【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

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16.狂気

 遠征の準備というのは、なにも1週間前くらいから適当に行えばいい……というものでもない。

 なにせ長期間をダンジョン内で過ごすというだけでなく、多人数で突入するのだから。少人数の時のように戦闘を避けることは出来ないし、必要な生活物資も尋常ではない。それとは別に攻略用の武器や資材も必要で、毒などの対策として本来希少な物資を事前に大量に発注しておく必要がある。

 

 

「その点、今回は例のモンスター群……とりわけ溶解液への対策が必須でね」

 

「だから不壊属性の武器をこれだけ発注したんですの?大盤振る舞いもいいところですわね」

 

「ああ、そこについては魔剣も含めて本当に頭が痛い……地下通路攻略のためにもかなりの額が飛んでいるのに」

 

「それで?今直ぐ大金を稼いで来いと仰るのでしたら、相応の対価を頂きますが」

 

「それも魅力的な提案なんだけれど……」

 

 

 次の遠征に向けた計画書に目を走らせつつ、フィンは対面に座るグラナに別の資料を手渡す。受け取った資料にダメ出しを……したりはないし、わざわざ指摘するようなところも流石に見当たらない。そもそもそれ以前に……

 

 

「……なるほど、黒でしたか」

 

「ああ、確証はないが概ね断言しても良い。君の助言に従って良かったとロキが言っていたよ」

 

「そのロキ様は今どこに?」

 

「ギルドの創設神ウラノスは、彼と同郷の大神なんだとか」

 

「なるほど」

 

 

 グラナは今回の遠征にも参加せず、再びガネーシャ・ファミリアに身を寄せることになる。しかし彼女を遊ばせておく余裕はなく、その間にシャクティと共にとある任務を受けて欲しいというようなことが、そこには書かれていた。

 

 

「男神ディオニュソスについて、わたくしのやり方で調べて欲しいと。これはまた重大な役割を頂けたようで」

 

「完全に任せる訳じゃない。常にシャクティと行動をして貰うし、毎日ロキに報告書を提出して貰う。もちろん報告書はシャクティの確認も必要だ」

 

「……まあいいでしょう、タイミングとしてもベストかと。まさかロキ・ファミリア遠征中にこちらが行動を起こすとは相手も思わないでしょうから」

 

「出来るかい?相手は神だ。加えて何かしらの秘策を用意しているのは間違いない」

 

「……事前に5日ほど準備の時間を頂きたいですわね。それとシャクティさまとの打合せも。生半可な用意では神の目を掻い潜ることなど出来ません。神を相手にする際は、下界の未知を複数用意する。定石です」

 

「経験でもあるのかい?」

 

「最低限ですが」

 

「……そろそろ君の過去が気になってきたよ」

 

「聞いて面白い話など1つもないことだけはお伝えしますわ」

 

 

 そんな軽口を叩きながらも、既に彼女は資料に目を向けながら思考を回している。神について調べるというのは、彼女であってもそれほどに難しいことであるということだ。そしてだからこそ、やはり適任であったとフィンは確信する。

 これで『容易いことです』などと返されていたら、この話は無かったことにしていた。根回しを重視する彼女だからこそ出来る役割、正直フィンでさえも自信はない。それが容易いはずなどない。5日という準備期間も、むしろ短過ぎるくらいだ。言ったのが彼女でなければ、口を挟んでいただろう。

 

 

「神ディオニュソスは常に傍にLv.3の眷属であるフィルヴィス・シャリアを置いているが、彼女の経歴もなかなかに臭う」

 

白巫女(マイナデス)……別名"死妖精(バンシー)"とは、また物騒な名付けをされたようで」

 

「彼女は闇派閥との闘争、"27階層の悪夢"と呼ばれている戦闘の中で自分以外のパーティメンバーを全員失っている。それだけならまだしも、その後もパーティを組む度に自分以外のメンバーが如く死亡する……という不可解な現象が起きているみたいでね」

 

「全員?」

 

「ああ、全員」

 

「何度?」

 

「計4度」

 

「……ふふ、勇者様。ここは笑うところです?」

 

「周囲は呪いだと言っているようだ。彼女自身も憔悴していた」

 

