【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

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次で最終回です。


53.未来を担う

「はぁ!?あの女と暮らすぅぅう!?」

 

 

「あ、あはは……」

 

 

 レフィーヤが突然そんなことを言い始めたのは、それこそ情勢がある程度落ち着き、今回の一件の祝賀会を開こうと準備をしている最中のことだった。

 

 

「な、なんたってそんなことになるわけ!?ま、まさかファミリアも移籍するんじゃないでしょうね!?」

 

「さ、流石にそれはないです!ただ寝起きする場所を移す程度で……」

 

「レ、レフィーヤ……脅されてる……?」

 

「脅されてないですよアイズさん!?グラナさんへの怖がり方が前より酷くなってませんか!?」

 

「で、でも、だったらなんで!?確かに新しくファミリアを立ち上げるって話は聞いてたけどさ……!」

 

 

 今回の一件が終わった後、グラナは正式にロキ・ファミリアを抜け、新たにファミリアを立ち上げることに決まった。結局、身内にはなってくれなかったという事だ。フィンの望みは叶わなかった。

 しかし彼女の立ち上げるファミリアは既存のものとは異なり、どちらかと言えば公的機関の1つに近いという。特に組織の頂点が彼女であり、今後オラリオ内でファミリア間の壁を取り払っていくことを目的とする以上は、大凡身内と言っても過言ではない状況になるだろう。

 

 ……まあ、そんなことはさておき。ならばどうしてレフィーヤが彼女の住まう拠点に住処を移すことになったのかと言えば、そこには色々と理由がある。

 

 

「その……実は、1つだけ絶対に手伝いたいことがあって」

 

「手伝いたいこと?」

 

「元ディオニュソス・ファミリアの眷属達の、今後の去就についてです」

 

 

「「「!」」」

 

 

「……そういえば、ディオニュソス・ファミリアの眷属の殆どは、主神の正体を知らなかったのよね。実際に加担していたどころか、何人かは口封じの為に殺されてたって」

 

「そもそも恩恵もペニア様のものだったんだっけ?ダンジョンの中で乾涸びそうになってたのを、アキ達が見つけたんだよね」

 

「そうです。それで今は一先ず隔離されているんですけど、彼等の今後についてもグラナさんは色々と考えてたみたいで……そのお手伝いがしたいなって」

 

「レフィーヤ……」

 

 

 闇派閥との決戦の際も、ディオニュソス・ファミリアの眷属達は何も知らなかった。自分の主神が何をしていたのか、そもそもどういう神だったのか、どころか自分の背中に誰の恩恵が刻まれているのか。それさえも。

 そして彼等は決して悪党ではなく、むしろ善良な眷属達だった。酔っていた神ディオニュソスを心から信用してしまっただけの、普通の。

 

 そんな彼等の行末について、ギルドがまた悩んでいたのも当然。本来であればそのまま解散、後はご自由にというのが基本ではあるが、どうやらグラナ・グレーデはそこにも目を付けていたらしい。

 

 

「ディオニュソス様って今なにやってんの?」

 

「ガネーシャ・ファミリアで監禁されてます。ある程度利用したら、廃神にしてから天界に還すつもりだってグラナさんは言ってました。全ての神々に対する見せしめのためにも。グラナさんの魔法ならそれが出来るそうです」

 

「………悪魔みたいな女ね」

 

「怖い……」

 

「それで、レフィーヤは何を手伝うの?」

 

「手伝うって言っても、本当に雑用くらいしか出来ませんよ。……けど、近くで見ていたいんです。グラナさんがどんな風に仕事をしていて、何を見て、どうやって世界を変えていくのか。それにディオニュソス・ファミリアの事ですから、どんな形でもいいから関わりたくて」

 

「……そう」

 

 

 まあ、ティオネ達も流石にそろそろ少しの信頼くらいは出来ている。あの女はまず間違いなくヤバい女だし、レフィーヤはそんなヤバい女に捕まってしまった訳ではあるが、それでもあの女はレフィーヤが不幸になるような事はしないだろうと。……多分、きっと、この前の一件も何かの勘違いで、うん、恐らく。

