【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

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30.入院

「うわぁぁあん!無事で良かったですぅ!」

 

「ほ、本当に、どうなるかと……」

 

 

「……あの、流石に心配し過ぎでは?シャクティさまも」

 

「左半身ぷらぷらな人間が何を言う、いいから背負われていろ」

 

「左半身ぷらぷら……」

 

 

 立って歩くことは出来る、けれど走るのはキツそう、左腕を使うなど言語道断。そんな状態でもダンジョン内を歩いて帰ろうとするのだから、それはもう『左半身ぷらぷら』などと言われて無理矢理におぶられるだろう。

 そしてそんな彼女の姿を見てしまえば、今朝の今まで心配していたレフィーヤもベルも多少過剰な反応をしてしまうというもの。グラナからしてみればレフィーヤはともかく、何故ベルまでこれほど心配していたのか分からないし、なんならレフィーヤについても『別にそんな泣かなくても……』などと思ってしまうのだから人の心が分からない。

 

 

「うう、自分が情けないです……普段のグラナさんを考えれば自分が一番危険な役をしようとするのは分かり切っていたことなのに……」

 

「いえ、まあ、我儘の提案者が1番のリスクを背負うのは当然のことですし……」

 

「こういうところです……」

 

「こういうところだな」

 

「……なんでしょう、何故わたくしはこうも呆れられているのでしょうか」

 

「と、とにかく無事で良かったです!フィンさん達に追い付いた時、本当に酷い状態だったので……」

 

「……というか。貴方はもう少し怒ってもいいのですよ、ベル・クラネル様。こんなことに巻き込まれたのですし」

 

「い、いえ、僕達の方も確かに手強かったですけど、2人で倒せるくらいでしたし。それに良い経験にもなりましたから。……そもそも、こうなった原因は僕にあると言いますか」

 

「……このエロウサギ」

 

「ぅぐ」

 

「?」

 

「……まあ、とは言えこちらの事情に巻き込んだのは事実。レフィーヤ様のことも守っていただきましたし、報酬の1つも無いというのは失礼でしょう」

 

「そ、そんな!本当に報酬なんて……!」

 

「正直こういった形での償いはしたくないのですが……迷惑をかけてしまったからには仕方ありません」

 

「うん……?」

 

 

 

「もう一度だけなら、揉んでしまっても構いませんよ……?」

 

 

 

「いやしませんから!!」

 

「というか駄目です!!」

 

 

 

「おや、それがお望みだったのではないのですか?」

 

「望んでないです!望んでないですから!!だからレフィーヤさんもそんな目で僕のことを見ないでください!!」

 

「次は削ぎます……」

 

「何を!?」

 

「本当に何をしていたんだお前達は……」

 

 

 冗談なのか本気なのか分からないが、そんな馬鹿なことを話しながらも彼女は微笑む。まあ彼女からしてみればベル・クラネルは好意的な少年であり、もしレフィーヤと出会っていなければ、守る対象は彼になっていたかもしれない逸材である。

 レフィーヤに手を出せば殺すことは変わらなくとも、そうでなければ愛でる対象。優先順位はなかなか高い。

 

 

「そうですわね……では、1つ助言を」

 

「助言、ですか……?」

 

「ええ、わたくしと貴方が共通して持っているスキルについて」

 

「!」

 

「アレを使う時には、可能な限り離脱手段を用意すること。一か八かの賭けで使ってはなりません」

 

「離脱手段……」

 

「このスキルは、形勢を逆転させるだけの力があります。つまり失敗しても次がある、貴方が生きているだけで味方にその希望を与えられるのです」

 

「……!」

 

「本当にどうしようもない状況でもなければ、必ず離脱手段を用意すること。これを徹底して下さいな。このスキルは単に戦闘を優位に進めるためのものではない、覚えておくと良い手札になりますわ」

 

「手札……あ、ありがとうございます!覚えておきます!」

 

「ええ、どうか頑張って」

 

 

 ベル達はロキ・ファミリアがゴライアスを倒した後に、ヘルメス達と共に地上へと戻る。グラナはロキ・ファミリアの第二陣に加わりながら地上へ戻ることになっているので、ここでお別れである。

 今後も彼と会うことがあるのかどうかは分からないが、まあ会わなくて済むのなら会わない方がいいだろう。どうせこれから数多の面倒ごとに巻き込まれる。そんなものに関わらなくて済むのなら、その方がいい。

