とある護符の四大使い(エレメンツクァルテット)   作:はらさきりいあ

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第四編 戦闘

*上条サイド*

 

 

 

品咲行火(しなさきあんか)……かよ?!」

「っ、カミやん!声を出しちゃあ意味無いぜよ。相手の様子を窺うべきだぜい」

 

 と上条は土御門に(たし)められたので口を(つぐ)むことにした。土御門は品咲の周りのルーンのカードや魔法陣を一通り眺め憮然(ぶぜん)とする。

 

「まさかの品咲は魔術師で、しかも相当のやり手っぽいぜい……。それで扱うのが水ってのは黒ノ式は使えないってことかにゃー」

 

 という所で品咲がカツン、とクラシカルロリータのブーツをならした。その後上条の方を振り返った。

 

「(気付かれたか?!)」

 

と上条は身を固めると品咲は昼に見せた様な満面の笑みは違った笑い方で上条らを見て、

 

「あーあ、見つかっちゃったかぁ……、まぁ、いっか。じゃ、いらっしゃいな?」

 

 手招きをした。土御門の方を見ると「まぁ、そうすべきだろうにゃー」と頷いていたので上条は人気(ひとけ)が全くない交差点へと向かった。

 

「ったく何で一緒に土御門クンも居るのか分からないけれども、まぁ、いいんだけれども。魔術については分かるんだよね?じゃあ、名乗ろうか。私は品咲行火……正しくはアンデリカ。アンデリカ=フォン=ビンゲン。魔術について知ってるなら分かるんじゃないかな?」

 

 上条は「は?」とポカンと口を開けていたが土御門は苦い顔のまま、

 

「っ、まさかヒルツァガルド=フォン=ビンゲンの末裔(まつえい)……とでも言うのかにゃー?」

 

「おー、そうそう。それなら土御門クンの方が魔術は分かるってところかな?」

 

 上条は話についていけなくなったため観察してみることにした。辺りはただの交差点だ。しかし、人が全くいない。おそらくさっき土御門が言っていた【人払い】の影響だろう。確かに辺りにルーンのカードが大量に貼ってある。

 

「それでなんだ?アンデリカ。お前の魔術はルーン魔術ってところぜよ?」

「あぁ、そうだよ?じゃあ発動させようか?」

 

 とアンデリカは交差点の中心の魔法陣に入って詠唱を始めた。

 

「世界を構成する五大元素の一つ、無限なる水よ。

 それは生命を作る必然の滴にして、総てを飲み込む鎮圧の滴なり。

 それは雄大なる地を幸福を満たすと同時、奢れる者を滅する凍える不幸なり。

 その名は水、その役は槍。

 顕現せよ、我が身を喰いて力と為せ善を成す殉教者(ボファリニティウス)』!!」

 

「な……なんだよ、『魔女狩りの王(イノケンティウス)』みたいな詠唱じゃないか……」

 

 思わず上条は動揺する。脳裏を(かす)めたのはイギリス清教の赤髪の神父だ。

 

「あぁ、本当だにゃー。そもそも魔術自体『魔女狩りの王』に似ているぜよ。まず最初にルーン魔術であること。それにあの魔術……教皇級とは行かずとも枢機卿(すうききょう)級は軽く(しの)ぐ所だろうにゃー…。」

 

 予想外の強敵の登場にプロの土御門でも驚きが隠せない。そのサングラス越しの視線の先にあるのは水で出来た水神様の様なものだ。上条は木こりの寓話に出てくる女神様の様だなと思った。

 

 アンデリカは魔法陣から出ずに

 

「ふんふーん。いつ攻撃してもいいのよー」

 

 と挑戦的な目つきで上条達を見る。水神様のような『善を成す殉教者』はアンデリカの前に構えるように付いている。

 

