【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

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10.信頼

「……ということは、本当に」

 

「ええ、勇者様。貴方の仰った通り、ほぼ確定ですわ」

 

「闇派閥が、50階層まで……?」

 

「それは本当の話なのか、フィン」

 

「ああ、僕と彼女が既に互いに確信している。ほぼ間違いなく、闇派閥はあのモンスターと関わっている上に、50階層以降まで手を伸ばしている」

 

「マジか……」

 

「……どうして少し目を離していた隙にこんな話になっているんだ」

 

 

 怪物祭の後、フィンの名前を使って再びロキ・ファミリアの幹部陣とシャクティを呼び出したグラナは、その結論を伝えることにした。

 

 つまりはまあ、フィンの予想通りだったということを。

 

 そんな信じたくもない想像が事実の可能性が高いと。

 

 心底面倒そうな顔をしながら。

 

 

「なんというか、何故これだけの情報からそこまで辿り着けるのかと疑問せざるを得ないのだが……」

 

「そもそもダンジョンに繋がる別通路て……」

 

「これについてはほぼ確実に存在していると言っても良い。リヴェリアとガレスは覚えている筈だ。7年前の大抗争の際、アルフィアが突如としてダンジョン内に現れたことを」

 

「「!!」」

 

「この通路がどれほどの規模で存在しているかは分からないが、ほぼ間違いなくそこが今の闇派閥の拠点だ。そして例の魔石を持った奇妙なモンスター群、これこそが闇派閥の次の勝算だろう」

 

「何故そう言える?あれもダンジョンの異常事態の産物という可能性もある筈だ」

 

「怪物祭の最中に現れた蔦型のモンスター、あまりにタイミングが良過ぎますもの。目的は恐らく……」

 

「恐らく?」

 

「ギルドの信用の失墜」

 

「「!!」」

 

「恐らく今回のモンスター達の脱走と、蔓のモンスターは無関係……いや、同じ目的の2者が居た。そして実際にモンスターを解き放った者は、闇派閥ではない。なにせ実際、それらのモンスターによる住民への被害は限りなく0でしたから。対して蔓型のモンスターの方は問答無用で暴れ回り、怪我人が出ている。あの勢いでは死者も出かねなかった」

 

「……闇派閥は元々、怪物祭のモンスター達を解き放つつもりだった。その最中に蔓型のモンスター達も同時に解き放ち、より被害を拡大させるつもりだった?」

 

「ええ。怪物祭の企画はギルドで、主催はガネーシャ・ファミリア。都市の信用を失墜させるのに、これほど最適な祭もない。……そういう意味ではわたくし達は、安全にモンスターを脱走させた第三者に感謝さえすべきかもしれませんわね」

 

「……マジか、感謝したくないわぁ」

 

「そこから、闇派閥に繋がるのか……」

 

「ダンジョンから地上までのモンスターの運搬手段。同時期に運搬を行なっていたガネーシャ・ファミリアに気付かれなかった事からも、確実にその通路とやらが使われているだろう。そしてその通路を知っているのは現状では恐らく闇派閥だけ。……関係が無いと言い切る方が難しい」

 

 

 であるならば、その通路の出口は当然ながらオラリオの中にもある。今回の件について敵の想定外だったのは、自分達以外の者がモンスターを脱走させてしまったことと、そこにグラナ・グレーデが居たということ。

 フィン1人であれば、ここまで解き明かす事は出来なかったかもしれない。しかし闇派閥側に立って思考を広げられる彼女が居るのなら、フィンの思考との掛け合わせを含め、ここまで辿り着くことが出来る。……事実として、辿り着いてしまった。これほどまでに早く。

 

 

「勇者様、敵の潜伏場所に心当たりは?」

 

「……先ずは地下水路、確実に地下水路の何処かに入口が1つ以上あるだろうね。次に貧民街からダイダロス通り、あの複雑な地形は何かを隠すのにうってつけだ」

 

