【全9話】倫也と仲直りしたい英梨々(高1ー1学期) 作:きりぼー
割高なのについついひいてしまいますね。
倫也の部屋の棚にはたくさんのアイテムが飾ってあったのが特徴でしたが、今回はその始まりの話。
「なぁ、見てくれよ、この再現性。華麗で豪華な衣装と圧倒的な存在感」
「そうでもないわよね?」
「それに記念すべき映画版の箱のデザイン」
「すでに褒めるとこなくなっているじゃない」
「顔の造詣が・・・」
「パチモンばりのできよね」
「だが、この太もものラインとロングスカートなのに前だけはだけているというエロ度の高いデザインは秀逸だろ?」
「質感が固すぎよね」
「お前、ちょっと辛口じゃね?」
「あんたも本当はそう思ってるでしょ」
参った。コンビニといえば「壱番クジ」だ。正面の一番目立つレジ前の並べられている。
この映画化までした『魔装少女まさかまじか!?」はダークファンタジー要素が妙にウけた人気作品だ。当然のプレミア価格で一回なんと700円!税込み770円と高額商品なのに、ハズレくじはストラップやクリアファイルとぼったくりもいいところである。
「英梨々。冷静になって考えてみろ」
「お金は絶対に貸さないわよ。はい。結論」
「ちょっと熟慮しろよ。この作品は今が旬。コンビニクジは意外と地方にはなくって売り切れるんだよ」
「まぁいいわ、話ぐらい聞いてあげるけど、お金は貸さないわよ」
「一言も金を貸してくれなんていってないよねぇ!?」
そう、今、俺と英梨々は学校帰りに近所のコンビニに立ち寄っている。英梨々は相変わらず立ち読みにふけっていて、俺はという金もないのに「壱番クジ」のラインナップを品定めしていた。
「転売。できるんだ」
「そりゃ、今時は簡単に転売できるでしょうよ」
「そうだけど、そうじゃない。いいか英梨々。この人気作品なら、2倍・・・いや、3倍で転売できる」
「へぇ・・・そう。なら買って転売すればいいじゃない。別に倫也の自由なんだし」
「そこでだな・・・」
「あっ、あたしは立ち読み中なのよ。見ればわかるわよね?」
「ああ、実に暇そうなのはわかるぞ」
「べ・・・べつに暇じゃないわよ」
雑誌をかたっぱしから読みふけって早一時間。人のほぼ来ないコンビニとはいえ迷惑だろうに。まぁ俺もさっきまでは少し離れて立ち読みしていたが・・・
どういうわけかこのコンビニの雑誌の傾向といい、玩具菓子といい品揃えが充実している。なんでこんなにオタク心を刺激するラインナップなのか。
「なぁ英梨々。金儲けしたくないか?」
「したくないわよ?」
お嬢だしな。俺と違って金には不自由していない。
「そんなこといわずに聞いてくれよ」
「もう少し要件をはっきり言いなさいよ」
「そうだな・・・『このフィギュアが欲しい』どうだ?」
「・・・『どうだ?』じゃないわよ。あたしは別に欲しくないわよ。それにそんなにできのいいフィギュアじゃないわよね?さっきも言ったけど」
「だからさ、映画化の記念バージョン。アルティメットまじか!?なんだよ。絶対にプレミアがつくんだって」
「そうかしら?なんだかんだでヲタクの目ってシビアよね」
「だからさ、いち早く購入して転売するのがいいんだって、手に入らないかも!?と焦ることで正常な判断ができないだろ」
「仮にそうだとしても、あんたがそれを欲しいなら転売できないじゃない」
「ん・・・そうだな」
「えっ?バカなの?」
「素で言うなよ・・・傷つくだろ」
不思議なものでオタクが欲しい人気商品は俺も欲しいのだ。この命題は悩ましい。問題なのはこの当たり景品ではない。ハズレの景品である。
「ハズレの景品の方もけっこうちゃんと売れるからさ」
「証拠は?」
「いやいや、これは今日入荷の新商品だろ。さすがに証拠は・・・」
英梨々が素早くケータイをいじって検索している。もっともこの商品はまだ流通していない。転売は実勢価格が決まる前が勝負なのだ。売り切れて手に入らないかも・・・という段階が一番高値がつく。何がなんでも確保したい層にこそ高く売れるのだ。
「クリアファイルなら、せいぜい200円とこね。ストラップもそんなもんよ」
「まじか・・・」
「1つ当たり500円の赤字ね」
「厳しいな・・・けど、B賞のフィギュア群ならどうだ?」
「えっと・・・だいたい3千円ぐらいね」
「微妙だな・・・」
「グラスが300円、あっ、でもミニ人形の方は1000円以上になりそうね」
「だろ?」
「でも、絶対赤字よね」
「だからだな英梨々。俺がいいたいのはだな・・・」
「お金は貸さないわよ?」
「貸せとはいわない。俺に『投資』してみないか?」
「・・・ちょっと警察呼んでいいかしら?」
「まて、早まるな!」
容赦ないないな。許可のない投資の勧誘は証券法取引違反か何かでひっかかるんだっけ?
