【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

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また戻って。


30-3.知らない貴女

 思えば、最初からずっとそうだった。

 

 

「……そうですか。やはり神フレイヤは協力を拒みましたか」

 

「拒むというより、"積極的ではない"かな。アレン・フローメルを筆頭に、そもそも彼女の眷属達自体が僕達との共闘を拒んでいる。その上で彼女もまたこの件にそれほど関心がない。……つまり、協力する理由がない」

 

「オラリオが壊滅するという可能性は伝えたのですよね?ロキ様」

 

「まあ、色々と棘は刺しといたんやけどな。協力するにしても、こっちから何かしら対価出さんとアカン感じや。ファミリア総出の協力なんてのは現状かなり難しい」

 

「………チッ」

 

「「っ」」

 

 

 神という存在に対する態度。

 ロキやヘスティアのような善神に対してはそれほどではなくとも、邪神であったり我儘な神であったり、それこそ彼女が唯一敬う処女神ヘスティアにさえも、彼女がミスを犯した時には強く不満を露わにした。

 

 アレス王国との紛争、小国ゴルゼの周辺大国との政争、その最中に起きたであろう多くの神々による企み。それが彼女の神に対する態度に表れていることは分かるし、そもそも彼女はあのヴァレッタ・グレーデの実子。神に対する忠誠心などある筈もない。

 故にこれもまた当然の態度なのだと、そう思い込んでいた。

 

 

「分かりました、そういうことであればギルドに回して強制任務という形にします。遠征義務数回分を餌にすれば少しは態度も軟化するでしょう」

 

「い、いつの間に君はギルドとそこまで親密になったのかな……」

 

「ただクソムカつくことに変わりはありませんので、ドサクサに紛れて徴収する税率をぶち上げておきます。それと彼等が利用する生産職系ファミリアに掛け合い、今回の件の不協力を理由にフレイヤ・ファミリア幹部陣への物資の融通を一時的に完全停止させましょう。この程度は対価の範疇でしょう。……いえ、これでもまだ物足りませんね。噂程度の範疇で冤罪でも着せてやりましょうか。取り敢えず『アレン・フローメルが猫人の少女に暴行を加えていた』という根も葉もない噂を民間に流します。噂の出所はフレイヤ・ファミリア内ということにして、ファミリア内の不和もついでに煽りながら……」

 

「待て待て待て待て待て!!待たんかい!!何したらそないにポンポン嫌がらせが思い付くねん!!」

 

「しかもまた微妙に痛そうなところを……」

 

「ああ、ついでに重要度の高い神々の都市外への外出について、何かエゲツない法案でも作ってやりましょうか。許可無しでの外出については、金銭以外の罰則を設けることにもしましょう。眷属と共に強制的な農耕地での労働なんかが良いかもしれませんわね、女神デメテルも喜ぶでしょうし」

 

「女神デメテル……」

 

「完全にフレイヤ集中狙いやんけ……」

 

「……というような話を、勇者様から猛者様に事前に伝えておいて下さいません?ギルドからの強制任務に従い、素直に勇者様の指揮下に入るのであれば、これらの話は無かったことにすると」

 

「ああ、そう使うんだね……」

 

「それとこれは今の話とは全く関係のない与太話ですが、最近は畑の肥料に家畜の糞を使うこともあるそうですわ」

 

「あーあ……」

 

「オッタルがまた苦い顔をするのが目に浮かぶ」

 

「後々のファミリア間の関係のためにも、全てわたくしの言葉にして伝えて構いませんよ」

 

「そういう配慮が出来るのは流石だね」

 

 

 神ディオニュソスを調べた際に新聞社に作らせた神々の交友関係を調査した資料、彼女は既にそれを読み込んでいる。それ故に数多の知識が頭の中にあり、神デメテルと神フレイヤが仲の良い友人同士であったことも知っている。

 女神フレイヤは一見すれば我儘で、動かすのは難しく、ファミリアの大きさと眷属の強さからしても触れ辛い存在だ。それでも生きている以上、繋がりがある以上、彼女もまた何かに縛られている。……そういう縛り方をすることに、容赦はない。

 

 

「しかし……女神フレイヤとその眷属達には困ったものですわね。そろそろロキ・ファミリアに協力して頂かないと困るのですが」

 

「まあ、それはなぁ……」

 

「やはり一度痛い目を見せるべきでしょうか」

 

