原神 自分を一般人だと思い込んでいる主人公の兄   作:アリエイルでしょ

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少しずつ重くしていきたく存じます


お礼参り-モンド編-5

 昼前の酒場。当然客は少なく、夜の賑やかな喧騒が嘘みたいな静けさを見せている。目の前に座している神を除けば。

 

 

「へーそうなんだ」

 

「うんうん、それでね! ボクが思うにモンドで作られたお酒は~」

 

「なるほどー」

 

 

 今飲んでいる訳でもないのに、楽しそうにモンド発祥の酒について語りだすウェンティ。当然こちらは興味もないので適当に相槌を打つだけだが、彼は1人でひたすら話を続けている。

 もうこの風神とお茶会(?)を開始して数十分ほど経過した。真面目な話をしていたのはせいぜい最初の数分だけで、後はひたすらこの酒がどうとか、他国のお酒も飲んでみたいとか、そういう中身のない話をずっと聞かされていた。どうせ放任主義なんだからちょっと遠出して他国のお酒を飲みに行けばいいのにって思わなくもないね。

 

 それにしてもなんて能天気なんだこいつ…刻一刻と迫る脅威(妹)に対して何も思うところがないのだろうか。

 

 

「ちゃんと聞いてるかい? お酒は国の代表する特産の一つなんだ! それこそ各国の雰囲気を掴むのにぴったりでー」

 

「他所の国の雰囲気を掴む前に目の前の俺の様子を掴んでほしいんだけど」

 

 

 誰しも経験したことのある感覚だと思う。例えば寝坊して気が付いた瞬間のキモが冷えたときとか。悪戯がバレて後で怒られるときとか。テストとかで悪い結果が目に見えているのに返却がまだのとき、みたいな時間の経過が早いとも遅いとも感じるあの感覚。

 今がまさにそういう状況で、蛍に見つかるなら早く見つかってさっさと怒られてしまいたいっていう風に考えてる感じ。これは別に嫌なことは早く済ませたいというだけで怒られたい訳では当然ない。

 

 

「そんな処刑される寸前の人みたいな表情しなくてもいいじゃない。彼女は怒ってるかもしれないけど、それは君を心配してるだけだと思うよ」

 

「怒ってる相手が普通の人の尺度ならここまで怯えないって。 今回はこっちに非があるっていうのもあるしね…どんな目に合うのかなんて考えたくないね」

 

 

 あれだけ逃げない逃げない言っておいて、結果は逃げたようなものだ。夜一緒に眠るとかは本当に勘弁して欲しい、俺が眠るまで絶対に眠らなそうなのが特に嫌だ。

 少しばかり水を飲んで嫌なことから目を背ける。なるようになる、当たって砕けない程度に頑張ろう。

 

 

「どんな目にって… 彼女ってもしかしてバイオレンス? 流石に血を見るのはボクもちょっと…」

 

「流石にそこまでは… ないよな?」

 

「知らないから聞いたんだけど?」

 

 

 ごもっともで。 彼女は暴力的なタイプではなかったと思うので大丈夫だと思いたい。それに兄である人物に暴力は振るわないと思う。

 なんて希望的観測を胸に断罪の瞬間を待つ。

 

 

「お、噂をすれば来たみたいだね! これからどうなるんだろう! 楽しみだな~」

 

「え、なんでわかるの?」

 

 

 風が教えてくれたんだ、なんて言うウェンティ。なんだこいつ神様みたいなこと言ってるなって思ったけど、そういえば普通に神様だった。多分酒の話が長すぎて目の前の人物はアル中って認識に変わってたんだと思う。

 

 そしてウェンティが来たと言ってから1分も経たないうちに店の扉が開く音がけたたましく店の中に鳴り響いた。

 

 

「お兄ちゃん! どこ!?」

 

「おーい、空ー! 居るかー!?」

 

 

 2人は入るや否や迷惑も考えずに大声でこちらを呼んでいる。店には後で謝っておこう。

 

 

「キミ、好かれてるね。 二階に居るよー! こっちにおいで!」

 

「来たか。…怖いな」

 

 

 結局、変に言い訳するより素直に謝罪した方がいいと考えたので、ワープが使えるかわからなかったということは伝えよう、ついでにウェンティが悪いということも。

 

 

「やあ2人とも、久しぶりだね! ちょっとお兄さんを借りてたよ」

 

「…蛍、今回の出来事は俺の確認不足と彼の強引さが合わさって起きた悲劇で決して故意では…痛ッッッッ!!!」

 

 

 弁明中にいきなり抱きしめられ、何事だと思った瞬間に首筋に激痛が走る。これ首を思いっきり噛まれてないか!?

