【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

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34-1.ゴルゼの女神

「ふふ、本当に走って来るとは。よっぽどあの子はとんでもないことをしようとしているのかい?オラリオでも」

 

「あ、あはは……ええと、この度はお時間を取って頂き、ありがとうございます。オキツヒメ様」

 

「いいのさ、どうせこの国であたしに出来ることなんて殆どないんだから」

 

「……?」

 

 

 ゴルゼの国。

 ラキア王国を含めた大国に周囲を囲まれ、常にその戦火に晒され続けて来た戦乱の小国。そんな国に唯一存在している神こそが、この『オキツヒメ』という温和な女神だった。

 

 彼女はタケミカヅチと同郷の神であり、同時にヘスティアと同じく竈の神でもある。けれどだからこそ、美の女神フレイヤのような強力な権能もなく、ロキのような神をも騙せる狡猾さもない。

 ヘスティアと同じように、家庭を大事にする、優しい女神。過去から未来において、国の民達から慕われ続けている、国の象徴とも言える彼女。

 

 

「さて、何から話そうか困ったものだが。それなら手始めに……アキちゃん。国家間の政争、これを最も容易く処理する方法が分かるかな」

 

「え……あ、ええと……なんでしょう。根回しですか?」

 

「ふふ、それが出来るのはあの子のような特別な子供だけさ。正解は、政争に神を参加させることだよ」

 

「……!」

 

「ロキやヘルメスのように、同じ神さえ騙せるような政治の上手い神を味方につける。これが一番手っ取り早い。実際周りの国はそうしていたよ。……政治の上手い神を招き入れて、祭り上げる。多少の好き勝手は見過ごして、他国との交渉を上手く進めて貰う。簡単だろう?」

 

「でも、それは……」

 

「そう、将来的に見れば悪手さ。それでも、子供達が重視するのは今という自分だけ。少なくとも自分という王の代を上手く乗り越えられれば、それでいい。……仮に国そのものが将来的に祭り上げた神の奴隷になろうとも、その将来が今でなければいいのさ」

 

「……ですが、オキツヒメ様はそのようなことをされているようには見えません」

 

「そう、それが問題だったのさ。あたしには政治をする能力がない。能力はあっても経験がない。他の神を相手にした政争など確実に負けるだろう。それでもこの国は、あたしのような大した権能もない神を大事にしてくれた。……その結果、滅亡寸前になった」

 

「!」

 

 

 修繕の跡が多く残るこの小さな王城には、実際それほど多くの人間は住んでいない。ここに居るのは、本当に居なければならない最低限の人数だけ。

 それ以外の者達は、立場もなにもなく、人工湖の建設を始めとした公共事業を懸命に進めている。なんならこの国で最も静かな場所が、このオキツヒメの神室なのだろう。

 

 

「18年前、"殺帝"ヴァレッタ・グレーデによって当時の王族の大半が皆殺しにされた。これは言うまでもなく小国にとっては致命的なことさ。なんとか一番血の近い男を臨時の国王に上げて、あたしや臣下達も知恵を振り絞って、どうにかこうにか13年も国を存続させた。……それでも、限度があった。アレスは本当に厄介な奴さ。アイツのせいで何人の優秀で優しい子供達が殺されたか、憎くて憎くて仕方がない」

 

「……」

 

「そこから先の話は、知っているかい?」

 

「"荒野の三夜"ですよね」

 

「うんうん、上手いこと話が広がっているようで何よりだ。実はあの話を広めたのもグラナの施策の1つでね、あの子は何より自分の存在を抑止力にしたのさ。……実際、その効果は抜群だった。グラニア姫の恐ろしさは、今や周辺国の子供達だって知っている」

 

「……女王として、やっぱり優秀な人だったんですね」

 

「優秀どころの話じゃない、あの子は正しく女王として生まれて来た子だ。ロザリア姫を思い出すよ」

 

「ロザリア姫……?」

 