「やめてくれ」

 

「どうもかつて女神フレイヤは女神ヘラに叩き潰されて、無理矢理オラリオに身を置く羽目になったそうですわね」

 

「……グラナ?」

 

「この際ですし、2度目をやってしまったらどうです?」

 

「誰がやるか!!」

 

「グラナ、流石にそれは笑えないよ」

 

「とは言え、このままでは詰みますわよ?仮に今回闇派閥の企みを退けたとしても」

 

「「……」」

 

「何処かで腹を括る必要はある。そこから目を背けるのもまた怠慢でしょう。これについて向き合うことこそ、ロキ・ファミリアの責任では?」

 

「……耳の痛い話だね」

 

「闇派閥との戦いの後にでも現実的に考えてみて下さいな。戦争遊戯を仕掛けるのなら喜んで協力いたしますし。……今の戦力なら圧勝出来るでしょう」

 

「まあ、そらな……フィンとグラナが居って勝てん方がおかしいわ」

 

「神を調子に乗らせておくのは悪手ですわ。出る杭を打つように、調子に乗り始めた神は早めに叩いて絶望させるべきです。……どうせ碌なことにならないのですから」

 

 

 それを聞いた時、フィンは思ってしまった。

 どうして彼女が神ディオニュソスを調べるだけで、ここまで回りくどい手段を取ったのか。それは確かに敵に存在さえも察されたくないというところもあったのだろうが、何よりその神々の情報を欲しがっていたのは彼女の方だったのではないかと。

 

 

「まあうち等かて分かっとる。今のうち等より遥かに強かったゼウスとヘラのファミリアは、互いに手を組んどったのに黒龍に負けた。対立なんかしとる暇はない」

 

「ダンジョンの階層更新1つにしても、手に入る素材が増えるという利点もあります。深くまで潜れば潜るほどに、得られる物も多くなる……決戦の日が来た時に、自陣にどれほどの装備を整えられるか。今の対立状況はそれに大きく直結するでしょう」

 

「……君の言う通り、そろそろ腹を括る必要はあるだろうね。なるべく大事にしたくない上に、リスクの大きさを考えて穏便な方法を模索していたけれど」

 

「下手に力を持ち調子に乗った者達ほど面倒なものはありません。言って聞く様な相手ではありませんし、力づくで精神へし折るのが一番早いでしょう。……というより、こんなことに時間と労力を割くことの方が面倒臭いので、さっさと殴り潰しません?」

 

「過激なのか、本当に面倒臭いだけなのか……」

 

「アホらしいのには同感やけどな」

 

 

 ……そんな会話を交わした事を覚えている。

 

 彼女は女神フレイヤに対して良い印象は持っていないし、ファミリアそのものを一度ぶん殴った方がいいとも言った。確かに彼女にしてみれば説得のし易さというものは重要で、基本的にフレイヤという我儘女神の気分でしか彼女のファミリアは動かない。こんな非常事態でも我儘を言っている様な女神を見れば、情報集めに奮闘していた彼女としては一発くらい殴りたくなるのも仕方がない。

 

 ただ、きっとこの件で重要なのはそこではない。

 

 重要なのは彼女が基本的に神という存在を信用しておらず、神について好き嫌いが大きいということ。そして必要であればフレイヤ・ファミリアにも喧嘩を売るし、きっとそれは自分のバックにロキ・ファミリアが居なくとも関係がない。必要ならロキ・ファミリアにさえ牙を向ける。

 

 ……そう、彼女は必要であれば敵がどれほど強大であっても相対する。仮にオラリオ全てを敵に回す必要があったとしても、必ずそれを成し遂げるだろう。それは正しく7年前の邪神エレボスのように。必要な戦力をかき集めて、必要な手順を仕立て上げて、巨大な敵として立ち塞がる。

 

 そういうことが出来る。

 

 能力だけでなく、価値観として。

 

 生き方として、やり方として。

 

 それを選ぶことが出来る。

 

 ……それはとても危ういことだ。

 

 目的のためなら、諦めるという選択肢がない。

 

 他者を尊重出来ても、他者を踏み躙る事も出来る。

 

 正と負のどちらにも偏れる。

 

 どっち付かずとも言えるだろう。

 

 ……では、彼女が今こうして自分達の方へと振れてくれている理由は?そういった過激な行動を取ることもなく、けれど味方でも居てくれて、少なくともフィンが看過出来る程度に収まってくれている理由は?

