「はぁぁぁぁ…………」
「「「はぁぁぁぁ…………」」」
「あー……あー……」
「「「「「どうしてこうなった……」」」」」
事情聴取は終わった。
大方の事情についても分かった。
その上でこう言いたい。
もう最悪や。
「つまり、グラナがレフィーヤに一目惚れしたのは……」
「まず間違いなく、血の匂いがしなかったから」
「若しくは、それに準じる複合的な何かだな。だがその要素も理由の一部分を担っていたことに間違いはない」
「……そんな最中に、レフィーヤがフィルヴィス・シャリアについて自分で責任を取りたいと言い出した結果。こうなったという訳か」
「そうして彼女を殺してしまったレフィーヤを見て、やはり自分の彼女を見る目が変わったことを自覚してしまい、自分自身に絶望してしまったと……そこまで含めて全部かな」
「……いや分かるかァッ!!」
「何のヒントも無かったなぁ……」
「純真な人間を好んでいる節はあったが……」
「本当に地雷を踏んだ気分だな……」
その上で、今彼女が何をしようとしているのかが分からない。もしかして何もしないのではないかとも思いたいが、彼女のことだ。そんなことは絶対にあり得ない。
「それに、レフィーヤも不味い……」
「……またダンジョンに行っとるん?」
「ああ、一時期のアイズを上回る勢いだ。こっちの言うことを聞こうともしない。……自分で自分を追い詰めている。気持ちは分からなくもないのだが」
「うーん、こうなると逆にとことん付き合ってあげた方が安全かもしれないな」
「……フィン、"千の妖精"のことでもう一つ悪い知らせがある」
「……シャクティからと聞くと、嫌な予感がするのだけど」
「昨日の話だが、『何故か自分の元に彼女が師事を願いに来た』と。リオンから相談があった」
「「「ぶふっ」」」
これには流石のフィンも苦笑いするさえも出来なかった。行動があまりにも突拍子無さすぎる。何をどうしたらそんなことになるというのか。師事を乞うにしても、どうしてそこへ行った。
「な、なぜ"疾風"に……」
「どうやら、リオンの事情については知らないらしい。ただ18階層で"
「いや、せやけど流石に……」
「……それで、彼女はなんと?」
「理由を聞いて、朝練を手伝うことにしたらしい」
「手伝うのか……」
「元より鍛錬の相手を探していたというのもあるだろうが、性格的にも合うのだろう。友を失いたくない、などと言われたら、アイツが断れる筈もない」
「噛み合い方が絶妙過ぎる……」
「まあ、うん、ベートなんかに師事するよりはマシかな……」
「何れそっちにも頼みに行きそうじゃがのぅ」
「「「「………」」」」
レフィーヤは髪をバッサリと切ってしまった。
以前まで着ていた戦闘服もより動き易いものに変えたし、フィルヴィス・シャリアの持っていた短剣を身に付け、自身の杖さえもそれに応じるように改造を頼みに行ってしまった事からも、彼女の目指す人物像はハッキリとしている。
……強くなろうとしている。
誰にも守られなくて済むように。
そして今度こそ友人を止められるように。
同じことを繰り返さないために。
「……仕方ない。フィン、暫くこちらのことは任せる」
「ああ、君はレフィーヤのことを見てあげてくれ。リヴェリア」
「やれやれ、漸く一息吐けると思ったのじゃがな」
「ガレス、君も念の為に物資の準備をしておいて欲しい」
「……そこまで必要になるか?」
「相手は自暴自棄になった僕だと考えて欲しいかな」
「……また財布が軽くなるのう」
「財布だけで済むならマシだと、僕はもう切り替えたよ」
「それもそうか……」
何をどうするにせよ、今のグラナの扱える戦力など例の意思の通じるモンスター達だけ。彼女が聖女を偽って操っていた信徒達は扱いには困るものの、デメテルやニョルズといった善神達が進んで引き取りを申し出てくれているし、そうでなくとも彼女は彼等のことを使い捨てのようにはしない筈。
……正直に言えば、そこまで大それたことが出来るとは思えない。もちろん意思の通じるモンスターというだけで世界を大きく揺らすことが出来るのは間違いないので、そちらの方面でフィンは睨んでいるが、一方で彼女がそんな分かり易い手段を取るとも思えなかった。
(ゴルゼも今は戦力を貸し出せるほどの余裕はないし、それ以外の繋がりが他にあるかと言われれば、また別。……女神イシュタルを味方に付けていても、元イシュタル・ファミリアの眷属達は既に全員離反している。"男殺し"だけは消息が掴めないが、流石に彼女のような人格の人間をグラナがそのまま手元に置くとは考えづらい……)
