【完結】殺帝の子   作:ねをんゆう

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08.取引と勘

 次の日からレフィーヤは、早速彼女の手伝いをしていた。

 

 

「あ、あの……お昼ご飯を届けに来たんですけど」

 

「ありがとうございます、レフィーヤさま。ささ、どうぞこちらへ」

 

「し、失礼します」

 

 

 満面の笑みで案内され、中へと入る。

 元は物置小屋だったこの部屋は、今はすっかり改築されており、トイレなりシャワーなり、生きていくだけであればもうこの中だけで完結できるような場所になった。

 

 彼女もまた部屋の中からは殆ど出ることはないし、レフィーヤが部屋を訪ねても本や新聞を読んでいる事が殆どだ。彼女の要望で紙とペンを持って来てからは、何やら物凄い量の記述をしていたこともあるが、それを言われるがままにフィンへと持って行ってみれば、彼は明確に苦笑いをしながら頭を抱えていた。

 

 

 (……でも、なんというか)

 

 

 まるで監禁されているみたいだ、と思ってしまう自分も居る。

 別に鍵を掛けられている訳でもないし、見張りが居る訳でもない。それでもそんな雰囲気が何処かにあり、この部屋の作り自体にもそのようなところがあった。特に鉄格子なんかが。

 

 

「あの……実はこの後、みんなで買い物に行く予定でして」

 

「おや、そうですか」

 

「良かったら、その……一緒に行きませんか?」

 

「……?わたくしと?」

 

 

 何となくその雰囲気が嫌で、誘ってみる。他の部屋にはない窓の鉄格子だったりとか、妙に厚めで締め切ったカーテンとか、そんな物のある部屋から引っ張り出してみたくて、思い切った。

 

 

「……ふふ、お気持ちは嬉しいですが辞めておきますわ。まだまだやらなければならない事がありますので」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ええ、浅学の身には自由に出来る時間さえありません」

 

「せ、浅学……」

 

「どうぞお気になさらず。わたくしはこうしてレフィーヤさまが時々お話しをしに来てくださるだけで十分です」

 

 

 彼女はそうして断った。

 立場上、知識を身につける事が大切であるということはレフィーヤにだって分かる。けれど、それはここまで引き篭もってでもすべきことなのかと疑問にも思う。

 

 レフィーヤからすれば、彼女を浅学などとは口が裂けても言えない。彼女が机の上に置いている本はリヴェリアが少し前に読んでいたものだと知っているし、それはレフィーヤが『お前が読むにはまだ少し早いか』と言われお預けされたものでもある。この時点で彼女は既に今のレフィーヤより遥かに多くの知識を身に付けている。

 

 それでも足りていないというのなら、レフィーヤだってこうして遊んでなど居られないだろう。しかし同時に、それほどのレベルを彼女は要求されているのだろうかと、何とも言えない気持ちにもなる。

 

 

「あの……勉強が終わるまで、部屋からは出ないんですか?」

 

「……さて、どうでしょうか。少なくとも団長様に合格を頂けるまでは、このままでしょうね」

 

「合格?試験みたいなのがあるんですか?」

 

「ふふ、内緒です。……とは言え、わたくしの役割は緊急時でもなければ必要のないものですから。レフィーヤさまも、それくらいは団長様から聞いているでしょう?」

 

「それは、まあ……」

 

「予備というものは、基本的にそういうものです。必要になるまでは穀潰し、必要になれば不足を責められる。当人に出来ることは、持てる役割を増やすか、不足を責められることのないよう日頃から努力しておくことだけ」

 

「……」

 

「特にわたくしは外様ですからね。努力を怠り、失敗でもしようものなら、何を言われるのか分かったものではありません」

 

「そんなことは……」

 

「少なくとも、責めやすい相手というのは事実。加えてその失敗で人死が出ようものなら、どうです?」

 

「……」

 

「必要な努力なのです。自分の身を守るためにも」

 

 

 たった1度の失敗で責め立てるような人達じゃない、などとは言えなかった。だってレフィーヤは知っている。酒場で話していた通り、彼女は外から来た人間であり、信頼などされていないと。

 もしそんな彼女の指示で友人が亡くなったとして、果たしてそれでも『仕方のないことだった』と言える人物は、一体どれだけ居ることだろう。もしかしたらレフィーヤだって、その時になれば……

 

 

「……ごめんなさい、何も分かっていませんでした」

 

「謝っていただく必要などありません、そのような暗い顔をしないで。それにわたくしだって、今こうしてレフィーヤさまを利用しています」

 

「利用……?」

 

「少なくとも、レフィーヤさまだけは、わたくしの努力を知ってくださっているでしょう?」

 

「……!」

 

「相手の努力を知っているのであれば、失敗してしまっても責めにくくなる。そうしてわたくしは今レフィーヤさまを利用しています」

 

「そんな、そのくらい……」

 

 

 ……生き辛そうな人だな、と。

 自分のことながら失礼な物言いだとは自覚しつつも、レフィーヤはそう思ってしまった。多かれ少なかれ、その程度のことは誰しも無意識ながらもしていることだろうに。

 