「あの子の叔母さ、ヴァレッタ・グレーデに殺された姫でもある。そのあまりの優秀さに、父親の王がどうこう言うよりも前に、兄である長男の方が王位継承権を譲ることに躍起になったくらいでね。……あの時は本当に大変だった。あたしも痴話喧嘩のような兄妹の言い合いに何度巻き込まれたことか」

 

 

 そう話すオキツヒメの表情は柔らかく、口ではそう言いつつも、それは楽しい思い出であったということが伺えられる。きっとそれほど優秀な人間であったのなら、もし生きていればゴルゼをより大きく盛り上げることが出来ていたのだろう。グラナによく似ているというのなら、それは当然に。

 ……けれど、そうはならなかった。

 

 

「何度も言うが、あたしは政争はからっきしさ。他の神にも簡単に騙される愚か者。だが子供達では普通にやったら政治で神には勝てない。……そこで、ゴルゼの王族はある努力をしていた」

 

「努力……」

 

「神威への抵抗さ」

 

「!」

 

「あたしがこの国で果たすべき役割には、それがある。何年も何年もずっと、あの子達に神威への抵抗を付けさせる努力をして来た。……その甲斐あってか、王の血筋の人間は生まれ付き神威への抵抗力が備わっていてね」

 

「そういえばグラナさんも、神威が殆ど効いていなかったというか……」

 

「単に頭が良いだけでは、神々と直接政治をする必要があるゴルゼの国王にはなれないのさ。……その点、あの子とロザリア姫はその完成形。神威に対する抵抗力が生まれ付き頭抜けていた。そこにアタシと王家が長年蓄積して来た対神技術を学ばせれば、もう完璧だ。大神でさえも、あの子達を従わせるのは難しいだろうさ」

 

「そこまで……」

 

 

 故に、継承権というものは実際のところ、この国では殆ど意味を持っていない。最低限の神威への抵抗力を持っている王族の中から、最も能力と人格の優れている人間を王に据える。

 その点、ロザリア姫とグラニア姫はどちらも文句なしの逸材だった。父である王だけでなく、王位を争う兄でさえ、その優秀さに大喜びするほどに。彼女達は正しく、王としての器を持って生まれて来た。

 

 

「話を戻そうか。グラナはこの国に現れると、直ぐ様に自害を考えていた王子を止めて、兵を纏め上げた。見事な手腕だったよ。人心掌握が上手い。絶望していた兵士達を言葉と雰囲気だけで立ち上がらせた」

 

「……想像出来ます」

 

「あの子は見た目が大人びているからねぇ、アタシも初めて見た時は13歳とは思わなかったよ。それで実際にラキア兵を追い返したんだ、この国唯一の希望に成り上がった」

 

「じゅ、13歳……」

 

「あの子は敢えてその時、自分が"殺帝"の子だとは名乗らなかった。あくまで王家の血に連なる者としか言わず、ゴルゼの民達に自分こそが最後の希望であると思い込ませた。……まあ実際それは事実だったんだが、"救世主"という役割を迷うことなく自分から名乗れる度胸はなかなかない。そんなことを言われたら、成果と共に突き付けられたら、民達も信じるしかない」

 

「そのやり方、当時からやってたんですね……」

 

「で、実際に3日であの子はラキア軍を完全撤退させた」

 

「え、それ本当の話だったんですか!?盛ってたとかではなく!?」

 

「全部本当さ、だからこそラキア王国民の間でもグラニア姫の話は広がったんだ。……ただ、救世主として姿を現す前から色々と仕込みはしていたんだろうね。面白いくらいにあの子の思い通りに物事が進んだし、敵軍の中で情報の錯乱も起きていた。何処から何処まであの子の計画だったのかは、あたしにも未だに分からない」

 

「……ま、まさか王城まで攻め込まれるまで静観していたんじゃ」

 

「ふふ、どうだろうねぇ」

 

 

 実際、情報統制を行なっていたラキア王国の中でもグラニア姫の話が広まってしまった理由は、逃げ延びて来た兵士達の口からそれが事実であると広まってしまったからである。

 武勇伝の一環として、彼等の口から『自分はあの恐ろしい姫と対峙したことがある』という風に漏れてしまった。ラキア王国はそれを否定してはいたが、公然の事実となってしまった。そして今現在では、"荒野の三夜"はラキア王国も正式に認めている伝説となった。

