【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

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21.豊穣の女神

 幸いにも、ロキ・ファミリアが壊滅するようなことはなかった。1人も死人を出すことなく、なんとか全員が生きて帰ることが出来た。……帰ることは出来たが。

 

 

「お、おい?何か今日は妙に……機嫌が悪くないか?」

 

「ふふ、お気になさらず」

 

「……今日は、何をするつもりなんだ?」

 

「さあ、何をするのでしょうね」

 

「……」

 

 

 昨日あれほどの光景を見せられて、レフィーヤさえ死に掛けて、自分は何もすることが出来ず、生きて帰って来れたことさえも運の要素が強かった。

 ……それはまあ怒るだろう。機嫌が悪いのを隠せなくとも仕方がない。彼女にとって何より大切なのが彼女なのだから。フィンだって仕方のない部分はあったかもしれないが、そんなことは関係ないというところ。

 

 

「そ、そもそも、色々と宣言した割にはお前はあまり動いていないような気がするのだが……」

 

「まあ、基本的にはヘルメス様とヘルメス・ファミリアに投げる案件ばかりでしたし。新聞社による調査も順調、ガネーシャ・ファミリアを使って闇派閥の資金源もなるべく自然に潰しています。他は今手を出すと危険性の高い案件ばかり、根回しもシャクティ様には内緒で色々と進めておりますし」

 

「内緒にしていることを堂々と言うな!!何をしているんだお前は!!」

 

「まあとは言え、新聞社の調査に面白いものが引っ掛かりました。今日はこちらを攻めてみますか」

 

「そ、そうなのか……」

 

「ああ、それと……」

 

「?」

 

 

「今日は可能な限り気を引き締めて下さい。最悪、全部壊れます」

 

 

「!?」

 

 

「取り敢えず、今日のシャクティ様はオラリオを訪れた一国の姫を案内する役です。上手く立ち回って下さいな」

 

 

「……お前は本当に」

 

 

「ああ、それと、わたくしが一国の姫であることは本当のことですので。神に嘘だと思われてしまわないように、そこだけは認識しておいてくださいね」

 

 

「あ、ああ」

 

 

 

 

「………………はぁ!?!?」

 

 

 

 なんだか突然、爆弾がぶっ込まれた。

 

 

 

**************************

 

 

「女神デメテルの眷属と会えない?」

 

「会えないというより、数人ですが見掛けなくなったと。当の女神に話を聞きに行った方が居たそうなのですが、故郷に帰ったとはぐらかされたのだとか」

 

「その先は?」

 

「話はそこで終わりです。これだけなら偶然にも眷属が数人同時に居なくなったとも思えるのですが……」

 

「?」

 

「調査の途中に男神タケミカヅチから、とある証言がありまして」

 

「どんなものだ?」

 

「最近、女神デメテルの元気が無いのだとか」

 

「!」

 

「そして最後に。以前のガネーシャ・ファミリアで行われたパーティも含めて、女神デメテルと男神ディオニュソスは共に行動している所を度々目撃されています」

 

「……その情報は何処からだ?」

 

「これはロキ様からです。昨日、報告書を提出しに行った際に、男神ディオニュソスと関わりのあった神を思いつく限り出して頂きました。そもそもこの話は、ロキ様からその話を頂いて漸く繋がったものなので」

 

「……そういうことか」

 

 

 周囲から当然のように目を引くほどに豪奢なドレスを着て歩くグラナと、そんな彼女を守るように付き添うシャクティ。一見すればガネーシャ・ファミリアの団長が、他国から来た姫の護衛をしているようにしか見えまい。

 

 ……彼女曰く本当に姫なのだそうだが、そこはどうしても詳しくは話してくれなかった。こうなるともう何も教えてくれないのは彼女の常なのでシャクティは諦めているが、しかしそれでも当然気になっている。そんなシャクティの様子を彼女は楽しんでいる節もあったりするのだが。

 

 

「それで、どこまで調べる気だ?」

 

「一先ず、デメテル・ファミリアの管理する畑を見させていただければ十分です。その際に団員達を紹介して頂き、記憶した人数と照合いたします。足りていなければ、『管理している規模の割に団員が少ないのですね』と言いますので。シャクティ様は『確かに、以前よりなんとなく少ない気がしなくも……』とでも続けて下さいな。後はこちらで上手くやりますので」

 

「……お前は味方に付けると本当に頼もしいな」

 

「それはどうも」

 

 

 ロキ・ファミリアは今丁度50階層で休息を取っているところであり、今日中には帰還のために拠点をたつだろう。グラナ的にはここ数日以内に調査関係のものを概ね纏めたい。そしてある程度の成果も資料として纏めておきたい。

