テラの寒さも厳しくなるこの頃。
何故かエンジニア課で、酷使されるのは俺だ。
「『ハックションッ』どうして空調が無いんだ」
「諸事情だクソガキ。寒いなら手を動かせ」
そう言いナスティと簡易暖炉を奪い合う日々でだ。
この寒さ、今夜は熱燗か───
「───
「あッ?俺は忙しいんだ。後にしろブッ」
前が、前が見えん。
顔に、顔に衝撃がッ。
思わず地面でのたうち回ってしまう。
いつから、ライン生命にはゴリラが出没するようになった。
人にこんな無法が許されて良い訳がないだろ。
「すまない。できれば穏便に済ませたい」
「穏便に済ませろよ」
顔に一発入れて言う言葉か。
最近のゴリラは、穏便という言葉を知らないらしい。
凹んでしまった顔を戻して、前を見る。
前にいたのはゴリラではなく、
もちろん、サリアさんである。
「で、何用だ」
「うむ実は、私はある人物と劣悪な関係になってしまってな、それは私が意図したことではなかったのだが、結果としてそうなってしまい......(意訳:ロスモンティスと仲直りしたい)」
「ああ、だいたい分かった(理解:邪険な職員と仲直りしたい)」
大方、サイレンスあたりとでも喧嘩したか?
だが、いきなり
キャラがぶれているというか、なんというか。
今日のサリア、ポンコツだな。
「全く、主任様がそんなことで悩むな」
「なら、どうすればいい?」
サリアは、希望を見つけたように言う。
俺は、おもむろに机の下を漁り取り出す。
「いいか、困ったら酒だ。酒をキメろ」
隠していた酒をサリアの手に握らす。
20年物の上物だ。
こいつを飲めばどんな奴も冗舌になって一瞬だ。
「どうした感動して何も言えんか」
「没収だ」
「おまッ、ソレいくらしたと思ってるんだ」
「ラボに酒を持ち込むな、馬鹿者がッ」
後で、警備課にでも請求しておくか。
そもそも、ラボの酒なんぞ。
アルコール類と変わらんだろ。
「全く、論外だ。ナスティいい案は無いか?」
「私か?断る。クソガキと一緒にするな」
流石、ナスティ。
利益にならないことはしない精神。
いいぞ、その横暴なゴリラにわからしてやれ
「次回の予算の掛け合いを手伝ってやる」
「仕方ない。今回だけだ」
おい、ナスティ。
なに寝返ってんだ。
もっとゴリラをわからせろ。
「古来より仲を戻すための確実な手段は道具だ」
「つまり、モノで懐柔すると」
「察しがいいな。必要なのは───」
ナスティは、奥から物を取り出す。
アレ、なんか見たことがあるな。
「エンジニア課の特製、催眠アプリだ」
ナスティは、サリアの手に端末を握らす。
クリステンを洗脳して資金獲得をするため作ったアプリ。
実際は、自分より強い相手には効かないなど、欠点がある物だが。
サリアが使えば、だいたい洗脳できるだろう。
流石、ナスティである。
「どうだ感動で何も言えんか?」
「......(ビキッ)」
「なっ、我が課の予算獲得アイテムがッ!」
「これも没収だ」
無慈悲にもサリアの手の中で潰される端末。
借りた予算突っ込んだとか言ってなかったか。
後で洗脳すれば大丈夫とか言って、無駄に凝った思い出が。
きっとナスティのことだ何か――――
(膝から崩れ落ちるナスティ)
ダメそうだな。
「エンジニア課、外まで聞こえているぞ」
「フェルディナンドか、丁度いい」
そんなところを通りかかる我が主任。
正直、嫌な予感しかしない。
「何が丁度いいのか疑問だが、サリア?」
「お嬢様曰く、仲直りの方法が知りたいんだとよ」
俺の言葉に、フェルディナンドは表情を変える。
「......フハハハハハッ」
「何がおかしい」
「いや、すまない。天下の警備課主任がそんなことで悩むとは」
「ほう?では何かいい案があるのか」
自信満々に語るフェルディナンド。
その顔はいつもより3倍輝いていた。
さては、何かいいことがあったな?
