原神 自分を一般人だと思い込んでいる主人公の兄 作:アリエイルでしょ
― 蛍視点
天理によって兄と離されてからどれだけの日々が経っただろうか。
再会することを願い、各国を回り、その途中にダインと共に行動した際一度再会した兄は、あんなに長い間離れ離れになっていたのに、私よりもダインに強く反応していた。
どうしてだろうと思った。
話を聞けばダインと敵対しており、私が彼と共に居ることがよくないということを伝えたかったのは理解できた。しかし理解はできても感情はついてこない。兄は私と共に居ることよりも、優先することがあると言ったのだから。
それでも兄の「終点に辿り着けばこの世界の淀みを見届けることができる」という発言を信じ、パイモンと共に旅を続けることにした。
それから私は稲妻へ渡り、スメールを超えてフォンテーヌまで辿り着いた。これらの行動すべてが兄へつながっていると信じて。
しかし、兄との再会は想定していたよりも遥かに早く実現した。
兄が保護されたとの連絡があったのだ。それはフォンテーヌにて予言の阻止を成功させ、次の目的地はナタかと考えていた最中の出来事だった。これまでの旅路で各国で捜索依頼を出しても発見される望みは薄いと思っていたけれど、まさかの連絡だ。しかもその兄が見つかったという街は私が最初に訪れた国のモンドだった。
急いでモンド城に向かえばお兄ちゃんの空が本当に居た。遺跡の中で会った時とは異なる雰囲気で、それは離れ離れになる前の姿にとてもよく似ていた。
まだまだ会えないと思っていた中でお兄ちゃんと再会できた私は思わず涙が零れそうになったが、その際に空が発した「俺、君のお兄ちゃんじゃないよ」という言葉にはとても腹が立った。
最悪だし、面白くないし、センスもない、再会の挨拶としては完全に0点だったけれど、そんな冗談を言う兄が帰ってきたと思えばそんなに悪くなかったかもしれない。その時は怒ったけれど。
それから一緒に過ごす兄の姿は普段の兄そのものだった。何故か私のテイワットでの友人たちのことを知っているという感じで、記憶が少しおかしいようだけれど私の兄であることは疑いようのない事実だと思う。今まで数百年の時を一緒に過ごしていたからわかる、彼は絶対に私の知るお兄ちゃんと同一人物なのだと確信できる。
それに、記憶についてはあまり心配していない。そんなものはこれから時間をかけて共に解決していけばいい。
まずは、兄が見つかったという報告と今までお世話になっていた友人たちに挨拶もかねて会いに行くことにした。その過程で兄と旅行も味わえて一石二鳥だとも思って楽観的でいた。
まさか数日足らずでこんなことになるとはこの時は思ってもいなかった。
「そういえばお兄ちゃんってワープできるよね?」
アカツキワイナリーに居るディルックさんに会いに行くべく、ワープでの移動を試みる。私は各地に点在するオブジェの元へ瞬間的に移動できるが、テイワット出身の人はそんなことできず、ただの謎のオブジェとして認識しているみたいだった。兄妹である空もワープができると思うけど、念のため一応確認しておく。
「蛍ができるんなら兄貴のコイツも同じようにできるんじゃないか?」
「ん? ……まあ蛍がワープすれば一緒に行くんじゃない?」
兄は一瞬考えるような素振りを見せながらもそう答えた。私と同じように兄もワープ移動ができるのだろう。
「そっか…じゃあ行くよ」
「おう!」
今となっては慣れたワープを行使して目的地であるアカツキワイナリー付近の七天神像へ移動する。
移動直後に目に飛び込んでくるのは荘厳な佇まいのドラゴンスパイン、辺りを見渡せばブドウ畑に囲まれた立派な屋敷、アカツキワイナリーが見える。
「こっちの方に来るのも結構久しぶりだな!」
「言われてみればそうかも」
そもそもモンドに戻ってくることは多々あっても、その日のうちに現在メインで活動している国に戻ってしまうことが多く、モンドの街から出ることもあまりなかった。モンドからアカツキワイナリーまではそこまで距離もないし、ワープなんて風情のない移動よりも一緒に歩いてくればよかったかもしれない。
なんて考えつつ愛しのお兄ちゃんの方を見る。
見る。
見るが…居ない…?