 その上で18階層までシャクティに頼み込んで迎えに行きたいと思ってもいるのだから、ガネーシャ・ファミリアの仕事まで手伝っている有様だ。こう見えて意外と懸命に働いているのだ。そうでなくとも考えなければならないことが山ほどあるというのに。

 

 

 

「私のファミリアの見学……?ふふ、珍しいのね。あまり見ても面白いものはないわよ?」

 

「そのようなことはありませんわ。……実はわたくしの国はまだ小さく貧しいのです。せめて民達にオラリオの進んだ農業について報告出来ればと思っておりまして」

 

「まあ、そうなの……いいわ、私で良ければ力にならせて」

 

「ありがとうございます、デメテル様」

 

 

 

 

 (……え!?今のも嘘ではないのか!?!?)

 

 

 シャクティがあまりの驚愕に表情を固めている一方で、グラナとデメテルは和やかな雰囲気のままに畑を見回り始める。仮にも相手は神、しかも神ディオニュソスと繋がっている可能性さえあるというのに。よくもまあここまで堂々と話すことができるものだと、シャクティは感心どころの話ではない。

 

 

「なるほど……となると、作物を植える間隔を見直す必要があるということですか」

 

「そうなの。この子達は小さいけれど、狭い所が苦手でね。寒さには強いけど、あまり量には期待出来ない。……だからもしかしたら、別の作物を育てると良いかもしれないわ。私のお勧めは……」

 

「勉強になりますわ」

 

 

 

(……まさか本当に農業を学びに来ているのではないだろうな)

 

 

 なんやかんやで、既に1時間ほどシャクティは畑の中に立たされている。まるでカカシのように。その間にも彼女は女神デメテルに農業についての質問をしていて、女神デメテルもまたそれに快く答えていた。

 

 ……今のところ、本当に怪しいところはない。女神デメテルはいつも通りに見えるし、団員達もせっせと働いている。それでも、強いて違和感を挙げるとするのなら……

 

 

「デメテル様、団員の方々は少しお疲れのご様子でしょうか」

 

「っ……え、ええ、そうね。この時期はオラリオの外にある畑にも手伝いに行かなければならないから」

 

「管理している規模の割に団員が少ないのですね。オラリオ最大手の農業系ファミリアですし、もっと多いものかと思っていましたわ」

 

 

 (っ、来た……!!)

 

 

 事前に打ち合わせした通りの言葉。

 シャクティもなるべく普段通りを装いながら、なんとなく団員が少ない気も確かに感じつつ、言葉に出す。決して嘘を言ってはいけない。……まあ、指定された言葉が曖昧過ぎて嘘かどうか判別さえ付かないだろうが。それでも。

 

 

「確かに、以前よりなんとなく少ない気がしなくも……」

 

「そうなのです?シャクティさま」

 

「断言は出来ないが……」

 

 

「……」

 

 

「デメテルさま?」

 

 

「っ………いえ、なんでもないわ。ここ最近、眷属達が立て続けに辞めてしまってね。本当はその皺寄せが来てしまっているの」

 

「それはまた……何か困りごとです?」

 

「ううん、本当に偶然。事故みたいなもの……だから、あまり気にしないで頂戴。確かに眷属達が帰ってしまって寂しくはあるけど、仕方のないことだもの。作業もなんとか間に合わせるし、勿論ガネーシャ・ファミリアに迷惑をかけたりなんかもしないわ」

 

「そうでしたか。それは何よりです」

 

 

 

 (?……今のは)

 

 

 

「ふっ!」

 

「っ!?痛ぁっ!?」

 

 

 何故か突然、バシーンッとシャクティの顔面にグラナの掌が打ち付けられる。

 それはもう加減も何もないほどの手酷いもの。なんならシャクティは普通に頭の中に考えていた何もかもが吹き飛んでしまったし、どころかそんな酷いことをしておいて嘲笑うようにクスクスと笑っている目の前の女に対して、本気の怒りを抱いてしまった。

 

 ……いや、本当に酷過ぎて、さしものデメテルでさえ混乱している。

 

 

「ふふ、ごめんなさいシャクティさま。なんだかその呆けたツラに無性にイライラしてしまいまして」

 

「だからと言っていきなり顔面を叩く奴があるか!!暴君かお前は!!」

 

「まあ人聞きの悪い。……とは言え、吸収出来るものは粗方吸収出来ましたし。そろそろ帰りましょうか。忘れないうちにここで得た知識を国にも送りたいですし」

 

 

「あ、あら、もう帰ってしまうの?」

 

「これでも忙しい身でして。実はこれからギルドにも行かなければならないのです。こうしてここに来たのも、殆どわたくしの独断でして」

 

「そうだったの……」

 

