【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

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52.後日談

『……さて、では一通り話も落ち着きましたし。続きをしましょうか』

 

 

『『『『………は?』』』』

 

 

『何を呆けているのです?これはあなた方の試練のために用意……ではなく、試練になり得る機会でもあるのですよ?こんな半端なところで終わらせる筈もないでしょう。仲直りは仲直り、試練は試練、別物に決まっています』

 

 

『『『『……………』』』』

 

 

『さあ、全員死ぬ気で掛かって来なさいな。……ちなみに、ベート様は帰って来ませんよ。勿論シャルトーはこのままです。お母様に獣人用の激臭薬を持たせましたので、今頃はLv.6の嗅覚のせいで気絶でもしているでしょう。……ふふ、まさかわたくしがLv.6にLv.5を当てるのに、何の対策も用意していなかったとでも?』

 

 

『『『『……………』』』』

 

 

「全員ここで叩き潰されなさい。もう2度と自身を強者などと勘違いしたことを宣うことが出来なくなるほどに、徹底的に殲滅して差し上げますから」

 

 

 ……その後どうなったかと言われれば、一切の抵抗を許されることもなく、まあ当然の如くボコボコにされた。なんならレフィーヤに対してさえも容赦はなく、皆平等に。逆転の兆しさえ見せて貰えないくらいに。

 

 もちろん、死人など出る筈もなく。その戦いは結局のところ、生じた出来事を歴史として記すことさえも躊躇われるほど盛大な、オラリオ側の大敗北という形で決着がついたのだった。

 

 

 

 

 

**************************

 

 

 

 

 

「まあ、割と最善に収まったのでは?もしあそこでフィン様がご自身の成長を捨てて指揮など取ろうとした暁には、どころか耐久戦でも仕掛けて来ようものなら、今後一生"ヘタレ勇者様"とお呼びして軽蔑しようかと思っていましたが、そうもなりませんでしたし」

 

 

「……それで結局、何処までが君の計画通りだったんだい?心情的にはとても酷い詐欺を仕掛けられたような気がするんだけど」

 

 

「おや?詐欺ですか?それはまた物騒なお話ですね、ガネーシャ・ファミリアにでも相談してみては?」

 

「そのガネーシャ・ファミリアも同じ詐欺に遭ったのだけど、どうすればいいと思う?」

 

「では泣き寝入りですね。次は騙されないように気をつけましょう」

 

「僕の見立てでは主犯は目の前に居るような気がするんだ」

 

「気のせいでしょう」

 

「だといいんだけどね」

 

 

 ギルド近くにそこそこ大きな拠点を構えて、その最上階でふんぞり返っている女を前に、フィンは苦笑いを隠さない。本当に太々しい。太々しさにおいて、この女の右に出る者はそう居ないだろう。あれだけのことをしたというのに、こうして何事もなかったかのように笑っている。

 

 彼女の横に高く積まれている書類の束は、しかし決して彼女が処理しなければならないものではなく、彼女が他者に処理させるために作ったものである。相も変わらぬ激務。しかし疲れの一つも感じさせない表情で茶を啜り、その薄さに眉を顰める。

 

 ……とは言え、それも仕方がない。健康に悪いからと、やはりそれは禁止されてしまっているのだから。先日の精密検査で健康診断の結果が真っ赤になって返って来てしまった哀れな女王は、周囲からの激しい意見もあって流石に今は大人しくしている。彼女もアミッドには逆らえないのだ。医療従事者はどうやっても強い。

 

 

「……ヴァレッタは、どうしているんだい?」

 

「中庭で小動物と戯れていますわよ。……脳の一部を切り落として、洗脳と魅了と薬品で人格を粉々に破壊したのですが。どうもその末に穏和な家畜動物のようになりまして。日が経つにつれて人間味は消えています。一応、簡単な指示に従うくらいは出来ますし、戦闘も元の感覚である程度は出来るのですが。それ以外の時はあんな感じです。わたくしとしては匿っているというより、飼っているという感覚ですわ。殺したいのならお好きにどうぞ?愛玩動物に与える程度の執着もありませんし」

 

「完全に悪人の発言なんだけれど……いや、君の進言通りこのまま飼い殺してくれ。罰を与えて終わらせるより、使い道のあるところで切り捨てた方がよっぽど有意義だ。君なら彼女のことも上手く利用出来るだろう」

 

