原神 自分を一般人だと思い込んでいる主人公の兄 作:アリエイルでしょ
モンドでの生活も慣れてきて蛍の友人たちに挨拶も一段落ついてきた頃、モンドを歩きながら璃月にそろそろ移動しようか…などと話をしている最中、ふと視界に見覚えのある人物が映る。確か彼女は――
「それなら出発は明日辺りで… 今度こそ途中にアカツキワイナリーに寄ってディルックの旦那に―― って聞いてるか?」
「ん? あぁ、ごめんパイモン。あそこに居るの、エウルアじゃないかって思って」
そういって蛍とパイモンに彼女の居る方向を指して示す。
「んん~…? おお、確かにエウルアだな。遠いのに良く気がついたな」
「結構目立ってたからな。蛍、彼女にも挨拶しておこう。モンドも離れるし、この機を逃したら次にいつ会えるかわからないだろ?」
「そうだね。早速声を掛けに行こう」
おそらく任務帰り、やはり周りとは距離があるのか、さも当然の様に1人で行動しているエウルア。…疲れているところ迷惑かもしれないが、挨拶は早いところ済ませてしまおう。
「エウルア! 久しぶり、私のこと覚えてる?」
エウルアに近づいていき、蛍がそう声を掛けるとやや俯き気味だった彼女は顔を上げる。蛍と久しぶりに再会して機嫌が良くなったのか、やつれていた表情が目に見えて明るくなっていくのがわかる。しかし…
「蛍にパイモン…? 復讐の前に君たちを忘れるわけがな―― ……隣に居る貴方は誰かしら…?」
「え、俺?」
当然の様に蛍の横に居る俺に対し、警戒している素振りを見せるエウルア。その視線は俺と蛍の繋がれた手に向いていた。
そういえば彼女は結構主人公である蛍に対し好感を持っているタイプだったと記憶している。これは…やらかしたか? そんな目で見ないでくれよ。
「コイツは空だ! ようやく見つかった蛍の兄妹だぞ!」
「どうも、蛍と仲良くしてくれてありがとね」
「………。彼、お兄さんなの?」
「うん。本物だよ」
パイモンに紹介してもらい、俺からも挨拶をするも信用されている感じがしない。蛍から本物と言われてもなお疑いの目で見られている気がする。
蛍があれだけ色々な人に捜索依頼をしていたのに認知されていなかったのかな。それとも俺が偽物だと理解してこういった反応をしているのか… どちらにせよ警戒心が高い子だなと思った。
「確かに君によく似ているけれど、本当にお兄さんなのかしら。そもそも兄妹ならそういう手の繋ぎ方はしないと思うわ」
「あ」
「あー… なんていうかその…アレだ、コイツらは大の仲良し兄妹だからな!」
最近はもう街の人からの理解を得られたのか、変人兄妹と認識されたかは知らないが蛍と手を繋ぐことで視線を感じたり、何か言われることがなくなっていたから油断していた…
外から帰ってきた彼女からしたらこの光景は十分異常事態だったらしい。それはそうだ、気にしてなかったけど恋人繋ぎだぞこれ…
「おっしゃる通りで… 今更だけど普通にやつにしてくれない?」
「それは嫌。大丈夫だよエウルア、これちゃんとお兄ちゃんだから」
「…ちゃんとお兄さんならそれはそれで問題がありそうだけど…わかったわ。…変に勘違いさせられたこの恨み、覚えておくわ」
「えぇ… なんの恨みなんだそれって」
「彼女に胡散臭い彼氏ができたんじゃないかと思わされた恨みよ」
「理不尽過ぎない?」
パイモンの浮かべた疑問に、さも当然のように答えるエウルア。どうやら俺は胡散臭いらしい。
「いつか復讐させてもらうわ。私はエウルア・ローレンス。西風騎士団遊撃小隊隊長で罪人の末裔よ、よろしく」
「大層な肩書をお持ちで… よろしくね」
物騒なことを言っているが冗談という風に考えておこう。どうせ復讐される頃には元の世界へおさらばだ。多分。
「それで、私に何か用? 久しぶりに会えたところ悪いけど、私はこの後騎士団に報告しに行かなければならないの。用があるならその後で良ければだけど時間を――」
「大丈夫、用件はお兄ちゃんが見つかったってエウルアにも伝えたかったってことだから。もう済んだよ」
「………そう、わかったわ。再会できてよかったわね、祝福するわ」
「ありがとう。ごめんね、時間取らせちゃって」
「構わないわ、この恨みも覚えておくから」
……あれ。なんか彼女、用事が済んだ後一緒に過ごしたい感を出してたけどスルーする感じか? 今言ってた恨みは冗談じゃではないような気がするけど… いいんですかね、それで。
「ふぅ! 璃月に向かう前にエウルアにも会えてよかったな! まあモンドの知り合い全員に挨拶できたわけじゃないけど… それはまた今度だな!」
「そうだね、璃月に向かう道中で少し寄り道とかして、レザーにも会えたりできればいいけど…」
エウルアの前で明日以降の予定をボロボロと話し出す2人。勿論悪気はないのだろうが、今ここで言わなくても… 蛍もパイモンもおそらく気がついていないみたいだけど、エウルアの表情は割とわかりやすく曇っている。久しぶりに会ったのだから接し方とか、もっとこう…あるだろう!!
仕方ない、ここは俺が一肌脱いで蛍とエウルアの関係性が拗れないようにしてやるべきだろう。友人は大切にすべきだしね。
「…あ、ああーっ…! 折角こうしてエウルアとも会えたんだし、夕食でも一緒にどうだろう!? 明日発つのなら今日がモンドで過ごす最後の日ってことになるし――」
「…!」
慣れないことをして若干棒読みっぽくなってしまったが、助け舟を出すことに成功した。エウルアの表情に明かりが戻る… これにて一件落――何故だろう、繋がれた手が焼けるように痛い。不思議だね。
「いきなりどうしたの? なんでエウルア口説いてるの? ねぇなんで?」
「夕食っ いいな! だったら今日はキャッツテールの方に行かないか?」
「えっと… こ、これは口説かれているの?」
「違うっ! お、落ち着け蛍…! 俺の手を粉砕するつもりか…!? ただ挨拶だけしてすぐお別れっていうのは味気ないと思って……!!」
前言撤回、一件落着なんて全くしていない。助け舟で出したつもりだった船はただの泥船だ。むしろなんだこの混沌とした状況は。エウルアはやや顔を朱に染めてうろたえ、パイモンは既に何を食べるかに意識が持っていかれている。蛍なんかは見るまでもないだろう、声色からして怒っている。
「なんだ、急に誘うから下心でもあるのかと思った。相手に迷惑だから駄目だよ、そういうのは」
「下心とか…ないよそんなの。そして迷惑かけてるのは蛍ね、しかも主に俺に対して」
「そう、そういうことね。この私を揶揄うなんて… この恨み、絶対に忘れないわ!」
「今の話聞いてた? 別に揶揄う意図なんてどこにも――」
「なあなあ! 今日ディオナってキャッツテールに居るかな? 明日出発って言ったらなんかサービスとかしてくれたりなんかしないか!?」
蛍の声色は元に戻ったが、まだ手には力こもっており未だに手を握りつぶされている最中だ。
もう駄目だ、ここに居る全員、誰も人の話を聞いていない。
善行をした結果がこれか… これからはもう少し利己的に生きていくようにしよう。彼女との出会いはそう考えさせられた出会いだった。
――因みに、この後行ったキャッツテールでの夕食は普通に美味しかった。ディオナも猫も可愛かったしね。