「早速探すか……?」

 

「せやけど地下水路は怪物祭の後、ティオナ達が一応見に行っとるで?」

 

「オラリオの地下水路ですもの、相当な広さがあるのでは?その中から目的の物を探すには、相応の時間が必要でしょう。獣人の耳や鼻を使うべきかと」

 

「……それなら、その辺りの調査はベートやアキ達に任せようか。ガレスも僕の指示した場所を、地下水路から掘り進めて欲しい。それほど危険性はないと思うし、監督はロキに任せようかな」

 

「ええで、任せとき」

 

「シャクティはダイダロス通りを頼む。忙しいだろうけれど、ガネーシャ・ファミリアの力も借りたい」

 

「無論だ。苦情の処理はガネーシャにでも任せておけば良い」

 

 

 ダイダロス通りは広く、地形が複雑過ぎる。その中で目的の入口を探すのは困難に近い。相応の人員が必要になるが、あまり大きく動いて敵に警戒させるのも違う。

 その点、ガネーシャ・ファミリアならいくらでも理由付けが出来る。この件においては最適な人選だろう。現地調査をしている、くらい適当な理由でも十分に成り立つ。 

 

 

「ならば私達はどうする?フィン」

 

「うん……実は一度ダンジョンに潜ろうと思っている」

 

「ダンジョンに?」

 

「理由はいくつかある。先ずはティオナやアイズ達の武器の借金、多分数日以内に彼等からも話があるだろうね。早急に解決するためにも深くまで潜りたい」

 

「ああ……それはな……」

 

「次に、グラナの実力を見ておきたい。ダンジョンの経験をするにしても、良い機会じゃないかな。比較的余裕のある今のうちに済ませておきたいよ」

 

「あまり期待されても困ってしまいますが、まあ構いませんわ」

 

 

「最後に……昔アイズが神と出会った12階層を調べたい」

 

 

「「「!!!」」」

 

「そうか、それがあったか……!!」

 

「それだけじゃない、リヴィラの街も怪しい。少なくとも18階層にも入口は必ずある筈だ。……正直、怪しい場所ならいくらでもある」

 

 

 『ダンジョン内から歌声が聞こえる』なんておかしな依頼は定期的にギルドに出てくる。それを理由にダンジョンを探し回るのであれば決して奇妙ではないし、なんならそれ自体が有力な情報にさえなり得るだろう。

 未だ見つかっていない未開拓エリアもまた、こうなってくると可能性がある。既知の場所であっても、もう一度探し回ってみる事は決して無駄ではない。

 グラナとフィンが居る以上、早ければこの小遠征で入口が1つ見つかるかもしれない。

 

 

「それにしても……随分と信頼されましたね、わたくしも」

 

「む……それは確かに、そうやな」

 

「シャクティがそうだったように、僕も君に関して1つだけ信用出来ることを見つけたというだけさ」

 

「それはまた興味深いお話ですが、一体どのような?」

 

「君は心底レフィーヤに執着している」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「闇派閥が都市ごと破壊しようとしている可能性がある以上、君は闇派閥を敵と見るだろう。……そして少なくとも闇派閥の目的や現状を知るまでの間は、僕達は君と共闘出来る」

 

 

 闇派閥の目的次第ではグラナが態度を変える可能性も含めてのそのフィンの言葉に、彼女は苦笑いを浮かべながら溜め息を吐く。実際それはその通りなのだから。

 都市を破壊するどころか、バベルを破壊し世界に混沌を齎されては、グラナだって困る。それではいくらレフィーヤを都市外に連れ出しても、最後には追い詰められてしまうのだから。

 

 故に世界の平穏を保つという1点においては協力出来るし、闇派閥を乗っ取れるかどうかの判断を下すまでは、手を取り合って共闘する事が出来る。……フィンの言う通り、彼女の最優先は間違いなくレフィーヤであるのだから。それについてはフィンにとって何より嬉しい確信だ。

 

 