「あんなのでも実の母親というのが、本当に嘆かわしいですわ。まあ使い道はいくらでもあります。彼女に罰を与えたい方々には申し訳ありませんが、最後にはオラリオのために爆散させるので許して頂きましょう」

 

「爆散……」

 

 

 ふと窓の外を見る。そこには確かにあのヴァレッタ・グレーデが居て、しかしそこにあるのは面影だけ。囚人服のような簡素な服だけを着せられて、髪は全部剃られている。なんなら額に『罪人』という文字さえ彫られてしまっているし、その姿はあまりにも惨めだ。

 彼女がかつての自分を取り戻す可能性はあまりにも低く、仮に取り戻せたとしても、そこに思考能力はない。そして目立ち過ぎる。そうでなくとも、彼女の足は鎖で繋がれており、中庭から出ることも許されていない。

 

 小動物達に群がられながら日の下で眠っている彼女に与えられている今は、罰なのか、それとも慈悲なのか。何とも言えない思いを抱きながらも、フィンは顔を戻す。

 もういいのだ、彼女については。もう終わった事だ。グラナが彼女に下したこの結果こそが全て。彼女の命はオラリオに新しい脅威が迫ってくるまで。その時が来れば彼女は使い捨てられる。彼女の娘は容赦はしない。仮にそれが悪行だと咎められたとしても。絶対に。彼女は悪人であり善人でもあるのだから。

 

 

「それで、今日はどういったご用件で?」

 

「……それを説明する必要があるのかい?"グラニア女王"」

 

「ふむ。まあ便宜上そう名乗っているとは言え、フィン様にその名で呼ばれるのは慣れませんわね。今まで通り"グラナ"で構いませんわ」

 

「まあ、それなら僕も助かるよ。小人族にとって"グラニア"の名前は不吉過ぎるからね」

 

「ああ、そういえば名前の由来はそれでした。完全に忘れていましたわ、失礼しました」

 

「嘘くさいなぁ」

 

 

 "グラニア"、グラナは結局その名前を使い続けることにした。というよりは、役割の即効性を求めるに、その名前があまりにも便利な存在になっていたというのが大きい。

 

 故に彼女の作り出した団体は、主神の名前を冠した"イシュタル・ファミリア"ではなく、"グラニア・ファミリア"という神ではなく1人の人間が頂点に立っている、世にも珍しい名前を名乗っている。

 

 もちろん、実際に彼女が正式に女王の座を継いだ訳でもない。ゴルゼの国王は依然元のまま。しかし重要なのは、彼女が女王を名乗り始めた事だ。女王として、下界の統治を始めようとしている。そう周囲に示す事こそが重要だった。

 

 

「……昨日、フレイヤ・ファミリアからギルド経由で戦争遊戯を持ち掛けられたよ。抵抗しようともしたが、既に周囲への根回しは完全に終わっていてね。彼等にこんな器用な真似は出来ない。君の仕業だろう」

 

「もちろん」

 

「なんてことをしてくれたんだ……」

 

 

 それこそが今日、フィンがわざわざこうして忙しい中、ここまで訪ねて来たことの理由。彼女が忙しいのも分かっていたが、それでも無理矢理に時間を取らせた理由でもある。みんな頭を抱えていた。ロキ・ファミリアの誰もが。

 

 

「なんです?別に何を賭ける訳でもなく、単なる練習試合のようなものでしょう。何か問題でも?」

 

「……変に順位付けをしたくない、厄介な事になる」

 

「順位付けって、2位を争って楽しいです?」

 

「くっ……」

 

「そうでなくとも、その結果が今でしょう。生じる問題より解決する問題の方が明らかに多い。……そろそろ腹を括りなさいな、"勇者"。そもそも正式な勝ち負けを決めてもいないのに、フレイヤ・ファミリアがロキ・ファミリアの言うことを聞く訳がないでしょうに」

 

「……簡単に言ってくれる。勝てないとは言わないが」

 

「安心なさいな。どうせ彼等は自爆しますし、そうなるように誘導もしておきますので。八百長のようなものです。それでも負けるようなら、本気で失望しますが」

 

「本当に簡単に言ってくれるなぁ……」

 

 

 既に神々だけでなく下界は大盛り上がりだ。都市最大派閥である両者が、世界の未来のためにグラニア女王による仲裁の下、正式に和解した。

 

 その記念として行われるのが、この"戦争遊戯"。という名目。

 

