揺らぐ方舟~接待:『虎の手』~   作:凍結済み

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一話 窯事務所 ①

 あたしの仕事は業種としてはありふれているけれど、やり方は異色も異色に違いない。

 

 なぜって、本来、あたしたちフィクサーの仕事は顧客に依頼されて始まるモノなのに、あたしの仕事はといえば顧客に依頼を提案し、承諾されたのちに始まるモノだから。

 

 端的に言えば、あたしはフィクサーの手伝いで生計を賄っている。

 

 キャパ以上の依頼を受け持った事務所、あるいは人員不足が著しい事務所などに声をかけ、彼らの依頼を代行するのがあたしの仕事だ。

 

 ついた異名が『虎の手』。猫の手も借りたい時に忙しさそのものを解消してしまいかねない実力を引っ提げてやってくることからついたらしいが、安直すぎないかと、あと珍妙すぎないかと二重に文句をつけてやりたくなる。

 

 

 ともかく、そんな離れ技ができるのは、十年にも渡るフィクサー経験で培った情報収集・処理能力と二級上位クラスの戦闘技術によるものだ。

 

 正直に言えば、今のスタイルで仕事をするようになってから、収入は減ったし、依頼を受けるのもやたら難しくなった。端から見れば、あたしは自ら苦労と手間を増やすアホにしか見えないだろう。

 

 だからあたしへの視線にはたいてい嘲り、揶揄、軽蔑が混じっている。

 

 都市で生きていくのは苦難の連続ばかりなのに、よく無駄な仕事を増やしていられるな、って。そんな奴が助力を申し出るというのだから、あたしの提案を実力の愚弄と受け取る人も多い。

 

 例えばそう、今あたしの前にいる男が事例としてわかりやすいだろう。

 

「てめえのその頭はポンコツなのか!? 一回メーカーに診てもらったらどうなんだ!」

 

 声を荒げながら、鼻に絆創膏をつけた青年があたしに凄んだ。

 

 ちなみにポンコツ頭というのは、あたしが義体に酷似したマスクを被っている事、そしてマスクの機能で声にエコーがかかっている事に由来する。

 

 おかげで皆、頭だけを義体にしたのだろう、とうまいこと誤解してくれる。

 

「クレイ、あんたは人と落ち着いて話すことも出来ないのかしら? あんたが口を開けば余計話がややこしくなるから、黙ってなさい。永遠にね」

 

 ゴーグルをつけた背の低い女性が青年、クレイに詰め寄った。…あたしを押しのけるようにして。

 

「ああ!? ならミーシャ、てめえの賢い頭でこいつの発言の意味をよーく反芻してみるこった! 馬鹿にされてるって嫌というほど思い知れるだろうな!」

 

「ええ、よーく理解してるわ! 恥知らずな誰かさんはこらえきれずブチ切れたみたいだけどね!」

 

 なぜだろう。当事者のはずなのにあたしは蚊帳の外にされていた。唐突に始まった口論にあたしは困惑する。

 

「コケにされてキレるのは当たり前だろうが! むしろキレねえ方が恥知らずだ!」

 

「恥知らずはあんたよ!」

 

「てめえだ!」

 

「あんただ!」

 

「はあ、二人とも落ち着きなさい。お客様の手前だぞ、あとクレイ、君はせっかく足を運んでいただいたトールさんに暴言とは何様だ...」

 

 眼鏡をかけた初老の男、ガーランドさんが溜息をつく。くたびれた手振りと口調で二人をなだめるが、どちらも変わらずの不満顔だった。

 

「「だってこいつが!」」

 

 そこでミーシャとクレイは同時にこちらを指さした。

 

「え、こ、ここであたし?」

 

 ど、どういうタイミングですか?

 

「トールさんを雇ったのは私の判断だ。契約はもう決定事項だから、文句があるなら仕事が終わってからいくらでも私に言いなさい」

 

「「ちぇっ」」

 

 舌打ちのタイミングまで重なるとは…。この二人仲が良いのだか、悪いのだか。

 

「トールさん、うちの者がご迷惑を」

 

 ガーランドさんは頭を下げるが、あたしは上げるように促す。この件で非があるのはあたしなのだ。頭まで下げられたらこっちが申し訳なくなってしまう。

 

「いえいえ、あたしのやり口を嫌う人は多いですから」

 

 ミーシャとクレイはどちらも不服そうな顔であたしを見ている。ガーランドさんに非難の目を向けないあたり、二人は彼をよほど尊敬しているのだろう。

 

「…ただ、一つだけいいですか?」

 

 ガーランドさんの表情が険しくなった。いや、別に怒ってませんよ。まあ、あたしの表情が見えないから、余計怖いのだろうけど。

 

「あたしは気にしないけど、あなたはもう少し本音を隠すようにした方がいい。あなたよりずっと実力が上で、気性が荒い人に会ったらどうするの? 無礼なこと一つくっちゃべっただけでなすすべもなく殺されちゃうかもしれないよ」

 

 あたしはクレイをみおろした。この警告でお節介を焼いたつもりだ。

 

 出会い頭に人を殺す。そんな危険な人が『都市』にはごまんといるけれど、気分を害さないよう配慮するだけで難を逃れられたケースも多い。

 

 特にフィクサーとしての実力がまだ一戦級でないなら、気を遣うに越したことはないだろう。

 

 あたしが親指だったらクレイは十秒も経たず殺されてたかもしれないしね。

 

「う、うるせえ…」

 

 言葉では反発しているけれど、クレイの表情は青ざめている。頭だけでも分かってくれたようで何よりだ。

 

「話を本題に戻しましょう」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

 ガーランドさんは頬を緩めた。心中で安堵する。どうにか今回の依頼人とはうまくやっていけそうだ。

 

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