「まあ、それだけ聞くと可哀想な少女ですわね。ではそれを前提として、次は男神ディオニュソスの方の話を見てみましょうか」

 

 

 グラナから助言された後、ロキはディオニュソスの同郷の神達から彼について話を聞きに行っていた。それこそ中にはロキの嫌っているヘスティアも居たが、最初に聞いたのが彼女だったからこそ、ロキもまた真剣にこれに取り組み始めた。

 

 

「天界では酷い癇癪持ち。二面性が目立ち、神々による殺し合いを画策した過去もある。神ゼウスや神ウラノスに当たり散らし、怒りの理由は殆どが些事」

 

「女神ヘスティア曰く、『怖かった』だそうだ」

 

「女神ヘスティアというのは?」

 

「不滅を司る女神、聖火の守り手。ロキが言うには、気は合わないが神望は確かなんだとか。それと天界でも稀少な"処女神"でもある。美の女神の魅了さえ跳ね除ける、"3大処女神"の筆頭らしいよ。信用の出来る善神と考えて良い」

 

「処女神?は??しかも天界でも最高位の???……あの、いえ、今度紹介していただいてもよろしいですか?」

 

「うん、それは普通に気持ち悪い」

 

 

 グラナの処女好きが暴走しかけたのを制して、フィンは話を進める。しかし彼女が自身の手元の紙に"女神ヘスティア"とメモっていたのは見てしまった。別の派閥の神故に止める気もないが、その豹変ぶりには流石のフィンであっても引くしかない。

 

 

「あーええと、まあそんな感じで、男神ディオニュソスは天界でも相当に問題児だった。ただ唯一擁護出来る要素を挙げるとすれば、ロキかな」

 

「?」

 

「どうもロキも天界にいた時は相当にヤンチャをしていたらしくてね、神ディオニュソスと同じく暇潰しに神同士の殺し合いを画策していたことがあったらしい。ただ彼女の場合は下界に来てから丸くなった。不変の神々でさえ、下界に来てから変化することはある」

 

「……いえ、わたくしはそうは思いませんけど」

 

「……?どういうことだい?」

 

「不変の神々が変化することなど、それこそ奇跡でも起きない限り不可能でしょう。なにせ"不変"とまで言われるのですから。ならばロキ様は変わったのではなく、元に戻ったというだけなのでは?」

 

「!……なるほど、そういう解釈もあるのか」

 

「神々にとって下界での活動は遊びのようなものです。そして暇に苦しむロキ様は、下界に来て丸くなったのではなく、満たされた。今の様子からしても、彼女の元々の本質は下界に来てからのものではないかと愚考します。他の神々より暇に対する耐性が無かった、故に暴れた。神の病気のようなものでしょうね。それだけでしょう」

 

「……そうなると、同じ"殺し合いを画策した"という行動でも捉え方が変わって来る。半ば暴走気味にそれを企んだロキと、些細なことで癇癪を起こしていた神ディオニュソスが企んだそれは、つまり"本質的な悪意"の差が大きい」

 

「ええ。……さて、ではここで不思議なのが、どうして他の神々は神ディオニュソスが"変わった"と思っているのかです。ロキ様でさえ、そう信じて疑わなかった。ならば他の全ての神がそうなのでしょう」

 

「……神々は、自分達の勘を信用している。だがそれ故に、ロキは神ディオニュソスの過去について見落としそうになった」

 

「もし勇者様やわたくしが神を相手にするとしたら、その"勘"が最も厄介であると結論付けるでしょうね」

 

「まさか、実際に変わっている?偽装?入れ替わり?いや、神々がそれに気付かない筈が……そうか、何らかの方法で自分を騙すことで周囲も騙しているのか。それなら僕達にも似たようなことは出来る」

 

「ええ、わたくしも同じ結論です」

 

「であれば、フィルヴィス・シャリアも……?」

 

 

 同じ手段を使っているのであれば、どちらも目の前の悲劇に対して本気で悲しんでいたことも不思議ではない。4度もの全滅、しかしだからこそ思うのだ。もし彼女が本当に善人なら。

 ……こいつはどうして、未だに壊れていないのかと。

 

 

「もちろん、これは神ディオニュソスが悪神であることを前提とした、多少強引な推論です。何かしらのきっかけで変化を起こした可能性も無くはありませんし、何なら彼の神としての本質をわたくし達が見誤っている可能性もあります」