 目的は、両ファミリアの関係の清算と、その力を見せ付けることによる次の闇派閥に対する威圧。そしてフレイヤ・ファミリアの実力を改めて見せつける事で、彼等に勝利した"グラニア女王"の逸話を新たに広めること。

 

 もちろん死者が出ることを恐れたギルド長のロイマンからは反対があったが、その辺りも当然対策はしてある。彼も既にグラナによって黙らされてしまった。フィン達に既に逃げ場はない。

 

 

「恐らく1週間ほどすれば、正式にルールの発表がなされるでしょう。わたくしが考えたものですから、存分に楽しんでくださいな」

 

「心強いなぁ」

 

「本当に、おかげ様で労働時間が酷い事になっていますわ。毎晩気絶するように眠っているのですから。……ヴィトー様が」

 

「あはは……」

 

 

 なお、もう1人の元闇派閥幹部も殆ど罰を受けているような形でとんでもない労働を強いられていたりする。しかし仕方がない。なにせ彼も優秀なのだから。出来てしまうから、やるしかない。いっそ出来なかったら良かったのに。

 

 

「それにしても……まさか本当にあのフレイヤ・ファミリアの体制を改善するとは思わなかった。今回の戦争遊戯だって、どうやったんだい?」

 

「まあ、それほど大したことはしていません。ただ報酬を吊るしただけです。彼等のような輩にはそれが一番効きます」

 

「報酬?」

 

「例えば今回の戦争遊戯に関しては、参加者全員に"女神フレイヤ公式ファンクラブ会員証"を配布する事になっています」

 

「……なんだって?」

 

「"女神フレイヤ公式ファンクラブ会員証"、ヘルメス様が水面下で進めていた偶像(アイドル)計画から着想を得たものです。そのお試し、布石のようなものですわね」

 

「……具体的には?」

 

「参加者全員に会員証が与えられますが、これは今度"グラニア・ファミリア"が販売する女神フレイヤのグッズを購入する為に必要になります。また、今回の戦争遊戯の活躍順によって会員ナンバーが割り振られますので、会員No.00001の為に彼等は死ぬ気で臨む事でしょう。ちなみに勝利した場合、女神フレイヤの写真の入ったロケットペンダントが一人一つずつ配布されます(完全非売品)」

 

「……なんてことをしてくれたんだ」

 

 

 本当に、なんてことを……

 

 

「これの良いところは、フレイヤ・ファミリアの抱えていた問題を殆ど解決できる事です。基本的に経済を回さないフレイヤ・ファミリアの眷属達が進んで浪費し始めて、金銭の為にダンジョンに積極的に潜るようになる。遠征への参加率も上がるでしょう。また、販売元である"グラニア・ファミリア"の資金調達の問題も解決です」

 

「うわぁ……」

 

「また、わたくしがフレイヤ・ファミリアを下した事で、都市外どころかフレイヤ・ファミリア内にも恨みを抱いている者がいます。しかし眷属でさえ滅多に見られない女神フレイヤの顔をいつでも見られるようにすると言えば、その憎悪や嫌悪感も少しは緩和されるでしょう」

 

「うわぁ……」

 

「そしてフレイヤ様も都市外に大量に存在する全ての信仰者達に、グッズという形で平等に愛を与えることが出来る。少なくともフレイヤ様の供給に喘いでいた者達は救われますし、彼女自身も感じていたシコリを解消することが出来る。……どうです?みんなハッピーでしょう?」

 

「そ、そうかもね……うん……」

 

 

 フィンでさえも、何をどうしたらこんな手が思い付いてしまったのか分からない。もう少しまともな手段で運営体制の改善をするのかと思ったら、なんだか別の方向性でえらい事になっている。……いや、前よりは健全な筈なのだけれども。健全な筈、なのだけれども。

 

 

「もちろん、アレン様のように硬派なファンも居ます。フレイヤ様の尊顔を広める事など絶対に許せないと仰る方も。……とは言え、そんな彼等も結局のところは隠れてグッズを買い漁る。そして、そんな彼等の為にも、一見すれば単なるお洒落にしか見えないグッズ作りも進めています」

 

「へ、へぇ……」

 

「例えばこれ、女神フレイヤが直々にデザインした蒼銀の腕輪(税込240万ヴァリス:数量限定)。これほどの値段になると上級冒険者でもなければそうそう手を出せません。そしてその代物の正体が分かるのは、買った本人か、同じ熱狂的な信仰者だけ」