 

 

「い、痛い!痛い! なに!? なんでだ!? なんで噛んでるんだ!?」 

 

「んぐっ! ふーっ… ふーっ…!」

 

 

 十秒ほど経っただろうか、何か所か噛まれ、その後吸われた末にようやく口を離してくれたが、その後も結構な力でこちらを抱きしめ続けている。状況が状況なので顔は見ることはできないけど、時々嗚咽を繰り返していることから泣いているのかもしれない。

 

 

「…バイオレンスだねぇ」

 

「なんかこう…歪んだ兄妹愛だな」

 

 

 唐突な出来事に頭がまだ混乱しているが、首から伝わるズキンズキンと鈍い痛みが噛みつかれたという事実をこれ以上ない程わかりやすく、これが現実だと教えてくれていた。

 ちょっとしたホラーを目撃した外野の2人は冷静にこちらを見て感想を述べているみたいだが…妹が兄の首に噛みつくって普通に考えて結構な異常事態だろ…そんなのんびり見てないで少しは止めてくれよ。

 

 

「それにしても、ワープできないなら最初からそう言えよな! おかげでオイラ大変だったんだぞ!」

 

「パイモンと同じで蛍が移動すれば着いていくって思ってたんだよ…ごめん」

 

「…駄目、許さない」

 

 

 鼻を啜りながらそう答えた蛍は、この騒動での怒りがそれなりに深いようで再会したところですぐには機嫌が直らない。とりあえず彼女の怒りと嗚咽を鎮めるため背中を摩っておこう。

 

 

「ですよね。とにかく後で詳しい説明はするし、ちゃんとお叱りは受けるから一旦離して」

 

「やだ!」

 

 

 抱きしめられている腕の力が増した。別にハグに関して拒絶とかするつもりもないし、逃げる気とかもないけど…まあ仕方ない。このまま彼女の気が済むまで付き合うことに。

 

 

「じゃあこのままでいいけどさ…俺はその場で待ってるつもりだったよ。そっちの詩人にそこそこ強引に誘われたから移動しただけで」

 

 

 とりあえずで神を売る。事実だし、当人も納得してたしね。

 

 

「ごめんごめん、ボクが誘ったんだ! 1人でいる旅人のお兄さんをたまたま見つけて、せっかくだし1対1で話してみたいって思っただけなんだよ~」

 

「そんな理由で私からお兄ちゃんを取らないでくれない? 殴るよ?」

 

 

 飄々としている神に対して怨嗟の声を上げる蛍。独占欲といったものが強いのか、たった数十分話しただけで奪った扱いをしている様だ。

 殴るとか…さっきも噛みついてきたし、バイオレンスだなぁ。彼女から伝わってくるこの重たい気持ちだけで焼傷しちゃいそうだ。

 

 

「ま、まあまあ! コイツら2人とも悪気があってやったことじゃないだろ? 空もこうして見つかったんだし、それでいいじゃないか!」

 

「パイモンは甘すぎ。二度とこういうことが起きないようにしっかりしなきゃ駄目でしょ」

 

 

 2人の会話から面倒ごとに発展しそうな雰囲気を察したパイモンがお茶を濁すように話を終わらせようとするが、暴走気味な蛍は聞く耳を持たない。

 どうやって鎮めればいいんだこれ。もう今後は行動で示さないと信用されない気もする。

 

 

「うーん…今回は事故だったけど、そんな感じで接してると本当に逃げられちゃうかもしれないよ」

 

 

 ウェンティがポロっと自分の意見を零す。そう大きな声ではなかったが不思議と場に響く声だった。

 この状況下でなんでそんなこと言うの…? 火に風を送るが如く面倒な会話の種を放り込むのはやめてくれ。

 

 

「ウェンティには関係ないでしょ。私たちの関係に口を挟まないで」

 

「まあそうだけど…兄妹仲睦まじく過ごしたいならある程度の距離感も必要さ。今回の件で色々思うことはあるだろうけど、今まで以上に彼を束縛するようなことはしないほうがいいと思うよ」

 

「……」

 

 

 あくまで個人的な意見だけどね、と付け加えてリンゴをかじる風神。蛍の怒りを適当に受け流し俺に対して援護をしてくれるなんて神かよ。神だった。

 ありがたいお言葉だが今の蛍が聞くとは思ってない。普通に行動に制限は課されそうだが…それが少しでもマシになればいいな。 

 

 

「うんうん、ストレスが溜まる環境はペットに対してよくないしな! やりすぎは駄目だぞ!」

 

「…わかった。お兄ちゃんと相談したうえで束縛する方法を決めるよ」

 

「全然わかってないだろ。それとペットじゃねぇよ」

 

 

 パイモンからのペット煽りで一応取り残された騒動については一先ず幕を下ろした。今後の俺の扱いは色々と悪くなりそうだけど、ウェンティと会話できたのは結果的によかったと思う。

 この身体について、俺の記憶について…これから先の旅路でわかればいいな。

 




プロットが大雑把すぎて以降の話がほぼ固まってない。つまり導き出される結論は…
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