「今日は本当に勉強になりましたわ、ありがとうございました」

 

「ううん、力になれたら良かったわ。……またいつでも来て頂戴ね」

 

「ええ、またいずれ。……ほら、さっさと行きますわよ駄杖。いつまで鼻っ面を赤くさせているのです」

 

「痛っ!?だからその掌で叩くのをやめろ!一級冒険者でもそれは痛い!!」

 

「何を大袈裟な……白々しい」

 

「お前そろそろ本当に怒るからな!?」

 

 

 やんややんやと騒ぎ立てつつ、グラナとシャクティは畑を後にする。そんな2人の様子をデメテルと眷属達は呆然と見送ったものの、彼等はその直後に困ったような顔をして苦笑いした。

 

 他国から来た暴君のようなお姫様、そんな彼女にガネーシャ・ファミリアの団長が振り回されている。そう思ったのだろう。……まあ実際そうなので否定出来ないのだが。

 

 

**************************

 

 

 

「……それで?なんだったんだ、さっきの行動は」

 

「シャクティさまの表情にイラッとしたのは本当ですとも」

 

「お前……」

 

「せっかくデメテル様が助けを求めていたというのに、それを無為にするような真似をしかけたのですから。イラつくのも当然でしょう」

 

「!?」

 

 

 デメテル・ファミリアの畑から出て、事前に予約していたギルドの会議室の中に入ると、フェルズと通じている魔道具を鞄から取り出して、グラナは語り始める。

 

 女神デメテルについて、そしてその眷属達について。実際にこうして会って、話して、その末に感じて分かった事を、フェルズとウラノスにも聞かせるように、淡々と語っていく。

 

 

「先ず、女神デメテルは白です。どころか脅されている側でしょう」

 

「……何故それが分かる」

 

「以前に最大賭博場を破綻させた時、行動を共にしたヒューマンの女性を覚えていますか?」

 

「ん?ああ、あの酒場の……」

 

「彼女は女神デメテルの眷属なのです」

 

「何?」

 

 

 それはシャクティも知らなかった。

 シャクティから見ても酒場の彼女の立ち姿は強者のそれだと分かるほどで、それがまさか女神デメテルの眷属だったなどと。……しかしその事実を知っていれば、色々と見方は変わってくる。

 

 

「新聞社の調査は、豊穣の女主人も対象にしていたので。事前にわたくしから顔を出してお願いしにも行きました。……シャクティさまの居ない間に」

 

「おい、お前勝手に動き過ぎだろう」

 

「まあそれはさておき」

 

「さておくな」

 

「その際に彼女達とも少しお話をしたのですが、そこで聞いた女神デメテルの印象と、新聞社の調査、そして今日の会話。どの情報を重ねても、彼女は善神です。少なくとも善良な子供達を殺すような真似は出来ない」

 

「……だが、洗脳の可能性もあるのだろう?二面性を持っている可能性もある」

 

「女神デメテルが洗脳されているのであればお手上げですが、彼女が自己洗脳を施している可能性はほぼないでしょう」

 

「何故そう思う?」

 

「酒場のルノア様の元職業をご存知ですか?」

 

「……いや、知らないが」

 

「賞金首ハンターです」

 

「!!」

 

「もちろん女神デメテルはそれを知っています。知っている上で、彼女は一度もルノア様を利用せず愛を持って接し、ルノア様も最大限の信頼を置いている。……仮に自己洗脳で自身を善神に見せかけていても、裏世界で生きて来た彼女を完全に騙すのは至難の業です。そして結果彼女はルノア様を一度も利用することはなかった。今でさえも」

 

「……それだけでは根拠が足りないのではないか?」

 

「あとは"処女神"ヘスティア様からの評価が非常に好評でした」

 

「おい!!全部それのせいだろう!!」

 

「処女神様がそう仰っているのですから、女神デメテルは白。間違いありませんわ」

 

「お前ほんとふざけるなよ!!」

 

 

 それまでの真面目な会話が、"処女神"の一言によって崩れ去る。彼女はまだヘスティアには会ったことが無いが、しかし既に好感度はMAXに近かった。そしてそんな彼女がデメテルを友人とも言っているのだから、疑う要素など何処にもない。

 

 

「まあ、最大賭博場を含め、全ての賭博場を闇派閥から断ちましたから。概ね次の資金源の対象として、金はあるのに戦力のないデメテル・ファミリアを選んだのでしょう。最近の妙な物価の向上も、吊り上げるように指示されたのでは?」

 

「……確かに、果物類を中心に妙に高くなっていたな。不作が原因だと聞いていたが、今日見た限りでは」

 

「ある意味では、デメテル・ファミリアが巻き込まれたのはわたくし達のせいですわね」

 