 

「あ、あの……それって本当に、1日くらいでも駄目なんですか?」

 

「1日……?」

 

「1日くらいなら、時間とかって……貰えないですかね」

 

「それは、どういう……」

 

「……今度、"怪物祭"っていうお祭りがあるんです。だからその、もし良かったらで良いんですけど、私と一緒に……い、行きませんか?」

 

「!」

 

「駄目……ですかね」

 

 

 彼女にしては珍しい、本当に驚愕した顔を見て、なんとなくレフィーヤは嬉しく思う。それにこんなことを言って、返ってくる回答だって概ね分かっていた。自分のことを好いてくれている彼女が、自分の誘いを断るはずがないと。

 

 

「……勇者様に相談してみますわ。大凡問題はないでしょうけど」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ええ、せっかくのお誘いなのですから。どんな手を使ってでもご一緒させていただきます。……ええ、どんな手を使ってでも」

 

「あ、あはは……」

 

 

 これはもう多分確実に大丈夫なのだろうなぁと、レフィーヤは思った。その代わりフィン達はまた頭を抱えることになってしまうだろうけれども。

 自分からも後で謝っておこうかなと、レフィーヤはとりあえず笑うことにした。

 

 

 

**************************

 

 

 

「ああ、うん、もういいよ、好きにしてくれて」

 

「あら、これまた話が早くて助かりますけれど」

 

「この手のことについて議論は無駄だってことは、いい加減に分かるからね。ことレフィーヤのことについてなら、君はどんな手を使ってでも実現させるだろう?」

 

「ええ、それはもちろん。話が早くて助かりますわ」

 

「そもそも君が提出して来たこれのせいで、僕は今それどころではないんだ」

 

「それを見越してのものですから、当然ですわね」

 

「やれやれ……さてはレフィーヤからの誘いが来ることも承知の上、というか、そうなるように会話を誘導しただろう?」

 

「ふふ、それはどうでしょうか」

 

「はぁ……まったく」

 

 

 珍しく部屋を出てフィンに直談判しに行ったグラナは、そうしてレフィーヤとの件について容易く許可を貰うことが出来た。というかフィンも諦めていたらしい。まあそもそもレフィーヤを彼女の手伝いにつけた時点で、2人で出掛けることくらいなら許容の範囲内だったということか。

 

 なによりフィンにとっては、本当にそれどころではないという気持ちの方が強い。

 

 

「それにしても……"闇派閥拠点がダンジョン内に存在する可能性"とは、また大きく出たね」

 

「正しくは"ダンジョン外"ですが。ダンジョンに繋がる別通路を構築している可能性は現実的に見てもいいのでは?そのような通路を作っているのであれば、大部屋の1つや2つもあるでしょう」

 

「それこそが最大賭博場も含め掻き集めていた資金の使用先ということか……そしてオラリオを経由せずダンジョンに潜れるのなら、戦力の増強と資材調達も可能」

 

「仮にそれが暗黒期からあった場合、死亡したと目されていた人間が生きていてもおかしくありませんわね」

 

「……ヴァレッタ・グレーデ」

 

「状況的には限りなく低い可能性ですが、案外生きているのでは?」

 

「その可能性については僕も考えてはいた。……だが、それほどの規模の通路を秘密裏に作れるのか?今日まで誰にもバレることなく」

 

「別に協力者の候補ならいくらでもあるでしょう。オラリオが独占しているダンジョンの恩恵を掠め取れるのですから」

 

「……ああ、なるほど。確かに暗黒期の最中であればそれもあり得る。当時は闇派閥から甘い蜜を啜ろうとしていた連中も多く居た。魔石製品によって莫大な富を生み出しているオラリオを破綻させようとしていた都市や商人が後を絶たなかったくらいに」

 

「あくまで、わたくしが闇派閥側であればそれを優先するという話ですので。無ければ無い方がいいのですが……」

 

「いや、これについては改めて調査をさせる。ガネーシャ・ファミリアにも協力を仰ぐつもりだ」

 

「付け加えるのであれば、わたくしなら入口の隠蔽に何かしらの仕掛けをするでしょうね」

 

「であれば、怪しい場所を直接掘ることも1つの手か……ここはガレスの出番かな。土地形状から考えれば、いくら範囲が広くとも多少は位置を絞ることは出来る」

 

「流石は勇者様、対処がお早いことで」

 

「ここで動かないと、君を確保した理由がなくなるからね。正しくこういうことを僕は君に期待していた」

 

「それは何より」

 

 

 最大賭博場からの資金提供は、あくまで経営陣さえも見過ごしていた程度のもの。しかし諸々を洗った結果、長期間の提供による総額は、1つの組織を維持するには過剰なほどの額になっていたことが分かった。そしてここだけが資金源ではないこともまた、容易く想像出来る。

 

 ……闇派閥の残党がどうしてそれほどの金が必要になるのか、一体何に使っているのか。その回答とは、闇派閥は残党と呼ぶには大き過ぎる規模を未だに保持しているという可能性。それこそがフィンとグラナが共に至った認識。

