【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

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ここから時系列がややこしくなるので、ご注意下さい。


31.開戦の選択

「お待たせいたしました、フィルヴィスさま」

 

「!……貴女が」

 

「お初にお目にかかります。グラナ・アリスフィアと名乗っている者でございます。どうぞ本日はよろしくお願いいたしますわ」

 

「……ああ、よろしく頼む」

 

 

 2人の邂逅は、そんな少しピリ付いた雰囲気の中で始まった。

 

 表通り、人もそれなりに居て、明るい雰囲気の小さなお店。指定された席で待っていたフィルヴィスの元に、時間ピッタリに現れた桃髪の女。

 雰囲気は落ち着いていて、容姿も美しく、顔は優しげであるが、何処か妙な風格がある。何もかもが事前にレフィーヤから聞いていた通りの彼女。その割にロキ・ファミリアにおいて殆ど名声という名声の聞こえてこない、噂さえも真実味のない奇妙な女。

 

 

「急なお呼び立てをしてしまい申し訳ありませんでした。それもお一人で来て欲しいなどと図々しく。……しかし何分、今回お話しさせていただきたいことは勇者様にも聞かれたくないことでして」

 

「……フィン・ディムナにも?」

 

「レフィーヤ様のことについてですから」

 

「!!」

 

 

 目の前の女は、レフィーヤを酷く可愛がっている。そんなことは今日までレフィーヤの口から何度も聞いた。賢く優秀な彼女は、何故かレフィーヤに一目惚れをし、その日からずっと良くしてくれていると。

 

 

「レフィーヤ様から聞きましたわ。フィルヴィス様もまたレフィーヤ様のことを大切に思っているのだとか」

 

「そ、そんなことをレフィーヤが言ったのか!?」

 

「憧れの方だそうです。自分も貴女のようにカッコいい魔法戦士になりたいと、最近は剣士の真似事までし始めてしまって。ダンジョンに行ってばかりで少し寂しく思っているところですの」

 

「あいつは……あまり恥ずかしいことを言いふらさないで欲しいのだが」

 

「わたくしも体調さえ崩していなければ、一緒にダンジョンに潜っていたのですが……残念です」

 

「……何処か悪いのか?」

 

「ええ、最近ようやく治療院から退院したところでして。お見苦しいところがあれば申し訳ありません。実のところ、もう少し早く貴女とはお話をしたかったのですが。流石に治療院にお呼び出しする訳にはいかなかったものですから」

 

「そう、なのか……」

 

 

 そう言われてみると何となく、彼女からは儚さのようなものが見て取れる。それに彼女が暫く治療院に入院していたということが事実であると、フィルヴィスもまた知っていたりもした。

 どのような病なのかまでは流石に知らなくとも、それだけの期間をあの場所で過ごしていたということは、"戦場の聖女"でさえ容易く治すことが出来なかった困難な病であると分かる。

 

 ……となると、色々と想像はつくというところ。このタイミングで呼び出された。彼女もまたレフィーヤを大切に思っている。それはつまり。

 

 

「……寿命が、近いのか?」

 

「……」

 

 

 目を閉じ、彼女は静かに頷く。

 少し唇を噛み、けれどフィルヴィスはそれ以上に発せる言葉を持たない。彼女の噂話を聞かない理由も、もしかしたらその辺りなのかもしれない。

 

 

「もとより、そのためにこの街へ来ました。そこでレフィーヤ様と出会ってしまい、色々と前提が崩れてしまったのですが。宝石の如く美しい彼女と出会えたことは、わたくしにとって正しく奇跡とも言えるものでした」

 

「……貴女の気持ちはわかる。レフィーヤは気高く美しい、同胞の中にもあれほどの輝きを持つものは居ないだろう。私も、可能であればもっと早くに彼女と出会いたかったと思っている」

 

「遅過ぎたと?」

 

「え?ああ、いや……まあ、そうかもしれないな。私は穢れている、こんな風に穢れてしまう前に出会いたかった。何度も何度もそう思っている」

 

「……そうですか」

 

 

