【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

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04.対面

 その日、レフィーヤは珍しくたった1人だけでフィン達から呼び出されていた。

 

 普段からリヴェリアから呼び出されることは多く、アイズやティオナ達と共に呼び出されることなら偶にある。けれど自分1人だけが単独で呼び出されるということは早々なく、だからこそ緊張もしていた。

 

 自分はなにかしてしまったのだろうか?

 

 そんなことを考えながら思い返してみても、思い当たるような出来事もない。精々が最近少し食べ過ぎてしまっているような気がする程度で……

 

 

「あ、あの、失礼しま………っ!?」

 

「ああ、来たんだね。悪いけど扉を閉めてくれるかい?あまり人に聞かせられる話でもないんだ」

 

「は、はい!すみません!?」

 

 

 単に呼び出された、などというものではない。そんな生優しい要件ではないのだと、レフィーヤは今この時になって漸く本当の意味で理解することが出来た。

 

 リヴェリアにガレスにフィンとロキ、それだけでなくガネーシャ・ファミリア団長のシャクティ・ヴァルマまでもが勢揃いしているその様子。

 明らかに異常である。間違いなく何かが起きたに違いない。それもガネーシャ・ファミリアの団長級が直々に出張って来るほどの相当な要件。そんなものに自分がどう関わっているというのか。

 

 

 ……それに。

 

 

 

「……」

 

 

 

 ジッと、こちらを見つめる見知らぬ女性。

 

 優しい笑みと、柔らかな雰囲気。白を基調とした"質素"な衣服に身を包み、口元を白のフェイスベールで隠していても、明らかに分かる美人度合。

 

 少なくともレフィーヤには思い当たるような情報はない、ここまでの美人が居れば喧しい神々の多いこの街では何かしら噂になっている筈であるのだから。……つまり。

 

 

「レフィーヤ、君は今日なぜ呼ばれたのか分かるかい?」

 

「え、あ、ええと…………お忍びでやって来たお姫様のお世話のため、とかですかね」

 

「……あ〜、いや、それはなんというか」

 

「合っとると言えば、合っとるんかな……」

 

 

「ふふ。わたくしのことがお姫様に見えましたか?レフィーヤさま」

 

 

「っ」

 

「お、おい」

 

 

 惚れ惚れするほど美しい所作で彼女は立ち上がると、そのままゆっくりと近寄り、優しく両手を握られる。

 綺麗な顔が近くにあるだけでなく、なんとなく熱っぽい目線も向けられて、思わず顔を赤くして目を背ける。それとなくリヴェリアが彼女を引き止めようとしたのは見えたが、それすら分かっていたようにその女性は手を避けて至近距離まで近寄って来た。その動きだけで唯のお姫様でないことは分かるのだが、今はそれ以上に困ってしまう。

 

 ……まるでこんな、口説かれているみたいに。

 

 

「ああ、本当に美しい……」

 

「そ、そんなことは……」

 

「貴女は本当に美しい、今わたくしの眼前には下界において最も美しい光景が広がっています」

 

「あ、あの……こ、困ります……」

 

「貴女に会うためにこの街に来たのだと、今わたくしは確信しております。色々と考えて来たつもりではありましたが、ああ、貴女を見た瞬間に全て吹き飛んでしまいました」

 

「あ、あうあう……」

 

 

 

「ま、待て待て待て待て、お前少し待て」

 

「……?」

 

 

 幸いにもリヴェリアが間に入り込み、2人を引き離した。フィンもまた少し困ったような顔をして彼女の腕を引き、ロキでさえも想定外のものを目の前で見せられて苦笑いを浮かべていた。

 引き離されてもまだ彼女の目はレフィーヤを貫いているし、隙あらばまた彼女に近寄ろうとしているのだからいけない。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。君はその、もしかして……女性が好きなのかい?恋愛的な意味で」

 

「……そもそも恋愛等ということをしたことがありませんので、性的対象など自分でも分かりません。わたくしはただ美しく綺麗なものが好ましいと言っているだけですわ」

 

「それが……レフィーヤ、なのか?」

 