 

 

「単なる組織であれば、対処は容易い。……だが闇派閥の恐ろしいところは、確実に何かしら勝算を持って動いているところだ。そして神々の中には闇派閥の存在を有益だと思っている者が一定数居る」

 

「まあそうでしょう。わたくしもそう思いますわ、闇派閥は下界の成長のためには有益であると」

 

「……」

 

「それについてどうこう言うつもりはありませんが、今の都市の状況を見るに、仮に闇派閥と敵対した場合、前線に立つのはロキ・ファミリアでしょう?レフィーヤさまが巻き込まれる以上、あなた方にも準備だけはしておいて頂かなければ困ります」

 

「……敵の行動についてどう思う?」

 

「今は準備の段階では?闇派閥の残党と呼んでいた者達も含め、不自然なほどに動きが少な過ぎます。勝算については何かしら確立しているでしょうね、そうでもなければ金の流れが多過ぎるので。ここを見ていただければ分かりますが、この月から急激に資金の抜き取りが増えています。目立たないギリギリのラインでしょうね」

 

「そうだね、そこは僕も概ね同意かな。まだ対処は可能……とは言え、月数から考えても明日にも勝算とやらが完成する可能性は十分にある。やはり楽観視は出来ないか」

 

「他に何か不自然なことはありませんの?オラリオやダンジョンで起きた異常事態なんか。この際もう何でも構いませんが」

 

「………」

 

 

 グラナの言う通り、闇派閥の動きはあまりにも少ない。それこそフィンでさえも闇派閥は既に壊滅していて、今動いているのはその残党に過ぎないと、直前までそう思っていたくらいに。

 

 

「……ダンジョン50階層」

 

「は?」

 

「僕達は今回の遠征中に、ダンジョン50階層で未知のモンスター群と遭遇した。それこそ他モンスターを積極的に襲い、その同類の親玉のような存在まで現れた。アレはこれまでのどのモンスター達と比較しても、明らかに異常な存在だった」

 

「……話が上手く掴めませんが」

 

「そのモンスターが落とした魔石というのが、これだ」

 

「!」

 

 

 通常とは違う色の魔石、それは乱戦の最中にティオネが回収したものである。けれど、であるならば、そこからはいくらでも想像を広げることは出来る。

 他ならぬこの2人ならば。

 

 

「闇派閥が、モンスターを作り出したとでも……?否、核となる魔石を作り出す技術を手に入れた可能性?確かに否定は出来ませんが、あまりに非現実的な話なのでは?不自然な出来事を出せとは言いましたが、これは流石に……」

 

「だがそれなら十分に勝算になり得る。50階層なんて階層にまで手が及んでいるとは考えたくもないが、ゼウスの時代まで遡っても記録のないモンスターだ。異常事態には違いない。……そして仮にあれが地上に這い上がって来れば、オラリオの被害は甚大だ」

 

「……ダンジョン側のイレギュラーと考えた方がよっぽど納得出来る話ですわね。いくらなんでもロキ・ファミリアほどの力がなければ到達出来ない50階層で、それほどの規模でモンスターを作り出すなどと」

 

「本当に、完全にあり得ない話だと思うかい?」

 

「……そもそもダンジョン内にそういった機能を持つ何らかがあり、闇派閥がそれを利用しようとしている可能性。作り出したモンスターを利用して深層まで潜り、闇派閥が50階層付近に根城を作っている可能性。若しくは既に通路を50階層付近まで繋げている可能性。限りなく低い可能性ではありつつも、どれも完全な否定までは出来ないでしょう」

 

「かつては邪神エレボスが闇派閥を乗っ取り、ゼウスとヘラの眷属を連れてオラリオを襲った。今回も同じようなことを考えた神が居て、それを成すことの出来る何かを用意して来た。……闇派閥が活動を続けていること、そして何らかの勝算を準備していることはほぼ確定させていい。その勝算の内容については、正直どれだけ馬鹿げたものであっても僕はもう驚かない。それだけの経験をして来たつもりだ」

 

「……長年闇派閥と戦い続けた貴方が言うのであれば、そうなのでしょう。流石に後はお任せしますが」

 

 

 モンスターと闇派閥の関係を結び付けるのは早計であるし、ここまでグラナがフィンの発言に疑問を持つのも仕方がないことだと言える。しかしフィンからしてみれば、それは大いにあり得る可能性だ。

 モンスターを操る術を得た、モンスターを作り出す術を得た、そういうモンスターや機構を見つける事が出来た。正直なんでもありだと思っている。

 

 

(7年前の時、アルフィアは正規の入口で侵入が確認されなかったにも関わらずダンジョン内に現れた。通路のような存在はほぼ確実にある。そしてザルドとアルフィアが向こうに居た以上、ダンジョン深層に関する何らかの情報を闇派閥が持っている可能性も否定出来ない)

 

 

 こじ付けもあるが、何よりフィンの勘が言っている。それはけっして親指のそれではなく、冒険者として闇派閥と戦い続けた彼本来の勘が。

 

 

 

 

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