 漂う少しの血の匂い。

 それを辿ってみれば、彼女の右腕。先程から少しも動いておらず、包帯でグルグルに巻かれているだけでなく、固定されている。……つまりは、そういうことなのだろう。

 もうあの腕は機能していない。そうして少しずつ彼女の身体は蝕まれている。少しずつ少しずつ、彼女の肉体は死に侵されている。

 

 

「正直、羨ましく思います」

 

「羨ましい……?私がか?」

 

「ええ。……だって、貴女にはまだ選択出来る余地がある」

 

「っ」

 

「それがたとえどれほど小さな余地であったとしても、貴女にはまだ未来がある。何もかもを捨てることも出来るし、何もかもを拾うことも出来る」

 

「……そんな、ことは」

 

「それになにより、レフィーヤ様と共に居続けるという選択を取ることも出来る」

 

「……!!」

 

「それは、わたくしには出来ない選択です」

 

 

 ……言いたいことは分かった。

 そして彼女が自分に求めていること、そして願いたいことも、もうなんとなく想像が付く。そしてこうして今日彼女が自分を呼び出した理由も。彼女が自分に託したい何かも。嫌でも、分かる。

 

 

「レフィーヤ様は、この世界に必要な存在です。ですがまだ未熟な彼女を、誰かが守る必要がある。何れ世界の闇を切り開く可能性を持つ彼女は、それでも今はまだ力が足りない」

 

「……」

 

「何としてでも……彼女だけは、守りたい」

 

「……」

 

「わたくしはどうなってもいいのです、彼女さえ守れれば。わたくしは彼女を選びましたから。こんな身体に残っている残りの全てを彼女に捧げることを誓いました」

 

「そう、か……」

 

「ですが、そこまでしても……わたくしが彼女にしてあげられることは、あまりにも少ない」

 

「……」

 

「彼女を本当の意味で守るためには、あまりにも、時間が足りない」

 

「……」

 

 

 ギチギチと音を立てるほどに握られる彼女の手は、それほどの悔しさを表しているのだろう。

 どれほど必死にやっても、どれほど頭を回しても、間に合わない、届かない、そのことに気付いてしまった。それ故の絶望だ。自分の全てを捧げても、望みが叶うことはない。彼女はそれを知ってしまった。その絶望が、フィルヴィスにも嫌というほどに伝わって来る。

 

 

「……もう、わたくしが貴女にお願いしたいこともわかるでしょう?」

 

「……無理だ。穢れた私にはそんなことは出来ない」

 

「何故、貴女もレフィーヤ様のことを大切に思っているでしょうに」

 

「ああ、思っている。……だが、それでも無理なんだ。穢れた私があいつの隣に居続けるなど、そんなことは出来ない」

 

「……その末にレフィーヤ様が無惨に殺されることになったとしても、貴女は構わないと言うのですね?」

 

「っ」

 

「貴女が側に居続けることで、レフィーヤ様はその死の運命から逃れられるかもしれない。であれば、果たしてどちらが酷いことなのでしょう?穢れた貴女がレフィーヤ様の側に居ることと、彼女を見捨てて苦痛を与えて死なせてしまうこと。……本当に酷い決断は、どちらです?」

 

「〜〜っ、お前には分からないだろう!!私はもう、どうしようもないほどに穢れているんだ!!本当なら、あいつの手を握ることさえも許されない!!」

 

「それを許さないのは貴女であって、レフィーヤさまは許しているでしょう?」

 

「……あいつは、まだ私のことを何も知らない。私のことを知ればあいつだって」

 

「本当に?」

 

「っ」

 

「もしそうなった時、本当にレフィーヤ様は貴女のことを拒絶するのでしょうか?想像してみて下さい」

 

「……」

 

「貴女のことを許していないのは、貴女だけです。穢れているのなら払えばいい。汚してしまったのなら拭えばいい。償いが必要なら……」

 

「何も知らない癖に簡単に言うな!!」

 

「ですが、わたくしならやります。それでもう一度レフィーヤさまの隣を歩けるのなら」

 

「っ……」

 

