揺らぐ方舟~接待:『虎の手』~   作:凍結済み

4 / 8
一話 窯事務所 ③

 都市疫病事件『ミイラ取り』。

 

 その通称がつけられたのはまさにミイラ取りがミイラになったからだ。事の発端は噂から。

 

 包帯を巻いた人間が夜な夜な人を攫っているという。行方不明者が拡大していくと、ツヴァイ協会指定事務所、垣根事務所が事件の解決に乗り出した。

 

 彼らの調査によれば、行方不明者は総計五十二名。被害者に共通点はなし。妙なのは加害者と被害者に共通点があったことだ。

 

 監視カメラに写っていた誘拐犯は皆、全身に包帯を巻いていて、被害者と同じ服飾、アクセサリーを纏っていたのだ。犯行グループの一名を捕縛し、身元を特定したところ、毛髪の遺伝子や血液、所持していた物品から被害者本人だと判明。

 

 捕縛後、犯人はまもなく死亡。彼は皮膚が焼け爛れており、解剖で全身に大量の生体施術痕と網膜に埋め込まれたカメラが見つかった。

 

 垣根事務所は映像資料や目撃者の証言から誘拐犯のアジトを特定、突入。結果は失敗。全滅。彼ら自身も誘拐犯として監視カメラに収まることとなった。

 

 垣根事務所の等級を鑑みて、本件は『都市疫病』に指定。

 

 これがガーランドさんたち窯事務所に流れてくるまでの経緯である。

 

 『ドラウプニル』を発光させ、照明を確保する。ロビー、廊下、病室、階段、と時折振り返って窯事務所の皆さんの様子を伺いながら進んでいく。

 

 床には薬品の空瓶や外行きのバッグ、衣類など、誰かがここを使っていた痕跡や、飛び散った血痕、臓器が見受けられた。他にも血特有の鉄めいた匂い、何かの薬品のような鼻を塞ぎたくなる異臭。

 

 あと奇異な点が一つ。部屋のあちこちに電源の入っていないモニターが置かれていたこと。

 

「ね、ねぇ、ちょっと休憩しない?」

 

 病院の三階まで辿り着いたとき、そう提案したのはミーシャだった。言動の理由は恐らく恐怖。

 

 はっきりと表情に現れてはいない。が、よく観察してみればそれを窺い知れる。肩や声の細かな震え。

 

 右手にある大槌の少しズレた握り方。揺れる瞳孔。証左としては十分すぎるくらい。やっぱり等級に経験が追いついてないみたいだ。

 

 任務に支障をきたさないよう、休憩という名目で精神を落ち着かせる機会が欲しいのだろう。態度だけでも弱音を見せないようにするあたり、フィクサーとしての心構えはしっかりあるみたいだね。

 

「はっ、いつもの威勢はどうしたよ? ビビッてやがんのか?」

 

 と言いつつも、クレイは外でよりも歩調を緩めていたわけだ。指摘してあげたら面白い顔になるだろうね。

 

「う、うるさいわね…。あんたこそビビってんじゃないの?」

 

「二人とも…。ここは敵地だぞ…」

 喧嘩が始まりそうだと予見してか、ガーランドさんが二人の肩をぽんと叩く。二人は互いに一通り睨みあった後、そっぽを向いた。

 

 今の口論で二人の緊張はほぐれたみたいだ。過剰に緊張しすぎていたくらいだったからね。ちょっとだけでも落ち着いたようで良かった。

 

 再び歩を進めようとしたところで、微細な音を聞き取り、足を止める。唐突にざざあっと全てのモニターから一様に砂嵐が流れた。

 

 ガーランドさんが剣を抜き、ミーシャは大槌を、クレイは斧を構える。だが、武器を向ける相手はどこにもいない。精神汚染の類か何かと警戒したが、『ドラウプニル』の反応もなかったし、何よりガーランドさんたちに異変がなかった。

 

 下の階からどかどかと足音が聞こえる。音の大きさやその間隔から大人数だと察せられた。敵だ。音は下から聞こえる。やはり『ミイラ取り』の黒幕は相当切れ者だ。立地、戦略、双方においてあたしらを最も追い詰められる方法を取っているのだから。

 

投稿頻度と文字数についてのアンケート。

  • 投稿頻度多め今くらいの文字数
  • 投稿頻度少なめ文字数増
  • 亀筆
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。