 

 

 

 

 

 

 

「………嘘です」

 

「レフィーヤさま……」

 

「嘘ですよ、そんなの……そんな訳ないです。そんな、そんな事ありませんよ。グラナさんの勘違いですよ!だってそんな、フィルヴィスさんが闇派閥だなんて!!」

 

 

 歪に笑みを崩しながら、目を見開き、グラナの両肩を掴むレフィーヤ。伝えられたその事実を飲み込むことが出来なくて、そんなあってはならない事を受け入れることなど出来る筈もなくて。彼女は縋るようにしてそれを否定する。

 

 

「そんな訳ないです!!だってフィルヴィスさんは!!」

 

「証拠が揃い過ぎています。わたくしと勇者様も、彼女の闇派閥との関わりを既に否定することは出来ません」

 

「……っ!!」

 

「強いて言うのであれば、18階層でわたくしが襲われた仮面の怪人。正体はフィルヴィス・シャリアでした」

 

「!?」

 

「勇者様と確認しております。どういった仕組みになっているのかは分かりませんが、姿形は間違いなく彼女のものでした」

 

「で、でもフィルヴィスさんは……」

 

「ええ、まだ生きています。ただし、ここ数日の彼女は精神的に錯乱している兆候が見られます。別人であったとは言え、全くの無関係では無かったのでしょう。……複製だったのか、分身だったのか、影のようなものであったのか。その辺りの確証は得られていませんが」

 

「……でも、フィルヴィスさんが関与してるっていう確かな証拠は」

 

「証拠が無い状態でこのような話をお伝えするような人間に思われているのなら、少々心外です」

 

「……!!」

 

 

 フィルヴィスを守るために、グラナの信用を疑う。そんなことをしている現状、レフィーヤはそれに気付いてしまい言葉が出なくなる。しかしそうなったとしても、グラナのすることは変わらない。淡々と、その証拠を出していく。レフィーヤを説得するために。

 

 

「ここにあるものは全て、フィルヴィス・シャリアが死妖精(バンシー)と呼ばれるようになった事件の再調査結果です」

 

「再、調査……」

 

「ガネーシャ・ファミリアとギルドの記録を中心に、わたくしが再調査を行いました。被害者の眷属達の情報、当時のダンジョンの様子、状況再現なんかも行いました。……その結果、一先ずこの1件のみですが、彼女が犯人であることが確定しました」

 

「っ!?」

 

「残りも確たる証拠は見つかりませんでしたが、彼女が手を下したと見るのが妥当な状況ばかりです。彼女は決して冤罪を受けていた訳ではありません、実際に他者の命を奪っていたのです」

 

「そん、な……」

 

 

 そもそも、彼女が主犯であると疑っていた者は当然ながら他にも居た。彼等にも調査協力を願うと、再調査されるという事実に喜び協力をしてくれたし、遺留品を貸してもらうことも出来た。

 ……闇派閥関係でなければ、今直ぐにでもガネーシャ・ファミリアが彼女を捕縛していた。既にそういう状況なのだ。そもそもここまで証拠を揃えたのも、他でもなく、レフィーヤを説得するため。

 

 

「なんで……なんで、フィルヴィスさんが……フィルヴィスさんはそんなことをする人じゃ……」

 

「……恐らく、神ディオニュソスの影響です」

 

「ディオニュソス、様……?」

 

「調査の結果、神ディオニュソスは所謂"悪神"です。下界に降りて来てからはロキ様のように変化した神という評判がありましたが、それは恐らく"神酒"により自身を酔わせた影響で生み出されたもう一つの人格なのでしょう。……特に彼の正体については、神酒の件も含めて女神デメテルが知っていた上に、彼女は眷属を人質に取られて脅されていました。神々が使用している"音声符号"を利用して、見張りにバレることなく聞き出しました。覚えるのに苦労しましたが、努力しただけの価値はありましたね」

 

「……」

 

「神ディオニュソスに何らかの弱味を握られている……若しくは、彼女はそれほどに神ディオニュソスに心酔している。正直どういうつもりなのかイマイチ分かりませんが、手を汚している事を否定出来る要素はない。怪物祭の際の食人花と、その裏であったディオニュソス・ファミリア団員の殺害。彼女がそれに直接関係していたのは確実です」

