原神 自分を一般人だと思い込んでいる主人公の兄 作:アリエイルでしょ
「あ、貴方たち…まさか、一緒に眠っているの?」
「…え、なんだって?」
いや、流石にこの言い訳は苦しい。助けてくれパイモン! って思ってもパイモンはグゥオパァー連れて先に休んでいる。自分でなんとかするしかない。
そんな中、視界に映る刻晴の表情は怪訝だ。先ほどの蛍の失言に対して普通にドン引きしているように見えるのは気のせいじゃないだろう。自分が刻晴の立場なら同じような反応をするだろうしね。
「兄妹で同衾だなんて… ふ、不純よ!」
「同衾って… 何を想像してるかは聞かないけど、なにもないよ」
「私はあって欲しいけど」
「………ん?」
続く問題発言により一層雰囲気が気まずくなる。まあ一緒に眠っているまでは事実なので最悪知られてもいいが、俺が妹に手を出す変態と思われるのは納得がいかない。 蛍に対してそういったやましい気持ちを抱いたことはないしね。
というより、そもそも蛍が若干乗り気であるのも怖い。怖いから考えないようにしていたけど、薄々感づいていたが、やはり親愛とは別の感情をぶつけられているのだろうか。
「とにかく、事情があって同じ部屋で寝ているだけだから…」
「大体一緒に寝る事情って何かしら… 普通そんなことにならないと思うのだけれど…」
俺たちの関係性を訝しむ刻晴。その極めて真っ当な考えには同意せざるを得ないが… 蛍は少し、いや大分話が通用しない相手だ。そのことを彼女は知らないのかもしれない。 …いや、俺に対してだけ会話が成り立たないのか?
とりあえず刻晴は何とか言い訳を紡いで誤解を解いておこう。失礼な話にはなるが、彼女の交友関係的に誤解されたままでもあまり問題はなさそうだけども、俺が妹と同衾するシスコン野郎と思われるのが嫌だ。
「えーと… すごく簡単に説明すると、以前はぐれた際に色々あって、逃げないようにって拘束目的って感じで… 俺としてはその時も今も逃げる気なんて更々無いんだけど、蛍が納得しないみたいだから」
「心配するに越したことないでしょ。お兄ちゃんはフラッとどこかに行っちゃうこともあるし…」
「なるほど… じゃあずっと手を繋いでたのもそういう理由?」
「そう。こうやって誤解されるから勘弁して欲しいんだけど… 手、離していい?」
「駄目」
いつも通り爆速で拒否する蛍。あ、シスコンを疑われたときにこのやり取りを見せれば俺が被害者だと迅速に伝えることができるかもしれない…?
「…まあこんな感じで却下されるから。はねのけるとかは出来ないし、したくないからね」
「なるほど…」
事情を説明したことにより、どちらかというと俺よりもおかしいのは蛍ということがわかったのか、刻晴のこちらを見る目が変質者へ向けるそれから被害者を憐れむような視線へと変わっていた。
「理解したわ。その… ごめんなさい、変に勘ぐってしまって」
「いや、悪いのは蛍だから」
悪いのは逃げるお兄ちゃんでしょというツッコミが入るが、当然聞こえない振りをする。俺は逃げた覚えがないし、ただ置いていかれただけの被害者だからね。
とにかく刻晴の誤解も解けたことだし、早いうちに眠ることにしよう。これ以上会話しているとまたボロが出て面倒なことになりかねないし、一応鍾離を待たせている状況なので早寝早起きして早急に合流した方がいいだろう。
刻晴と別れ寝室に入って早々に蛍へ向かって話を切り出す。内容は当然、先ほどのことも踏まえた今後の立ち振る舞いについてだ。
「なあ蛍、手を繋ぐとか同室で寝るとかはもう諦めたからいいけどさ。相手に変に誤解されそうなことを言うのだけは控えてくれない?」
「誤解されそうなこと?」
「前言ってた噛みつくだとか、さっきの会話で寝る時なにかあって欲しい的なやつ… 別に蛍の考えとか行動を否定する気はないけど世間体が死ぬから…」
俺からしたら彼女が空に対してどのような想いを抱いていようが何でもいいけど、実害を被るのは勘弁願いたい。テイワットの地で行動するにあたって人々から寒い目を向けられるのは中々にダメージを負うものだと思い知らされた。
「私的には問題ないと思ってたけど」
「いや問題大アリでしょ… 刻晴引いてたよ」
「そうかなぁ… どっちかというとお兄ちゃんの気にしすぎだと思うけどな」
「俺の?」
「うん。前はこれくらい気にしてなかったのに… 変なの」
蛍の話を鵜呑みにするなら元々の空はこの程度気にしていないらしい。寛容なのか普通にシスコンなのか… 兄妹そろって己を客観視できていなかったのかな。
「…まあ頼むよ蛍。今後も挨拶しにいく友達は多いみたいだし、毎回説明するのも面倒でしょ」
「じゃあ人前では気をつけるよ。2人きりなら別にいいよね?」
ぐいっとこちらに近づき確認を取ってくる。いや近い近い… 文字通り目睫といったところで、少し前に出れば触れてしまいそうな程の距離。すぐ後ろは扉で逃げ場はない。
「それならまあ… うん」
…しかしこうして改めて近くで見ると極めて整った容姿だなと感じさせられる。そしてこうも思った。…普通、容姿端麗な異性とここまで距離が近いとなると何かしら思うところがあるはずだと。しかし感じるのは親愛の情くらいで、興奮もパーソナルスペースを侵食された嫌悪感も感じない。
それって詰まるところ兄妹だから? そう考えればこの事象には納得がいくが、俺は空とは別人で、蛍のことを妹だと思って接すること自体まだ日が浅いはず… そんなことを考えていると何故かどことなく気まずさを覚え、つい顔を逸らしてしまう。
「…いいけど、近いよ蛍」
「いいじゃん、2人しか居ないんだから。外では駄目なんでしょ?」
ただでさえ近い距離が更に狭まる。それでも何も変わらない、いつもと何ら変わりない平常心だ。
…自分の過去も、兄妹の関係性も良くわからない。考えるのも、面倒くさくなる。
「……ほら、そろそろ寝るから。許せ蛍、また今度だ」
空いた手の指先で蛍の額を押して退かせる。割と力が強い、全然動かないし思い切って力を込めてグイグイ押す。
今日はもう疲れた… 朝早くから歩き、宝盗団に口喧嘩で敗北、八つ当たりで水鉄砲撃つという激動の一日だったのだ。今は何も考えずに休みたい。
「ぶー、ケチ!」
「っっっつ!? いきなり噛むなよ!」
俺の態度が気に入らなかったのか首筋を噛み、手を離して自分のベッドへ向かっていく蛍。ウェンティとの一件以降、機嫌を損ねると噛みつかれるようになったけど相変わらず慣れない。痛いし。
噛まれた位置を撫でながら俺も自分のベッドに向かう。蛍から無言の圧力を背に受けながら脱走防止の足枷を着用して鍵を蛍へ投げ渡す。これもあれ以来決まったルールだ。こっちはもう慣れた。
「おやすみ、蛍」
「…おやすみなさい」
とはいっても蛍は俺が寝付くまでは絶対に眠らないことを俺は知ってる。彼女のためにも早く眠ろう…