 

「これは、うん……確かに彼がしれっと身に付けていても不思議じゃないね」

 

「でしょう?結局のところ、何を言おうとも需要さえ満たしてやれば反対意見は実質的に潰せるのです。気に入らない所はあっても、本気で潰せなくなってしまう。形骸化してしまう。……素直になれない彼等にも目を向けなければ、商売は成り立ちません」

 

「……その結果、今フレイヤ・ファミリアはどうなっているんだい?」

 

「まあ、実際に効果が現れるのは戦争遊戯が終わった後の話になりますから。……それとは別に、オッタル様が少し前に1日に22時間勉強して倒れましたが」

 

「オッタル……」

 

「それと昨晩、ようやく女神フレイヤを泣かせる事にも成功しました」

 

「何をしたらそんなことに……」

 

「イシュタル様の時よりは大変でしたが、賢い神は良いですね。理詰めで心を殺せますので。これもまた全知の弊害でしょう」

 

「本当に何をしたんだ……」

 

「ああ、良ければ見て行きます?今頃は下の階の第2会議室で自筆の恋愛小説を書いていますわよ」

 

「君は本当に何がしたいんだ……」

 

 

 取り敢えず、フィンは分かった。

 彼女は本当に自分とは全く異なる思考回路をしていて、必要であればなんでもやるのだと。その為ならアイドルプロデュースもするし、女神を泣かせて恋愛小説まで書かせる。あと多分その後に徹底的に添削する。そして泣かされる。

 

 

「ヘルメス様が思案している偶像計画についても、概ね形が整った際にはフィン様にも協力していただきますので。アイドルプロデュースについても今のうちに学んでおいて下さいな」

 

「ああ、うん……それも何かの計画に?」

 

「何もしていなければ、オラリオに流れる新聞には心が抉られるような内容しかないでしょう?民達には明るい話題が必要なのです」

 

「なるほど、そういうことか……」

 

「貴方の目的の為にも有効だと思いますわよ」

 

「僕の目的?」

 

 

 

「もし、オラリオを代表するアイドルが小人族であったら?」

 

 

 

「!!」

 

 

「ね、面白いでしょう?」

 

「……全力を出そうか」

 

「なんか、これから決戦にでも向かうような目付きですわね。取り敢えず、有望な人材に今のうちから唾は付けておいて下さいな」

 

「言われなくとも、もう手筈は頭の中にできているよ」

 

「……認めたくないですが、やっぱり貴方はわたくしと同類ですわね」

 

 

 そこでようやく、彼女はそれを認めた。

 

**************************

 

 それから30分ほどが経った後、また新たに拠点に人がやって来た。未だに勉強に頭がやられて気絶しているオッタルや、後からコテンパンにされてしまうことも知らずにノリノリで恋愛小説を書いているフレイヤのことはさておき。

 その訪ね人もまた、彼女に大いに影響を受けた人物。どころかここ最近、彼女によって急激に変えられてしまった人物である。

 

 

「グラナさん!今ダンジョンから戻りま……あれ、団長?」

 

 

「やあレフィーヤ、お邪魔しているよ」

 

 

「おかえりなさい、レフィーヤ様。さあこちらに」

 

 

「は、はい!」

 

 

 "いつものように"、グラニア・ファミリアの拠点にやって来たレフィーヤをグラナは出迎えた。

 しかし今日ばかりはそこにフィンが居て、何故かロビーで2人で茶の利き飲みをしていたのだから、苦笑いをするしかない。レフィーヤから見た彼等の関係は、なんというか、割とよく分からない。友人関係というのが一番近いのかもしれないが、互いに互いを楽しんでいるようにも見受けられる。男女のそれは無さそうなので、それは構わないのだが。

 

 

「……それで、どうしてレフィーヤは自然とグラナの膝の上に座ったんだい?」

 

「え?……はっ!!いつもの癖で!!」

 

「癖になってるのか……」

 

「まあまあ、良いではありませんか。……おや、怪我でもしましたか?回復薬を使った痕跡がありますわね」

 

「え?え?そうですか?」

 

「ええ、昨晩付けたはずの『痕』が消えてしまっています。……ふふ、これはまた『今晩』、付け直さないといけませんわね」

 

「っ!?〜〜っ!!……わ、わたし!汗流してきます!!」

 

「はいはい、足を滑らせないように気を付けて下さいな」

 

 

 

「……」

 

 

 