 

 それに、レフィーヤがディオニュソス・ファミリアの事について関わりたいという気持ちもよく分かるのだ。この件については、彼女は最後まで見届けるのだろう。それはそれで良いと、ティオネも思う。

 

 

「あ、そうだ!そういえばアルゴノゥト君が今何してるか、レフィーヤは知ってる?」

 

「へ?あ、今は治療院で治療してますよ。前の戦いで負けてしまったらしくて、むしろ奮起してましたけど」

 

「そっか!今度顔見に行こうよ、アイズ!」

 

「うん、行きたい」

 

 

「……ねぇ、あのデカブツは?」

 

「デカブツ?」

 

男殺し(アンドロクトノス)

 

「ああ……今は例のミノタウロスさんと一緒に、ダンジョンの深層へ武者修行に行ってるみたいです。どうも少しずつ新しい自我が芽生えて来たみたいで、次こそはガレスさん達に勝ちたいって」

 

「……いや、こっちは完全に辛勝だったんだけど」

 

「そんなに強かったんですか……?」

 

「……そうね、例えば猛者って何回殺しても生き返りそうじゃない?」

 

「あ、はい。グラナさんと戦ってた時も、結局3回くらい戦線復帰してました」

 

「アイツ、それ永久にやってくんのよ……」

 

「えぇ……」

 

「結局、ティオナが顔面殴り付けまくって、私が魔法で縛り付けて、リヴェリアの魔法で氷漬けにして。それでも全部打ち破って来た所を、今度はガレスが叩き潰して……それでもまだ起き上がって来て。最後は全員すっからかん。ガレスと殴り合いの一騎打ち。流石に底はあったみたいで倒せたけど、リヴェリアの魔法が無かったら負けてたかもしれないわ」

 

「……それ、本当に人間なんですか?」

 

「持ってるのは純粋な力と回復力だけ。実力ならアタシとティオナで互角、ガレスに負けるくらい。でも結局、死なない奴が一番強いのよねぇ……」

 

「それはそうですけど……」

 

 

 本当に、何があったらあそこまで人は変わることが出来るのかと。まあ人格を消されている。

 必殺技を叩き込んで決めポーズを決めているところに、背後から瓦礫音がして敵が立ち上がっている……というような事を何度も何度も繰り返した。最後の方はガレスでさえも辟易としていたし、ティオネももう一度戦いたいとは思わない。そんな女がまた武者修行に出ているなどと、考えたくもない。

 

 

「よし!そういうことなら引越しの準備しないとね!」

 

「うん、色々買わないと。せっかくなんだし」

 

 

 ティオナとアイズが立ち上がる。

 最近になって少しずつ積極性が出て来たアイズは、一時期レフィーヤの落ち込み様が尋常ではなかった事もあり、こうして笑顔が戻ったことを誰より嬉しく思っている。買い物に行くとなれば、今の彼女は進んで立ち上がる。そんな彼女の変化を仲間達の誰もが喜んでいる。

 

 

「ていうかレフィーヤ、今お金あるの?必要なら少しくらい貸すわよ」

 

「えっと……一応その、さっき出て来る時に引越し費用としてグラナさんから無理矢理押し付けられたものがあるので……」

 

「へえ、いくら?」

 

 

「50万ヴァリス……」

 

 

「「「「………」」」」

 

 

「なんか、取り敢えず手元にあっただけ渡しておくって、足りなかったらグラナさん宛でツケておいても良いとは言われてるんですけど……絶対こんなに必要ないですよね……」

 

「……甘々じゃない、あの女。どんだけレフィーヤのこと好きなのよ」

 

「お小遣い感覚で渡す金額じゃないよねぇ……」

 

「グラナさんにとっては、お小遣いみたいなものなのかも……毎月50万ヴァリス……」

 

「ああ、これ給料みたいなものなんじゃない?」

 