 

 

「そうしてゴルゼを取り戻した後、あの子は直ぐ様に周辺国に政争と侵攻を仕掛けた。これは明確に事前準備をしていたんだろう。嘘と事実を織り交ぜた、各国にとって不都合な話を、その国のお膝元の街でビラとして配らせたんだ。手始めに」

 

「手始めに……」

 

「周辺国も戦争には疲労していたし、確実に反乱分子も存在していたからね。あの子自身も"荒野の三夜"から1日も経たないうちに隣国に兵を率いて乗り込むと、その反乱分子と結託して、取り敢えず国を1つ転覆させた。そこであの子は1柱の神を自分の手で送還させているよ」

 

「!?」

 

「神殺しの大罪……だが、反乱分子達にとって最も厄介なのが神の存在だ。神威のある神を殺せるのは神だけ。しかし味方をしてくれる神は居ない。そんな折に神を殺せるあの子の存在は救いに船だろう」

 

「でも……それは……」

 

「……とにかく。グラナはこの国に来る以前に幾つかの国の反乱分子と交流を持っていてね。そうして2つの国家転覆に手を貸し、3つの国で政治的内戦を誘発させた。その過程で3柱の神を送還している」

 

「……」

 

「言うまでもなく、周辺国で"グラニア姫"の名前は畏怖の対象となった。それこそ神々でさえも。僅か3ヶ月の間にたった1人の人間がそこまで情勢を滅茶苦茶にしたんだ。停戦協定を結ぶのは当然、それが敗戦に近い条件であっても結ばざるを得なかった。何故か分かるかい?」

 

「……何かしら弱みを握っていたから、ですか?」

 

「そうだ、よくあの子のことが分かっているね。人身売買や闇派閥との関わり、主要な政治家達の弱味をあの子は事前に自らの手で忍び込んで掻き集めていた。ゴルゼに現れる前から。……そして勿論、停戦協定を結んだ後にそれ等を暴露して彼等を失墜させた。それを引鉄に、民を中心とした暴動さえも企画して、革命を扇動した。全ての国々を一斉に、戦争どころではない状況に追い込んだ。一転して平穏を掴んだのはゴルゼだけさ」

 

「触れる者全てを傷付ける、"刺紅姫"……」

 

「徹底的な下調べと根回し、言うほど簡単なことじゃない。淡々とそれを熟す冷徹さがあるからこそ出来ることさ。あの子は根回しの最中は犠牲を見過ごすからね」

 

 

 "グラニア姫"というゴルゼの象徴は、今でも周辺国にとって恐怖の対象だ。なんなら国家転覆を共にした者達でさえも、彼女のことを恐れているし、小国であるゴルゼと対等な立場を貫いている。

 それほどに彼女は僅かな期間の間に大暴れをしたし、敵となる者を徹底的に叩き潰した。神々さえも恐れず、同時に自分を味方に付ければ神々を恐れる必要もなくなるという意識を、人々の間に根付かせた。

 

 だからこそ、その神々を頼っていた者達は彼女を恐れ、そうして頼られていた神々もまた彼女から逃げようとした。しかしそんなことを彼女が許す筈もなく、暗殺のための刺客を向けるより前に、逃げ出すより前に、速攻で追い込んだ。結果として彼女に対する反乱分子というものは、今やあまりにも少ない。

 

 

「そこからもラキア王国のマリウス第一王子と手を組んだり、人工湖の計画とそれに付随した経済政策を作ったり、言葉を話すモンスターの存在を予言したりもしたが……ああ、調子に乗って少し話し過ぎたね。その辺りは飛ばして、アキちゃんの知りたい、肝心なところから話そうか」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

「まず、どうしてグラナが女王にならず、この国を出て行ったのか」

 

「教えて下さい」

 

「簡単な話さ。今の王も優秀なんだ」

 

「ああ……なる、ほど……」

 

「今の王は、王子の頃から積極的に民達と交流を持っていたこともあって評判が良くてね。能力もあり、人格もあり、神威への抵抗力もあった。叔父である前王も早期の退位を考えていた程の逸材だったのさ」