 顔を真っ赤にして走り去っていったレフィーヤを見送りながら、フィンは物凄く微妙な顔をする。というか、そんなの誰だって微妙な顔をするに決まっている。

 ほんの少し前まで、あれほど清く愛らしい新人であったレフィーヤが。悪い女に捕まってしまった。染められてしまっている。むしろ、どういう顔をすれば良いというのだ。あまりにも困る。

 

 

「……思い出した、前から1つ聞きたかったことがあるんだ」

 

「はあ、なんです?」

 

「君の言っていた『相手が処女かどうか見分ける能力』もまた、君の目に宿った力なのかい?」

 

 

「いえ、あれは単なるわたくしの趣味です」

 

 

「……」

 

 

 そこは能力であって欲しかった。

 

 

「つまり、相手が処女かどうかは、君から見える景色に関係はないと」

 

「ええ、この程度なら同じ特技を持っている方は割といらっしゃるのでは?」

 

「居てたまるか」

 

「……それに、わたくしは確かに処女は守るべきだと思っていますが、別に奪うことを否定はしませんよ?」

 

「え?」

 

「その人生に責任を持てるのなら、互いに想いを交わしたのなら、むしろ頂くべきです。相手に自分の存在を一生刻み付ける行為であることを自覚しながら、相手の全てを奪うような姿勢のままに、ただ感謝と愛情で満たすように……」

 

「……」

 

 

 その何処かの生真面目過ぎるエルフを少し下品にしたかのような言い分は、もうこの際どうでも良いとして。しかしフィンの中で嫌なパズルのピースが嵌っていく。考えたくはないが、優秀なフィンの頭はそれを勝手に組み立てていく。そこまで知るつもりなんて毛頭なかったのに、それなのに……

 

 

「い、いや、でも君の性機能は機能していないはず」

 

 

「……実はわたくし、舌がこの通りかなり長くてですね」

 

 

「あぁ……」

 

 

「指もほら、結構長いでしょう?特に中指とか」

 

 

「い、いや、もういいよ……」

 

 

「ふふ、ご心配は不要です。痛みなど感じさせる筈もありません。……甘く、優しく、溶かすように。責任を持って、美味しく頂きましたわ」

 

 

「あ、そう……」

 

 

 そういえばと、ティオネが言っていたことを思い返す。

 最近、なんだかレフィーヤが妙に大人っぽくなったと。てっきりそれはレフィーヤが住まいだけ彼女の元に移して努力をした成果だと思っていたが、どうやら原因は別方向の"頑張り"によるものだったらしい。

 

 

「恋愛感情が分からないとか言っていたのは、本当に何だったのか……」

 

「……フィン様、貴方意外と純粋なのですね」

 

「え?」

 

 

「そんなの嘘に決まっているでしょう?」

 

 

「……」

 

 

 もう、本当に。こいつは。

 

 

「だって、最初から恋愛感情を持って好きだなんて言われたら困ってしまうでしょう?特にレフィーヤ様はエルフなのですから、純粋で美しい関係を好みます。……恋愛というのは、意外と不純な印象がありますからね。隠した方が良い事もあるのです」

 

「……ねえグラナ、これは僕に言ってもいいことなのかい?そうなるとほら、これまでの事とか先日の一件だったら、色々と前提が崩れて来ないかい?」

 

「おっと、今の話は忘れて下さいな」

 

「……そろそろ怒ってもいいかな?」

 

「まあ別にどうでもいいです」

 

「良くないからね?」

 

「過程はともかく、結果は良し。嘘と誠実、正道と悪道は使い分けてこそ。ただ逆境を機会に変えただけ。勇者様が何も言わなければ、全部美しく纏まるのですから。それでいいではありませんか」

 

「良くないからね??」

 

「それに、割とレフィーヤ様も流されると早かったというか……むしろ、わたくしはもう少しゆっくり進めるつもりだったのですが。ああいうのを誘い受けと言うのでしょうね。まさかあれほどの魔性を持っているとは、このわたくしを以っても見抜けず……」

 

「それはどうでも良いかな……」

 

「ちなみに、今までの話は全部フィン様をおちょくるための嘘です」

 

「…………色々と雑過ぎる」

 

 

 

 

 

「女王!!!」

 

 

 そんな風にフィンが他者の恋愛事情に渋い顔をしていると、何やら上の階からバタバタと走り降りてくる人間が1人。それはシャワーへ向かったレフィーヤではなく、如何にも起きたばかりと言った様子のヴィトー。