「どうするか?」

 と横にいる土御門に小声で訪ねてみる。

「……正直言うと手づまりだにゃー。ん、じゃあ、そうするかにゃー」

 ぱっと名案が思いついたように土御門はニヤリと笑う。げ、と上条は一筋の冷や汗をかきつつ

「な、なんだ……?」

 と顔が引きつるのを抑えつつ聞く。

「よし、Let's Goだにゃーカミやん!」

 すると土御門は上条の背中を思い切りどん、と押した。うっそおっッ??!!と上条は驚愕しつつ、

 上条は右手……幻想殺し(イマジンブレイカー)を突き出しつつ『善を成す殉職者』へと走る。

 

 そして響く甲高い破壊音。

 

 『善を成す殉職者』はぐにゃりと形を失った。魔女狩りの王も同じように幻想殺しで触れると一旦姿を失ったがこれは一時だけであり、一時(いっとき)経つと再び立ち上がった。その経験から上条は警戒しつつ形を失った善を成す殉教者を見つめていた。

 その奥にいたアンデリカはふふん、と余裕気に笑いブツブツとなにかを呟いている。

 

 すると上条の読みは当たり再び善を成す殉教者は立ち上がった。

 

「って、やっぱりそうなんですかぁぁぁああっ!!!」

 

 と、上条は思い切り逃げる。あんな化物相手にしてられるものか、と思いながら。

 

 

*アンデリカサイド*

 

 

 

「……ったくありえないよねぇ、大監督(だいかんとく)さん」

 

 アンデリカは正直言うとガッカリしつつ通信用の霊装になっているリボンに話しかける。相手はお馴染み、苦労性のドイツ福音詩想派(ふくいんしそうは)大監督・ヘトヴィッヒ=メンゲルベルクだ。

 

『おいおい。諦めんなよ。あぁ、そうだ。アンデリカ?』

 ヘドヴィッヒはニヤついた声でアンデリカに話しかける。

 

「むぅ、何なの?大監督さんやぁ」

 

『聞いて喜べ、アンデリカ。……もう、俺は我慢できねぇ。よって。学園都市ごともう乗っ取って良い。俺…ドイツ福音詩想派大監督・ヘドヴィッヒ=メンゲルベルクの名においてこれを認めるからな。さぁ、存分に力を発揮するがいいさ』

 

 その瞬間アンデリカは頬を(ほころ)ばせた。いや、そんな可憐なもので無くにたにたと口角を上げて笑った。

「ふ、ふふ。ねぇ、大監督さんやぁ。それ、本当なのよねぇ?」

 アンデリカは笑いをこらえきれずに大監督に聞く。

『あぁ。本当だ。夢じゃあないんだよ』

「りょうかぁぁい☆」

 

 とアンデリカはgoサインを受け取った後上条の方を向いた。そこからガツンとヒールで地を大きく踏み詠唱を始める。

 

「無は無に。流は流に。水に埋もれし(ともしび)よッ!!」

 

 アンデリカの右手に水が集まり槍と化す。それは「湖泉の神(ネプトゥーヌス)」が持つ「三つ先の槍(トリアイナ)」の様に見えた。

 水槍をアンデリカは地に突き刺す。そして上条らに聞こえるように叫んだ。

 

 

「おぉい上条当麻クン?これから私達ドイツ福音詩想派は学園都市を乗っ取りますからねぇ?」

 

 

 ……この一言で物語は大きく変わる。

 

 

 

 

 

*土御門サイド*

 

 

 

 ……おかしい。アンデリカの戦闘の様子を観察していた。

 善を成す殉教者という枢機卿級を軽く凌ぐ魔術を使ったとしても少しは動くはずなのだが、アンデリカは全く動かない。

 

 何も動かずに耳元の赤いリボンに話しかけている。おそらくは霊装の一種だろう。昼にリボンの一つが解けて上条が幻想殺しで触れた時に散り散りに弾け飛んだからだ。

 

「(……辺りのルーンに何か細工が?)」

 と思い土御門は自分の後ろにあったルーンを観察する。

 ステイルの使うルーンと同じようにコーティングがしてある。文字は水……に氷、もうひとつは見たことが無いルーンだ。とはいえ、土御門の専門は陰陽や風水であってルーンは人並みの知識しかないのだが。

 

 ……視線をアンデリカの足元に移す。

 円を五等分し、五芒星を描き文字が刻んである至って普通の魔法陣だ。

 