都市外の犯罪組織や、カーリー・ファミリアなんかに助けを求めるというのも考えてはみたが、サッと調べた限りではそのような兆候もなかった。
こんな状況で一体今の彼女に何が出来るというのか、というくらいであるが、考え方を変える必要はあるかもしれない。別に武力がなくとも、彼女は戦える。
例えば情報戦を仕掛けて、フレイヤ・ファミリアとそれ以外の勢力といった戦争遊戯を仕組んでくるかもしれない。
逆にレフィーヤを守るために、彼女を何らかの手段で封印するという突拍子のない行動を取るかもしれない。
意思の疎通ができるモンスター達とダンジョンを攻略し、世界の問題の一つを解決してしまうという信じられない行動さえも考えられる。
「……せめて敵には回らないで欲しいんだけど。それこそ、こうして避け続けるのも違うのかな。彼女ならそう言いそうだ」
いつものように、そう思う。
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「グラナっち?いや、知らねぇけど……グロスはなんか知ってるか?」
「知ラン、顔サエ見テイナイ」
「だってさ、フェルズも知らねぇんだろ?」
『……ああ、既にゴルゼとの協議も彼女の手を離れている。ゴルゼの王も信頼の出来る人物だ、彼女が居なくとも君達の移住への影響はないだろう』
「そう……ですか……」
ダンジョン24階層、その隠し部屋。
偶然にも見つけた異端児のウィーネを、仲間達の元に送り届けるために。事情を知ったフェルズから言われるがままに、ベル達ヘスティア・ファミリアはここへと足を運んでいた。
そうして彼等との再会のついでに、失踪したとされるグラナのことについて聞いてみたが、やはり捜索は芳しくない。
「もう少し無理難題言われると思ったんだけどな……これだとオレ達の方が約束を果たせなくなっちまう」
「約束、ですか……?」
「ああ、移住の対価ってやつだ。グラナっちは移住を故郷に打診する代わりに、オレ達はグラナっちに借りを3つ背負う。そんだけだ」
「借りってそんな……簡単に背負って良かったんですか?」
「あくまで借り、頼み事は断っても良いって言われてたんだよ。いくつかの願い事のうち、3つ叶えてくれれば良いって。……まあ実際には1つしか願われてないし、叶えてないんだけどな」
「その願いというのは?」
「この前の19階層のことだ。……まあその前にクノッソスの中で捕まってた仲間達の場所を教えて貰ってたし、借り返せた気もしねぇんだが……」
「アレモ含メテノ契約ダッタロウ」
『いや、あれは契約に含まれていない。出来るなら手伝って欲しいという話だった』
「………ムゥ」
「つまり、借りはまだ3つ全部残ってるのに、俺達だけ契約が果たされちまってる。そんなところなんだ」
「対価ノ重要性ヲ説イテキタ女トハ思エンナ」
「恩返しくらいしたいんだけどな」
19階層に無理矢理連れて来られたベルは、そこで初めて
……正直に言えば、怖いとは思う。いくら意思の疎通が取れるとは言え、その容姿はモンスターだ。こうして話していても、まだ少し困惑しているところはある。それはリリやヴェルフ達だって同様。いや、何も知らない彼等はそれ以上だろう。
「あの……少し気になったんですけど、どうしてゴルゼは貴方達を受け入れてくれたんですか?失礼かもしれないんですけど、やっぱり難しい話な気がして」
「いや、それはベルっちの言う通りだ。俺達だって普通なら信じなかった」
「ではなぜ……?」
『……端的に言えば、ゴルゼ側にも利益があること。そしてそもそも、ゴルゼという国の中では既に異端児についての情報が公になっていた』
「「ええ!?」」
「ど、どうしてそんなことが!?」
『……言うまでもなく、原因はグラナ・アリスフィアだ』
水晶の魔道具の奥で、ため息を吐くようにしてフェルズは語る。彼等からしても、それは意外な話だったのだろう。しかしそれこそ、彼女の女王としての器が分かる逸材とも言える。
『グラナ・アリスフィアはかつて、闇派閥によって都市外へと売られた異端児と出会っていた。つまり元より、意思の疎通が出来るモンスターの存在を認識していた』
「闇派閥が……」
『そこでグラナ・アリスフィアは考えたらしい。彼等の存在は、大国に周辺を囲まれたゴルゼの復興に役立つのではないかと』
「国の復興に、ですか……?」
「……なんとなく、分かったかもしれません」
「リリ?」
「ベル様。彼等"
「!……グラナさんは"
