【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

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44.悪魔との契約

 決定的な敗北。

 

 覆せない戦況。

 

 言い訳の余地はある。

 

 しかしそれをすることは、敗北以上の屈辱。

 

 

「勝者はわたくし、敗者は貴女方。異論はあります?フレイヤ・ファミリア主神:女神フレイヤ様、そしてその団長:猛者オッタル様」

 

「……」

 

「っ」

 

「まあ、まだ続けるというのであれば付き合いますわ。一応オッタル様が万能薬を使用して再起動する可能性を考慮して、もう8通りほど殺し方は考えてありますので。9回起き上がれば勝てるかもしれませんわね」

 

「くっ」

 

「それとも、他派閥による救援でも待ってみます?確かにロキ・ファミリアが戦力を結集して駆け付けて来るようであれば流石に厳しいですが……ああいや、それもそれで見てみたいですわね。あれだけ偉そうにしていた相手に助けられた時の貴女方が、一体どんな滑稽な言動を取るのか。正直とても気になるところではあります」

 

「貴っ、様……!」

 

 

「……嘘ね。貴女、実はそんなに私達に興味ないんじゃない?」

 

 

「3秒ほど前までは本当に興味がありましたわ。今は消しましたが」

 

 

「……!」

 

 

「勘頼りで何もかもを知った様に振る舞うのはさぞかし楽しかったでしょう。分かりますわ、わたくしも楽しく思いました。まあ、これも嘘ですが。いえ、実は本当なのでしょうか?……ふふ、どちらだと思われます?女神様」

 

 

「っ」

 

 

 言葉から嘘が分からない。

 

 否、嘘であるとも本当であるとも、言葉を発している最中に自分の勘がコロコロと入れ替わる。まるでこちらの認識さえも彼女に握られているかのように。それはフレイヤにとっても初めての経験だった。

 

 神威が通用しない。

 

 魅了が通用しない。

 

 嘘を見抜くことも出来ない。

 

 神である筈の自分が、たった1人の人間にこうまでして弄ばれている。そんな事はあり得ないし、あってはならない事だ。……だが、そんなことのできる人間がこうして生まれてしまった。目の前に立っている。

 

 

「……怖くないのかしら?私がここでなりふり構わずオラリオを滅ぼす勢いで魅了を行使すれば、貴女の計画は何もかも潰れるわ」

 

「好きにすればいいのでは?そもそも貴女の魅了に対する対策をわたくしが何もしていないと本気で思っている様なら、あまりにも滑稽が過ぎますし」

 

「っ……厄介ね。嘘が分からないっていうのは」

 

「素直に敗北を認めて頂けると余計な手間を掛ける必要もないので助かるのですが、貴女の自尊心が許しませんか?必要であれば"落とし所"を作って差し上げるのもやぶさかではありませんが」

 

「……その必要はないわ」

 

「ふふ、流石は"品"を重んじる方は違いますわね」

 

「……」

 

 

 フリュネ・ジャミールがそこに居る時点で分かっていたことだ。彼女がイシュタルをも手中に収めていることなど。恐らくそれもまたフレイヤの魅了に対抗するための一手なのだろうと想像出来る。

 ……それにしても不足している気もするが、"品"まで持ち出されてしまえば、もう仕方ないだろう。無様な終わり方など、フレイヤはするつもりはない。

 

 

「負けを認めるわ。何が望み?」

 

「潔くて何よりです。こちらから求めるのは1つだけ、そこから派生して小さく幾つか。まあそれを除けば現状から特段大きな変化もないでしょう」

 

「寛大ね。それで?私を傀儡にでもするつもりかしら?」

 

「ええ。今日から貴女にはイシュタル様の従属神になっていただきますわ」

 

「……」

 

 

 従属神、端的に言えば傘下になれというもの。

 オラリオではなかなか聞き馴染みはないが、ラキア王国では多くの神々が男神アレスの従属神となっていた。現状その従属神達に反旗を翻されているのが彼の現状であったりもするのだが、別に強制力というものもそれほど強い訳ではない。

 

 しかしフレイヤが何より気に入らないのは、自分があのイシュタルの下に付くという事実だ。それは何なら従属を破ることで得る不名誉より更に受け入れ難い。そんなことになるのなら、天界に還りたいくらい。それくらいの抵抗感がある。

 

 

「……私たちに、何をさせたいの?」

 