 

「だが、君の言う通りだ。もし僕が本気で神と対峙しようとするのなら、何より自分の認識を騙すだろう。代役でも立てて、その代役を偽ることで敵の神を騙すようなやり方が最善だと考える」

 

「ふふ、ご経験が?」

 

「君にもあるんだろう?」

 

「さあ、どうでしょう」

 

「そうでもなければ、こんな推理がスラスラと出ては来ないよ」

 

 

 フィンが大きく広げた白紙の紙の上に、2人で好き勝手に文字や図形を刻んでいく。まるで示し合わせたかのように出来上がるその光景は、一種の芸術とさえ言えるかもしれない。少なくともこの場に他の人間がいれば、その様子に硬直さえしていただろう。

 

 

「神が自分自身を騙す時に使う手段、これについてはロキに任せるとして。ただ、それでもやはり確証は欲しい。情報も。神ディオニュソスとその眷属達について、当のファミリアはそれなりに規模がある」

 

「可能な限り調査はしましょう。しかし何より悟られないことを重視します」

 

「ああ、そうして欲しい。……正直、経歴に反してフィルヴィス・シャリアの力量も強過ぎるように感じる。まあ他所の眷属の経歴などそれほど分かりはしないが、18階層で君達が戦った相手を考えるとね。何かしら力を増す裏技のようなものがあってもおかしくない」

 

「あれは人間ではありませんでしたが」

 

「……ちなみに、どうしてそれが分かったのか聞いても良いかい?アイズはそんなこと言っていなかった」

 

「見れば分かりますわ」

 

「なら、フィルヴィス・シャリアが人でないかどうかについても?」

 

「分かるでしょうね、魔道具なんかで隠されていなければ。まあ恐らく隠蔽はされているでしょうけど」

 

「……分かった、とにかくこの件は君に任せよう。僕達も今回の遠征は油断出来るものではない、正直こちらに回していられる余裕がない」

 

 

 

 

「ああ、それと。……もしレフィーヤさまを生きて帰さなかったら、わたくしがオラリオを崩壊させますので」

 

 

 

「……ええと、それはどこまで本気かな?」

 

「これについては100本気です」

 

「ああ……そう……」

 

 

 もしかしなくとも1番のラスボスは目の前の彼女なのではないかとも思いながら、フィンは現実逃避するように目を逸らした。彼女をそのラスボスにしないために、フィンも必死に頭を回しているのだから。

 

 ただ……

 

 

 

 

「すまんフィン!今直ぐレフィーヤ達を追い掛けて……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……すまん、まずった」

 

 

「ふふ、ロキ様?レフィーヤさまがどうされたのでしょう?そんな必死な顔で追い掛けて欲しいなどと……一体レフィーヤ様が何処に出掛けられたのか、もちろん教えて頂けますわよね?」

 

 

「ひんっ」

 

 

 まさか言えまい。

 レフィーヤと件のフィルヴィス・シャリアが、(ベートと)共にアイズを追って27階層へ向かったなどと。しかもなんならフィンを後から送り込むという前提で、彼女を半ば囮のように利用してしまったなどと。

 

 ……そんなことは、口が裂けても。

 

 

 

「ふふ、フィン・ディムナ?先程わたくしがお話ししたこと、決して忘れないように。そして貴方がこれから何をすべきか、最早言うまでもないでしょう?」

 

 

「あ、ああ、分かっているよ……」

 

 

 

 見なくとも分かるほどにブチギレている彼女をロキに押し付けて、フィンは全速力で走った。そろそろ"勇者様"以外の呼び方をしてくれないかとも思っていたが、こういう呼び方はゴメンである。

 

 ……もちろんこの後、ロキは手酷く説教を受けた。もしレフィーヤが帰って来なかったら、彼女は本当にオラリオを消し飛ばすかもしれないと。ロキもまた身震いしたことは、後にフィンと共有することとなる。

 

 

 

 

**************************

 

 

 

「……という訳で、魔道具の当てと都市外に手紙を送る手段について教えていただきたいのですが」

 

『なるほど、そういうことなら丁度良い当てがある。ヘルメス・ファミリアに話を通しておこう』

 

