【全9話】倫也と仲直りしたい英梨々(高1ー1学期) 作:きりぼー
本来は加藤がいて英梨々がいて詩羽がいるのがいいんでしょうね
放課後の長閑な図書室には、俺たち新一年生がチラホラと様子を見に来ているものの、人の数は少ない。
「なんでこう・・・まったくそそらないラインナップなのかしらね?」
「頭がお堅いんだろうな」
「誰がレ・ミゼラブルなんて読むのよ」
「読んだことない人が『俺はこんな本も読めるんだぜ』って自意識過剰にだな・・・」
「そんな動機で本なんて読まないでしょ」
「だから、誰も借りてないだろ」
「そうね。有名だけど・・・食指は伸びないわね」
「読むとけっこう面白いんだけどな。簡易版のあるし」
「へぇ・・・倫也、読んだことあるの?」
「常識的な範囲の本はたいていな」
「なんか嫌味な言い方ね」
推薦図書コーナーの本棚を見ながら、俺と英梨々は会話をしていた。ここには『戦争と平和』や『罪と罰』に始まり、『アンネの日記』『ファウスト』など有名な世界の名作が並んでいて、さらにポップアップで宣伝しているのはダンテの『神曲』だ。文句の一つもいいたくなるのはわかる・・・
「それでも、一応年間数人は借りているみたいだぞ」
「こんな本を読ませようとするから、読書離れが進むのよ」
「進学校だしな・・・こんなもんだろ」
「はぁ?あんたそれでいいわけ?」
「ん?別にどうでもいいが・・・」
「あっそ」
英梨々が溜息をひとつついてカウンターに戻った。俺と英梨々はクラスは違うが図書委員会で一緒になった。たまたまである。俺としては特にやりたい委員会があったわけではない。流れに任せていたら選ばれた。嫌いな分野でないしそれはそれでいいのだけど。
「そういえば英梨々、お前・・・俺の曜日に変えただろ?」
「はぁ?あんた何言ってるの?バカなの?死ぬの?」
「だって最初は別な曜日だったのに、俺のいる水曜日に変更したじゃねーか」
「くっ・・・」
「てっきり俺と・・・」
「バッカじゃないの!」
英梨々の大きな声に図書館にいた数人がカウンター見ている。英梨々は口を押えて咳ばらいを一つした。
「あんまり大声だすなよ。図書室での最低限のマナーだろ」
「あんたが変なこというからでしょ。あたしはあの曜日は習い事があるから変更してもらっただけよ」
「なら、俺にいえばいいのに」
「・・・っ!」
最初の委員会活動では全員が顔合わせをして曜日別の担当を決めた。俺たち二人の他に2年生の男子生徒がいたが、一通り作業内容を俺たちに説明すると、マニュアルを渡してさっさと帰ってしまった。なんて無責任でやる気がないのかと驚いたが、そんなに覚えることもないし、図書委員の仕事など小学生の時とそんなに変らないから何も問題ない。余計な気をつかわないだけこちらも気楽でよかった。
「べ・・・べつに倫也と一緒になりたかったわけじゃないんだから勘違いしないでよね!ふん!」
「おっ、ツンデレ」
「わざとらしいかしらね」
「急に冷静になるなよ」
「金髪ツインテールの宿命なのよ。少しは察しなさいよ」
「へいへいっと」
どんな縛りなんだろうか。この金髪ツインテールは学校一目立って派手だ。すでに話題はこの隣クラスの美少女の事でもちきりである。俺としては余計なことはしゃべらないし、噂はたてない。
実はさっきから代わる代わる英梨々を覗き見しては帰っていく男子生徒をチラホラと見かけていた。英梨々も気付いてそうだが慣れっこなのでそこには話題を触れない。俺としてもスルーするだけだ。
「そういえば英梨々はあの後コンビニこなくなったな」
「・・・あのコンビニいくと問題があるのよ」
「ほう?どんな?」
「突然金貸せって声かけれるの」
「そんな奴いるのかよ」
「ええ、眼の前に」
「・・・しょうがないだろ、背に腹は帰らないんだし。だいたいお菓子投げるなよ」
「うるさいわね。文句あんの?」
「そんな喧嘩越しでなくてだな・・・そうだ、返すわ」
「何を?」
俺はポケットから財布を出して、700円を英梨々に渡した。