「お兄ちゃん?」
「ん? そういや空の奴はまだ来てないのか」
「お兄ちゃん!!??」
「お、おいおい! いくらなんでも取り乱すのが早いぞ! 少しは落ち着けって… ワープってオイラたち視点だと一瞬だけど、周りからすれば数分くらい経ってるみたいだし…ちょっと待ってみようぜ」
「……」
嫌な予感がする。また離れ離れになってしまうかもしれないという予感が。
昨日も、一昨日も眠るときにどこかへ逃げる素振りは見せてなかったし、そんなことはしないと言っていて私も迂闊だったかもしれない。
「んー…もしかしてワープできなかったんじゃないか? そうだったらモンドに取り残されてたりしてるのかも」
「………だったら今まで逃げなかったのはワープができなかったからってこと?」
いやいや…考えすぎだろ。 とパイモンは言うが、私はもうそうとしか考えられなくなっていた。
早く合流しないと… この瞬間に過去お兄ちゃんと別れた際に深く落ち込み、パイモンと出会うまでしばらく塞ぎ込んでいたことを思い出した。もうあんな思いはしたくない。
「急いで戻るよパイモン」
「え、でもまだ全然待ってないぞ? もう少し待ってみても…」
「パイモン!!!! …戻るよ」
「わ、わかったって…大声出さないでくれ~ ちょっぴり怖いぞ…」
こうやってパイモンに当たるのは間違っているとは自分でもわかるけど、今は1秒でも早くお兄ちゃんの姿を見たい。空と離れてる日々が続いて少しは慣れたと思っていたけれど、数日また一緒に過ごしたことで少しの間でも離れるのが嫌になっていたみたい。慌てて行先をモンド城に指定しワープを実行する。
しかしモンドへ戻ってきてもお兄ちゃんの姿は見渡しても見当たらなかった。
「お兄ちゃん! どこ!? お兄ちゃん!!」
「ちょ、そんなに大声出すなって…まずは元々居たところまで行ってみよう、な!」
「そうだけど…! 逃げるならずっと同じところに居るわけないじゃん! ねえお兄ちゃん! どこ居るの!?」
「アイツなら割と律儀に待ってるんじゃないか…? それに逃げてるなら呼んでも反応しないと思うぞ…」
今のお兄ちゃんは私にもわからないところがある。例えば最初会った時に本当に私から逃げたそうにしていたこと。私の知るお兄ちゃんは私から本気で逃げるなんて絶対に考えたりしない。再会して少ししたらそんな雰囲気は見せなくなったけど…ずっと隠していたのかもしれない…
「おいおいうるさいぞ! 人探しならこんなところで叫んでないで騎士団のところへ行ったらどうだ?」
「そうね、態々私たちの前でそんなに騒がなくてもいいじゃない」
「オマエたちは確かファデュイの… まあいいや、コイツに似た感じの男を見なかったか? ちょっとはぐれちゃって捜してるんだ!」
「そんなこと知らん! そもそも知っていてもファデュイと対立しまくってるお前たちに教えないだろ」
「 本 当 に ? 実際は知ってて隠してるとかだったら… 殺すよ」
「おい! ファデュイ相手でもそんな物騒なこと言うなよ! 悪いな、コイツちょっとおかしくなってて…」
パイモンはファデュイの2人組に謝りながらも色々と尋ねているようだが… こっちはそれどころじゃない。そもそもワープができないということ自体も間違っていて、先ほど移動する際に別の地点にワープして逃げてたりなんて可能性もあるかもしれない。そんな可能性も考慮するとまた見つけるなんて夢のまた夢、まさに見果てぬ夢だ。仮に発見できてもワープされて、その行先はわからない。そんなもの一生追い付けない追いかけっこではないか。
そしてそれはお兄ちゃんが自分の意思で私から距離を取るということだ、その事実に心が壊れそうになる。視界が真っ暗になっていくような感覚。息苦しい、頭が回らない、涙が出そうになる。天理によって強制的に別れさせられた時とは事情が違う。ダメージが違う、種類も大きさも違いすぎる。
とにかく思考が、まとまらない。
「蛍! おい聞こえてるか? わかったぞ!」
あれからどれだけ時間が経ったのだろうか。気が付けば道端でへたり込んでいた私をパイモンが強く揺さぶっているようだ。
「……………なに?」
「空の居場所だ! あっちの方で情報部のエルフィに聞いてみたら、それっぽいやつが吟遊詩人に誘われてエンジェルズシェアに行ったって言ってたぞ!」
「! 本当に!?」
空の居場所、という言葉で急速に思考がクリアになっていくのを感じる。まだ何とかなる、そう理解すれと気力が湧いてくるようだった。
「服装とかの特徴的に相手の吟遊詩人ってのは多分ウェンティだな。大して時間経ってないし今から行けば会えると思うぞ!」
「パイモン…! 今日ほど頼りになると思ったことはないよ」
「ヘヘ…もっと褒めてくれていいんだぞ! ついでに夕飯も豪華にな!」
「当然、なんでも言ってくれていいよ」
やはりパイモンは最高の仲間だった。そして風神は最低の神かもしれない。現在の時刻を確認してみると、空とはぐれてから精々数十分程度しか経っていないみたいだった。たったこれだけの時間でこんなに頭がぐちゃぐちゃになるなんて…なんてお兄ちゃんは罪深いのだろうか。
とにかく、今回の件でお兄ちゃんには聞きたいこともある。それを確認するためにも急いでエンジェルズシェアに向かおう。
これからまた細々とやっていきます。
それと多分今後は蛍視点の出番はあまりないです。