「もちろんだ。どんな時もこいつに限る」
「これは───」
フェルディナンドは、懐に手を入れ
「──20万龍門幣だ」
サリアに札束を手渡す。
流石だ。デキる主任は違う。
俺なんか20万もあったら秒で溶かしているぞ。
それを、こんな簡単に渡すとは。
「フンッ」
「何をするサリアッ。私のボーナスだぞ!」
フェルディナンドのボーナスは暖炉にくべられる。
心なしか部屋が少し暖かくなった気もするな。
「聞く人間を間違えた。他を当たる」
そう言って、サリアは去っていく。
残されたのは、絶望するフェルディナンドと
横たわるナスティのみ。
「いや、この状況どうすんだ」
せめて介抱か介錯してくれ。
しかし、サリアが仲直りを、か。
......まさかな。まさかかもしれん。
「やれやれだ」
◇◆◇
「ということがあってな」
「どう考えてもアンタの言い方が悪いでしょ」
ミュルジスにそう諭されてしまった。
確かに私の言葉足らずなところがあったかもしれない。
だが、相手に酒、洗脳、金だぞ。
いつからライン生命は世紀末になったのだ。
もっと警備を厳重にする必要があるのか。
「あの子と仲直りねぇ。生憎、専門外のなのよね」
「うむ。しかしな......」
前回のあの一件から距離をとられてしまっている。
具体的に言うと、近づけば威嚇され、物で釣ろうとしてもそっぽを向かれる。
正直、ツライものがある。
「そういうのって、本人に聞いてみるのが一番じゃないのかしら」
「うぐっ、それができたら苦労しない『ピポーン』むっ」
懐の端末が揺れる。
どうやらメールのようだ。
警備課主任サリア様
ジェッセルトン・ウィリアムズより
誰かのせいで、片付けが終わらん。
代わりに、ロスモンティスの面倒を頼む。
P.S.今度、酒を奢れ。
「すまない、急用ができた」
「ハイハイ、気を付けて行ってきなさいよ」
「もちろんだ」
サリアは駆け出す。
その顔はいつもの警備課主任であった。
「全く、人騒がせなサリアね
ミュルジスは、一人そう呟くのであった。
◇◆◇
「という訳で面倒を見に来た」
「どういうこと?」
メールを見して彼女を納得させる。
危ない。メールが無ければ即死だったな。
ドアを開けた瞬間「おとうさ......じゃない、おばさん」は心に効いた。
「だが面倒といっても何をすれば」
洗濯物は畳んで、部屋の掃除もされている。
本当に、何をすれば────
「───お腹が減った」
「任せろ。料理なら得意だ」
学生のころはよく一人で作った。
ミュルジスには負けるが、料理の腕はクリステンと同等と自負している。
「どのカップ麺がいい?」
「それは料理とは言わないんじゃ?」
少女の発言に膝をつく。
そんなはずは、我がライン生命一番の料理だぞ。
「確か、冷蔵庫に食事が」
「すまない」
少女の手を借り立ち上がる。
キッチンの横には大きめな冷蔵庫が。
馬鹿も料理をするのか?
中を覗いてみると二人分の食事。
「極東風ナノテク割烹料理か」
なかなかに手が込んでいる。
出来立てではないにも関わらず、よだれが垂れてくるな。
ありがたく、頂くとするか。
◇◆◇
帰ってきたのがおとうさんじゃなくて、
おばさんだった時はびっくりしたけど。
この人も悪い人ではないみたい。
メールを見せて必死に説得しにきたり、
頑張って料理を作ろうとしたり、
なんというか変な人だ。
そうやって、ご飯を食べて、シャワーを浴びた後のこと。
「何か欲しい物はないか?」
「欲しいもの?」
「仲直りというやつだ」
そう言うおばさんは、思い出とは違い弱弱しく見えた。
別に怒っては無いんだけど。
あの時の戦いで私はそんな感じに見えたのだろうか?
「その、できれば渡せる範囲で頼む」
うーん。
別に、金や食べ物には困ってはないし。
私が欲しいもの?
おばさんにはあって、私には無いもの。
「───なら、誰かを守れる強さが欲しい」
「......それは全て渡せるとは限らんぞ」
おばさんは私を見据える。
答えを待っている番人みたいだ。
「大丈夫、私は誰かのために頑張るから」
「そうか」
その発言を聞いておばさんは頷く。
その瞳は、鋭くとがっていたけど、どこかやさしかった。
明日からまた忙しくなるかもしれない。
明日から挫けそうになるかもしれない。
それでも私は、頑張る。
「───ならば、まず呼び方からだな」
「へっ?」
「先生......は違うな。やはり師匠だな」
「何を言ってるの?おばさ「師匠!」......はい、師匠」
「ならばよし。訓練は明日からだ......弟子、よ」
やっぱり、ちょっと不安だ。
◇◆◇
エンジニア課、ラボにて
「今日は帰ってもいいぞ、クソガキ」
「悪いが今日帰るのはナシだぜ、ナスティ」
「夕食を気合入れて作ったと豪語していただろ」
「一人分作り忘れたからな。問題ない」
「そうか......飲みにでも行くか」
「......もちろん奢りだぜ」
「サリアにでもツケておけ」
こうしてテラの夜は明けていく。
ここまで読んでいただきありがとうございます。作者です。
久しぶりの更新ですね。まさかこのタイミングで体調不良になるとは思いませんでした。まさか抗生物質を飲んだら効きすぎて動けなくなるとは。このリハクの目をもってしても見抜けませんでした。
今回の話は、前回のおばさんおじさん呼びが直撃した人がたくさんいたので、何とか呼び方治せないかなぁってことで生まれた話です。それ以上に特に深いことはありません。キャラが崩壊してるのは許してネ。
さて、私語となのですが、実はファンアートを貰いまして、うっきうっきな作者です。ただ初めてもらったもので、どうすればいいんだろと現在進行形で考えています。えっ、アークナイツのゲーム......ログインはしたからセーフです。まさかドロシーに心折られたワケ、ないじゃないですか。今日引退。明日復帰の予定です。
さて前回も誤字報告ありがとうございます。どうして間違ったんだろと毎回頭を悩ませながら、皆様の報告で修正しています。本当に助かっています。
また、前回も感想ありがとうございます。ベットで横たわりながら感想で紋々としていました。皆様の感想が書くモチベになっています。
では、良きガチャライフがありますように。