 

「そん、な……」

 

「彼女は闇派閥に……というより、闇派閥に加担している神ディオニュソスに協力している。彼の代わりに直接手を汚している。勇者様との想定では、彼女もまた間違いなく怪人の1人。最早擁護することさえ難しい段階なのです」

 

「……」

 

 

 否定することさえ許されないレフィーヤは、震える手で資料を手に取る。昨日まで大切な大切な友人であり、憧れの人だったというのに。今目の前にはその人の犯罪の証拠がある。

 せめてと資料を読み否定出来る要素を見つけようとはしたものの、これを作ったのは他でもないグラナ・アリスフィア。当然ながらそんな穴など何処にもない。むしろ読めば読むほどに彼女がその罪を成したのだと納得してしまう。

 

 

「………フィルヴィスさんは……こんな、こと……」

 

「……それでも信用出来ないということであれば、勇者様の意見も聞いてみるといいでしょう。これでも信用できないと言われてしまえば、もう証明出来る術がありませんので」

 

 

 彼女を、フィルヴィスを知っている。

 だから目の前にあるのは絶対に嘘に違いない。

 

 彼女を、グラナを知っている。

 だから目の前にあるのはどうしようもなく事実だ。

 

 そんな二つの考えが、レフィーヤの頭の中を巡る。それでも頭は分かっている。グラナとフィンが口を揃えてそう言っているのなら、きっとそれは事実なのだと。グラナはこんな酷い冗談は言わない人だし、物事を確定しなければ教えてもくれない人なのだと。レフィーヤはそれを知っている。

 

 

「……レフィーヤさま。わたくしはフィルヴィス・シャリアを殺しますわ」

 

「っ、どうして!?」

 

「危険だからです。怪人である可能性の高い彼女は、早期に排除しなければ我々に甚大な被害を与えます」

 

「……!!」

 

「食人花を操れるというだけでも危険性が高く、その上で本来の実力を隠している可能性もある。そもそも彼女の魔法やスキルが今知り得ているものだけとは思えない」

 

「そ、れは……」

 

「場合によっては、決戦の際において。彼女の足止めにより多くの死者が出る事も考えられます」

 

「ぁ……」

 

「捕縛などという生易しい手段を取れる相手でもない。殺害以外に道はありません、これは既にシャクティさまにも許可を頂いています」

 

「………殺、す」

 

「だからこそ、事前にこうしてお話しておくことにしたのです。……レフィーヤ様にとっては受け入れ難い話であっても、わたくしは貴女にだけは嫌われたくなかったので」

 

「っ」

 

「故に、申し訳ありません。わたくしの身勝手な我儘で、貴女にこのような苦悩をさせてしまっています。……本当に貴女を思うのであれば、彼女を事故として殺すのが一番なのでしょうに。正直わたくし自身、今はそれが出来る余裕がない。次の決戦で勝つために、ここを妥協せざるを得ませんでした」

 

 

 彼女のその言葉について、レフィーヤはグラナが本当に自分のことを考えて行動してくれているということを知る。

 しかしこれはレフィーヤの知らないことであるが、実のところグラナはここ数日ほとんど眠っていない。フィンのように睡眠時間を短縮出来るスキルを持っている訳でもなく、彼女は化粧で隠しているだけで、既にギリギリの状態であった。アミッドに禁止された茶を飲みながら、その仕事量に周りの人間が何も言えないことを良いことに、本当に動き回り続けている。

 

 

「……どうにか、ならないんですか」

 

「……レフィーヤさま、分かっている筈です」

 

「……」

 

「彼女を生かすことは、仲間を危険に晒す行為と同義。下手に生かせば、貴女のご友人の死ぬ確率が高まります」

 

「ぅ……」

 

「それほどに次の戦場は危険なものになります。非道であり、非情であったとしても、潰せるリスクは潰しておかなければなりません。……貴女を守るために」

 

 

 フィルヴィス1人の命で、アイズやティオネ、団員達全員の生存確率が上がる。つまりはもう、選択肢など何処にもないのだ。レフィーヤが選べる道など、最初から1つしか存在しない。

 そもそもフィルヴィス・シャリアという女に、それほどの価値はないのだから。多くの身内を殺して、罪を犯した彼女を助けるために、他の友人の命を危険に晒す価値などない。非情な話ではあるが、それはレフィーヤにだって理解できる。

 