「なんでコンビニで立ち読みしているだけで、投資詐欺の勧誘に合わないといけないのよ。ほんとにもう・・・」
「わかった。英梨々こうしよう。お前が当たるまで引く。俺が商品を転売する。その上で赤字になったなら俺が補填する。これで問題ないだろ?」
「どこがどう問題ないのよ。まんま言っていることが投資詐欺でしょうが」
「補填するんだよ?儲かったら英梨々のものだし、絶対に赤字にならないし」
「ああ、もう!少しは黙りなさいよ!」
「今を逃したら・・・売り切れちゃうかもしれないんだ・・・」
「何、突然しおらしくなっているのよ」
押してだめなら引いてみろだ。憐れみを誘って下手になりつつ、英梨々のプライドをくすぐる作戦に変更する。
「このフィギュア・・・塗装がいまいちだよな」
「そうね、出来栄えは量産型って感じで一品物とは段違いね」
「・・・英梨々が塗装したらだいぶ変るんじゃないか?」
「どうかしら・・・顔以外の造詣はけっこういい感じなのよね。やっぱり映画版だけあって無駄に装飾が豪華だからかしら?」
「それに鼠径部とふともものところのラインがなかなかこだわりがあってだな・・・」
「ニーハイ部分のわずかなくぼみも芸があるわよね。顔だけがいまいちだけど」
「これ、顔の塗装がずれているからじゃね?」
「ちょっとクリアケースにはいっていてよくわからないわね」
「衣装も塗装じゃなくて『PVC』・・・塩ビ素材の色そのままだしな」
「そういえばそうね。手抜きもいいとこね」
「これ、未完成品として考えたらどうだろうか?英梨々の手にかかればもっと活きると思うんだよな」
「ソフビの塗装って難しいのよ」
「顔だって一度落として・・・それから着色とかできねぇか?」
「うーん・・・あっ、でもこの瞳ってシールよね?これなら剥がせば再塗装できるかしら」
よしよし、食いついてきた。何事も相手の立場に立って物事をすすめるのは大事だ。金を貸してくれないなら、英梨々に買わせるしかない。
「英梨々なら・・・天才の英梨々ならきっと素晴らしいフィギュアになるんだろうな」
「そりゃあたしが塗装すれば多少はよくなるでしょうよ」
「そしたら一品物のプレミアフィギュアだろ。価格だって2倍、3倍・・・いや非売品扱いだな」
「でも、ずいぶん昔だから・・・塩ビ用の塗料ってまだうちにあったかしら」
「必要な塗料は後からでも買えるけど、こういう土台になりそうないいフィギュアを確保しておくことの方が大事じゃね?」
「そうね」
「もし英梨々が塗装してくれたら・・・俺一生の宝物にして部屋に飾るからさ」
「そ・・・そう?なら、買おうかしら・・・」
ふっ、チョロインめ。
「って、なるかぁ~~!!!」
「えっだめ?」
「当たり前でしょ」
「世知辛いな・・・英梨々ならわかってくれると思ったのに」
「・・・はぁ」
英梨々が大きなため息をついた。俺もつきたい。今までの力説がまったく報われないというのは虚しいものだ。コンビニは俺らしかいないのに、さっきから店内放送はやたらとリピートしてカラアゲちゃんの宣伝をしている。ちょっと食いたくなってきた。
「条件があるわ」
「ん?なんだ?」
「まず、クジ代の貸した金は必ず返す事。利息なんてせこいことはいわないわ」
「えっ?貸してくれるの?」
「その上で、転売した商品の売り上げの50%はあたしに寄こしなさい」
「ん・・・それ、仕入れはお前が払うの?」
「あたしは出資するだけよ」
「・・・ふむ。50%か・・・厳しいな」
「あと、塗料代とあたしの塗装手間賃を上乗せしてくれればいいわよ」
「・・・ずいぶんとぼったくってね?」
「いやならいいわよ」
「ちょっとまってくれ、考える」
