【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

11 / 59
11.散策

「ということで皆様、今日はよろしくお願いいたします」

 

「おお、服装が違う」

 

「まあ流石にね……」

 

「……とは言え、それでもなお仰々しいが」

 

「わ、私は綺麗だと思いますよ!」

 

「ふふ、ありがとうございます。レフィーヤさま」

 

 

 ダンジョンへと赴く日がやって来た。

 いつものようなドレスではなく、それでも肌を殆ど見せることのないパンツにローブという鉄壁。ただし金色の刺繍が入っているなど相変わらず趣味の悪い派手さはあり、やはり人の目を引く彼女の姿。

 そしてそんな彼女は今日もニコニコとレフィーヤのことを見ている。本当に好いているのだろうと、見ていれば誰にでも分かるくらい。

 

 

「あ〜、今日の目的はティオナ達の武器代を稼ぐことと、グラナのダンジョン経験を積むこと、それとちょっとダンジョンを調査したくてね」

 

「前者2つは分かりますけど、ダンジョンの調査ですか……?」

 

「ああ、グラナがダンジョンについて色々と調べている最中にね。少し気になる話があったんだ」

 

「というと……?」

 

「ダンジョンに別の出入口がある可能性についてですわ」

 

「「「!?」」」

 

 

 本当に何でもなさそうに彼女はそう言ったが、しかしそれは笑って流せる話ではない。なんなら今日までそんな話など聞いた事がないほどに、日々ダンジョンに潜っている者達にとっては目を見開くような話。

 

 ……もちろん、実際に探しているのは闇派閥の拠点であり、そんなことを口に出すことはしない。ただ、闇派閥と戦闘になる可能性は考えて準備はして来ている。それを知っているのはフィンとリヴェリアとグラナだけだが。

 

 

「それでは参りましょうか、勇者様」

 

「……ああ、行こうか」

 

 

 妙な緊張感は、きっとこれから起きるであろう何かによるもの。何事もなく平和に帰って来られるとは、フィンも思ってはいない。そして自分達が居ない間、地下水路の調査を進めているロキ達もまた……

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そうしてダンジョンに潜り始めたのは良いものの。元よりこのグラナ・アリスフィアという女がダンジョンという環境に頭を悩ませる姿が見られるのかと問われれば、そんなことを想像していた者など存在しない。

 

 

「前提知識は……当然入っているとは思っていたけど」

 

「まさか地図まで覚えていたのか……」

 

「それこそ当然の話では?時間ならありましたから、頂いた資料については概ね頭に入れてあります」

 

「まあ君ならそうするだろうね」

 

「知識と実際は乖離するとは言え、知識が無ければ話にもなりませんもの。あまりそこに時間をかけたくもありませんでしたから」

 

「勤勉過ぎるのも考えものだな……まあ我々としては助かるが、お前にダンジョン探索を教えようとここ最近色々と学び直していたレフィーヤが落ち込んでいる」

 

「えぇ!?そ、そんなことないですよ!?そ、それはまあ、私が役に立てるところなんてそれくらいしかないので、その……」

 

「……あぁ。レフィーヤさま、尊い」

 

「尊い!?」

 

「これ以上にわたくしの好感度を上げて、いったいどうなさるおつもりなのですか?レフィーヤさま……」

 

「何もするつもりないですよ!?大袈裟過ぎます!」

 

 

 レフィーヤのそんな献身に元々隠している口元を更に抑えて嬉しさに震えるグラナに、周りの者達も流石に苦笑う。けれどそれは彼等にとって、ここに来て初めて見たグラナの人間らしい部分であるのだから、まあ好意的に見られるところなのだろうが。

 

 

「それでは、この際ですからレフィーヤさまに色々と教えていただきましょうか」

 

「ふえっ!?で、でも資料はもう全部頭に入ってるって……!」

 

「もう忘れましたわ」

 

「そんなことあります!?」

 

「それにわたくし、レフィーヤさまのカッコいいところも見てみたいですし……いっそこうお呼びいたしましょうか、レフィーヤ先生?」

 

「先生はやめてください!?」

 

 

「「「………」」」

 

 

 ……それにしてはなんというか、想像していた以上にレフィーヤに対してははっちゃけた姿を見せる彼女。これにはアイズ達も素直に驚いていたし、リヴェリア達もなんとも言えない顔をしていた。

 

 基本的にフィンに対しては拒絶するし、その他の者達にも他人行儀な彼女。しかしレフィーヤに対してだけは冗談も言うし、効率さえ投げ捨てる。そんな彼女の様子は本当に友人と語らう年相応に見えるのだから不思議なもの。

 

 

「ね、ねえ」

 

「はい?どうかなさいましたか?」

 

「う……あ、あんた、レフィーヤに変なことしてないでしょうね」

 

「変なことと言いますと?」

 