「これは大きく4点。まずはロキ・ファミリアと協力してダンジョン攻略を進めること。主導は彼等、反対する者は貴女の魅了を使ってでも無理矢理に協力させる。これは絶対です」

 

「そう、ダンジョンの攻略を進めたいのかしら?」

 

「次に、都市の防衛や治安維持、各都市への派遣に積極的に協力すること。これも主導はガネーシャ・ファミリアに一存、以下同文です」

 

「???……まあ、それくらいなら」

 

 

「最後に、わたくし達の邪魔をしないこと」

 

 

「……それが主目的かしら」

 

「一先ずこの3つを守っていただければ、後はどうぞご自由に。……と言いたいところですが、勿論それほど大雑把な処理をする訳にも参りません。なるべく規則の穴は埋めさせて頂きました。その他の細々とした条件は、この書類に全てまとめておきましたので。必ず主神・団長の両者は内容を一読の上で質問等があれば3日以内にギルドを経由した質問書の作成を願います。他団員への口外は禁止です。ただし、概ねの合意書については今この場で押印を。そちらの事情を加味した多少の擦り合わせについては行う事を約束いたします。最終的な協定書については12部を血印の上で関係者団体各々で保管する事としますので、1週間以内に再度ギルドにて開催する最終協議の場にお持ち込み下さい。また、今回は立会人として創設神ウラノスの名を借りることが出来ました。書案についても事前にギルドに確認済みです。現時点での質問があれば多少お答えすることは出来ますが、何かありますか?3問までで控えて頂けると幸いです」

 

 

 ドン、ドン、ドンッ!と、突如として倒れ伏したオッタルの顔の前に積まれ始めた大量の書類の束。

 まさかこんな展開になるとは夢にも思っていなかった彼であるが、もちろん学のない彼もこれら全てを読み込まなければならない。あくまで指定されたのは主神と団長なのだから、ヘディンの助けを借りることさえ許されていない。

 

 

「そう、ウラノスまで貴女に……それじゃあ、仮に私たちがその契約を破ったらどうなるのかしら?」

 

「……フレイヤ様は何か勘違いされているようですが」

 

「?」

 

「これは脅迫ではなく譲歩ですわ。本当なら奴隷扱いどころか、このまま送還したって良いのです。……それなのにわたくしは貴女の杜撰な眷属の管理体制を正すだけでなく、その手法さえも、わざわざ貴重な時間を割いてまで貴女に教えて差し上げるのです」

 

「なっ」

 

「……正直、あまりにも素人過ぎるこの運営記録を見て、わたくしは呆れを超えて言葉も出ませんでしたわ。どれだけ他者を率いる経験がなければ、こんなガキ大将の真似事の様なやり方を思い付くのかと。恥ずかしくありませんの?酒を飲んでいるロキ様でさえ、もう少しまともな運営が出来ますわ」

 

「なっ、なっ、なっ……!!」

 

 

 彼女が懐から取り出した別の書類の束。そこには大量の付箋が貼られており、嫌がらせの様に赤書きがされている。それはギルドから提供されたフレイヤ・ファミリアの運営記録に、彼女が個人的に調べた情報を加えたものだ。

 

 ……端的に言えば、放置気質。

 

 眷属達への負担が大きく、日常的な過労が横行しており、年々成長効率が落ちているという纏め。ファミリアとしての評価はSだが、そこにも大きくバツが打ってあり、なんなら『主神等級C』などと嫌がらせの様に大きく書かれている。嫌がらせである。言うまでもなく。

 

 

「最後の条件4つ目、女神フレイヤとその眷属の教育」

 

「……何を、言っているのかしら?貴女が教育?私に?」

 

「神は全知でも人間が絡むと大失敗をやらかします。これは人の数だけ未知があり、神の描く将来図への道のりを大きく歪ませるからでしょう。言ってしまえば、人間を動かすという面においては貴女は圧倒的にわたくし以下なのです」

 

「ふふ、何を勘違いしているの。私がその気になれば貴女くらい……」

 

「では、何故その気にならなかったのです?」

 

「っ……」

 

「その気になれなかったのでしょう?どうでも良かったのでしょう?それなのに何故眷属を作ったのです?あまりにも無責任では?1人1人の愛に報いることもなく受け取るまま、愛を利用して眷属の人生を利用している。貴女と貴女の眷属達が何を言おうとも、それが客観的な事実でしょう。少なくとも、毎日の様に死ぬ寸前まで戦わせるなど、やっている事は闘国(テルスキュラ)より多少マシな程度の蛮族では?」

