天石教ーてんごくきょうー   作:rezeaizen

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カジミエーシュには 聖域と呼ばれる場所があるらしい


その後

征戦騎士が守る先。地平の果てまで続くように見紛う線路の先には、聖域と呼ばれる場所があるらしい

そこでは感染者も非感染者も関係無く暮らせ、正に人並みの生活を送る事が出来ると言うのだ

 

聖域へと向かう列車に乗り込み、スリに取られないようにしっかりと切符を握る

自分だけがビクビクしているのかと思えば、隣に座る男すら絶対にスられないように手に握って離さず、その切符は汗で変形していた

 

「切符を見せろ」

 

征戦騎士らしき男がボックス席の自分達に声をかける。隣に座る男と顔を見合せ、恐る恐る切符を差し出すと、騎士は乱暴に2枚とも引ったくり、指をかざす

ほんのりと光る切符を見れば、切符の中に原石が埋め込まれているのに初めて気づいた

 

「……チッ。2人とも大丈夫だ。聖域の駅から出るまで無くすなよ。もし無くしたら源石鉱山にとんぼ返りだ」

 

返される切符を乱暴に引ったくり、スられないようにしっかりと握る。他の荷物は最悪どうなっても構わないが、この切符だけはダメだ

楽園への片道切符。駅前でこの切符を何とか譲って貰おうと身体やガキを使って強請る連中の事を思い出す

車内は段々と人がひしめき合い、運良く座れた自分と隣の男は安堵の溜息を吐いていた

 

「アンタも源石鉱山のクチか?」

 

「ああ。第4鉱山だった。アンタは?」

 

「第8鉱山だ。第4だとつい最近大規模な落盤事故があったんじゃなかったか?」

 

「あの日は夜番だったんだ。本当に運が良かったよ」

 

どうやらお互いに同じ身の上だったらしい。自己紹介もほどほどにお互い切符を左手に持ち替えて右手で握手をする

お互いの手にはツルハシを握っていたマメがあり、ゴツゴツとした手は、お互いに何処か安心感を覚えていた

 

「家族は?居ないのか?」

 

「アンタこそ。俺は独り身だけどアンタは居そうじゃないか」

 

「はは!居たら家族で乗ってるさ。つまりお互い同じ身の上で、同じ境遇らしいな?」

 

奇妙な偶然もあるものだ、お互いに向かう場所まで同じ故に、打ち解けるのも早かった

第8鉱山もこちらとそう大差は無いらしい。毎日の過酷な労働と、月に1度やってくる天石教の神子と使徒に縋る日々

労働者が死なないように鉱石病を神子へと移し、祈り、希望を示す

今やカジミエーシュの源石鉱山は、天石教とカジミエーシュ政府の共同経営と言っても過言では無い

 

「1杯やるか?」

 

「遠慮しておく。聖域に入ってからたらふく飲もう」

 

「確かに!!はは、浮かれてたらしい」

 

懐から取り出した酒瓶を元に戻し、彼はケタケタと気分良く笑う。自分もつられて笑ってしまうのは、安心感からか、それとも希望があるからか

 

「聖域にも源石鉱山があるらしい。けどそこはスカイストーンの直轄で、ロドス?とやらの協力もあって、鉱石病になりにくいし、最新技術で快適に採掘できるらしいぜ?」

 

「そりゃあ良い。俺達みたいな学の無い奴はそこで働いて酒でもかっ食らうのが似合ってるからな」

 

下品な笑いと共に、列車が速度を落とす。聖域の外壁に差し掛かった事に気付いたのは彼も同じらしく、拳の中で切符が再度光るのが分かる

車内に居る全員……否、何人かは光らない切符を見つめていれば、再度征戦騎士が車内巡回にやってきた

 

「この中で切符が光っていない物は不正乗車である。自分から降りるか、我々に排除されるか選べ!!」

 

怒号にも似た声と共に、光っていない切符を持っていた数名が人混みの中から押し出される。手には武器を持っている者も居たが、仮にも征戦騎士に勝てるはずも無く、数名は早々に排除された

 

「おー怖……やっぱりコツコツ働くのが一番だぜ」

 

彼の言葉に、頷く他無かった。カジミエーシュは少なくとも約束を守り、聖域へと送る手配まではしてくれる。たとえそれが不正入国による不法労働者であろうとも

 

「けどようやく聖域に入れたんだな。実感が湧かねえ」

 

「俺もそうさ。早く列車を降りて安心したい……」

 

今までとは打って変わって、車内の雰囲気が一気に良くなった。全員が聖域に入れる。そう考えるだけで、一種の安心感が出来たのだろう

窓から身を乗り出して線路の先を見ていた子供が駅が見えると騒ぎ立てれば、全員が歓喜の声を挙げる

もうすぐ報われる。差別も無い場所へと行ける。天石教万歳、スカイストーン万歳、車内は最早歓声に包まれていると言っても過言では無い

 

「……御目出度い奴等め」

 

車内を見張っている征戦騎士の1人が、ぼそりと呟いたのを、俺は聞き逃さなかった

 

─────────────────────

 

「観光ってどう言う事だよ!?高い金払ったんだぞ!?」

「お客様、事前に説明はあったはずで御座います。もし聞いていないと言うのであれば、正規の方法で無い方法でご購入したのだは?」

「ふざけないで!!私達は観光しに来た訳じゃないの!!!」

 

駅に到着してから、列車に乗っていた乗客は2種類に分けられた。切符の光る色によって分けられた片方は、どうやら観光目的用の切符だったらしい

対する自分達は聖域に住居を移す事を認められ、正式に聖都の、聖域の一員となる事が出来た

 

「───ようこそ、新しい同胞。聖都へようこそ」

 

源石結晶の生えた女性が そう言いながら 自分達を出迎えた




聖域…聖都が拡大を続け、カジミエーシュ政府との協議により、流入する感染者難民を受け入れる場所となった天石教総本山
カジミエーシュ政府との協議により、この聖域に移住する事が出来るのは、カジミエーシュの源石鉱山で3年の労働に従事した者、天石教の教会で5年間の奉仕を行った者、多額の税金をカジミエーシュに収めた者のみである
それ以外は全て観光目的となっており、この観光切符を移住切符として売りつける事が問題となっている
征戦騎士による聖域周辺地域の警護と列車内の治安維持がなされており、密入国等は非常に難しく、それ故に聖域内の治安は保たれている

第〇源石鉱山…カジミエーシュ政府が運営する源石鉱山。入口には働けば自由になれると掲げられており、その言葉通り、3年間この中で働けば聖域へと移住出来る切符が手に入る
月に1度は天石教の神子と使徒がやってきては、全員の治療を行う為、非常に効率良く源石を採掘する事が可能となった
このような飴と鞭によって反乱等を考えなくて良くなった事から、カジミエーシュ側は1度もこの約束を破った事は無い

切符…カジミエーシュ政府と天石教が発行する聖域に入る為の切符
観光用と移住用に分けられており、発光アーツを使用すると観光用は赤、移住用は青に発光する
切符は第三者への移譲が可能である為、偽物が非常に多く出回っている為、注意が必要
この切符にはとある伝説が伝わっており、1人の鉱石病患者が9年かけて自分と家族用の移住用切符を手にした伝説が存在する
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