「何よこれ」
「こないだの玩具菓子のお代だろ。600円の消費税。一応利息というわけでないが少し上乗せしてやろう」
「数十円でマウントとらないでよ、聞いてて恥ずかしくなるから」
「ふむ・・・あと、これな」
小銭入れにしまってあったラムネを渡す。
「・・・ありがと」
「そこは素直なんだな」
「何かもらったらお礼をいうのは人として最低限の礼儀でしょ」
「金貸してくれてありがとうな」
「別に貸したつもりはないけど」
「まぁ確かにそうだな・・・」
英梨々はその場でラムネの包装をといて口に放りこんだ。小さいラムネが5粒ほどはいっている。
「あんたにも1つあげるわよ」
「そりゃどうも」
一粒もらって口に放り込む。包装は近くのゴミ箱に英梨々が捨てた。意外とレモンが効いた酸味のあるラムネだった。2人して沈黙しながらラムネをぽりぽりと食べる。しかしこの時間・・・相手が英梨々だから間が持つが知らない人で相性が悪ければけっこうな苦痛にならないだろうか?本を整理したフリでもするのかな。
「あんたアレ、なんとかしなさいよ」
「なんとかっていわれてもな・・・あのセンスの人って説得できるのか?」
推薦図書をアゴでくいっと示しながら英梨々が言った。5段あって上から二段分は世界の名作文庫で埋まっている。その下には古典でタイトルを読む気もしない。4段目にはやっと純文学で漱石先生が並んでいるのだけは高く評価したい。
「あの中で一番回転率のいいのわかるか?」
「下段の推理小説でしょ」
「正解。テレビドラマ化しているみたいだな」
「倫也は読んだ?」
「いや・・・そこまで手が回らないな」
一番下段には比較的新しい人気作家の作品が並んでいる。ドラマ化や映画化しているだけあって、こちらは借りている人も多く回転率が少しだけ高い。もっと目のつきやすい位置にすればいいのに・・・と思いながらも俺は余計なことはしない。触らぬ神に祟りなし。
「倫也ってラノベしか読んでないの?」
「最近はそうだな・・・ブログやってから、読まないわけにはいかないし、紹介する以上はしっかりと読み込みたいしな」
「ふーん。そういえばブログやってるっていってたわね」
「まぁな。でも、こう見えてけっこう閲覧数増えているんだぜ?あれも最新の情報をのせるのが大事でな・・・辛口すぎてもダメだし、作品に媚びすぎててもダメなんだ」
「聞いてないわよ?」
「まぁ聞け。いいか、どんな作品にもファンがいるだろ?だから絶対にけなしたらダメなんだ。クソつまらなくても、イラストが雑でも、指摘したらアンチが増えていくからな。サイトなんて荒らされると面倒だろ?だから・・・」
「知らないわよ、そんなこと」
「それでな。まずは褒める。何かいいところを見つけて褒めるのが大事なんだ。何かしら面白いところがあるはずなんだ。設定とか、セリフとか」
「ふーん。それって媚び売ってない?」
「気を使っている感じだな・・・ほんとつまらないのもあるんだよなぁ・・・」
「まっ、よくわかんないけど」
「わかれよ。英梨々だってラノベ読んでるんだろ」
「悪い?」
「悪くねぇよ。だから好きな作品にケチつけられたら頭くるだろ?だから無難にやり過ごす事も大事なんだよ」
「なんか苦労しているのね」
「一応アフェリエイト運営もしているからな・・・」
「せこっ」
「大事な収入源なんだぞ。それがないと新しいラノベも買えないだろ」
「バイトしなさいよ」
「それなぁ・・・」
何事も経済である。オタク活動も金がかかる。ファンである以上は違法閲覧などはしたくない。ちゃんと業界に金を落として作品を布教する。それぞ正しい信者のあり方だ。
「それは置いといて、最近のおすすめはあるのかしら?」
「人によるんだよな。英梨々の最近の趣味は知らねぇし・・・今でも『リトラブ』みたいのが好きなのか?」
「そうよ」
「なら・・・そうだなぁ・・・」