「どれほど頭を下げてでも、どれほど償いをしてでも、どれほど苦しい思いをしてでも、あの方の隣を歩くための努力をします。……その努力が、したい」

 

「……」

 

 

 周囲の客から目線が飛んでくるが、互いにそんなことを気にしていられる余裕などない。互いに互いを見ながら、同じ思いを抱いている筈なのに、意見をぶつけ合う。

 その願いを叶えたい、彼女を守りたい、彼女を死なせたくない。それはフィルヴィスとて同じ。

 

 

「もう、貴女にしか頼めないのです」

 

「……何故だ、何故よりにもよって私なんだ!!もっと他に居るじゃないか!!どうしてこんな事を私なんかに頼むんだ!」

 

「貴女は……昔のわたくしと同じ。自死を望む目をしている」

 

「なっ」

 

「その命、捨てるくらいなら使って欲しいのです。他でもない彼女のために。レフィーヤ・ウィリディスを幸福にするために」

 

「……お前は、こんな私にまだ、苦しめと言うのか?」

 

「そうです」

 

「私にまだ……こんな苦しみと向き合えと言うのか?」

 

「はい」

 

「レフィーヤのためとは言え、こんな私に、まだのうのうと生き続けろと言うのか!!」

 

「どのような貴女であったとしても、それでもレフィーヤ様を守ってくださるのなら」

 

「……っ」

 

 

 フィルヴィスは右手で自分の顔を覆い隠す。けれど指の隙間から見える彼女の表情は酷く歪んだままだ。まるで壊れたかのように目は見開き、けれど口元は笑っている。見る人によれば、それは恐ろしい表情だろう。しかし女は表情を変えない。

 相変わらず真剣な顔で、フィルヴィスを見つめる。

 

 

「……貴女もまた、美しいのだな」

 

「いいえ、そんなことはありません。もしそう見えるのであれば、それはきっと最後の輝きでしょう」

 

「酷い話だ……死にたい人間が死ねず、生きたい人間が死ぬ。何故私のような者が薄汚く生き続けているのに、貴女のような人間が……」

 

「……フィルヴィス様。実はわたくし、正当防衛以外でも何人もの人を殺しております。この罪が拭われることは永久にないでしょう」

 

「そうか……だがそれは私も同じだ。敵どころか何人もの仲間さえ死なせた。私が許されることは永久にない」

 

「敵味方区別無く述べるのであれば、約5000人は殺しております」

 

「……は?」

 

 

 その女は、そんなことを真顔で言った。

 

 

「大罪人である殺帝ヴァレッタ・グレーデが可愛く見えるほどの数の人間を殺しております。わたくしこそレフィーヤ様の隣に居るべきではない大罪人です」

 

「なっ……何故、そんなことが」

 

「戦争です」

 

「!」

 

「わたくしは、故郷の国で部隊を指揮する立場に居たことがあります。そこで何人もの味方に死を命じ、その何倍もの敵の命を奪いました。……自らの手でも妻と子を持つ兵士達の首を切り落とし、少年兵として参加していた子供達の命さえも奪いました」

 

「……」

 

「正当防衛、と言いたいでしょう?しかし時には反撃のための侵略行為さえ行いました。それは流石に正当防衛とは言えません。どれほど言い繕おうとも、わたくしの身体は血と憎悪に塗れている」

 

「それ、は……」

 

 

「それでも、わたくしはレフィーヤ様を守りたいのです」

 

 

「ぅ……」

 

 

「図々しくも、白々しくも、わたくしは彼女の命だけは守りたい。彼女が今のまま輝き続ける世界で居て欲しい。そう願ったのです」

 

 

「……何故だ。何故そんな風に思えるんだ」

 

 

「命を奪った者達への謝罪を捨て、故郷への未練と忠誠を捨て、恥知らずの自分という全てを飲み込んででも、彼女を守りたいと思ったから」

 

 

「……!」

 

 

「彼女の輝きを守りたいと、そう思ったから」

 

 

 だから、そう。

 

 本当にフィルヴィスに願いたいこと。

 