「……」

 

「さて、シャクティさまの複雑そうな表情も見られたところで話を元に戻しますが」

 

「このっ、クソ女……」

 

 

 こんなことを聞いたら、ルノアはブチ切れるだろう。

 しかし今はまだその時ではない。この状況はまだまだ利用出来る。敵を徹底的に追い詰めるためにも、グラナはまだ引き延ばす。

 

 

「恐らく、今日居た眷属の中に、もしくは何らかの手段で、女神デメテルは監視されています」

 

「!」

 

「まあこれは元より想定していたことではありましたが、それ故にシャクティ様の顔面を殴りました。……あの様なあからさまな『今の言葉はもしかして』という顔をしては、敵にバレてしまうでしょう」

 

「うっ……それは……」

 

「あの場では彼女の言葉を聞きつつ、その違和感に気付かなかったことにして、サラリと受け流すのが正解です。……まあ、おかげで相手は『女神デメテルが上手く誤魔化した』とでも思ってくれるのでは?そうでなければ眷属がまた1人死にますね」

 

「っ………死………?」

 

「?もしかしてシャクティさま、居なくなった眷属達が単に拉致されただけだとでも思っていました?」

 

「それ、は……」

 

「見せしめに殺す、逆らえないように脅す、よくある手段でしょう。それを躊躇なくするのが闇派閥ではありませんの?生きていたら儲け物ですが、それも人質としての数人だけでしょうね。死人が出ているのは間違いありませんわ」

 

「………」

 

 

 そう、闇派閥というのはそういう人間の集まりだ。

 そういう神々の集まりだ。

 

 ならば彼女の言う通り、女神デメテルがあそこまで憔悴するほどには、周囲の視線を気にするほどには、眷属が殺されてしまっていると考えた方がいい。

 そして何なら、眷属達を守るために女神デメテルも片棒を担がされている可能性だってあるだろう。彼女が善神であるほどに、それは辛いことだ。眷属達を守っても、守らなくても、彼女の心は壊れてしまう。

 

 

「どうにか……ならないのか……!!」

 

「まあぶっちゃけ、神ディオニュソスは明確な証拠が無くとも既に真っ黒なので、ぶっ殺してしまってもいいのですが……」

 

「?」

 

「……ちょっと敵の戦力が大きそうなんですよね。最悪、ガネーシャ・ファミリア総出で襲い掛かっても返り討ちにされる可能性があります」

 

「なっ!?」

 

「どころか、敵が秘めている最終兵器を持ち出される可能性もありまして。やるなら一撃で仕留めたいのですが、それをすれば隣に居る彼女がなりふり構わなくなってしまいそうで……」

 

 

 神を殺せるのは神だけ。

 これは別にそういうルールがある訳ではなく、これは神が神威を解放した時、下界の子供達では殺せなくなるどころか、動けなくなり逆に殺されてしまうという可能性もあるからだ。

 

 そして隣に立つフィルヴィス・シャリアも実力がわからない。額面通りLv.3ならいいが、彼女まで人外であった時、その上限は未知数だ。

 アイズの証言からすれば、彼等はモンスターと同じ様に魔石を喰らって力を増すというのだから。普通の冒険者以上に成長は早いはず。そして彼女の活動時期を考えても、その時間はあまりにも長くて……

 

 

「一先ず、調査はここまで。あとは勇者様が地上に戻って来るまでに情報を纏めることにします」

 

「いいのか……?」

 

「ええ、あまり動いて目立ちたくないのも本音ですので。グラナ・アリスフィアという人間の存在を敵が真に警戒するのは、全てが終わった後のことでいいのです。……18階層で顔を合わせてしまった人外も、そろそろわたくしのことを忘れてくれているといいのですが」

 

 

「………」

 

 

 策略を張り巡らせる神は多い。

 

 冒険者達に罠を張る闇派閥幹部も多く居た。

 

 だがシャクティは改めて、この女が敵でなかったことに安堵の感情を抱いている。

 

 なにせ神々や闇派閥幹部達は自己主張が激しく、張り巡らせた罠が成功した時、どころか成功する前から何らかの形で我慢が出来ず顔を出して来るからだ。それ故に敵の正体が分かりやすく、何らかの対抗策も考え付く。

 

 ……だがこの女は、それをしない。可能な限り自分の正体を隠し、その時になっても、終わった時でさえ、自分の顔を出すことはないだろう。

 

 

「頼むから今後も味方でいてくれ、グラナ」

 

 

「……それなら、しっかりとレフィーヤ様を守れる環境を作って下さいな。わたくしが求めているのは最初から最後までそれ1つだと、何度も言っているでしょうに」

 

 

 彼女はそう呆れる様にしてため息を吐いた。

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