クジのロットはそこまで多くない。60枚だ。要するにフルに買えば42000円の消費税で46200円。約5万。塗料は足りない分だけだし、手間賃は指定されていないところをみると英梨々の照れ隠しだろう。よって5万で収まる。
B賞などは高値で転売できるし、元以上になるのは転売ヤーの多さからも自明だ。損することもないだろう。50%は痛いが・・・
「いや、無理だろ。売り上げじゃなくて利益の50%だろ?」
「どういうこと?」
「あのな・・・」
危なかった。売り上げの50%なんていったら、こっちは大赤字になる。2倍で売っても収支がトントンなんて無理だ。だいたい転売の利益率は120%~150%、2割も利益がでれば十分なのだ。人気商品やプレミアがつけば跳ねあがるが・・・
英梨々は絶対に売り上げと純利益を理解していなそうだ。だいたい金にはケチケチしないタイプなので細かいことにはこだわらないはず。
「利益が出たら、その半分をよこせってことだよな?」
「そうよ?当たり前でしょ」
「利益がでなかったら元本保証だけでいいんだよな?」
「ガンポン?」
「元の出資したお金のことだよ」
「そうよ。だって倫也が言ったことよね」
「OKだ。その約束でいってみよう」
英梨々が雑誌をしまった。俺と英梨々でレジ向かって奥で作業をしている店員を呼んだ。
「すみません、その商品は0時過ぎでないと販売できないんです」
広告の日付をみる。なるほど明日が発売開始日になっている。とりあえず商品を並べただけなのだろう。道理で他でみかけなかったわけだ。
「しょうがない・・・0時にもう一度くるか」
「はぁ?あんたバカなの?そんなめんどくさいことするわけないじゃない。0時にはネットに流通させなさいよ」
「買えないものはしょうがないよねぇ!?」
「まったく使えないわね」
英梨々がケータイで電話をし始めた。店の外で話をしている。俺はぼんやりとその制服姿をみていた。まだ冬服だがインナーやマフラーなどはない。プリーツスカートが膝上で揺れている。
4月の中旬を過ぎて、そろそろ5月の気持ちいい季節が近づいてきている。日も高くなってきて、学校帰りとはいえまだまだ明るい。春風が吹けばワンチャンみえるかもしれないと期待していたが、そんな風は吹かなかった。
英梨々の金髪ツインテールが風になびきながら輝いている。制服の後ろ姿をみても美少女オーラがすごい。さっきまでオタク話をしていた少女と同一人物とは思えない。
「手間がかかるわね」
英梨々がぶつぶつ言いながら戻ってきた。
「レジが0時前には通らないようにできているんですって」
「ほぉ・・・最近のレジはすげぇな」
従業員によるフライング防止もあるようだ。場合によっては店頭に並べずに横流しするケースすらあるらしい。
転売合戦に参加するつもりはさらさら無かったが、いざ参戦しようと思ったら大変である。だんだん不安になってきた。
「だから、先に持って帰るわよ」
「何を?」
「商品」
プルルルッ・・・ プルルルッ・・・
店の電話が鳴ったいる。バイトと思われる従業員が電話に出て奥で話している。それからレジまで戻ってきて、「特賞の『アルティメットまじか!?』ですね?」と英梨々に確認していた。
「ええそうよ」と英梨々はそっけなく答えた。それから、「倫也、からあげちゃん食べる?」と聞いてきた。さんざん店内CM聞いたせいで、英梨々も食べたくなったらしい。
「食う」と俺は答えた。
従業員が棚から特賞のフィギュアを持ち出してビニール袋にいれた。それからからあげちゃんを二つ英梨々に渡した。
「ありがとうございました~」と、従業員は不思議そうな顔をしながら言った。会計はしていない
「はい倫也。からあげちゃん」
「ん・・・ありがと・・・」
それから英梨々は商品を持って外へと出た。俺はわけもわからず外へとついていく。
「どういうことだよ?」
「ふぉうもおうふぉもないふぁよ」
