─── 天石教 教義10条 ───
「骨は折れていません。肘関節の脱臼ですから嵌める事が出来ますが……」
「おう、やってくれお医者様」
では、の一声と共に、治療を受けている男性の肘関節からゴキリと音が鳴る。治療されている男の顔に脂汗が一瞬で吹き出るも声を上げず、大きく息を吐いて痛みを我慢しきった
集落に来てから2週間が経った。教主の男は無償で医療を提供する代わりに、食料と住居を提供して貰う形で落ち着き、子供達は助手と言う形で落ち着いた
最初こそ怪しまれたものの、医者の居ない集落と言うのは軽い怪我でも一命を取る事が多い。風邪の患者が亡くなる事すら珍しくないこの集落にとって、教主の医療と言うものは必然的に重宝される物となり、同時に、子供達から外の話をねだられるのも必然であった
「お医者さん、もっと外の話聞かせてよ!!!」
「こら、まだお仕事の途中だろ」
子供が子供らしく居られる集落。最も、話をねだりに来るのは概ね孤児だ。今しがた怒られた子供も孤児であり、明るく返事をして遊びに行くのを見つつも、教主は心を痛めていた
風邪で亡くなり、事故で亡くなり、あるいは鉱石病で亡くなり……集落の長が親を亡くした子供達を集めて保護してはいるものの、この集落で育てるには溢れる程の孤児が、長の家には居る
生きていく術は、子供達には多くない。特に孤児と言うものは、親から教わる事を知らずに育つ
そう言った子供達含め、教主は子供達の為の青空教室を開いた。基本的な四則計算や読み書きを教え、治療に使える野草や、基本的な応急処置の仕方まで。自分がシャイニングから教えられた通りに、分からない事が無いように
数ヶ月が経った頃、教主は集落の長から呼び出され、冷たい事実を突きつけられた
「子供達の分まで、食糧を確保出来そうにない」
分かりきった答えだった。正確に言うならば、孤児の子供達の分、と言う意味であろうが、長たる老人は心苦しそうに告げるが、暗に教主に連れて行けと言っているのだ
恩人に対してこのような仕打ちをするなど、とすら考えていない。もし教主が見捨てるのであれば、孤児である子供達は冬を越えられずに餓死するか、最初の子供達のように、野に捨てられるだけだ
「分かりました。連れて行きましょう」
その言葉を聞いた瞬間、長は安堵のため息をついた。自らの手で追放しなくても良くなった事。衰弱していく子供達を看取らなくて良い事、様々な事があるのだろうが、少なくとも長たる男の心労は計り知れる
分かってはいた事だ。この集落の大きさでは働き手ですら無い孤児達を養う能力は無い。子供が子供らしくいられると言う事は、それだけ集落を「管理」していると言う事だ
この点に関して、長を責めるつもりは無い。彼のしている事は集落と言う存在において必要不可欠であり、誰かがやらねばならない事なのだから
「渡せるだけの水と食料を渡す。明後日には出ていってくれ」
「……ありがとうございました、この集落で私は医者であれました」
別れの握手は無く、そこにあったのは、冷たい取引を終えた2人の男だけであった
次作を書こうと思いますが……
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天石教の続き(教主を更に追い詰める)
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他作(色々考えてはいます)