 

「こ、の……!」

 

「よくもまあそのザマでイシュタル様に"品"がどうこう言えましたわね。愛のためなら過労・苛烈万歳な真っ黒ファミリアの運営者。その癖、実力的にも誠実な運営をしているロキ・ファミリアと変わらない程度とか恥ずかしくないんです?貴女個人でロキ様に勝てる要素が何処かに1mmでもあります?魅了がなければただの世間知らずの馬鹿女でしょう。正直側から見ていてオッタル様達がいっそ可哀想に思えましたわ」

 

「〜〜〜!!!!」

 

 

 グサリ、グサリと。

 実はちょっとだけ気にしていたことを的確に突き刺してくる女に、しかし魅了も神威も効かないのだからどうしようもない。

 

 それはまあフレイヤだって思っていた。最初は眷属達が勝手に始めたこととは言え、"戦いの野"で毎日行われている死闘は普通に見れば蛮族そのものである。しかもそんな環境のせいか、自分のファミリアには頭の働く人材というものが正直それほど育っていない。戦闘は常に力でゴリ押す蛮族スタイル。ヘディンが居なければ本当に言い訳の出来ない蛮族ファミリアとなっていた。

 

 しかもその癖、何故か楽しそうに眷属達と関係を作り、ダンジョン攻略を順調に進めているロキ・ファミリアとそれほど大きな実力差がない。なんなら彼等の中でも若い者達がここ最近になって順調にLv.6に昇格して来たこともあり、言い訳にしていた個々の実力差であっても追い付かれかけている。将来性など話にもならない。そもそも単純なLv.5の数ならガネーシャ・ファミリアに未だに負けているし、それはつまり、フレイヤ・ファミリアの幹部以外は大半がLv.4以下ということ。

 

 ……まず間違いなく、効率が悪い。

 

 そのやり方だけを繰り返していても頭打ちは早く、なんなら疲労によって効率は下がっていくばかり。そんな彼等を癒す『満たす煤者達(アンドフリームニル)』は治療に酷使され過労気味。改善要求もあったが、特に何もしていない。つまり誰もが磨耗され続けている状況だ。

 

 狂信的なまでのフレイヤへの信仰と、周囲との同調があるからこそ未だに反抗というものはないが、普通であれば団長諸共ぶん殴られても仕方のない状況なのだ。

 

 それを知っていて、見過ごしていた。

 

 これにはオッタルも目を逸らす。

 

 彼もまたヘイズ達からの改善要求を無視していた1人だ。グラナの言葉には強く反抗したくはあるものの、同じ様にグサグサと胸を刺されていた。

 

 

「貴女から眷属は奪いませんが、貴女の意識を改革します。つまりは教育いたします。そしてこのあまりに効率の悪い運営方針を改善していただきます。……もちろんオッタル様、貴方もですわ」

 

「え……」

 

「"自分には学がない"とよく仰っているそうですが、学がないなら学を付けなさい。仮にも団長を名乗っている人間がいつまで勉強から逃げているのです?そうでなくとも、あなた今年で32でしょう。なにを子供の様な事を恥ずかしげもなく言っているのです」

 

「うぐっ……」

 

「これより1日最低8時間は勉強に費やしていただきます」

 

「は、ち……?」

 

「言っておきますが、学のない貴方や団員の頭を利用してフレイヤ・ファミリアを経済破綻させる策も3つほどありました。流石に利用された個人が可哀想だと思いこれは止めましたが、学のないことは弱みにもなり得るのです。……だから逃げるな、脳筋」

 

「ぅ……」

 

 

 脳筋。

 

 他の団員達からも常日頃からそう呼ばれていながら、一切改善する気を見せなかった32歳の勉強嫌いがそこにはいる。しかも団長の癖に集団を率いるスキルが殆どない、あまりに哀れな長の姿だ。

 

 

 そしてそんな彼にも言いたい事を言い終わったのか、女は一先ずの合意書をフレイヤに突き付ける。これを拒絶する事はフレイヤには出来ない。これが本当に譲歩であると知ったからだ。……もしこれを拒絶すれば、彼女はより狡猾な方法でフレイヤを追い込むだろう。

 今のフレイヤの自由と立場をある程度は保障しつつ、フレイヤ・ファミリアの抱える問題の解決に協力する。本来ならこんなもの、負けた者に突き付けられる条件ではない。

 

 