 それは単にレフィーヤを守ることではないし、レフィーヤの側に居続けることではない。そんな半端な願いではない。そんな容易い願いではない。

 

 

 

「貴女の持つ謝罪も、感謝も、自分自身さえも捨てて……レフィーヤ様のことを、守っていただけないでしょうか」

 

「っ!!」

 

 

 

 命を奪った仲間達への謝罪、自身を最初に受け入れてくれた神への感謝と忠誠、そしてそんな自分自身に対する複雑な感情と苦痛、そして自死の願い。

 それさえも捨てて、何もかもを捨てて、レフィーヤのために生きて欲しい。今日までの自分を捨てて、他者に軽蔑されるような恥知らずになってでも、彼女の側に居て欲しい。そして守って欲しい。

 

 それこそが求められている願い。

 

 

「何もかも、捨てて……」

 

 

 ……容易い決断ではない。

 

 あまりに重く、重過ぎる願いだ。

 

 何の言い訳も許されない、エルフとしての矜持など今度こそ消えて無くなる。気高さなどというものが完全に消え失せ、自分を守っていた自責の念さえも捨てることになる。罪人以下の獣に成り下がる決断。自分を受け入れてくれた唯一の存在を裏切るという、今以上に許されない存在になって欲しいという、恥知らずという言葉さえも生温い、失落の願い。

 

 

「レフィーヤさまのために、貴女にもそれをして欲しいと……わたくしは今日、ここに願いに来たのです」

 

 

 昨日までの自分を裏切る。

 愛した主神を裏切る。

 殺した仲間達を裏切る。

 救えなかった仲間達を裏切る。

 

 今日まで自身の中に積み重なった、良いことも悪いことも、出会った全てを捨てる。罪から目を逸らし、恨みからも目を逸らし、まるで何事もなかったかのように、生き続ける。

 

 

「レフィーヤさまを守るために、苦しんで欲しい」

 

 

「ぅっ……」

 

 

 それは想像するだけで吐きそうになった。最初に受け入れてくれた存在から鞍替えする、それだけでも受け入れられないほど自分の中の血が拒絶を示す。

 しかしそれ以上に、何事もなかったかのように今後も彼女の隣に笑って居続けるということに、吐き気が収まらない。今日までも白々しく笑顔を見せていた自分が今更何を言っているのかという都合の良い話ではあるけれど、想像しただけで駄目だった。

 

 

「フィルヴィスさま」

 

「……」

 

「レフィーヤ様の隣に、彼女の支えに、なっていただけないでしょうか」

 

 

 彼女の笑顔を思い出す。

 その場の勢いだったかもしれない、本当の自分を見れば拒絶されるかもしれない、そんなことは分かっている。それでも彼女は自分のことを美しいと言ってくれたし、この手を取ってくれた。友人として頼ってくれたし、憧れてもくれた。

 

 もし彼女がこの場に居たら、きっと望むだろう。今後もどんな形であっても、自分が側に居ることを。最初は驚くかもしれないが、きっと受け入れてくれる。彼女はそういう人間だ。そういう美しい人間だ。

 

 だが彼女から逃げるのであれば今しかない。彼女という少女をこれ以上汚さないためにも、自分は身を引くべきだ。曖昧にしていたそれを解消するのは、今この瞬間以外にありえない。半端になってしまっていた自分を正す機会は、まさにこの瞬間だ。

 

 故に、自分は……

 

 

 

 

 

 

 

 

「無理、だ……」

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

「私は、レフィーヤを……………………………選べない」

 

 

 

 

 

「……そう、ですか」

 

 

 

 

 

 それが答え。

 

 

 

「私は、捨てられない。レフィーヤを選ぶために、ディオニュソスを切り捨てられない。あの方は途方に暮れていた私を、何もかもに絶望していた私を受け入れてくれた。誰よりも最初に、それでも美しいと言ってくれた」

 

 

「……それが貴女の選択なら、否定するつもりはありません。順番というものの大切さも知っています。レフィーヤ様ともっと早く出会っていれば、その一言に尽きると」

 

 

「ああ……」

 

 

