揺らぐ方舟~接待:『虎の手』~   作:凍結済み

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武器紹介回です。


一話 窯事務所 ⑤

「ねえ! あれはもう使えないの?」

 

 ミーシャが叫ぶように訊く。ガントレット、鉄棍、槌、メイス。多様な武器から繰り出される一撃を一つ一つ弾く、或いは受け流すことで対応しながら。かなりギリギリのようだ。額には玉のような汗が浮かんでいる。

 

「『ドラウプニル』は反動でしばらくは使えないかな」

 

 あたしはミイラの腹を槍で貫きつつ、答えた。『ドラウプニル』から放たれる光は月光石由来のものだ。一度にそう何回も使用できるものではない。

 

「クソッ! ウゼえ!」

 

 クレイもミイラとの攻防に苦労していた。彼の苛立ちはさっきから屋上に流れ続けている耳障りなノイズのせいもあるのだろう。

 

 ガーランドさんは二人のサポートで手一杯だ。あたしはといえば彼らが面倒を見切れるように、他のミイラたちを翻弄し、隙あらば片づけ数を減らしていた。

 

「受け止めるより、カウンターで敵の急所を突くことを意識して! こいつらの強化施術は攻撃特化だろうから、脆いはずだよ!」

 

 強化施術を受けた人間は頑強になる。包丁やら鋏やらのすぐ手が伸ばせる日用品では傷もつけられないほどだ。だからこそ工房武器や同じく強化施術で対抗する必要がある。

 

 こいつらは刺した時の感触が柔らかすぎた。一方で膂力が高すぎる。仮にも元三級フィクサーであるガーランドさんが力勝負で押されたのだから相当だ。

 

 『グングニル』を使うなら、あたしもまともに打ち合い続ける自信はない。力の代わりに耐久性を犠牲にしたのだろうか。だが、そのアンバランスさ故にこちらの均衡を崩しかねない。

 

「んな簡単にできるかよ!」

 

 不満を叫んだ直後、クレイが弾き飛ばされる。肉薄したミイラが槌を片手に彼の懐に迫る。あたしは横合いから『グングニル』を投擲した。

 

 槍はミイラの脚部を床に縫い留める。クレイは動けなくなったミイラの頭を斧で砕き、なんとか窮地を脱した。

 

 無防備だと思ったらしくミイラがあたしへと迫る。あたしは『グングニル』に手元へ戻るよう念じた。

 

 鉄パイプによる脳天への振り下ろしを半身になって躱した途端、飛び上がってきた『グングニル』を柄からキャッチする。そのまま腹部を切り払い、一匹のミイラを屠った。

 

 ブロックエイトリ工房。あたしの武器をこしらえてくれたAランク工房。ウリは商品に付随する固有機能。

 

 例えば『グングニル』。その機能は二つ。一つは使い手が狙った位置を弾かれない限り自動で追い続けるホーミング機能。もう一つは使い手が念じれば自動で手元に戻ってくる回収機能。

 

 もう一例。『ドラウプニル』。月光石を元に作られた腕輪。月光石に込められたエネルギーを転換し、発光するアイテム。様々な用途に使えるが、特に目くらましに使った場合、敵が盲目でもない限りは必ず動きを麻痺させられる優れもの。

 

 フィクサーとしての実力は何も戦闘技術単体では決まらない。特にあたしが顕著だろう。これでも厳選して優秀な施術を複数回受けている。

 

 が、身体能力という観点で見るならば、一級や特色は勿論、同じ二級で比較しても下位に位置するはずだ。だがあたしには長年培ってきた情報と観察眼という道具がある。

 

 戦略の幅を広げるための工房武器や服といった戦闘準備。敵の動きから戦術を予測する分析能力。道具を応用すれば戦闘技術だけでは不足している戦闘能力を補える。

 

 身体が比較的弱くても、総合的な戦闘能力が二級上位に位置するのはそういう訳。

 

 肌を伝う汗がいい加減鬱陶しく思えてきたころ、ミイラの数は四分の一ほどが減っていた。ガーランドさんは言わずもがな、ミーシャやクレイも奴らの動きに慣れてきている。あたしのアドバイスも実践しているようだ。が、目に見えて疲労が溜まっている。少しアドバイスをあげた方がいいね。

 

「敵の攻撃を誘って躱して! 奴らは連携が取れないから同士撃ちが狙えるよ!」

 

 ミイラたちの動きには一切パターンが見受けられない。その種類は争いとは無縁な素人同然の動きからそこそこ年季の入ったプロの身体運びまで幅広い。つまり統一性がないのだ。故に奴らは連携を取るのが難しい。

 

 攻撃を躱した拍子にちょくちょく同士撃ちしている。ただ、仲間割れはしないだろう。動きの一つ一つが経時的な変化が見られない。つまり、感情によって澱んでいないのだから。

 

「はあ、はあ、本当よね!?」

 

 不服そうな顔を作りながらも、ミーシャは早速、実行に移している。動きの要領はカウンターと変わらない。むしろ動作を応用したのがカウンターだ。故に指示を出してすぐに二人は回避に徹する。

 

 一人、背後からミーシャの頭を狙った奴がいたので、『グングニル』を再び投擲。脳天をぶち抜いて片づけておいた。

 

 やがてミイラの数が三分の一ほどになる。ガーランドさんはまだまだやれそうだが、二人はもうそろそろ限界が近いみたいだ。肩で息をしているし、ちらほら打撲が散見される。潮時かな。

 

 眼前のミイラが鉄パイプを振り抜く。あたしはあえてそれを『グングニル』で受け、ミイラの膂力の方向を調節した。そのまま弾かれる。

 

 狙い通り、『グングニル』は楕円を動くように飛び、モニターへと突き刺さった。やかましいノイズが途切れ、代わりにぶすぶすと黒煙が立ち上る。確実に破壊できたようだ。

 

 そこで、ミイラの動きがあからさまに鈍る。あたしは掌打を顎に叩き込み、確実に頸椎を折った。

 

 動きが衰えたのは他のミイラたちもだった。そのスキを見逃さず、皆は一人一人仕留めていく。残った奴らは後ろへと引き下がる。すなわち屋上のドア付近へと。ノイズが十全に聞けるように。

 

「モニターがノイズで指示を出していたみたいだね」

 

 あたしは予め分かっていた結果をさも偶然から導き出されたかのように語る。

 

 疲労が功を奏してか、それとも上手く騙されてくれたのか、ミーシャとクレイは安堵の溜息をつく。ガーランドさんだけは、疑心を隠せていない鋭い視線であたしを一瞥する。特に問題ない。彼だけに疑われるのなら。

 

 ともあれ、みんなにとって『ミイラ取り』は『都市伝説』レベルの範疇に落ちただろう。三人だけでも問題ないとは思うが、最後まで演技を徹底するため、あたしは先陣を切った。

 




次回の更新についてですが、もう少し時間を頂くことになりそうです。

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