【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

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06.価値の証明

「………遅い!!」

 

「ま、まあまあ、シャクティ」

 

「何をやっているんだあの女は!集合時間も守れないのか!!自分で決めた時間だろうに!!」

 

「あ、あはは……クロエとルノアが連れてきてる筈なんだけど、2人もどこに行ったんだろうね」

 

 

 最大賭博場(グランカジノ)近くにあるガネーシャ・ファミリアのために用意された休憩所。作戦を決行すると決めた今日この日、この時間。けれど肝心な提案者が未だこの場所には来ていなかった。

 もしや逃げたのではないかとさえ思ってしまうほどに清々しく。

 

「絶対に説教してやる!」

 

 ……なお、彼女がようやくこの場に現れたのは、シャクティが流石に本気で心配し始めた、それから更に10分後のことであったりもした。

 

 

 

 

「はぁ〜!久しぶりに良いものたらふく食べたぁ!満足満足!」

 

「いやぁ!見知らぬ女の下僕役なんてふざけんな!って思ったけど、こんな良い思い出来るんなら文句なんて無いニャー!」

 

「ま、アンタは何やっても逃げられる立場じゃないけどね〜」

 

「"象神の杖"からの依頼なんて断れる訳ないニャ……ミャーがアイツにどんだけボコボコにされたと思ってるニャ……」

 

 

 

「……お前、何をしていた」

 

「散歩、視察、前報酬の支払い、その他諸々と必要ならいくらでも理由は出せますが。ご要望はあります?」

 

「……はぁ、もういい。そこまで言ったからには、本当に何の問題もないのだろうな」

 

「勿論、この件については既に根回しも済んでおりますので。賭博という性質故か、逆恨みや強欲が多く助かりました。ギルドも餌をチラつかせて黙らせましたし、ガネーシャ・ファミリアの団員達も本当によく働いてくれました。素晴らしく洗練された動きです、みな真面目ですね」

 

「……そうか」

 

「安心してくださいな。後は引鉄を引くだけ、それだけで全てが茶番と化す。こうして目の前に広がる黄金の世界が、瞬く間に赤へと染まることでしょう」

 

「……おい、爆弾を仕掛けたりしていないだろうな?」

 

「全員借金塗れの赤字に染まるという意味ですわ」

 

「お前が言うと洒落にならんからやめろ」

 

 

 本当に遅れてやって来た、彼女とクロエとルノア。後者2人のその様子を見るに、どうも作戦前に良い物を食べて少しの贅沢をして来たらしい。なんとも呑気なものであるし、ちょっとイラっとする。

 ……とは言え、シャクティとていい加減にわかるというもの。この女と口喧嘩をしたところで不毛でしかないと。ならばもう我慢して話を進めるのが利口な選択だ。無駄な労力を使う意味もない。

 

 

「さて、お初にお目に掛かります。リュー・リオンさま」

 

「貴女が……」

 

「此度の計画の提案者、グラナ・アリスフィアと名乗る者です。どうぞお手柔らかに」

 

「………」

 

 

 闇派閥に対する嗅覚が特に鋭い彼女は、恐らく確信まではしていなくとも、彼女を見て何かしら嫌な気配を感じたに違いない。そうして差し出された手は当然のように握らないし、明らかに顔を強張らせているのが側に居るシャクティにも分かる。

 彼女のその反応に周りの者達も気まずそうにしているし、それでもグラナは変わらぬ笑みを浮かべていた。リューのそんな反応さえも、まるで最初から分かっていたかのように。

 

 

「ふふ、まあ構いません。確かめたいことがあっただけですので」

 

「確かめたいこと?」

 

「……仮に残っていても、同じ反応をされたでしょうねぇ」

 

「?」

 

「お気になさらないで下さいな。……それと、事前に直接お話はさせていただきましたが。改めて今日はよろしくお願いしますわ、シル様」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします、グラナさん」

 

 

「なっ!?シル!?いつの間に彼女と会っていたのですか!?」

 

「え?3日くらい前かな、一緒に作戦も作ったんだよ」

 

「ええ。シル様のお力もあって、当初予定していた1/2の時間で目的を果たすことが出来そうです」

 

「頑張ったもんね〜♪」

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

「絶対酷いことになるニャ……」

 

「もうこれ相手の方が可哀想でしょ」

 

 

 そんなことを言いつつも、ここで引き返すはずなどない。

 

 基本的にはシルとリュー、グラナとクロエとルノアの2ペアで行動することとなっている。シャクティは警備の1人として見回りをしつつ、その時を待つ。手筈としては、そんなところ。そこまでの過程であれば、どれほど遊んでも構わないと言われている。