「それでもなお……私は貴女に彼女を選んで欲しかった。貴女のことを話す時の彼女の楽しそうな笑みがあれば、きっとこれから先なにも怖くないと、そう思えたから」

 

 

「……すま、ない」

 

 

「……残念です」

 

 

 グラナは立ち上がる。

 注文した2人分の代金を机の上に置き、少し静まり返った店内に目配せをすると、今も唇を噛みながら俯いているフィルヴィスを見下ろす。

 

 

「勇者様の話ですと、神ディオニュソスは今、ロキ・ファミリアの庭で今後の相談をしているそうです。そこまで少し歩きましょうか」

 

「……ああ」

 

「それと……せめて最後に、もう一度だけレフィーヤ様に会っていただけませんか?もちろん貴女が気を変えてくれることを願ってもいますが……なにより、彼女自身のために。苦しい思いをすることも分かりますが、それを飲み込んで」

 

「……分かった」

 

 

 静まり返った店内を出ると、互いに隣り合って道を歩きながら、グラナは懐から一枚の封筒を取り出す。それをフィルヴィスに手渡すと、彼女は不思議そうな顔をしながらも、その中から紙を取り出した。

 ……ここからロキ・ファミリアの拠点まではそう遠くない。読み終わる頃には着くだろう。

 

 

「レフィーヤ様の日記から1枚、切り抜いて来てしまいました」

 

「っ……なぜ、こんなものを」

 

「貴女に見せる理由、今更説明する必要もないでしょう?」

 

「……酷い人間だな、お前は」

 

「ええ、自分でもそう思っています」

 

 

 たった1枚の日記。

 けれどそれは他愛もないフィルヴィスとレフィーヤの1日について綴ったものであり、しかしだからこそ、レフィーヤからの自然なフィルヴィスに対する想いが書かれている。

 

 ……自然と涙が溢れてくる。

 

 自分はここまで彼女に思われていたのかと、図々しくも嬉しさを感じてしまう。自分はどうしても彼女を選ぶことは出来ないというのに。彼女はこんなにも自分との日々を楽しんでいてくれたし、自分もまた彼女との日々は楽しかった。それは間違いない。

 

 感情が滅茶苦茶になる。

 

 思考が上手く纏まらない。

 

 同じ文章を何度も何度も読んでいるのに、何度も何度も同じ感情が自分を襲う。いろいろな未来を想像してしまう。もし彼女の言う通りに自分の全てを捨ててレフィーヤと生きることを選んだら、自分はどんな風に生きるのだろうかと。身勝手にも、そんな楽しい毎日を想像してしまう。

 

 

 

「フィルヴィス!!」

 

 

「っ」

 

 

 

 ディオニュソスの声が聞こえる。

 

 気付けばフィルヴィスとグラナはロキ・ファミリア拠点の目の前まで来ていた。そしてそんな2人を迎えるように、神ディオニュソスと神ロキがこちらに歩いて来る。

 

 

 

「フィルヴィスさん!グラナさん!」

 

 

「…………レフィー、ヤ」

 

 

 

 そして、そんな2人を追い抜くようにして駆けてくる山吹色の髪をした彼女。何処となく心配そうな表情をした彼女……何故だろう?

 一瞬そう考えはしたものの、直ぐにディオニュソスも戸惑った顔をしていることに気付き、自分が泣いているということを自覚した。

 

 

 

「フィルヴィス様……もう一度、最後に問います。どうしても、レフィーヤ様を選んではいただけませんか?」

 

 

 隣に立ち、同じようにレフィーヤを待つ彼女の言葉を受ける。

 

 

 一瞬の戸惑い。

 

 息が止まる。

 

 喉が詰まる。

 

 唇が震える。

 

 視界の中にある2人の姿。

 

 大切な人達の姿。

 

 どちらを選ぶのか、そんな選択。

 

 そんな、酷い選択。

 

 そして、何より酷いのは自分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レフィーヤ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すまない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 短剣が胸を突き刺す。

 

 

 前と、後ろ。

 

 

 2本の刃が。

 

 

 

 

 魔石を、捉えた。

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