「それは、まあ……なんか、騙したりとか……」

 

「ふふ、何をおっしゃるのやら。他者を騙すようなこと、わたくしは誰にだってしていますわ」

 

「ひ、開き直りやがった……」

 

「『変なことをしていないか』という件については、『今のところは』と回答しておきましょう。今後のことについて確約出来るほど真っ当に生きている自覚はありませんので」

 

「め、めんどくせぇ……」

 

 

 思い切って声をかけてみたティオネであるが、返って来た言葉はあまりに回りくどいもの。ティオネとしては大っ嫌いな類の回答であり、それ故にもうこうして会話することさえ面倒臭くなってしまう。

 分かっていたことではあったものの、言葉を用いた戦ではこちらに分は無いらしい。そもそも席に着こうとさえしたくなくなる。

 

 (……けど、まあ確かに、レフィーヤの言う通りなのかしら)

 

 彼女のことを『生き辛そう』と評したレフィーヤの言葉の意味が、なんとなく分かる気もする。喋りたくないのなら『話しかけるな』とでも言えばいいのに、彼女はわざわざこうして言葉を尽くして自然と距離を取る。

 少なくとも今の会話でティオネが傷付くようなことはなかったし、実際に生じたのは彼女に対する『めんどくさい女』という印象くらい。それが彼女の癖なのか、意識してそうしているのかは分からないが、仮に後者なのなら……

 

 

「……さて、一先ず12階層からだ」

 

「っ、何の話ですか?団長」

 

「さっき言ったろう?こうしてダンジョンに来た目的の1つさ」

 

「……ダンジョンの別の出入口」

 

「その通りだよ、アイズ。そして君は覚えているかい?」

 

「……うん、場所も覚えてる」

 

「よし、なら先ずはそこから探そう。グラナ、悪いけれどここからは君も積極的に意見を出して欲しい」

 

「はいはい、仰せのままに」

 

 

 ダンジョン12階層、ここにはインファントドラゴンが出現する。そして数年前にアイズはここで1柱の神と出会い、その神の神威によって出現した黒色の小竜と対峙することとなった。

 ……つまり、何処かからか神が入り込んだのだ。そしてアイズ曰く単独で現れたというその神、つまりはモンスターに襲われることなくアイズの目の前まで移動してきたということ。そうなると出入口は間違いなくこの付近にある。

 

 

「勇者様。仮に出入口があるとして、そこに何かしらの警報装置がある可能性を何処まで現実的に見ます?」

 

「……100あると考えていい。触れた瞬間とまでは言わなくとも、開けるか姿を現すのに何かしらの鍵が必要だろう。その鍵を間違えれば警報が発動する、というのが僕の予想だ」

 

「なるほど……」

 

「君はどう思う?意見を聞かせて欲しい」

 

「……扉は埋められていると考えますわ」

 

「……ダンジョンの修復機能か」

 

「ええ、基本的にダンジョン内の出入口は全て同様に壁の中にあるでしょう。必要になった際に壁面を破壊し、その姿を表す。そして不要になれば放置しておくだけで、自然とまた隠される」

 

「そして僕たち冒険者は、基本的に壁を完全に破壊することはしない。休憩の際にも壁を傷付けるだけで、その程度では万が一にも扉に気付かれることはない」

 

「となると、警報装置は光に反応する可能性があります。その方がよっぽど効率的ですもの」

 

「ああ、それは面倒だな……下手に壁を崩す訳にもいかない。せめて位置の特定だけはしておきたいが」

 

「しかし扉ですから、容易く壊れる物でもないでしょう」

 

「ああ、そこだけは幸いだ。どの辺りを叩く?」

 

「そこは運任せですわね、概ねの想定は出来ますが」

 

「それもそうか。地形からして絞れる条件も限られる」

 

 

「……」

 

 2人のそんな会話はアイズ達には聞こえない位置で行われているものだが、その様子を見て相変わらずティオネはフルフルと震えているし、唯一会話を聞いているリヴェリアはもう口を挟むこともしない。

 リヴェリアが3を考えるうちに、彼等2人は10どころか30くらいまで話をすっ飛ばしてしまうからだ。なんとか話を理解出来るように努めようとするのも時間の無駄だと、ここ数日でなんとなく分かっている。

 まあ取り敢えず方針は纏まったらしいので、リヴェリアはそれに粛々と従うだけ。余計なことは言うまい。

 

 

「そうなると……少し方針を変えようか。取り敢えず、出入口については僕とアイズとグラナで探そう。リヴェリア、悪いが君はレフィーヤ達を連れて先に18階層に行っていてくれないかい?」

 

「18階層?」

 

「7年前のあの時、君は半壊した18階層を見ている」

 

「!」

 

「その時の記憶や、その他の情報を含めてティオネ達と18階層を調べて欲しい。……そうだな、3時間後にリヴィラの町で集合しようか」

 