「ヘルメス・ファミリア……」

 

 

 相変わらず片手でペンを動かしながら、通信用の魔道具"眼晶(オクルス)"越しにフェルズと言葉を交わす。その一方で少し目を逸らした先にあるもう1つの"眼晶(オクルス)"の方に映るのは、今現在レフィーヤ・ウィリディスが見ている光景。

 少し前に彼女にプレゼントした新しい鞄に、それはまるで装飾品の一部のように取り付けられている。正直少しハラハラするような光景がそこに映ってはいるが、とは言え今の自分は動けない。フィンを信じて、今は出来ることに専念する。

 

 

『神ヘルメスは定期的に都市外へ出ている上に、当人も神々の仲介を行う中立を保っている。恐らく君も彼に気に入られるだろう』

 

「女性の趣味が悪いのですね」

 

『……いや、別にそういう意味で言った訳ではないのだが』

 

「魔道具については?」

 

『ヘルメス・ファミリア団長"万能者(ペルセウス)"はオラリオにおいて代表的なアイテムメーカーだ。魔道具と言えば彼女だと認識されている。一応こちらから事前に話は通しておくが、時間がある時にでも"象神の杖"と共に訪ねてくれ。その際に手紙も預けてくれればいい』

 

「分かりました。まあ、そのヘルメス・ファミリアが壊滅しなければいいのですが」

 

『……すまない、彼等に依頼を出したのは私だ』

 

「別に構いませんわ、レフィーヤさまが無事に帰ってきてくれるのであれば」

 

『……そのもしもが恐ろしいのは、きっと君の周りの全員が思っていることなのだろうな』

 

 

 フェルズがそう思ってしまうほどに、今の彼女の機嫌は悪い。それ故にロキもこの部屋には近付かないだろうが、そんなこと関係なしにグラナはキレている。

 触らぬ神に祟りなしとは言うものの、今の彼女には神さえ触れることはない。もしこれでレフィーヤが帰って来なければ、本当に全てを破壊し尽くすだろう。闇派閥も、オラリオも、神でさえも、徹底的に。

 

 

「ところで、神ディオニュソスについて神ウラノスの印象を聞きたいのですが」

 

『ああ、それについては神ロキと話していたのを私も聞いていた。ウラノスの印象としても、彼の神は異常性を持っていたらしい。当時モンスター達から逃げ惑う子供達を見て、よく笑みを浮かべていたのだとか』

 

「なぜそんな神を信用してたのです?」

 

『少なくとも闇派閥との戦いにおいて、ディオニュソス・ファミリアは協力的だった。それこそ27階層の悪夢に巻き込まれるくらいには。その上、神ディオニュソスは下界に来て変わったと評されていた。民達からの神望も厚い』

 

「……フェルズ様から見たディオニュソス・ファミリアの印象はあります?」

 

『……そうだな。少なくとも、"白巫女"以外の団員達は纏まっている。Lv.2の副団長"葡萄の杯(クラーテル)"も癖のある人物ではあるが、優秀で他の団員達から信頼されている。悪事に加担しているような人物には見えない』

 

「そういえば、ディオニュソス・ファミリアの団員が怪物祭の前に3人ほど殺されていたそうですね。これについては何か?」

 

『すまない、分からない』

 

「では、フィルヴィス・シャリアの戦闘スタイルについては?」

 

『魔法と剣を使った、魔法剣士。攻撃魔法は当然あり、"蔦型のモンスターを倒すには十分だろう"』

 

「……であれば、ロキ様が聞いた"私の眷属より地下水路のモンスターの方が強かった“という言い訳は、まあ嘘でしょうね」

 

 

 水晶の先で、フィルヴィス・シャリアの放った魔法が蔦型のモンスター達を一掃する。それでも湧き出て来る数の方が多く、根本的な解決にはなっていないが……少なくとも今の一撃で、地下水路内に潜んでいた程度の数は吹き飛んだだろう。

 

『どうして地下水路内にディオニュソスとフィルヴィスの臭いが残っていたのか』というロキの質問に対する『見に行ったけれど勝てなくて逃げた』という回答は、これを持って否定される。

 

 

『仮に神ディオニュソスが闇派閥に加担しているとして、しかし他の団員達は何も知らないという可能性はあると思うか?』

 