 

 

「では参りましょうか、マクシミリアン夫妻」

 

「……ええ、グラニア姫」

 

 

 予め用意しておいた衣装に着替え、彼等は"色々な手を使って"手に入れた招待状を持って、最大賭博場へと足を踏み入れる。

 

 フェルナスの伯爵であるマクシミリアン夫妻に偽装したリューとシル、小国ゴルゼの姫君に偽装したグラナ。クロエとルノアはそんなグラニア姫の下僕として振る舞うことになっている。

 

 

「ああ、そうでした。一先ずこれは元手としてお使い下さいな」

 

「え?……なっ!?」

 

「まあ」

 

「…………っ!?こ、この金はなんだ!?」

 

「各賭博場を巡って、目立たない程度に掻き集めて来ましたの。流石に少し時間はかかりましたが、これだけあれば十分でしょう?」

 

「……サボっていた訳では、なかったのか」

 

「ふふ。さて、それはどうでしょうか」

 

 

 仮にも伯爵や姫を名乗るのであれば、十分な元手がなければむしろ怪しいところ。札束の1つや2つ、持っていて当然。そしてそんなものを容易く使うこともまた説得力。

 掻き集めて来たその大金は、こちらを大客に仕立て上げるには十分なものだ。賭けをするというのに大した元手もなく1から掻き集めるような姿を見せる訳にはいかない。

 

 

「さて、では手始めに……クロエ、遊んで来なさいな」

 

「ふふん、任せるニャ」

 

 

「リュー、お願いね」

 

「ええ、必ずや」

 

 

 2ペアそれぞれに、周囲の視線を惹きながら堂々とした様子で最大賭博場へと入っていく。彼等のその堂々たる立ち振る舞いに、正体を疑う者など存在しない。3者それぞれに容姿が優れていることも重要だった。

 

 何より……

 

 

 (こうして見ると、本当に姫にしか見えないのが不思議だな)

 

 

 懐からこれ見よがしに取り出した札束をクロエに放り投げて、周囲からの視線を益々に集めながらも彼女の賭博の様子を後ろから見つめるその姿は。何処からどう見ても傲慢な姫君。

 金の価値など理解しておらず、いっそ下品なほどに飾り付けた衣服を身に付けた、それでも容姿だけは抜群に優れる馬鹿女。それを十分なほどに演じきっているその様子には、シャクティでさえも舌を巻いた。

 

 

 (クロエ・ロロとリオンの役割は、数ある賭博場の中でも完全な治外法権の場と化してしまっている"最大賭博場の貴賓室"に入るまでの荒稼ぎ。グラナとシル・フローヴァの実力を一切見せることなく、本命までの十分な元手を稼ぎながら周囲に存在を広めていく)

 

 

 つまりここで求められるのは、単純に賭博で勝ち続けること。負けを飲み込んででも、とにかく金を増やし続けること。それも目立つ形で、目を付けられるほどに派手に。どちらのペアも霞むことなく、アピールし続けること。

 

 

 (……しかしまあ、流石だな)

 

 

 

「ストレートフラッシュ」

 

「「「!?」」」

 

 

 

「はい的中ニャ〜、余裕〜。次はどうしよっかニャ〜」

 

「クロエ、もう倍賭けなさい」

 

「お、おおう、札束がポンと出てくるニャ……」

 

 

 客同士のポーカーを中心に稼いでいくリューと、賭博の定石通りに意外と手堅く稼いでいくクロエ。手堅いが故に倍率の少ないところをグラナが追加投資することで補い、そんなグラナの簡単に札束を出す様子に周囲からの注目はより集まって行く。

 

 ……なにより、彼等は本当に容姿が良い。立っているだけで男も女も目を惹かれる。そしてそれほどに容姿の良い女性が2人も居るのであれば、それはもう厄介な"豚共"から標的にされることも当然で。

 

 

 

「失礼いたします、お客様」

 

 

 

 (来た……!!想定より速い!!)