「食べながらしゃべるな」
英梨々がからあげちゃんを頬張りならがしゃべっている。俺も口に放り込む。小腹のすいてくる時間だ。絶妙な塩加減が口に広がる。けっしてジューシーな美味しいからあげではない。チープなコンビニからあげ・・・だが、それがいい。
「んぐっ。どうもこうもないわよ。あたしはあんたの幼馴染として犯罪には手を染めてほしくないの・・・」
「犯罪?」
「転売って犯罪よね」
「合法だな」
「だって転売ヤーって社会問題になっているし、嫌われているわよね」
「賛否はあるけど、だからといって犯罪じゃないぞ?」
「そうなの。なんだぁ」
「というか、その商品のクジもひかずにどういうことだよ」
「ああ、これ?頼んだからもっていっていいよって言われただけよ」
「誰に・・・?」
「オーソンの社長に」
「コンビニのオーナーにじゃないのかよっ!」
てっきり澤村家の関係者がコンビニのオーナーだと思ってたけど、母体の方の経営者側とは思わなかった・・・
さっきの電話はそういう内容だったのだろう。
英梨々といると、世の中が理不尽に出来ていることを思い知ることがある。権力とはこのように無茶がきくのだ。
「別に手に入れば手段なんてなんでもいいわよね?」
「あのなぁ・・・転売するつもりだっただけどな・・・」
「はぁ?あんたバカ?死ぬの?倫也が転売なんてできるわけないじゃないの」
「なんでだよ」
「手に入れたら他の商品だって手元に残したくなるわよね。これだって5体全部フィギュア化されているんだから」
ご明察である・・・だぶった商品は転売して資金を回収するつもりだったが、残りは手元においておきたかった。なんならロットごと買うつもりだったのだ。ラストワン賞という最期の商品にも特別な価値があるからだ。
「あんたに5万円も貸し付けるほど、まぬけなことはしたくないのよ」
「ちゃんと返すつもりなんだが・・・それにお前だって転売に乗り気だっただろ」
「・・・そうね」
「どういう風の吹き回しだよ」
「でんふぁしたふぉよのふぇ」
「食べ終わってからしゃべれ」
からあげちゃん。食べ始めると止まらない。そうこうしゃべっている内に家の前までついてしまった。コンビニが近すぎる。もう少しだけ2人で歩いていたかった
「んぐっ。あたしは0時前に売ってくれるように交渉しようとしたら、相手に理由を聞かれたのよ。そしたらもっていっていいって。それだけよ」
「・・・それをオーソンの社長にか?」
「そうよ?」
あんまり深く考えるのはよそう。
「じゃ、そういうわけでありがとうな」
「はっ?」
俺が英梨々のもっているコンビニの袋を受け取ろうとしたら、英梨々が体をよじって拒否した。
「えっ?俺のだろ?」
「あたしがもらったんだからあたしのでしょうーが!今のやりとりでどこに倫也の物になる要素があるのよ」
「はぁ?お前何言ってんの。それは俺が欲しかった・・・」
「あんたが言ったんじゃない」
日がようやく傾いてきている。今日は暖かい日で風もそんなには強くない。新緑の季節が近づいていて、咲いている花も増えてきた。俺の家の庭にも花が咲いている。
「ああ、塗装か」
「そうよ」
「塗るの?」
「塗るわよ」
「えっと・・・じゃあ、塗ったらくれるんだな?」
「・・・」
「そういうことになるよな」
「・・・べ・・・べつにあんたのために塗るんじゃないだからねっ、勘違いしないでよね」
「いや・・・俺はくれるかどうかをだな・・・」
「バーカ、バーカ」
英梨々が走っていった。いやいや、ツンデレなのか?そうなのか?よくわからない。
でも走り去っていく英梨々の足取りは軽いし、こちらに振り向いた時は白い八重歯がみえて少し笑っていたように見えた。
(続く)
ツンデレというか、浮かれた英梨々の演技が小学生レベルまで下がる・・・