「お給料は別にあります……要らないって言ったんですけど……」

 

「……ちなみにそれ、いくら?」

 

「交渉中です……減額の……」

 

「「「減額交渉……」」」

 

 

 割りかしこういうところは厳しいイメージのある彼女が、どうみてもレフィーヤを甘やかしたいという欲を抑え切れていないところに、妙な生々しさを感じてしまう。

 

 

「ねえ、本当に大丈夫?次に帰って来た時、当たり前みたいにアイツの膝の上に乗ってたりしてない?」

 

「そ、そんな"はしたない"事しませんよ!!」

 

「いや、でもほら、毎日こっちには帰って……あーそっか、別に毎日来る必要もないのか」

 

「はい。暫くは忙しそうなので、団長やリヴェリア様に呼ばれた時とかに来る感じになると思います。遠征もまだ先ですし。リヴェリア様からも、暫くはグラナさんの元で色々と学んで来るように言われてます」

 

「……色々と、ねぇ」

 

「グラナさん、私のことも鍛えてくれるそうなんです。近接戦闘を教えて欲しいって言ったんですけど、時間をかけて手取り足取り教えてくれるって」

 

「手取り、足取り……」

 

「今は部屋を改装中なので、グラナさんと一緒のお部屋になっちゃうみたいなんですけど……仕事が忙しくて疲れてるグラナさんのためにも、生活のお手伝いも出来たらいいなって!」

 

「同じ部屋で、生活の手伝い……」

 

「……?」

 

「……ねえレフィーヤ、やっぱり止めない?」

 

「なんでですか!?」

 

「アンタほんと食われるわよ!?」

 

「グラナさんをなんだと思ってるんですか!?」

 

「怪物でしょ!」

 

「怪物じゃないです!」

 

「いやそういう意味なくともアイツは怪物でしょ!」

 

「そうかもですけど!!」

 

 

 なお、食われた。

 

 

**************************

 

 

「で?なんだ?今度は私の処女でも食べに来たのか?」

 

「は?なんです?わたくし世間ではそんな不名誉な噂を流されているんですか?」

 

「"千の妖精"の反応を見ても、お前がついに手を出したのは周知の事実だからな」

 

「まあ隠してませんからね。もうわたくしのモノだということを、むしろ周知しておかなければなりませんし」

 

「独占欲……」

 

「そもそも、責任も取れないのに頂けません。シャクティ様ももう少しご自分を大切になさって下さい」

 

「……最近、もういっそお前に奪われた方がマシな気がして来てな」

 

「完全に拗らせてしまっているじゃないですか、20近く年下に頼むことではありませんよ」

 

「……お前まだ10代じゃないか!?」

 

「今更?」

 

 

 今更になって、というかこのやりとりもオラリオに来てもう何度やったことか。いい加減に飽きて来たグラナは、慣れたようにシャクティの対面に座り、互いの持って来た報告書を交換する。

 まあシャクティのような女性の婚期が遅れるというのは理解出来るが、それでも彼女は美人だ。良い出会いさえあれば、いつでも結婚は出来るだろう。……無かったら知らん。グラナも流石にそこまで面倒は見れない。

 

 

「……お前は相変わらず酷い事を思い付く。これでディオニュソス・ファミリアの眷属達の目を覚まさせるつもりか」

 

「彼等、経歴を見てもそこそこ使えそうなんですよね。副団長のアウラ様も癇癪持ちではありますが、人望を集められる。気軽に動かせる駒として確保しておきたいのです。ガネーシャ・ファミリアにこちらのことをお願いしたくはありませんので」

 

「……私兵にしたい、ということか」

 

「特に面白いのが、彼等は人格的に洗脳し易い人間が集まっている事です。これはまあ神ディオニュソスが意図的にしたことでしょうけど、これだけ使い易い人材をわざわざ集めて貰って、単に解散させるのはあまりにも勿体無いでしょう?」

 

「神の洗脳から解放されたかと思えば、今度はお前に洗脳されることになるとは……」

 