 

 

 

 そうしてクロエがなんとか定石と優れた動体視力で元手を3倍にまで増やした頃、ようやくスタッフからグラナに対して声が掛かった。少し離れた場所では、リュー達にも同様に別のスタッフが話しかけている。

 

 

 ……それに対してグラナは。

 

 

「はぁ、ようやくですの?」

 

「は……?」

 

「ようやく貴賓室(ビップルーム)に勧誘する気になったのかと言っておりますの。まったく、これだから判断の遅い愚図は困りますわ」

 

「え、あ、その……」

 

「いいわ、さっさと案内しなさい。クロエ、ルノア、行きますわよ。チップを持って来なさいな」

 

「はいは〜い」

 

「あ〜、緊張したニャ〜」

 

 

 どうやら、相変わらず傲慢キャラを貫いて行くらしい。

 

 あの傲慢さは作り物であるにも関わらず、実際の彼女はもっと別の形で傲慢なのだからシャクティは苦笑うしかない。これから起きる惨劇は、もうここまで来たら回避出来るようなものではないのだから。

 

 

【美しき処女(おとめ)達を食い散らかすようなカス共は、死んで償ってもまだ足りませんわ】

 

 

 少なくともこの件に関しては、シャクティは彼女を信用している。処女を何より尊ぶあの性悪ユニコーンは、確実に清純な乙女達を攫う獣共を許さないだろうから。

 ユニコーンを怒らせることだけは、何処のどんな国や世界であっても、絶対にしてはいけないことである。

 

 

 

**************************

 

 

 

「……その結果、サントリオ・ベガが繁華街から撤退したと」

 

「ふふ、完全勝利ですわ」

 

「僕達が遠征に行っている間に、君達は本当に何をしているんだ……」

 

 

 遠征から帰って来て早々に、頭を抱える悲しい勇者の姿がそこにある。

 

 そもそも今回の遠征自体がトラブルばかりで上手くいかなかったというのに、帰って来たら最大賭博場が撤退するような大騒ぎになっていたのだから。それはもう本当に頭が痛くて……

 

 

「イカサマで最大賭博場の金庫を空にして、更にそこから偽物だった経営者を丸め込んだ大勝負をして、カジノ側の負債を10倍にしたところまでは……うん、まあもういいとして」

 

「最後の大勝負、痺れましたわ。突然勝負を任されたルノア様の、一か八かの一発勝負。まさか初手で5カードを作り出すとは、教えたイカサマに運まで乗った渾身の一撃。フルハウスで喜んでいたお相手の顔が本当に無様で面白くて……」

 

「楽しめたようで何よりだよ……はぁ、それで一体どうやって娯楽都市サントリオ・ベガに手を引かせたんだい?普通なら無関係を主張して無理矢理にでも経営を続けるようとしただろうに」

 

「え?ああ。事前にギルドとガネーシャ・ファミリアを通じて、最大賭博場が確実に関係しているとわたくしが判断した案件について、連日しつこいほどサントリオ・ベガに直談判させましたの。被害者家族をまとめて、被害者の会を発足させながら」

 

「ああ……そういう……」

 

「すると今回の件はサントリオ・ベガとは無関係だ、という想定通りの回答を頂きましたので。最大賭博場の成り代わっていた経営者を捕らえて脅して丸め込み、かつ機に乗じてガネーシャ・ファミリア団員を総動員させ、全ての証拠を取り揃えました。事前に疑惑については各新聞社に別々の秘匿案件を売ることで迅速に都市内外へと流させていましたし、被害者家族達のサントリオ・ベガへの不信感と嫌悪感もこれ以上ないほどに煽っておきましたので。娯楽都市内の政治的抗争にも軽く触れつつ、犯罪組織への関与を匂わせ、ギルドからも正式な抗議文が出されたことで、爆発的に火種を大きくすることが出来ましたわ」

 

「表からも裏からも滅茶苦茶に……どうせその後も色々と脅したんだろう?」

 

「あの、人聞きの悪いことを言わないでいただきたいのですが。……まあ、そこから先の処理は全てギルドにお任せしましたので。仮に脅したとしても、それはわたくしではなくギルドです。どのような経緯でサントリオ・ベガが撤退することになったのかについてまでは、わたくしだって知りませんもの」

 

「なるほどね」

 

 

 まあ、そこまでするつもりはなかった、というのは半分本当なのかもしれない。しかし概ねの予想はできる。恐らくガネーシャ・ファミリアの探りによって、サントリオ・ベガでさえも無視出来ないような悪行が内部から見つかってしまったのだろうと。

 

 それこそ闇派閥への資金提供や、密輸など。ただでさえ『人身売買の温床になっていた』という、事前に正式に否定して来た案件が事実であったと広まるだけでも危ないというのに。その上で闇派閥の資金源にもなっていたとなれば、サントリオ・ベガという都市そのものが疑われかねない。

 少なくとも現都市上層部は顔を青くさせた事だろう。闇派閥の被害は決してオラリオだけのものでもないのだから。そうして落ちる信用もまた尋常なものではない。

 

 

(……いや、それだけじゃないか)

 

 