 

 

「……あの、グラナさん」

 

「はい?」

 

「なんか、ベル・クラネルにだけ甘くないですか……?」

 

「そうでしょうか?」

 

「そ、そうです!私だってもっとグラナさんに……」

 

「……あ、もしかして胸の方の話です?」

 

「いや違いますよ!?……ち、違くもないこともないかもしれないような気もしないでもないですけど」

 

「……シャクティさま、レフィーヤさまの仰りたいこと分かります?」

 

「知らん、私を巻き込むな」

 

「ううん……?」

 

 

 

 

**************************

 

 

 

「全治1ヶ月です」

 

 

「……は?」

 

 

 ベッドの横に仁王立ちする聖女。

 

 なんと信じられないことに、このオラリオには聖女と呼ばれる本物の人物が居る。

 ディアンケヒト・ファミリア団長のアミッド・テアサナーレというこの女は、治療魔法に関して言えばLv.6の都市最強魔導士であるリヴェリアでさえも足元にも及ばない。行使する魔法は正に万能薬、しかもそれを広範囲の複数を対象に出来るというのだから、正に存在そのものが下界の未知であり奇跡と言っても過言ではない。

 

 

「そんな貴方様がこのような怪我の治療に1ヶ月も必要だと……?」

 

「治療が必要なのは腕の方ではありません。頭の方です」

 

「いえあの、失礼にも程がありません?」

 

 

 しかも罵倒までされた。

 頭の治療が必要だと、流石に酷すぎる。

 

 

「……失礼、説明の仕方が悪かったようです。治療が必要なのは貴女の脳と心の方です。それでも一先ずの応急処置ですが」

 

「?」

 

「脳疲労という言葉に聞き覚えはありますでしょうか」

 

「まあ、多少は。ですがあれは単なる疲労ですし、直接的に疾患に起因するものなのです?」

 

「いえ、そのような実例は殆どありません。ただしこれは大半の場合、精神に対して悪影響を与えます。精神病に繋がると言っていいでしょう」

 

「はあ……」

 

「ですが、これは流石に話が別です」

 

 

 そうしてアミッドは起き上がっていたグラナをベッドの上に倒し、額に冷却剤を貼る。その上で目隠しをして、布団までかけてしまう。まだまだ世界は明るい時間帯だというのに。

 

 

「人の体内の中で最も発熱しやすいのは脳だという話もあります。しかし脳は外気に熱を放出できないため、冷ますためには血管を冷やすしかありません」

 

「冷たっ……」

 

「端的に言えば、貴女の脳は常に熱が限界まで高まってしまっている状態なのです。より言い方を変えるのであれば、1日のうちに脳を冷やす時間が限りなく少ない。足りていない。神の恩恵が無ければ重大な疾患を患っていたことでしょう」

 

「……疲れた際などに休めたりはしていますが」

 

「具体的にはどのように?」

 

「……新聞を読みながら熱いお茶を飲んで」

 

「更に熱を与えてどうするのですか!!」

 

「うっ……か、考えたこともありませんでしたわ……」

 

「そもそも!普通なら脳が満足に処理出来ないほどの膨大な情報を取り入れ続けているという状況がおかしいのです!最低でも3日に1度は休息日を作ってください!今の貴女は毎日が絶体絶命の状況に居るような異常な頭の使い方をしているんです!」

 

「しかし、それは流石に休み過ぎでは……」

 

「貴女の体を万全に保つには必要なのです!軽い発熱と頭痛は普段から感じていたことでしょう!いつか本当に血管が切れますよ!!その末に半身不随になることも覚悟しているのですね!?」

 

「……う」

 

 

 脇と首と太腿にも布を巻いた冷却剤を当てられて、もういっそ寒いくらいに冷やされる。何の拷問なのかと言いたくなるくらいだが、しかしこうも脅されると流石のグラナも黙るしかない。

 

 半身不随はグラナでも笑えない。特に今そんなことが起きてしまうと、全部が台無しになってしまう。多少時間を無駄にすることになったとしても、ここは大人しく従っておくべきだろう。……それに、凡その原因は分かっているのだし。

 

 