「……最後にもう一つだけ、聞かせなさい」

 

「どうぞ」

 

「貴女の本当の目的は、何かしら?龍の討伐?モンスターの根絶?いいえ、そんなものではないでしょう?そんな目先の話じゃない」

 

「……そうですわね」

 

 

 いや、それも間違いなく目的の一つではあるだろう。フレイヤ・ファミリアが他ファミリアと手を取り合う様になれば、ダンジョン探索も治安維持もこれまで以上に順調になる。もう闇派閥のような組織は出て来ないだろうし、到達階層も今以上に伸ばすことも可能になる。

 

 ……しかし、そんな程度で終わる女でもないとフレイヤは分かっているのだ。この女はその上で更にその先を見据えている。そしてそれは黒龍討伐のようなものではない。彼女はなんなら、これほどまでの大事さえも過程としか思っていない。

 

 

 

 

 

 

「神の選別」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

「それがわたくしの目的ですわ」

 

 

 

 女は笑う。

 発した言葉とは対照的に、柔らかく。

 

 

 

「神の、選別ですって……?貴女本気で言っているの?」

 

「ええ、もちろん。……次から次へと下界へ降りてくる神々、それらは決して善神ばかりではない。悪意のある神々によって、今も人々の生は狂わされ続けている。多くの命が奪われている。フレイヤ様も、それくらいは知っているでしょう?闇派閥も含めて身近な事例は多くあったのですから」

 

「……ええ、そうね」

 

「つまり、言ってしまえば我々には拒否権がない。外界から入ってくるあなた方を、ただ受け入れる以外に選択肢がない。加えて、人は神を殺せない。我々は上位存在に逆らえない。その上で悪神と出会ってしまえば、人生そのものを狂わされてしまう。どのような幸福も破壊されてしまう。……おかしいでしょう、そんなもの。何処が同じ目線なものですか。結局は自分を優位に置いて遊んでいるだけでしょう、あなた方は」

 

 

 それは正しく、神タナトスと出会ってしまった多くの信徒達のように。騙されるようにして操られ、罪を犯し、魂を汚してしまう。

 

 それは例えば、神ラシャプのように。娯楽のために下界を荒らす神々のせいで、それまでの幸福だった人生を最悪の色に塗り潰されてしまう。

 

 殺され、犯され、狂わされ。

 

 友を、妻を、子供を奪われる。

 

 自分という個人さえもしゃぶり尽くされる。

 

 そんなものをグラナは、嫌という程に見て来た。

 

 

 その度に思うのだ。

 

 

 何故こんな奴等を下界に降ろしたのか。

 

 奴等はモンスターと何が違うのか。

 

 奴等こそ排除すべき害悪ではないのか。

 

 神々もまた人類の敵ではないのか。

 

 

「故に、選別しなくてはなりません。天界が選別をしないのなら、下界がするしかない。……下界に必要のない神々を、誰かを不幸にする前に排除する。それを成す者が居なければ、仮に黒龍を倒したところで世界に真の平穏が齎されることはないでしょう。むしろ平穏を得てしまったからこそ、つまらないと。そう言い出す神々の方が多い筈ですから」

 

「……」

 

 

 今は味方であったとしても、平穏を得てしまった下界において、神々は基本的に敵になる。下界を真の意味で救済したいと願う神々が一体どれほど居るというのか。所詮は暇潰しで天界から降りて来ただけだというのに。

 

 そして何より、グラナにはそれが出来る。神々を選別することができる、処理することが出来る。故にこれこそが自分の生まれて来た意味なのだと、そう思った。それこそが衝動を解放した上で出した、自分という人生の結論。

 

 

「ダンジョンと黒龍については、勇者様と貴女達にお任せします。ただし神々の処遇については、我々が定めます。平穏を掴んだその後に、決して神々に幸福を荒らされることのないように。下界に降りる全ての神々を管理する」

 

「分かっているの?人間が神を敵に回す意味を」

 

「既に恨みを買っている人間が、今更敵に回す神を1柱2柱増やしたところで変わりはないでしょう。むしろだからこそ、これはわたくしがやるべきなのです。……死後に碌なことにならない事が確定している、わたくしが」

 

「……貴女こそ、自己犠牲を美徳だと思っているんじゃない?」

 

「では、フレイヤ様にはこの全てを解決し救うことの出来る名案があると?」

 

「……」

 