「まあ構いません、どうぞ手を取り合って共に頭を回しましょう?……短い付き合いになることを祈って」

 

「僕はもう少し長くてもいいと思っているよ?長い付き合いになると嬉しいかな」

 

「ふふ、お断りです」

 

「おや、それは残念だ」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「お前達は相変わらずじゃな……」

 

「相性が良いのか悪いのか分からん……」

 

 

 特に駆け引きもなく、互いに事実を言っているだけであったりもするのだが。周りの者達からすればまた2人が面倒な駆け引きをしているように見えてしまうので、不思議な話である。

 

 

「ああ、そういえばうちのハシャーナがダンジョンに潜っている。もし見つけたら『早く帰って来い』と言っておいてくれ、鎧を着た大男だ」

 

「承知しましたわ」

 

 

 そんな話をしつつ、一先ず打合せは終了した。

 

 ……もちろん、グラナは1つ。

 

 話すべきことを話さないまま、笑っていたが。

 

 

 

**************************

 

 

「なんかそれって、怪しくない……?」

 

「へ?」

 

 

 ティオネの発したその言葉に、レフィーヤは目をパチクリとさせる。

 

 

「だって、いきなり不自然にギルドに移動したと思ったら、そこで襲われたんでしょう?偶然にも程があるでしょ」

 

「い、いえ、本当に偶然だと思います。なんかこう、モンスターを見てすごく嫌な顔をしてましたし」

 

「変じゃない、普通そんなの見たら驚くでしょ」

 

「……でも、助けてくれましたし」

 

「それもレフィーヤを信用させるためかもしれないわ。……何にしても、怪し過ぎるのよ。そもそも団長に向かってあんな態度を!!それなのに団長はあの女と楽しそうにぃぃい!!」

 

「あはは、ティオネはそれが本音だよねー」

 

 

 こんなことが、正直ここ数日で何度もあった。

 グラナ・グレーデ、彼女に関する団員達の印象は、概ね悪いというか、レフィーヤが本気で心配されるくらいには最悪だ。その理由も納得出来るものから単なるイメージのものまで様々。

 

 その中でもやはり幅を利かせているのは、フィンに対するあの態度である。彼女はそもそも持っている雰囲気が如何にも怪しいにも関わらず、団員の誰もが慕っているフィンに従わないどころか、当然のように暴言を吐く。

 彼女がまだLv.3であり、彼女の力量を実際に見た人間がレフィーヤくらいしか団内に居ないというのも大きいのだろう。そもそもコミュニケーションさえまともに取れていないというのも、理由として大きいのかもしれない。

 

 

「うーん、でも確かに一回くらい話してみたいよね。フィンがああ言ってるくらいだから、ティオネが言ってるほど悪い人じゃない筈だし」

 

「それは……まあ、そうかもだけど……」

 

「……アイズさんは、どう思いますか?」

 

「私?」

 

「ベートもどう思うー?どうせ聞いてたんでしょ?」

 

「……るっせぇな」

 

 

 それまで口を開かなかった2人、けれどそんな彼等の意見だって知りたい。自分達とは違う価値観を持った2人、そんな2人は彼女のことをどう思うのか。

 

 

「……多分、すごく強い人だと思う」

 

「それって……実力的な意味で?」

 

「それも、かな」

 

「どうしてそう思うのよ?」

 

「……フィンと、同じ背中をしてるから」

 

「「!」」

 

「誰かを率いるのに慣れてて、誰よりも前に立つことに慣れてて……恐怖を感じない、みたいな……そういう……えっと……」

 

「……着いて行きたくなる、背中?」

 

「うん、それ、レフィーヤ」

 

 

 そんな言葉にティオネはまた嫌そうな顔はするものの、それでも彼女とフィンが対等な目線で話していることも知っている。アイズのその表現に納得出来る部分はある、納得したくないだけで。

 

 

「……ベートはどうなのよ」

 

「八つ当たりすんじゃねぇ」

 