 人身売買に対して無関係だと発した直後に、それが事実だと判明した。となれば、次に浮上した闇派閥への資金提供疑惑などが広まれば、どれほど否定しても世間からは信用されない。民間人の娘の人身売買というのは、刑罰以上に世間からの目の方が厳しいのだから。

 それ故に落ち着いたのが、疑惑の黙秘願い、代わりの完全降伏、完全撤退。最大賭博場の管理権を完全にギルド側に受け渡し、経営破綻という名目で事を終える。闇派閥との関係を口外しない代わりに、人身売買等については責任を認め、誠意ある対応を行う。ギルド側もそれを支援し、闇派閥への関与についても黙秘することで、互いに今後の関係のための落とし所をぬくったと言ったところだろう。

 

 ……実際、闇派閥への資金提供はサントリオ・ベガが主導していたものではなく、最大賭博場内で闇派閥が密かに仕組んだものであるのだろうし。管理が杜撰であったことは事実とは言え、金を掠め取られた被害者でもある彼等をそこまで責め立てるのはギルドとしても本意ではない。

 それに、どうせまた時期を見計らって再誘致する事になる。その時は当初より厳しい条件にはなるであろうが、それも治外法権を認めない程度のものだ。娯楽に関してサントリオ・ベガを完全に外すような真似はしない、そこの辺りもあのギルド長なら既に話を付けている筈だ。

 

 

「そうして最大賭博場の管理権を手に入れたギルドは、他の賭博場に対しても強気に出ることが出来るようになった、と」

 

「実質的な治外法権の消滅……本当に、今のギルド長様は優秀なお方であられるのですね。まさかここまで淡々と話が進むとは思っていませんでしたわ。お陰様でこうしてゆったりと茶を楽しんでいられる」

 

「そこまでの道を舗装していた人物がよく言うね。どうせ他の賭博場についても元より概ね目は付けていたんだろう?……それこそ、作戦決行前にガネーシャ・ファミリアの団員でも使って。当日の騒ぎに乗じて明確な証拠を手に入れることも君なら出来た筈だ」

 

「ふふ。当初はそのつもりだったのですが、偶然にも素晴らしい駒を見つけてしまいまして。元手を稼いでいる間に彼女に潜入して貰いましたの。それ故に待ち合わせ時間には多少遅れてしまいましたが、特に大きな騒ぎを起こすこともなく証拠は揃えられましたわ」

 

「……つまり、繁華街にある賭博場の大半は既にギルドに逆らえない状態にあるということか」

 

「ええ。あとはギルドが欲に負けて暴走することがないか、それに尽きますわね」

 

「……やれやれ、これはロイマンも大忙しだろうね」

 

 

 しかし、それにしても流石に、今回の件はフィンも想像さえしていなかった。まさか自分が遠征に行っていた間に、彼女がこれほど大きく街の体制を変える事ができるとは、夢にも思っていなかった。

 

 特にシャクティだ。

 

 彼女がこれほどグラナに協力し、信用したことが、間違いなく今回の一件のキッカケとなっている。単純に彼女の口車に乗せられたのか、そうでないのかは分からないが。少なくとも闇派閥に妹を殺された彼女は、それでもグラナを信用した。その結果がこれだというのなら、フィン達も認識を改める必要がある。

 

 それはこのグラナ・グレーデという女の価値についても同様だ。僅かな期間で都市の問題を大きく改善して見せた彼女の手腕は、フィンの中で更に株を上げている。仲間に引き込めるのなら、何より優先して引き込みたい。今回の遠征の失敗を顧みても、なおさら強くそう思う。

 

 多少のリスクを孕んでいても、今の自分達にとって彼女の存在はあまりにも魅力的だ。それこそ、まあ、言っては悪いけれど……レフィーヤを差し出すことも、現実的に選択肢に入れていいくらいに。

 

 

「……グラナ、予定通り君を新たな団員の1人として紹介しようと思う」

 

「おや、いいのですか?1度公表してしまえば、もう引き返せませんよ?」

 

「構わない。勿論、直ぐに君に自由を与えることは出来ないし、団員達と自由に会話をさせることも出来ないが……その代わり、世話係としてレフィーヤを就けよう」

 

「!……条件は?」

 

「今のところはないかな。……強いて言うのであれば、僕達に利のある行動を求めたい」

 

「……ふふ、それはまた難解な要求ですこと」

 

「断るかい?」

 

「いえいえ、謹んでお受けしますとも。それでレフィーヤ様とお話し出来るのであれば、断る理由がありませんわ」

 

 

 レフィーヤは犠牲となったのだ。

 必ず助けるから大丈夫だぞと言われながらも、狙いを定めた肉食獣が眠る、檻の中に……彼女は放り込まれてしまったのだった。

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