『まあ、そういうことだ。彼女は当初より、世界から確実に拒絶されるであろう"
「マ、マジかよ……」
「で、でも、戦力なんて……いいんですか?リドさん達は」
「そりゃまあ……あんまり良くはないし、理想とも言えないけどな。それでも俺達みたいなのが地上に出ることの難しさも、人間に受け入れられることの難しさも知ってるつもりだ。……この機会を逃せば、もう2度と地上に出られないかもしれない。少しくらい我慢はしないとな」
「……そう、ですか」
「最初から理想が手に入るなんて甘い話もないだろ?俺達も努力していかないとな」
彼女の想定通り、"
確かな国力だけでなく、"
何処よりも真っ先に"
特に、元よりゴルゼは孤立している、周辺国が今以上の敵対をすることもない。上手く彼等と共存出来るようになれば、グラニア姫が居なくなったとしても国の運営は軌道に乗っていくだろう。そしてそのくらいのことなら、今の国王でもきっと出来る。
「……なんで当たり前のように国を動かしてるんですか、あの人は」
『彼女はゴルゼの姫だからな』
「「「えぇっ!?」」」
フェルズがサラッと言ったそんな事実に、その場に居た全員が驚いた。全員が。
「いやリドさん達も知らなかったんですか!?」
「き、聞いてないぞフェルズ!?」
『ふむ……誰かグラニア姫という名前を聞いたことがないか?』
「待て。待て待て待て待て待て!!今グラニア姫つったか!?」
「ヴェルフ知ってるの?」
「……ラキア王国の内政が割れた原因を作った女だ」
「「え……」」
「今のラキア王国は主神のアレス派と第一王子マリウスを中心とした反アレス派に分かれて政治的な内戦状態になってるんだが、そうなる原因を作ったのがグラニア姫って女らしい。……なんでもアレスの仕掛けた戦争で隠蔽されていた実際の被害と、使用したヤバい戦策、それを踏まえた将来的な国営予想をマリウスと共同で出したらしい」
「だ、第一王子と共同で反乱……」
「『現在の政治体制では10年以内にラキア王国は破綻する』なんて具体的な資料と数字を第一王子から出されたことで、国内は商人を中心に滅茶苦茶になってな。従属神の大半もマリウス側に付いて、バッチバチにやり合ってやがる。……ただ、第一王子マリウス側をグラニア姫が支援してるって事実が相当強い。戦況は一方的なんだと」
「それは、なぜです……?」
「そりゃグラニア姫つったら戦の天才、"荒野の三夜"で有名な最強軍師だ。一方で古臭い戦法を多用して自爆しまくるアレス。どっちに着くのが賢いかなんて、馬鹿でも分かるだろ?」
「な、なるほど……」
「俺もゴルゼって国の名前よりグラニア姫の名前の方が強過ぎてすっかり抜けてたな……いやでもまさか、本当にそのグラニア姫が……」
『ああ、間違いなく彼女だ』
「「「そっかぁ……」」」
定期的にあるオラリオに向けた侵略戦争についても、どうやら計画自体は進めているらしいが、実際にいつ仕掛ける事が出来るのかは未定という始末。
自身の力を示すためにも今回は絶対に勝つのだとアレスは気合を入れているが、周りの者達は絶対に勝てないと分かっているし、そんなアレスを見て益々見放していく。ラキア王国が破綻寸前であることも露見し、現王と主神アレスはその責任を追及されていた。
現在のゴルゼはグラニア姫の武勇と政治的手腕こそが最大の売りであるが、それは周辺国の民どころか、ラキア王国の国民さえも認めている。その上で中立を保ち平穏を確保している訳であるが、"
「で、そのグラニア姫が行方不明だと」
「……なんだか、攫われたというのはリリは違う気がします」
「俺っちもそう思う……」
「なんか企んでんじゃねぇか?」
「さ、流石にみんな酷いんじゃ……」
『……』
「……いやフェルズ様、絶対あなた何か知っていますよね」
『い、いや、知らない……』
「フェルズ?」
『いや、本当に知らないんだ……頼み事はされたが、何をしようとしているのかまでは分からない……』
「じゃあ、その頼み事ってなんだよ」
『……口外したら全身を粉末状にすると言われている』
「「「ひえっ」」」
『すまないが、彼女はこれで全ての借りを返したことにすると言ってくれている。である以上は、口にする事は出来ない。許してくれ』
「……まあ、そう言われちまうとな」
「あの……グラナさんは無事なんですか?」
『ああ、そこは問題ない。それに彼女の目的と君達は関係ない。安心していい』
「「「……」」」
それを喜べば良いのか、悲しめば良いのか。
分からないままに、しかしベルはそれ以上の言葉を発する事は出来なかった。