「睡眠時間も短過ぎます。睡眠薬を使用して無理矢理に眠らせますので。身体に影響のないギリギリまで毎日睡眠を取っていただきます。……疲れが取れた頃には、今よりずっと晴れやかに世界が見られることでしょう。慢性的な睡眠不足を解決し、健康的な食生活を叩き込みます。もちろん健康に必要な知識もです」

 

「……あの、飲みたいお茶があるのですが。出来れば手配していただけると」

 

「ええ存じております。あの如何にも健康に悪い成分たっぷりの、原産国でさえ賭けの罰に使用されるような巫山戯た飲料物のことでしょう。もちろん禁止です」

 

「え……」

 

「あのような常人が舐めるだけでのたうち回るほどにエグい味のする飲料物を、最高濃度で!しかも熱湯と変わらない温度で飲むことなど許される筈がないでしょう!!"猛者"でさえ吐きますよ!最早、劇物です!禁止です!これはロキ・ファミリアにもガネーシャ・ファミリアにも既に通達済みですからね!耐異常のアビリティがあるにせよ限度というものがあります!!」

 

「そ、そんな……」

 

 

 

 

 ……そんな禁止宣告を受けて、割と本気で落ち込んでいる彼女の珍しい姿。まるで不貞寝でもするかのように今は布団の中で丸まっている。

 

 何をするでもなく、本当に目隠しをしたままに引きこもって。なんならもう気持ち悪くなるくらい長時間眠ってしまって。怪我の方も丁寧に治したいからと魔法で完治ではなく、自然治癒を中心とした療法にされてしまっている。

 

 

 

「そうやって拗ねていると年相応に見えるな」

 

「本当にね」

 

「……放っておいて下さいな」

 

「か、可愛い……拗ねてるグラナさん可愛過ぎます……!」

 

「……」

 

 

 今日ばかりはレフィーヤのそんな言葉も複雑な気分で、整えていない顔を見られるのが嫌なのか、口元を隠しながら起き上がる彼女。明らかに元気のないその様子にレフィーヤはむしろ興奮を隠し切れないが、彼女も彼女でその反応はおかしい。

 

 

「……わたくしのお茶は」

 

「あ〜、一応まだ捨ててはいないよ?アミッドに相談してみたけれど、適切な濃さで、適切な温度で飲む分には問題ないそうだ」

 

「……何が美味しいんです?それ」

 

「いや、むしろあれの何処が美味しいのか君以外の誰も分からない。試しに普通に飲もうとしてみたけれど、ガレスでさえ吹き出したよ」

 

「あの頭のおかしい味がいいんです。頭がスッキリするので」

 

「ああ……鈍った頭をアレで無理矢理叩き起こしていたのか。それを繰り返すうちに普通の味では物足りなくなったと」

 

「飲みたい……」

 

「……中毒症状はないんだな?フィン」

 

「中毒症状の対極にあるような品の筈だよ、シャクティ」

 

 

 なんとなく思い返すのは、彼女が使用した杯から妙に色味が落ちないというような苦情があったこと。どれだけ日々を全力で生きていたのかと、もう感心さえする。

 化粧をしていないからか目隠しまでし始めて、それでも不機嫌そうな気配を隠そうともしない。相当に怒っているのだろう。まあ自業自得でもあるのだが。

 

 

「そうだね……仕方ない、レフィーヤ。悪いけど彼女のために何か飲み物を買ってきてあげてくれないか?センスは君に任せるよ」

 

「え、ええ!?今の話の後でですか!?」

 

「だからこそさ。この際だ、変な物を飲み続けたせいで壊れてしまった彼女の味覚も正常に治してしまおう。彼女がハマってしまうほどに美味しいものを見つけてあげてくれ」

 

「!……重要な役割ですね」

 

「ああ、頼めるかい?」

 

「はい!任せて下さい!行ってきます!!」

 

 

 フィンからの指示を受けて、レフィーヤはグッと背を伸ばして立ち上がる。これは重要な仕事だ、彼女の新しい好みを作らなければならないのだから。つまり彼女の好きを作れる。レフィーヤはそれを自覚して、責任を重く感じた。……実際、そこまで重みはないのだけれど。意識の問題である。少なくとも彼女の中ではその任務は、非常に重要な物だった。

 

 

「……それで?レフィーヤ様を引き離してまで、一体何を?」

 

「うん、実はいくつか報告しておきたいことがあってね」

 

「はぁ」

 

「まず一つ目、フィルヴィス・シャリアが生きている」

 