「わ、私なんかよりもっと綺麗な人なんて……そ、それこそリヴェリア様とか!!」

 

「他者の価値観など知ったことではありません。少なくともわたくしにとってはレフィーヤさまこそが美の化身であったというだけ。…‥この街に来た理由も目的も、何もかもを吹き飛ばしてしまったほどの美しさ。美の女神を自称する醜悪な存在などとは格が違いますわ」

 

「お、恐れ多過ぎます……」

 

「怖いもん無しかコイツ……」

 

 

 神さえ恐れない、というか、神々さえも恐れる美の女神を一纏めにして醜悪呼ばわりする恐れ知らず。

 しかしその言葉の全てに一切の嘘が混じっていないことを知っているロキは、なんとなく思い当たることはあった。それこそ彼女が"処女が好き"だと言っていたことについて。確かにその価値観で言えば、情の多い美の女神は嫌うだろう。彼女の価値観からすればヘスティアのような処女神こそが真の美の女神であるのかもしれない。

 

 ……ただ、そうなると不思議になるのはリヴェリアの存在で。

 

 

「さあ、レフィーヤさま。こちらでお話をしましょう?ね?わたくし、貴女のお話を聞いてみたいですわ」

 

「へ?あ、はい……」

 

 

 最早自分の家のような遠慮のなさでレフィーヤを呼び、自分の前へと座らせる。これまで見たこともないようなニコニコとした上機嫌な彼女の姿。

 これにはもうリヴェリア達も余計な口を挟むことはせず、2人の様子をただ見守ることにした。

 

 

「あ、あの……リヴェリア様?こちらの方は……」

 

「あ、ああ、そうだな……ロキの知り合いの女神から借り受けた眷属、というか……」

 

「交流の一環ですわ。オラリオ最大手のファミリア、その運営方法について学んで来いとの指示がありまして」

 

「な、なるほど?」

 

「……あ〜、うん、もう少し説明しようか。実は彼女はとても優秀な女性でね。それこそ僕と頭脳戦が出来るほどの逸材さ」

 

「えぇ!?団長とですか!?」

 

「実は勇者様としましても、今後の情勢を考える上で知略に長ける人材が欲しかったそうでして。そこでわたくしに白羽の矢が立った、ということですの。勇者様に及ぶことはなくとも、生まれには恵まれましたから」

 

「そ、そういうことだったんですね。納得出来ました」

 

 

 

「「……」」

 

 

 生まれに恵まれた、などという思わず眉を顰めたくなるような発言はさておき。それにしてもフィンとグラナが同じ側に立って相手を騙そうとする光景は圧巻である。

 別に大したことは言っていないのに、事前に決めていた設定であったとしても、騙されて仕方ないというような異様な雰囲気がそこにある。なんならこの2人が組めば神でさえも論で捩じ伏せることが出来るかもしれないと思ってしまうほど。

 

 これがフィンとヴァレッタがもしも手を組んでいたら、というあり得ないIFの姿であるとするのなら、正直ワクワクとしてしまうところもロキにはあった。

 ……まあ大人しくフィンの横に立つヴァレッタなどヴァレッタではないので、それは結局のところ都合の良い想像でしかない訳ではあるが。

 

 

「と、ところで……それなら私はどうして呼ばれたんですか?」

 

「それはもちろん、わたくしが貴女に会いたかったから」

 

「は、はぁ……」

 

「レフィーヤ様が本当にわたくしの世話をしてくれるのであれば、これ以上の幸福もありませんが。しかし今日は何より、貴女とお話をしたかった。ただそれだけです」

 

「あの、何処かでお会いしたことがあったりとか……」

 

「この街に来てから、一方的にお見かけしただけですとも。一目惚れ、と言ってもいいのかもしれませんわね」

 

「ひ、ひひ、一目惚れですか!?」

 

「ふふ、可愛らしい反応。そうですよ、ですからお話ししたいと願いました。他の何よりも優先して」

 

「そ、そそ、そんなことを言われるほどでは……!!」

 

 

「レフィーヤ様?」

 

 