 

 もうすっかりと家臣になってしまった彼であるが、もちろん未だにフィンを見ると苦い顔をするのは変わっていない。先日の戦いでは結果的に負けてしまったらしい彼であるが、その能力はフィンも知っている。その働きも。性質も。

 

 

「どうされました、ヴィトー様。騒々しい」

 

「このような所で茶を飲んでいる場合ではありません!書類が昨晩見た時から全く片付いていないどころか、むしろ増えていたではありませんか!あの中には今日中に処理しなければならない物もあるのですよ!」

 

「?……ああ、あれは全て処理済みの物です」

 

「……え?」

 

「処理法についても付箋で示してあったでしょう?増えていたのは新たにわたくしが作ったからです。もちろん、全て読み込んでおいて下さいな」

 

「え……?いえ、ですが……あれほどの量を、昨晩私は、貴女にお渡しして……」

 

「ええ、よく作り込まれていたので処理も簡単でした。おかげで戦争遊戯の思案を作成する片手間で読めましたので。やはり仕事の出来る方が居ると助かりますわね、効率が段違いですわ」

 

「……は、はは、ははは…………さ、流石は我が女王です」

 

「それはどうも」

 

 

 顔を青ざめさせながら、自身の上司を称賛する哀れな部下の姿がそこにはある。

 何せ昨晩、気絶するように眠った彼は、流石に今日中にあの量の書類が返ってくるとは思っていなかっただろうに。どころかそこから更に量を増して返って来たのだから。それは頬も引き攣る。

 

 こんなことを続けていたら彼の心も折れてしまうのではないかと思ってしまうのだが、流石にそれに気付かないグラナでも無かった。彼女は先程までレフィーヤのことを話していた時とは打って変わったような雰囲気になり、ヴィトーに対して言葉を掛ける。

 

 

「……貴方がゾーリンゲンから戻って来次第、セクメト・ファミリアを狩りに向かいます」

 

 

「!!」

 

 

「我々の最初の仕事です。メインはヴィトー様に任せるつもりですが、彼のファミリア出身の眷属を1人見つけました。彼女と共に女神セクメトを捕らえます」

 

 

「最初の仕事が、遂に……」

 

 

「大陸の闇、掟に忠実な暗殺者集団。依頼さえあれば誰でも殺す。そうなるように教育される。……この仕事の重要性は分かりますね?」

 

 

「……心得ております」

 

 

「今回は貴方が当の女神の本質を暴きなさい」

 

 

「!?」

 

 

「出来ますね?」

 

 

「っ……必ずや、ご期待に応えてみせます!」

 

 

「よろしい、では下がりなさい」

 

 

「はっ、失礼致しました」

 

 

 そうして再び早足で上階へと戻って行った彼を見送り、フィンは横目で茶を啜る女を見る。まるで何事もなかったかのように目を閉じている彼女だが、今の雰囲気こそが彼の求めていたものだったのかもしれない。

 彼女ほど役者に向いている者も居ないだろう。神々どころか自分さえ騙し、騙すどころか、それを本当にしてしまう。彼女は今の瞬間、間違いなく女王になっていた。

 

 

「……雰囲気の差に風邪を引いてしまいそうだ」

 

「今のが彼がわたくしに求めている姿です。働きに見合った分くらいは付き合って差し上げています」

 

「彼は、どうしてゾーリンゲンに?」

 

「どうやら剣製都市には女神アストレアが居るのだとか。そこにベル様とリュー様と共に赴きたいそうです。……先日の戦いの中で心変わるような事でもあったのでしょう。それとも何か直接尋ねたいことでも出来たのか。別にそこを追求するつもりも言及するつもりもありませんでしたので、好きにさせています。神々を裁くためにも、自分の中の傷はなるべく解消しておかなければなりませんし。……まあ、何故そこに関わって来たのかは知りませんが、ベル様がいるなら大丈夫でしょう」

 

「……そこまで考えてあの組み合わせにしたのかい?」

 

「まさか、それは流石に期待し過ぎですわ。……ただ、巻き込んでしまった以上、彼の人生にも最低限の責任は持つつもりです。彼が今後どのような人生を選ぶのかは知りませんが、せめて良い方向に生きていけるように助力はしましょう」

 

「……そういうところなんだろうね、本当に」

 

「?」

 

 

 そういうところなのだろう、間違いなく。

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