「…………………はぁ?」

 

 

 思わず目隠しを取る。

 

 

「あの時、君が倒したのは髪型と髪色からしても間違いなくフィルヴィス・シャリアだった。だが彼女は今も神ディオニュソスと共に動いているし、なんならロキに会いに来た」

 

「……確かに魔石は破壊した筈ですが」

 

「ああ、そこは疑っていない。ただ君が倒した仮面の怪人は、他の怪人と比べても戦闘力が低かった。何かしらの仕込みがあったと考えるのが妥当だろう」

 

「……当人の様子は?」

 

「あまり優れた様子ではなかったかな。口数も普段以上に少なかったし、なんなら多少の刺々しささえあった。……こちらが神ディオニュソスの正体に気付いていることは、勘付かれていない筈だ。なにせ彼と話しているロキには、この件について意図的に情報を遮断しているからね」

 

「!……私の作成し手渡した報告書を、そもそもロキ様は読んでいなかったということです?」

 

「ああ、ロキが意図的にそうしていた。詳しくも聞いて来なかったろう?だから今のロキは実のところ、神ディオニュソスが白なのか黒なのかも曖昧だ。だが今はそれでいい」

 

「……また悪巧みを考えたものです」

 

「考えたのはロキだけどね」

 

 

 フィンはそう言いつつ、あまり良くはないがベッドの上に持ってきた大紙を広げる。それは彼女に習ってフィンが作ったものだ。これでもかと言うほどに書き込まれたそれは、まだ碌に情報が纏まってすらいない。本当にただ書き込むだけの代物。

 

 

「敵拠点の襲撃は約1月後だ」

 

「……正気です?それだけの猶予があるとでも?」

 

「というより、必要な道具を揃えるために最低でもそれだけの時間が必要だ。……壁面破砕機に魔道具、解呪薬に解毒薬。他にも協力者の確保なんかを敵に気付かれないように秘密裏に進めるためには、どうやってもそれくらいの時間がかかる。これでもかなり急いでいる方だ」

 

「……それならまあ、仕方ありませんか」

 

「君も1月は休んで万全の状態を整えて欲しい。どのような形になるにせよ、君無しでの攻略はあり得ないからね」

 

「……」

 

「ん?何だい?」

 

 

 

「……レフィーヤ様のことを考えるのであれば、フィルヴィス・シャリアは今のうちに処分しておくべきです」

 

 

 

「……」

 

「敵を警戒させるリスクはあれど、自由にさせていればこちらの情報が漏れる可能性も高い。天秤に掛ければ、早急に殺害する方が良いかと」

 

「……ああ、その通りだ」

 

 

 フィルヴィス・シャリアは複数居る。それは同じ人間が何人も居るのか、何らかの魔法で分身を作り出しているのか、その辺りの想像はいくらでも出来る。

 

 しかし究極的には、それはどうでもいい。重要なのは側近の彼女を打ち倒し、本命の神を送還すること。その時点でどんな形であろうとフィルヴィス・シャリアの恩恵は失われ、想定外の動きに敵は混乱する。

 

 

「だが、彼女の処刑は突入日に行う予定だ」

 

「……そっちを取りますか」

 

「ああ。確かに君の言う通り放っておくと何かと厄介だが、それよりも敵の混乱を誘えるというメリットの方が大きい。……君の水晶のおかげで最短距離で目的地まで辿り着く地図は出来ている。とにかく敵が無防備な状態で最深部まで突っ込みたい。神タナトスさえ確保出来てしまえば、あとはこっちのものだ」

 

「……レフィーヤ様の気持ちは、必要ないと」

 

「そこは君に任せる」

 

「!」

 

「フィルヴィス・シャリアの暗殺についても、君に任せたい。彼女達の関係にどう終止符を打つのかは、君の判断に委ねるよ」

 

「……また酷なことを仰るのですね」

 

「我ながら最低だとは思うけれど、君ならその辺りを上手くやってくれると信じた。レフィーヤと上手く話して進めて欲しい。……そのために、レフィーヤについては君に委ねたんだ」

 

「なるほど……」

 

 

 つまり、フィルヴィス・シャリアが裏切り者であり、自分は彼女を殺害するつもりであるということさえ、レフィーヤには打ち明けなければならない。それもレフィーヤの反応でフィルヴィス・シャリアに気付かれてもいけない。これは非常に面倒な話だ。