「いいから教えなさいよ」

 

「チッ。……分からねぇ」

 

「は?」

 

「分からねぇ、それだけだ」

 

 

 それはベートにしては珍しく気弱というか、消極的というか、そんな意外な言葉に流石のティオネも戸惑う。普段の彼ならば『知るか、興味もねぇ』くらい言ってしまいそうなものだというのに、実際の答えはそんなところ……

 

 

「前も言ったろ。あの女、茶の臭いしかしねぇ」

 

「えと、確かにいつもお茶を飲んでますが……」

 

「それだけ?」

 

「……獣人にとって臭いが分からねぇってのは、それだけで信用ならねぇ」

 

「!」

 

「それだけじゃねぇ、アイツは意図的に肌の露出を少なくしていやがる。俺達はあの女の素顔さえ知らねぇ」

 

「まあ……それはそうね……」

 

「信用どうこう以前に、そもそもあの女自身が俺達と関わるつもりがねぇ。情報を渡すつもりもな。そんな野郎を身内扱いなんざ出来る訳がねぇだろ」

 

「「「………」」」

 

 

 彼の言っていることはあまりにもその通り過ぎて、流石のレフィーヤも黙り込むしかなかった。彼女が自分の情報をあまり出さないことは事実であるし、何よりフィン達もそれに困ってレフィーヤを頼って来たほどだ。

 自分のことを他者に隠すような人間を信用など出来るはずもないし、ましてや身内扱いなど出来るはずもない。ダンジョンという空間の中では信頼関係が重要だ、どころかそんな人間の指示など聞けるものか。

 

 

「レフィーヤは、どう思う……?」

 

「アイズさん……」

 

「多分レフィーヤしか、あの人のことを知らない」

 

 

 アイズの問いに、レフィーヤも目が泳ぐ。けれど実際に彼女のことを今この場で正当に評価できるのはレフィーヤだけだ。そしてそんな彼女への不信感を拭えるのもまた、レフィーヤだけ。……加えて少なくとも、レフィーヤにとってグラナ・アリスフィアという人物は悪い人間ではない。

 

 

「私は……生き辛そうな人だなって、思いました」

 

「生き辛い……?」

 

「色々なことを、考えている人なんです。私なんかじゃ絶対に思い付かないようなことまで考えながら生きていて……だからこそ、私なんかよりずっと多くのことに縛られて生きている」

 

「……」

 

「……悪い人ではないはずなんです。怪物祭の時も迷わず前に出て、私に避難誘導するように言ってくれましたし。決して簡単に人の命を見捨てるような人ではありません」

 

 

 今のレフィーヤに言えるのはそれくらいだ。それ以上のことはレフィーヤにだって分からない。それでも彼女はティオネ達が言うほど悪い人物ではないとレフィーヤは思っているし、きっと自分達にとって頼りになる人物になるとも思っている。

 だって彼女は本当に努力をしているから。レフィーヤはそれを知っているから。だからきっと彼女なら……

 

 

「レフィーヤは怪物祭であの女の戦ってるとこ見たんでしょ?どうだった?」

 

「……アイズさんの言う通り、強い人でした。確かにステイタスはLv.3相応なんですけど、凄い勢いで相手の情報を取り揃えて、対応して。全く苦戦することもなく完封してしまいましたから」

 

「へぇ、そういうタイプなの」

 

「……都市外でLv.3まで登った女が弱い訳もねぇか」

 

「それなら今度、ダンジョンに誘ってみよう?フィン達も一緒なら大丈夫だよ」

 

「うん、そうだね!ウルガのお金も必要だし!」

 

「は、はい!私からもお願いしておきます!」

 

 

 レフィーヤがこれほどに言葉を尽くして、それに応えない彼等ではなかった。少なくとも彼女が実際にレフィーヤを傷一つ付けることなく守ったことは事実なのだから。何をどうするにせよ、その事実だけは受け止めなければならない。

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