 

「それは、つまり……」

 

「ああ。あの子は自分がゴルゼに残れば民意が割れると分かっていたんだろう。実際に割れることはなくとも、不穏の種にはなる。だから身を引いたのさ。所詮は外者だからね、事実と感情は別のものだ」

 

「……」

 

「あの子は民達の前で言ったよ。『この身は"殺帝"の子であり、この血を後世に残すことは決して許されない。王座を穢すなど以ての外だ。しかしこの身がゴルゼに無くとも、我が意志と願いは確かにここにある。故に忘れるな、グラニア姫はここに居る』……そんな大嘘を吐いた」

 

「……大嘘」

 

「今もあの子の部屋はここにあるよ。毎日食事も運ばれる。……居なくとも、居るからね。民の誰もがそう信じている」

 

 

 神である彼女だけは、それが嘘だと知っているけれど。それを口にすることもない。今でもグラニア姫は確かにこのゴルゼに居るし、民の意思は割れるどころか統べられている。結局、そこまで含めて彼女は本当の意味でゴルゼを救ったのだ。それこそがグラニア姫の真実。

 

 

「……正直、私はグラナさんのことがよく分かりませんでした。何処までが彼女の本心で、何処までが彼女の意志だったのか。今考えても、自信が持てません」

 

「それは私もさ、神でさえ分からない」

 

「オキツヒメ様も分からないのですか……?」

 

「ああ、なにせあの子は自分の感情を押さえ込んでいたからね」

 

「感情を抑え込む……」

 

 

 

「"衝動掌握"」

 

 

「!!」

 

「その様子だと知っているね、あの子の持つ唯一のスキルさ」

 

「でも、あのスキルはチャージのための……」

 

「それは本質じゃない。あのスキルの本質は、自身の感情という名の衝動を操作することさ。つまりチャージの根源と引鉄は、あの子の衝動にある」

 

「あの……なぜ、そんなスキルが?衝動を掌握するなんて、なんというか、どうやったら身につくスキルなのか」

 

「あの子は"殺帝"の実子だ。それは常々苦しんで来たんじゃないかい。所謂、殺害衝動というやつに」

 

「!!」

 

「それを抑え込もうと、掌握しようとし続けた結果、身に付いたものだとアタシは思っているよ。その衝動の放出先にもなるスキルだからね」

 

「……ベル・クラネルのものと、根源が違う?」

 

 

 いくら同じ結果を齎していても、その過程も根源もまるで違う。アキが事前に内密に聞いていたベルのチャージスキルは、彼の英雄になりたいという願望を実現するために生まれたものだ。

 

 だがグラナのそれは、自分の内から湧き上がる強烈な衝動を掌握し処理するために生まれたもの。これならばシャクティの言っていた、まるで無尽蔵にエネルギーが湧いていたという言にも理屈が付く。つまりそれは、それほどの衝動が彼女の中に溜まっていたということなのだから。

 

 

「……さてアキちゃん、もう一度言うよ。グラナは自分の感情を抑え込んでいた」

 

「え?……あ、え?」

 

「自分の感情を抑え込んでいたのさ。もう一度言うかい?」

 

「……………っ、少し時間を下さい」

 

「構わないよ」

 

 

 そうしてスキルの方にばかり気を向けていたのに気付いたからか、オキツヒメはアキにもう一度より大切な部分を強調する。オキツヒメが本当に気付いて欲しかったのは、決してそっちではなかったから。

 大切なのは、彼女が"感情を抑え込んでいた"という部分だ。そこ以外に他にない。

 

 

「………っ、まさか」

 

「気付いたかい?」

 

「これまでのグラナさんの言葉も、ロキの判断していたグラナさんの嘘も、全部ひっくり返る可能性がある……?」

 

「そう、だからアタシにも分からないのさ」

 

「っ」

 

 

 気付く。

 

 

「感情を抑え込み、淡々と生きているように見えはするが、実際のところ心の奥底には衝動が溜まっていく。……逆に感情では否定したい事柄も、その衝動を抑え込んで、理屈で心から肯定する事が出来る。それは神から見ても嘘にはカウントされない」