 ……そうでなくとも、レフィーヤとの関係が拗れる可能性も高い。普通なら進んでやりたがるものではないだろう。だがそれも彼女なら出来るとフィンは踏んでいた。

 そしてきっと、おそらく、それは成される。

 

 

「……ところで此度の作戦、フレイヤ・ファミリアは参加するのですか?」

 

「ああ……そこもギルドを通じて願ってはいるが、あまり芳しくない。今頃ロキが直接話に行っていると思うけど、快く飲んでくれるとは思えない。これまでの経験からしても、彼等に動く理由がないからね」

 

「自分達さえも危うい状況なのに?」

 

「彼等は僕達だけで解決出来ると思っているし、なんなら自分達が危ういという危機感すら持っていない。神フレイヤを説得しなければ動かないというのに、その神フレイヤが酷く我儘だ。動かすのは中々に難しい」

 

「……分かりやすく調子に乗っておられるのですねぇ」

 

「まあ、彼等は自分達の力は神フレイヤのためにあるものという考え方をしている。他者を守るために積極的に使うということはそうそうない」

 

「神フレイヤ……わたくしなら速攻で引っ叩いているでしょうね」

 

「ああ、うん、だからこの件については関わらないで欲しい」

 

「必要なら"説得"しますが」

 

「やめてくれ」

 

 

 確実に余計な揉め事を起こすであろうから、この件については正攻法で行きたいとフィンは考えている。実際7年前の抗争の際には協力してくれていたのだ。こちらがそれほどに切羽詰まっているということを知れば、協力は得られる筈だ。

 

 

「まあもしどうしても駄目だと言うのなら、一応ですが手はあります」

 

「手……?」

 

「女神フレイヤに遊戯を仕掛けて勝てば良いのです」

 

「……本気かい?神に遊戯での勝負を仕掛けるなんて」

 

「本気も本気、大本気です。神にも効くイカサマなど何通りか用意しておくのが指揮官としての義務でしょう」

 

「いや、そんな義務はないかな」

 

「まあわたくしもあまり目立ちたくはありませんので、今回はお任せします」

 

「ああ、是非そうしてほしい」

 

 

 まあ、最悪の場合は本当にフィンも赴いて、彼女と共に説得するしかないと考えてはいる。彼女にはそれだけの価値があり、彼女の存在を知らせるだけで多少は心も揺らぐだろうと。……まあそれで本当に言うことを聞いてくれるのかについて確信というものはないが。やれることはやるしかない。

 

 

「……そういえば、これは興味本位なのだけれど」

 

「まだ何かありますの?」

 

「君は僕の夢についてどう思う?」

 

「は?なんです、突然」

 

「僕は君の願いについては正直あまり理解出来ないのだけれど」

 

「まあ理解して貰うつもりもありませんし」

 

「君の方は僕の夢をどう思っているのか、純粋に気になってね」

 

「はぁ、なんでしたっけ?小児ハーレムを作ることでした?」

 

「違うよ?」

 

 

 ちょっとキレそうになるが抑えた。

 

 

「小人族の栄光、次代のフィアナになることさ」

 

「へぇ」

 

「興味なさそうだね。で、どう思う?」

 

「いいんじゃないです?」

 

「適当だなぁ」

 

「まあ他人の夢などどうでもいいことですし、否定も肯定もするつもりはありません」

 

「……そうか」

 

「……ただまあ、何かしら意見が欲しそうな貴方に、敢えて嫌々にでも言葉を絞るとするのなら」

 

「うん」

 

 

「求めた物の8割程度の大きさに収まるのが世の常ですわ」

 

 

「!」

 

 

「夢は大きくなどと言いますけれど、まあそういうことでしょう。何かになりたいと思っている内には、絶対にそれにはなれないと個人的には思っております」

 

「……君も、実際にはもっと大きなものを求めているということかい?」

 

「それはそうでしょう、どうしても叶えたい願いになってしまったのですから。その10倍壮大なものを目指していれば、その過程で自然と本来の目的は達成されている筈です」

 

「なるほどね……君、本当に17歳かい?」

 

「実は42歳と言えば満足されます?」

 

「今度ロキの前で言ってみてくれ、結果が知りたい」

 

「殴りますわよ?」

 

 

 

 アキの時のようにはいかなかった。

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