「わたくしの死後に執行を神々に委託することはさておき、この発案だけは下界の者がしなくてはなりません。後世において拒絶されるのなら仕方がない。ただその選択肢があるという事だけは、その前例があるという事実だけは、誰かが示しておかなければならない」

 

 

 もしグラナの死後に不要であったと排除されたとしても、それより更に後の世で。復活させる事が出来る基盤を整えておく。前例を作っておく。

 悪用される可能性はあるだろう、悪なる神が善なる神々を排除するために使われる可能性はある。しかしそうならないためにも、今のうちに彼等が蔓延らない環境を作っておきたいのだ。嫌なものを嫌と突き返すことの出来る、その権利を、下界側にも作っておかなければならない。

 

 

「……素直に称賛するわ。そこまでのことに気付けた下界の子は少ない、実際に行動に起こした子となればきっと貴女が最初。確かに貴女の言う通り、全てを取り戻し平和を得たとしても、私達は満足しない。でもそれは神が居なくとも同じ。神が居なくとも平和を手に入れた子供達は、きっと争い始めるでしょう?そうは思わない?」

 

「だからこそ、善神を残すのです」

 

「……?」

 

「争いの主となるのは、きっと恩恵を持つ者達でしょう?だから善神だけを残す」

 

「……っ!まさか、そこまで考えていたの?」

 

「ええ、当然でしょう。善神とその神血を利用した、恩恵を持つ強者達の人格矯正。正義の眷属が正義を求めたように、後天的であれ先天的であれ、何れにせよ眷属は主神に相応しい人格を持つ可能性が高い」

 

「悪性を持つ者は恩恵が得られず、淘汰される。善性を持つ者だけが恩恵を授かり、繁栄する……そして与えられた神の血は繁栄と共に子供達の体内に蓄積していき、より主神の影響を受け易くなる。神とその恩恵を利用した、全人類の人格誘導……!」

 

「神血にはその様な効果もあると考えています。眷属と主神を繋げるための、書き換え。……とは言え、人口が増えるに連れて眷属の制御が難しくなるのも事実。善神同士で争いが起きないとも限りません。人口がある程度まで減ればより理想な世界にはなりますが、まあそこは後の世に任せます。わたくしはその基盤を作るだけ」

 

「……本当に、そう上手くいくと思ってる?」

 

「それでも、それは悪神が気ままに歩く世界よりはマシな着地点になり得る」

 

「……そうね、そこは私も同意見よ」

 

 

 10年先、100年先、いやもっと先のお話。思考しても意味が無いほど未来に向けて、この女は種を蒔こうとしている。目先の暗雲だけでなく、その分厚い雲の先に広がる景色にまで目を向けようとしている。そして同時に、その暗雲を切り裂く手順も進めている。

 

 

「"異端の英雄"ならぬ、"異端の女王"……いえ、この際だから"人の女王"と呼んでしまおうかしら」

 

「恐縮ですわね」

 

「……私、伴侶(オーズ)を探しているの。そこだけは絶対に譲れないわ」

 

「そうですか。であればその辺りも教育の内容に含めましょう。その程度の擦り合わせであれば、後からお付き合い致しますわ」

 

「そう……貴女からしてみれば、そんなことさえ些事なのかしら」

 

「いえ、そう仰るのであれば死ぬほど"恋愛"の勉強をさせるだけですから。貴女はどうせ恋がしたいだけなのでしょう?……それとも、もうしているのか。まあどちらでも構いませんが。恋ほど面倒で厄介な感情もありませんので、事前教育は必須ですからね」

 

「……あの、貴女がさっきから言っている"教育"って、どの程度のものなのかしら?」

 

「取り敢えず一回はギャン泣きさせるので、頑張りましょうね」

 

「印を押したくなくなったのだけれど!?」

 

「でも勝ちたいのでしょう?」

 

「うぐっ……!」

 

 

「ああ、オッタル様も泣かせますからね。他の聞き分けのない眷属も、全員心をへし折りますので」

 

「!?」

 

 

「ほら、さっさと印を押しなさい。雰囲気だけの雑魚女神。恋愛でも敗北者になりたいのですか?貴女の周りに恋愛相談の出来る相手なんかどうせ居ないでしょう。元より貴女に選択肢など無いのですよ」

 

「〜〜!!」

 

 

 

 その日、フレイヤは悪魔との契約を結んでしまった。

 

 言葉巧みに詐欺られた。

 

 そして彼女は泣くことになる。

 

 かつてのイシュタルを思い起こすような酷いことをされて。

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