「……分かった。仮に見つけた場合はどうする?」

 

「確実に撤退してくれ、それらしいものを見つけた時点で撤退だ。それと2人1組で行動してくれ。ティオナとリヴェリア、ティオネとレフィーヤという組分けがいい」

 

「分かった、徹底させる」

 

 

 フィンのそんな指示に、グラナは少し不満げに目を細めるが、特に言葉を出すことはない。まあ彼女としてはレフィーヤを心配しているのだろうが、実際18階層で行うことは散策程度のものである。その程度で何かが見つかるとは思っていないし、2人1組で上級冒険者が動いていて何かが起きるとも思い難い。

 

 ……やはり凄い形相で睨んで来るティオネを無視しながら4人を見送ると、アイズを輪に入れてフィンとグラナは目を合わせる。

 

 なぜ向こう側にフィンかグラナを送らず、こちらに集中させたのか。それはこちらこそが本命であり、確実にこちらで見つけたいと思っていたからだ。そしてわざわざアイズだけを残した理由も、なんとなく勘付いている彼女に釘を刺しておくため。

 

 

「アイズ。僕達がダンジョンの別の出入口と呼んでいるものについて、概ねの予想は出来ているかい?」

 

「……闇派閥が、絡んでる?」

 

「そうだ。僕達は今、闇派閥の本拠地を探している」

 

「!!」

 

「君が昔出会ったという神は、ほぼ確実に闇派閥の主神の一柱だ。そしてその出入口こそ、今も彼等の拠点となっている……と、僕達は考えている」

 

「……グラナさんも?」

 

「そもそも、発案はわたくしですから」

 

「そう、なんだ……」

 

 

 アイズはかつて、闇派閥との戦いに幼いながらも参加していた。アルフィアとの戦闘にもアストレア・ファミリアとリヴェリア、ガレスと共に望んでいたし、信徒と呼ばれる彼等の恐ろしさも理解している。

 

 ……そんな彼等が、今も何かを企んでいる。であるならば、アイズも無関係ではいられない。成長した自分は、今度こそ本格的に彼等と対峙することになるのだから。幼いと言う理由で最後の切札として隠されていた昔とは違う。

 

 

「これから僕達は出入口を探すが、それは恐らくダンジョンの壁の中にある。そして探し方は単純、僕達の武器を壁の中に突き入れる、それだけだ」

 

「それだけ……?」

 

「口で言うほど容易いことではありません。条件として、壁を崩さない程度に武器を差し込むこと。そして扉は決して破壊しないこと。更に突き入れた感覚で扉の有無を判断すること。……特に扉は想定以上に深い場所にある可能性もあります。壁に武器を突き入れた感触で、その辺りの壁面状態の微細な変化を感じ取って頂く必要があります」

 

「……む、難しい」

 

「だが、それが出来るのは扱う武器種と経験的にも僕とアイズだけだ。そもそも武器を壁面に突き込むと言う行為が容易くはない。君にはグラナをサポートに付ける、困ったら彼女に意見を聞いてみてくれ」

 

「わ、分かった……」

 

「それと万が一の場合、敵に気付かれ、反撃を受ける可能性もあるでしょう。相手からすれば確実にわたくし達を地上に上げたくはないでしょうから。……故に、いつでも戦闘を行える心構えを。正直、薮からどんな化物が出てくるか分かったものではありませんので」

 

「レ、レフィーヤ達は大丈夫かな……?」

 

「……そこはわたくしも心配ですが、今回は出入口の位置を確かめるだけです。概ねの把握が出来たら、直ぐに18階層に参りましょう。今直ぐにどうこうする必要はありません」

 

「!……分かった、やろう」

 

 

 今も地上ではアキとベートを中心とした獣人のチームが地下水路を探索しており、その一方でガレスとロキが密かにフィンが指示した場所を掘り続けている。

 そして同時に18階層でリヴェリア達が目立つように散策しており、この12階層でフィン達が確実に扉を見つけるように動いている。

 

 

「アイズ、この12階層が僕達にとっての本命だ。君の過去の経験からほぼ確実に扉が存在し、かつ階層的にも利用実績がそれほど無いであろう場所。ここの扉を把握しておくだけでも、僕達にとって強いアドバンテージになる。……頼むよ」

 

「うん……!」

 

 

 こうして、闇派閥の拠点探しは淡々と続いて行く。地下水路の獣人部隊と18階層のリヴェリア達が目立つように動いている一方で、ガレスとフィン達が密かに敵の拠点を暴いていく。

 フィンとグラナが頭の中で描いていた想像は、そこらの神さえも凌駕する勢いで広がっていた。彼等2人の人間的な相性はともかくとして、思考に関する相性については、あまりにも噛み合い過ぎていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。