 

「でも……それでも……」

 

 

「……ですので、代案を持って来ました」

 

 

「!!」

 

 

 そしてこうなることもまた、グラナは最初から分かっていた。レフィーヤはそんな風に簡単に事実を割り切れるような人間ではないと、分かっていた。

 

 

「事前にわたくしがフィルヴィス・シャリアと会い、提案をします。それを飲むことが出来たのなら、彼女を生かします。しかしそれを飲めなければ、彼女を殺します。……それだけです」

 

「……どんな提案、ですか?」

 

「……神ディオニュソスを捨てて、レフィーヤ様を選ぶことが出来るのか」

 

「っ」

 

「罪の根源たる神ディオニュソスを捨てて、自身の犯した全ての罪を受け入れてでも、今後レフィーヤ様の隣に居続けることを選べるのか。……それだけです」

 

「……」

 

「分かりますわね。もしこれで神ディオニュソスを選ぶのであれば、彼女はもう救いようがない。レフィーヤ様より、神ディオニュソスの方が彼女にとっては大切だということ。……であれば、今後何があろうとも彼女は最終的に貴女に敵対するでしょう。本当に今殺しておく以外になくなります」

 

「……分かります」

 

「もしレフィーヤ様を選んでくれるのであれば、目の前で神ディオニュソスを送還します。そこでも敵対しないのであれば、わたくしも彼女のことを信用しましょう。……これならレフィーヤ様も、納得出来ますか?」

 

 

 その提案は確かに、レフィーヤにとっても比較的納得出来るものだった。もしその提案でも駄目なら、もうどうしようもないという事も理解出来る。そうなれば本当に彼女が神ディオニュソスの指示で殺しを行っていたということにもなってしまうからだ。

 

 それに……これはグラナからの最後の妥協だということも分かる。彼女ほどの人間が、フィルヴィスの生き残る可能性を与えてくれた。それはとても危険な行為だというのに。それでもレフィーヤのために、その危険を飲んでくれた。

 

 ならばもう、レフィーヤはそれに縋るしかない。

 

 フィルヴィスに願うしかない。

 

 どうか自分を選んで欲しいと。

 

 どうかこれから先も自分の隣に居て欲しいと。

 

 自分が出来ることなど、もう、本当に……

 

 

 

「……ありがとうございます、グラナさん。私のために色々と考えてくれて」

 

「いえ、私が勝手にしたことですから。お礼を言われるようなことではありません」

 

「でも……もう1つだけ、もう1つだけ、お願いしてもいいですか?」

 

「お願いですか?」

 

 

 

 何もかも、グラナがしてくれた。

 自分では何も気付けず、調査など頭にもなく、自分がダンジョンの中で鍛錬して、帰って来たら満足して眠って。そんなことをしている間にも、グラナは自分のためにここまで状況を整えていてくれた。

 

 ……このまま何もせず、彼女の言う通りに動いていたら。自分は本当に何もせずに終わってしまう。何もかもが自分で蒔いた種であるというのに、彼女にその処理だけを押し付ける形になる。

 

 それにそうでなくても、こんな終わり方は嫌だ。もし彼女が自分を選んでくれなくとも、こんな終わり方は受け入れられない。張本人の自分が何もせずに見ているだけなどと、流石のレフィーヤでも納得出来る筈があるものか。

 

 

「もし、フィルヴィスさんが私を選んでくれなかったのなら……フィルヴィスさんの命を奪うのは、私にやらせてください」

 

「!?」

 

「それが私の責任だと思うんです」

 

 

 だからレフィーヤは、そう言い切った。

 震える拳を握り締めて、奥歯を少し噛み締めながら。それでもこれは自分にやらせて欲しいと、そう言葉にした。大切な友人であるフィルヴィスが今以上に罪を重ねようとするのなら、それを止めるのは自分でありたいと。

 それに、こんなことまでグラナに任せて、彼女の手を汚させるようなことなど。レフィーヤも嫌だったのだ。レフィーヤにとっては、グラナも大切な人なのだから。本来自分が負うべき罪を、彼女に押し付けたくなどない。ここまでしてくれただけでも感謝しかないのに。

 

 

 

 

 

 ……けれど。

 

 

 

 

 

「絶対に駄目です!!!」

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 目の前に居たのは……

 

 自分の知らない、グラナ・アリスフィアの姿だった。

 

 

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