拗にこの地下区画の上が騒がしい
どうせまた直ぐに居なくなる。そんな考えを持ちながら整理を終えた男が、メモを握っている男に詰め寄って奪い取る
「お?おお、ここにある食料の棚卸ししてたメモ。ほら、数数えるのに必要だろ?」
「馬鹿野郎。お前なあ、こんなの持ってたら何か知ってますって言ってる様なもん……」
爆発。突然地下区画の天井が爆発によって破壊され、数人の騎士が降りてくる
こう言った時の対応は決められている。抵抗せず降伏すること。使徒である男達に口を酸っぱくして言われた事だ
だからこそ、俺達は抵抗しなかった。まあ、それなりのリンチは受けたが
「容疑者確保!!繰り返す、容疑者確保だ!!さあキリキリ吐いて貰うぞ、こんな地下空間で何をしていた!?この食料はなんだ!!」
「……………」
「署まで連れて行け!!黙っていても良いが、今一斉捜査が入っているんだからな。何れバレるぞ」
捜査はようやく進みはじめた。天石教以外の宗教施設地下空間には多数の信者と思われる者達が潜伏しており、その中には自称下部組織を名乗っていた人員まで存在した
しかし、かなりの数を捕まえたと言うのに、騒動の主たるフルプレートアーマーの騎士と教主は、何処にも居なかった
その事に対して取り調べを行えば、全員が一様に同じ言葉を繰り返すばかりであった
「使徒に栄光あれ」
警察は、自白剤の投与を開始することを宣言した