リトラブは英梨々が小学生の頃に好きだった作品だ。いわゆる逆ハーレムもの。さまざまなイケメン男子が出てくる。リトルラブ・ラブソディの略だ。腐女子向け作品の名作で続編は今でも刊行されたり、アニメ化、ゲーム化もしている。ゲーム化というか元々がアドベンチャー型のゲームだったものがアニメや書籍化しているという方が正しい・・・まぁとにかく腐女子のファンが多い作品だ。
「カテゴリー逆ハーレム物でまとめてあるからさ、俺のサイトでも見てくれよ」
「・・・そう。あんたがそういうなら、別に聞いてあげてもいいわよ?」
「ん?何をだ」
「あんたの運営しているサイトをよ。まったくなんで説明させるのよ」
「ふむそうだな。教えてなかったか」
俺はケータイを取り出した。英梨々もケータイを取り出す。俺は英梨々のアドレスを知らない。英梨々も俺のを知らないだろう。連絡などずっととっていないのだから。こういうやり取りは英梨々相手とはいえ少し緊張する。リアルからネットの世界への関係に広がるのはなんだか恥ずかしい感じがするのだ。逆もまたしかりだろうが。
その時だ、ふわりとした風が図書室に舞った。まるで桜の花びらの幻覚でも見えるような暖かい春風だった。
どこからその風が入ってきたのかと目をやると、入口から女子生徒が入ってきた。なんとも印象に残らないボブカットのクラメートBといった感じだ。量産型モブ。
「あっ、安芸くんいたいた」
「俺?」
「誰よ?」英梨々が隣小声で言った。
「知らね」
「今日、日直だったでしょ。日誌にサイン必要だから」
「そうなのか?悪いな」
「うん、教室に置いといたから、サインして先生に提出しておいてくれるかな」
「わかった」
『じゃあ』の一言も言わず、女子生徒は去っていった。なんともそっけない。そういえば今日は日直だったが何もしなかったな・・・
「そうわけで英梨々、ちょっと離れるから頼むわ」
「・・・」
「別に1人でも大丈夫だろ?心配か?」
「とっとと行きなさいよ!バカ!」
「なんぞ!?」
また視線が集まるが、英梨々は咳払いの1つもせずにツンとして横を向いている。
※ ※ ※
教室に戻ると教壇の上に学級日誌が置いてあった。こんなもんがあるんだな。ペラペラとめくって今日の日付をみる。今日起きたことが分刻みでスケジュールのように厳密書かれたいた。字も丁寧で少し固い印象を与える。
「なんだ・・・この日誌」
他のページは一言二言書いてあるだけである。それが普通だろう。サインの所には『加藤恵』と書いてある。さっきの子だろうか?どんな子だったっけ・・・?
俺は自分のサイン『安芸倫也』をいつもより丁寧にサインをした。このページだけずいぶんとしっかりしていたので、自分のサインで台無しにしたくなかったからだ。
それから職員室まで届けにいった。さっきこの日誌を図書室までもってきてくれればよかったのに・・・と思わなくもない。
担任の先生に日誌を渡して業務完了。俺の日直としての存在価値はゼロだったと思う。ついでなので先生に図書室について質問したら、担当の先生を紹介してもらった。国語教師で中年のおばちゃんだ。メガネや服装から神経質そうであり、いかにもお堅いラインナップもうなずける印象だった。委員会の会議の時にそういえばいたような気がしなくもない。
自己紹介をしていくつか質問をさせてもらった。俺は図書室の意義やラインナップの回転率の悪さなどを指摘した。
「残念だけど、私はただの担当で図書室の本を選ぶのは『司書さん』の役割なの」
「司書?」
「図書室の本を選ぶ専門の人が別にいるのよ」
「へぇ・・・どこで会えます?」
「少し待ちなさい」
机の引き出しから連絡帳を取り出して、名前と番号をメモしてくれた。
「この方ね。私も詳しいルールはわからから直接話し合ってくれる?」
「はい。あと、もう一つ質問よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「あの推薦図書のコーナーはいじっていいのでしょうか?レイアウトとか・・・」