「は、はひ?」

 

 

「わたくしは本気ですよ」

 

 

「ひんっ」

 

 

 ぎゅっと手を握られ、目と目を合わせてそう言われる。何処にも逃さぬように、逃げ場を塞ぐように、本気を伝えてくる。そんな初めての経験。しかも同性、どころかこれほど美しい女性にそのようなことを言われては、レフィーヤとて混乱してしまうのは当然で。

 

 

「待て、そこまでだ」

 

「おや、またですか」

 

「私の弟子を誑かすのはそこまでにして貰おう。これ以上はレフィーヤが本当に引き摺る、遠征前に余計なことをしてくれるな」

 

「……なるほど、それはその通りですわね。分かりました、一先ず今日はこの辺りにしておきましょう」

 

「はぁ……」

 

 

 この感じでは間違いなく、レフィーヤは暫くの間これを引き摺るだろう。元より精神的に未熟な身、遠征に連れて行くにも心配な部分がある。にも関わらず、更にグラナのことを思い出して呆けられてしまっては困るのだ。

 

 

「だから嫌だったというのに、お前に会わせたくない人間の2番目がレフィーヤだった」

 

「であれば、次からはちゃんと1番以外もプロテクトしておくことですね。まあどう守られたところで、人の熱情を止めることなど出来ないのですが」

 

「…………」

 

「そもそも、わたくしのことを知りたいのであれば、この熱情を利用する以外にないのでは?元からそういう魂胆だったのでしょう?それこそレフィーヤさま相手であれば、わたくしは簡単に口を開きますよ。試してみては?」

 

「………くっ」

 

 

 

「???」

 

 

 何が何やらと言った様子のレフィーヤであるが、しかしグラナの言っていることは悔しいがその通りなのだ。そもそもそれが目的で可能の条件を飲んだ、ならばこの機会を利用しない手はない。多少レフィーヤに犠牲になって貰うことも含めての前提なのだから。そのフォローに苦労することになっても、こうする以外に他にない。

 

 

「……レフィーヤ、悪いが彼女に色々と質問をしてみてくれ」

 

「え、と……?」

 

「実は彼女は相当な秘密主義なんだ、なかなか自分のことを話してくれない。ただ彼女から、『気になっている人間からの質問なら何でも答える』なんて言われてしまってね」

 

「つまり、それを取引材料にして目的の人物を探していただいた、ということですわ。まさか偶然にもロキ・ファミリアに所属しているとは思っていませんでしたが」

 

「な、なる、ほど……?」

 

 

 最早レフィーヤには何が何だか分からない。

 取り敢えず今求められているのは、レフィーヤから彼女に何か質問をしてみて欲しいということ。そしてそれを通じてリヴェリア達は彼女のことを知ろうとしていること。そんな感じだろうか。それさえも正直『何故こんなことに?』と困惑はしているのだが……

 

 

「で、ではその……お名前は……」

 

「……!これは失礼しました。わたくしとしたことが、まだ自己紹介をしていませんでしたね。グラナ・アリスフィアと名乗っております、グラナと気軽にお呼び下さい」

 

「は、はい。私はレフィーヤ・ウィリディスです、よろしくお願いします」

 

「まあ、本当に良いお名前。……間違っていたら申し訳ないのですが、もしかしたらレフィーヤさまは『ウィーシェの里』の御生まれでは?」

 

 

「「「!?」」」

 

 

「へ?ど、どうして分かったんですか!?」

 

「ここまで他種族に対して寛容、どころか種族間の区別なく接することが出来るエルフは珍しいですから。となると真っ先に思い当たるのは、ウィーシェ様が作られた最も開放的な里である貴女様の故郷でしょう?」

 

「す、すごいです!ウィーシェ様のこともご存知なんですね!」

 

「もちろん、偉大なお方ですから。ハイエルフの王女セルディア様と同様、最も尊敬されるべきエルフの1人であると、個人的には思っております。本当に個人的な意見に過ぎませんが」

 

「〜〜〜〜〜!!!!!」

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 声も出ないほどに感激した様子のレフィーヤ。

 