「別にそこまで言われるほど酷い事はしません。ただわたくしの思想に同調させるだけです。待遇も優遇しますし、特に縛りも付けませんとも。深入りもさせませんし」

 

「そうだな、お前はそういう奴だ」

 

「まあ、シャクティ様にもこうして過去の記録を詳細に漁って貰いましたし。悪いようにはしません。何かお手伝いしましょうか?」

 

「いや、大丈夫だ。お前のおかげで今は平和でな、久しぶりに遠征にでも行こうかと思っているくらいだ」

 

「それは何よりです」

 

 

 オラリオは平穏を取り戻した。けれど世界はまだ平穏とは程遠い。今を利用して将来のために、ガネーシャ・ファミリアも力を付けなければならない。シャクティは今回の一件から改めてそう確信していた。

 そうでなくとも、最近は契約の関係でフレイヤ・ファミリアの団員を協力させることも多い。自分達が弱いままでは立つ背がないのだ。……となると本当に、婚期はこれからも遅れ続けるのだろうが。

 

 

「そういえば、そろそろ学区が来る」

 

「……学区、下界の情報と優秀な人材の宝庫なのだとか」

 

「ああ、お前は好むだろう。その辺りの手続きは既に進めているらしい、見て回って来ると良い」

 

「……やれやれ。一生、わたくしはこんな感じなのでしょうね」

 

「ん?」

 

「こうして一生、何かに追われながら、先回りして罠を仕掛けるような人生を生きていくのでしょうね。他者を利用して、時には傷付けながら」

 

「……珍しいな、弱音か?」

 

「まあ、あまり面白いものではありませんし。誰に何を言われるでもなく、庭の花の世話でもしながら生きて行きたいと思うことも偶にはありますわ」

 

「お前には一生無縁そうな生活だな」

 

「本当に、能力があるというのも面倒なものです。何の憂いもなく、ウィーシェの森辺りにでも小屋を作って、レフィーヤ様と延々とイチャついて生きていたい……」

 

「せめてあと60年くらい先の話か」

 

「わたくしより優秀な人間、突然200人くらい生まれて来ませんかね……」

 

「無茶を言うな」

 

 

 珍しく遠い目をした彼女に、シャクティは微笑む。最初の出会いはアレだったが、今はこうしてこんな話を彼女はしてくれるようになった。それを素直に嬉しく思う。

 

 今後も彼女の人生に平穏の二文字は無いだろうし、なんなら死んだ後にも彼女には戦場が待っている。本当に何事もなく静かに生きていくことなど絶対に無理だ。

 ……だがそれでも、彼女はそんな人生の中でも、上手く生きていくのだろう。それこそあれほど大きな騒動を引き起こしておいて、それでも今こうして自分の目の前で茶を啜っているように。彼女がそうして生きていけるように、支え続ける事こそ、自分達の仕事だ。

 

 

「この後は治療院に行くんだろう?サボるなよ」

 

「あぁ……またアミッド様に怒られる。手術の話もしないといけませんし」

 

「手術?何処か悪いのか?」

 

「いえ、性機能をどうにか回復させられないかと思いまして。無理なら切ってしまおうかと、邪魔ですし」

 

「じゃ、邪魔…………い、いやそれより、子供を作りたいと思ったのか?お前が?」

 

「まあ、下界に何かしらの可能性は残しておきたいので。その一環ですわ。生まれて来た子には"運が悪かったですね"としか言えませんが」

 

「……ふふ、お前と"千の妖精"なら問題ないだろう。出来ると良いな」

 

「別にそれほど求めてもいません。無理なら養子でも取ります、今直ぐどうこうしたいという話でもありませんし。まだレフィーヤ様にも何の相談もしていませんから。現実と彼女の意思を尊重するだけですよ」

 

 

 そんな明るい未来を、是非とも見てみたいとシャクティは思った。

 もしかしたら自分の子より先に彼女の子を抱くようなこともあるかもしれないが、そんな残酷な未来の姿からは目を逸らしながら……

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