 文字は……「聖母崇拝を用い我に力を」……というところか。

 

 

 

「(───『我に力』……を?)」

 

 

ピクリと土御門の眉が上がる。

 

 

「(ま、さか……。そのために動かなかったのか?!)」

 

 

「カミやんッ!分かったぜよぉっ!!」

 

 土御門は上条へと向かって叫んだ。

 

 

 

*そして上条サイド*

 

 

 

「な、なんだよ?!」

 

 上条は逃げる+土御門に呼ばれたためさらに走る。2,3分走ると土御門の元に着いた。

 

「分かったぜい。これが、アンデリカを倒すポイントだぜい……」

 

「勿体ぶるなよ、しかもアンデリカは学園都市を乗っ取るとか言ってやがるじゃねぇかっ!!」

 

「まぁ、落ち付け。カミやん。アンデリカの足元の魔法陣、あれさえ壊せば大丈夫なはずだぜい」

 といって土御門はアンデリカの足元の魔法陣を指さす。アンデリカは五芒星の右端に立っている。より詳しく見ると、クラシカルロリータの厚底ブーツで強く魔法陣を踏んでいる。上条は知らないことだが、アンデリカが立つ五芒星の右端とは「(aqua)」の守護位置である。つまり、アンデリカが魔術の保護を受けるのには最も相応しき場所だ。

 

「……それ本当だよな?ここで冗談(ジョーク)は笑えねえぜ?」

 

 真剣な面持ちで上条は問う。それに対し土御門は、

 

「あぁ、取りあえずは打開策だと思うにゃー」

 

 と気楽に回答する。そして上条は再び走り出す。先ほどのように他意によるもので無く、自ら走りだした。土御門は走りだす背を見送りつつ、ボソリ、と呟く。

 

「──『ドイツ福音詩想派』っていったいたな。それにしてもなぜ魔術サイドの一摘(ひとつま)みに過ぎない『ドイツ福音詩想派』が……?とはいえ、報告する価値はありそうだにゃー」

 

 

 アンデリカは『善を成す殉教者』に指示を送る。走りだした上条を迎え撃つために。『善を成す殉教者』はゆらりと身を動かす。それに加えアンデリカはルーンのカードをばら撒く。ここで徹底的に上条を潰しより乗っ取りやすくするために……。

 

「──異教徒を打ち破りし、氷脈氷(ひょうみゃくごおり)よ。いざ、我の前に鮮明に立ち上がらんッ!!」

 

 詠唱を済ませるとアンデリカの魔法陣に氷の壁が築かれた。しかし、上条は止まらない。その右手を前に差し出しながら疾風(はやて)の如く、走り続ける。そしてその幻想殺しの中指が氷の壁に触れる。ピキィィィンッ!!!!と響く破壊音。

 

「善を成す殉教者ッ!外敵(がいてき)を流しつくせッ!!」

 

 その整った顔を歪ませてアンデリカは指示を出す。すぐさま善を成す殉教者はアンデリカの前に立塞がり上条を阻もうとしたが、

 

「ったく、邪魔なんだよッ!!」

 

 と上条の幻想殺しにより形を失う。またか、とアンデリカは、ニタリ、と笑ったが上条はそこで突っ立たずに走った速さのままアンデリカの足元の魔法陣に右手で触れる。

 しゅう……、と魔法陣は雨が降った時の白線の様に(にじ)みながらアスファルトの道路に消える。

 アンデリカは表情を凍らせて、下にいる上条に視線を向ける。

 

「……これ以上俺たちの学園都市を乗っ取って幸せを奪うってんなら……」

 

 上条はアスファルトの地面に向けていた視線をアンデリカに向け、

 

「その幻想をぶち殺すッ!!」

 

 アンデリカにアッパーが入った。ふわりと羽毛のように、アンデリカの体が飛ぶ。

 上条はアンデリカの落下地点に手を置いて、衝撃を緩和し、ぼそりと何かを呟いた。だが、それは誰の耳にも届かなかった。

 

 ある日の暗い夜のことだった。

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