 そんな彼女を見て、『これは不味い』と思うと同時に、感心さえする。よくもまあこれほど上手いレフィーヤへの取り入り方を思い付いたものだと。

 

 エルフによってはハイエルフである王女セルディアこそが至高であると考える者も多く居るであろうが、ウィーシェの森の出身であるレフィーヤにとっては、里を作ったウィーシェもまた同様に崇拝すべき存在。

 個人的な感想と押した上でこんなことを言われてしまえば、彼女が感激するのも無理はない。彼女の中で一気にグラナの株は上がったことだろう。今のはそれほどに効果的な言葉だった。

 

 

「す、すごいです!本当に博識なんですね!」

 

「いえいえ、それほどでは。ただウィーシェの里には一度だけ行ったことがありまして、そこで色々と教えて頂いたのです」

 

「そうなんですね!観光ですか!?」

 

「いえ、逃げ込みまして」

 

「逃げ……?」

 

「奴隷として売られていまして。そこから逃げ出した際に受け入れていただいたのです」

 

「…………………奴、隷……?」

 

「ええ。そういったこともありましたので、あの里には深い感謝をしているのです。わたくしが基本的な常識や知識を学んだのは、ウィーシェの里ですので」

 

「そ、そうなん………です、ね……」

 

 

 それはきっと、例の見世物小屋を抜け出した際の話なのだろうなぁと、見ていた者達は思う。しかしまさか奴隷を経験していたなどという話をぶっ込まれるとは想像さえしていなかったレフィーヤは混乱していた。

 それは決して、こんな場所でサラッと話されるようなことではないだろうに。

 

 

「そのような事情から、わたくしの人生が始まったのは実質的にウィーシェの里からということになりますの。わたくしがウィーシェ様を素晴らしいお方だとお話しした理由も、そういった経験あってこそなのです」

 

「……その、月並みな言葉になってしまうんですけど。大変だったんですね……」

 

「否定はしません。ですが、そのおかげでレフィーヤさまとこうしてお話出来る立場になれたのですから。必要な運命であったのだと、今では思っております」

 

「そ、そうですかね……」

 

「ええ、本心ですとも」

 

 

「………」

 

 

 フィンは思う。今のは恐らく、これ以上の過去をレフィーヤに深掘りさせないために、敢えて自分達も知っている彼女の過去を話したのだろうと。こんなことを話されてしまえば、心優しいレフィーヤはそれ以上を追求することなど出来るはずもない。

 それに同じ立場なら、フィンだって同じことをするだろう。そしてだからこそ分かるのだ。そこが彼女にとってレフィーヤに対して出来る最大限の酷いことであると。

 

 つまり……

 

 

「……レフィーヤ、実は彼女について他の団員達へ紹介するのは遠征の後を考えていてね」

 

「え?どうしてですか……?」

 

「わたくしから提案したのですよ。今は正に遠征の直前、そのような時期に余計な情報を入れる必要もないでしょう。……レフィーヤ様にだけは、わたくしも少し我慢ができなかったのですが」

 

「そ、そうなんですね」

 

「ふふ、照れている顔も可愛いですね」

 

「か、揶揄わないでください……」

 

 

「……とにかく、申し訳ないがそれまでの間は彼女のことは秘密にしておいて欲しい。色々と面倒な気質を持っていてね、僕達も散々に振り回されて困っているところなんだが。君も一緒に振り回されてくれ」

 

「そ、そこまで言わなくても……」

 

「いや、最近の私たちの専らの悩みの種はコイツだぞ」

 

「勝手に深読みして勝手に疲労して、それをわたくしのせいにされても困ってしまいますわ。レフィーヤ様もそう思いません?」

 

「え?あ、あはは……ど、どうなんでしょう」

 

 

 リヴェリアがこうまで言うということは、きっと大層に困らせているのだろうなとレフィーヤも分かる。そしてきっと、それはこれから先も変わらないのだろうなと。

 そこに間違いなく巻き込まれて行く立場となってしまった自分の未来を憂いながらも、レフィーヤは苦笑いをしていた。

 

 

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