「ダメね。あれは図書委員会で決めていることだから、個人の判断では勝手にできないの。それがルールでしょ?」
「えっとどうすれば・・・」
「委員長にでも相談してみて」
「先生は?」
「私は余計な問題を起こさなければ自由にしてくれていいわよ」
よし、言質はとった。『自由にしていい』
「委員長のクラスと名前を・・・」
教えてもらった委員長の名前は、奇しくも俺らと同じ曜日でさっさと帰ったあのやる気のない先輩だった。どうやら図書委員はやる気のある委員会ではないらしい。内申目当てや役割分担として大したモチベーションもなく集まっているのだろう。俺だってそうだから人のことはいえない。
だとすると、あの下段の推理小説すら誰かがこっそりといじっているだけなのかもしれなかった。余計な波風を立てたくないのは誰だって一緒だろう。
先生にお礼を言って職員質を出た。それからこ校舎入口にある受付事務所に向かった。そこで事情を話して中に入って電話を借りる。善は急げだ。さっそく司書の番号に連絡すると自宅はでなかったが、ケータイの方はつながった。
人当たりの優しい感じのいい女性だった。声だけでは年齢はわからないが、ついつい美人さんを想像するのは男のサガだろう。丁寧に俺の話しをきいてくれた。
『図書室で紹介したい本のラインナップと理由をまとめて欲しい』という結論が出た。
そりゃまぁそうだろう。電話だけで本が入荷されるわけもない。一週間に一度ぐらいは学校へ来るらしいので、事務所に預けておけば受け取ってくれるようだ。
ふと時計をみると一時間ほど経っていた。つい夢中になって先生に熱弁したり、司書と話し込んでしまったせいだろう。
俺は慌てて図書室に戻った。
※ ※ ※
『つーん』とエフェクトでも見えそうなぐらい英梨々が露骨にそっぽ向いている。
「話しかけないでくれるかしら?」と取り付く島もない。
「そんな怒るなよ、つい話し込んでしまっただけだろ・・・別に忙しいわけじゃないし」
「あの女と?」
「どの女だよ?」
「知らないわよ。ふん。もうあとはあんたがやりなさいよね。バカ!」
「ああ、そうだな・・・じゃあな」
「ちょ・・・っ」
「ん?いいぞ、あと30分ぐらいだし、1人で十分だからな。やりたい事もあるし」
「そ・・・そう」
英梨々が口を尖らせてから、べぇーと舌を出して図書室から出て行った。
英梨々が出ていくと、他に残っていた数人の男子生徒も図書室を出て行った。なんて邪念だらけなんだろう・・・と思いつつもわからくもない。遠目で見ている分には英梨々はカワイイのだ。
俺は誰もいなくなった図書室に残って、ラインナップに並べてあったお堅い本を棚に戻していった。需要のない本など何の価値もない。こういうのを読む奴は自宅に蔵書がたくさんあるか、この進学校に来る前に読破しているのが普通だ。いまさら読まない。
誰が置いたかわからない下段の推理小説を上の弾に移動して、『面置き』をする。これでだいぶ目に留まりやすくなる。本などたくさん置いても意味がない。下段一段分の本を二段分に分けて展示する。できればポップアップも欲しいところだが、英梨々は帰ってしまった。
三段目には漱石先生を、四段目に新しいSF小説を探してきて少しならべ、ショートショートも数冊置いておく。
だいぶ良くなった。
五段目など目につかないし、逆になんだか恥ずかしい。ここは重たく美術書をピックアップしておいておく。表紙ができるだけカラフルで綺麗なものを選べばいい。装飾として機能するからだ。
「まぁ、こんなもんかな」
俺はもう誰もいない図書室にこれ以上残っていてもしょうがないので鍵をかけて外に出た。
次はラノベのピックアップを考えないとな・・・
そういえば英梨々と何か話していたな?と思ったが忘れてしまった。まぁまた来週もあるし問題ないだろう。
こうして俺の図書委員一日目は無難に終わった。英梨々の機嫌は損ねたけど。
(続く)
というわけで、舞台はコンビニと図書室を中心に回していこうかなぁっと