「普通にあるのでは?その方が立ち回りやすいくらいでしょう。怪物祭の前に亡くなったという3人も、どうせ実際に殺したのはそれまでと同じようにフィルヴィス・シャリアでしょうね」

 

『……フィルヴィス・シャリアも、仲間想いで高潔なエルフというイメージだったが』

 

「自分でももう何をやってるのか、本当は分かっていないのかもしれません。人が壊れるには十分過ぎる経歴、その後をこの様な神の傍で過ごして来たのですから。何かしら砕けた物はあるでしょう」

 

『そこに加えての洗脳か……』

 

「とは言え、完全に壊れた訳でもない。でなければこの様に、レフィーヤさまを守るために必死になどならないでしょうし」

 

『……』

 

「高潔な人間ほど、一度折れてしまえば崩れるのは早いもの。しかしそれでも、苦しいほどに性根だけは変えられない。……ふふ。美しく高潔な同胞を前にして、かつての理想でも見てしまったのでしょうか?いっそ残酷な出会いでしたわね、あの方も」

 

 

 フィンが内部に突入し、一気に形勢が逆転する。

 レフィーヤを守るように奮戦していたヘルメス・ファミリアにも闘志が戻り、フィンの指示によって彼等の動きも安定し始める。

 

 ここまで来ればもう心配は無用だと、グラナは大きく息を吐いた。本当にハラハラとさせられたものだ。何度オラリオを崩壊させるためのシナリオを書きそうになったことか。なんなら序章まで書いてしまったメモを一度破り捨てているくらいなのだから、もう本当に笑えなかった。

 

 

『話は変わるが、グラナ・グレーデ。君はまだLv.3だが、そのままでいいのか?』

 

「?なんです、藪から棒に」

 

『いや、何をするにしても実力はあった方がいいだろう。特に今回のように危険な任務を受けるのであれば。しかし君はこの街に来てからまだ碌にダンジョンに潜っていない。精々がたった1度の1日きり』

 

「……ですがフェルズ様、あなたはそれを本気で望んでいます?」

 

『っ』

 

「勇者様にしても、フェルズ様にしても、本気でわたくしに強くなって欲しいなどと思ってはいないでしょう。遠征から遠ざけているのも、それ故でしょうし。……実際、先日の人外との戦いでLv.4になる程度の偉業は既に遂げているでしょうに、ロキ様は敢えて黙っている」

 

『……』

 

「力を付けるということは、出来ることを増やすということ。つまりそれは手札を増やすことに繋がってしまう。本来ならば、ダンジョンにさえ行かせたくない。それほどの認識をされていると自覚しております」

 

『……』

 

「それに結局、こうして結んだ契約も、レフィーヤさまを守れなければ全て破綻してしまう。あなたもそれは分かっているはず。……そして実際そうなれば、わたくしはオラリオも含め全てを一度描き換えるつもりです。怒りに任せて、八つ当たりとして」

 

『描き換える、か』

 

「人は変化を嫌うもの、反発は承知の上。しかしそうなった時、わたくしを容易く止める方法として、"暴力"という手段を残しておきたいというのもあなた方からすれば当然の話」

 

『……』

 

 

「……暴力程度で止められると思われている方が心外ですわ、フェルズさま」

 

 

『っ』

 

「そもそも、わたくしがどのような人間なのか。それが分かっていながら、皆さん少しばかり考えが足りていないのではなくて?」

 

『!!……この街に来る前から既に仕込みは終えていたということか』

 

「ふふ、御名答。それ故に、わたくしから敢えて申し上げるとするのなら、【レフィーヤ・ウィリディスを死ぬ気で守れ】という一点のみです」

 

『……』

 

「これだけは再度お約束いたします。彼女さえ無事であれば、フェルズ様にお伝えした通りの未来へ漕ぎ着けると」

 

『……そこまでして、"千の妖精"を守りたいのか』

 

「ええ、そこまでしてでも」

 

 

 彼女のその異常な執着に、長くを生きるフェルズでさえも冷汗を流す。流す汗もない気もするが、今こうして初めて彼女の本質を垣間見た気がした。

 

 ヴァレッタ・グレーデが可愛く見えてしまうほどに途方もない、グラナ・グレーデという人間の狂気を。

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