 

「嘘が嘘だと分からない……いや、嘘と判断したことさえも本音の可能性がある。これまでの前提が全て覆る可能性がある……!感情どころか思想の操作!」

 

「嘘を本音に出来るし、本音を嘘にも出来る。嫌いという感情の強さを、好きという感情の強さより下げてしまえばいい。あの子が本当は欲しい物も、その衝動をゼロにして、後で邪魔になるだけだという理屈を上回らせることが出来てしまう。……恐ろしいことさ、本当に」

 

 

 これは早急にフィンに伝えなければならない事だろう。彼女はつまりは、神を騙す事が出来るということなのだから。これほどに神と対するのに優れた存在も他には居まい。彼女がここまで容易く神々を弄ぶ事が出来たのも納得の出来るところだ。

 

 ……なにせ神々こそ、自分達のその感覚を盲信し易いのだから。自分達が目で見る感覚と同じくらいの気やすさで使っている、第六感。それが間違っているなどと、普通は考えない。

 

 

「ただ……なんとなく、事前に貰った手紙の内容とグラナのイメージが違うのが気になるか」

 

「え?」

 

「なんとなく、感情的過ぎるように見えるのさ。以前のあの子は本当に淡々と物事をこなしていた。……もちろん、時々だが感情を出すことはあったみたいだけどね」

 

「!……その感情というのは、主にどういう時に?」

 

「うん?そうだね……大抵は神に対する怒りが多かったか。それこそ自分勝手に子供達の命を弄ぶ神も多い。そういった神々に対して怒りを見せることはよくあった。だからこそ、兵達も信頼していたんだろう。いつも冷静な姫が、残虐な神々とその行いに対しては明確な怒りを見せ、敵兵であってもその末路に目を伏せるんだ。そこも含めてグラナの企みだったのなら、アタシにはもう何も言えないけどね」

 

 

 神ディオニュソスに向けた強烈な怒り、ならば言うまでもなくアレは彼女の本音だったのだろう。……そして勿論、レフィーヤに対しての思いもそうだ。そこの2つは繋がっているのだから。

 つまり彼女もまた、処理出来る衝動の大きさには限界があるということ。

 

 

「あの……とあるエルフの少女に、グラナさんはずっと美しいと言っていました。何か分かりますか?」

 

「ほう、そんなことが……悪いけど、アタシには分からないねぇ。あの子が処女好きなのは知っているが」

 

「あ、それも事実っぽいですね……」

 

「ただ、あの子は何か他人には見えないものが見えているよ」

 

「他人には見えない物、ですか?」

 

「それが具体的に何なのかは分からないし、スキルにもなっていないけど。そういうものもあるのさ。……結局、世界も人も、神でさえも完璧ではないからね。どうやっても、そういう例外や欠損は出来てしまう」

 

「……」

 

「だから、そのエルフの子はグラナにとって本当に何より美しく見えていたんじゃないかい?そこに偽りはないと考えてもいいと思うよ、アタシは」

 

「そう、ですか……」

 

 

 アキは思う。

 つまりレフィーヤがフィルヴィスを殺害した瞬間というのは、つまりは彼女にとってこの世界で最も美しいものが失われてしまった瞬間でもあるのだろうと。それは一体どれほど辛いことなのだろう。彼女の見えている世界が分からない者には、その重大さが理解出来ることはない。

 ……ただ、だとしたら、これはどうやって説得したらいいのかも分からない。何故なら彼女は、その理屈から言えば自暴自棄になってしまっているも同然なのだから。

 

 

 

「あの……オキツヒメ様、お願いがあるのですが」

 

「あの子を助けるのに必要なことなんだろう?言ってごらん。このゴルゼに住まう者達は皆、そのための努力は決して厭わないよ」

 

 

 

 たとえそれが、彼女を裏切るような事であっても。

 ゴルゼの民は躊躇わない。

 グラニア姫への恩を忘れていない。

 自分達の追い出した彼女の幸福を願っている。

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