【全9話】倫也と仲直りしたい英梨々(高1ー1学期) 作:きりぼー
それがラノベ主人公には必要なのかもしれない。
「こう少し修正するつもりが、ついつい全体的に直したくなるのよね・・・」
「うおっ!?これ英梨々が作ってるのかよ」
「ちがうわよ。造詣は発注したの。首はチョンパしたわ」
「ああ、あの顔はいまいちだったもんな。緩い感じとかは表現できてた気がするが」
「そうなのよ。縦横比の問題かしらね。おそらく二次元をそのまま三次元にしてしまった結果なのよ。ほらアニメの絵はけっこう独特でしょ」
「そうだな。ああいうのって立体化する時はどうするんだ?」
「それこそセンスよね、それっぽく見える事は大事だから。それで、髪は再利用するつもりだったんのだけど・・・」
「まさか髪も作ったのか・・・?」
「迷いに迷った末、塗装とカッティングでなんとかしてみたんだけどどうかしら?」
英梨々がケータイの画像を俺に見せている。そこには先日手に入れたフィギュアが無残に解体され、個別に塗装が行われていた。頭部の複雑な髪型はアニメらしい配色に塗り替えられ、髪の束もずっと細かくなっていた。丁寧に溝が掘り起こしたのだろう。
「細かい作業だな・・・」
「それで、頭部にのせるとこんな感じになるんだけど・・・今度は顔の造詣のラインに対して髪がぼんやりしているのよねぇ・・・」
「うーん、バランスが難しいな。まさに違う作者が描いたかのような違和感が残ってしまうんだな・・・」
「でしょ?」
「その画像送ってくれよ」
「・・・いいけど、あたし、あんたのケータイアドレス知らないんだけど」
「教えなかったっけ?」
「なんか、どっかの女を追いかけて出ていったでしょ」
「そうだっけ?」
そういえば先週そんなことがあった気がする。日誌のサインをしに教室に戻ったんだった。
ちなみに今、俺と英梨々は図書室にいる。図書室の利用者数はほぼゼロに近くなってしまった。新入生も一通り図書室の本をチェックしたら通うようなこともなくなった。また英梨々目当ての男子生徒も他の女子生徒にクギを刺されているらしい。すでに女子による英梨々親衛隊なるものができはじめているのだ。恐ろしい・・・。
「じゃあ、交換するか。LIMEもやっているんだろ?」
「ええ。あんたLIME友達になりたいのかしら?」
「それが一番便利だろ。俺、作業は基本PCの方でするから、ケータイに大容量データ送られても困るし・・・」
「ふーん。ならPCのアドレスも教えておきなさいよ。気が向いたら画像送ってあげるわよ」
「ん・・・わかった」
「何よ、不服なの?少しは光栄に思いなさいよ。学校一の美少女のLIMEアドレスなんて誰も知らないんだから」
「大した自信だな・・・」
通信してお互いのアドレス登録する。すぐに英梨々からクラウドの共有フォルダへのアクセス許可をもらう。これで作業中の画像がすべて見える。
俺はしばし画像をチェックしていく。転売すれば1万近くで売れることものあるフィギュアが躊躇なく解体され、衣装が剥がされ頭部も首で切断された。これだけみているとちょっとした猟奇ものにみえなくもない。
「衣装の質感や配色もいい感じでしょ?」
「おう。さすがだな。もう塩ビって感じはぜんぜんしないな」
「もっと布っぽいふわふわ感を出してもいいけど微妙よね。ベースとなるレオタード部分なんかは光沢のある素材の方がセクシーに見えるし、ちょっと硬質な・・・エナメル素材っぽい雰囲気にしてみたんだけど」
「いい感じなんじゃね?この太もももやべぇ仕上がりだな」
貴重品だがどこかチープだった壱番クジの景品も、こうやって職人?の手にかかって丁寧な塗装がされれば別な商品に生まれ変わっていく。
「あんた語彙がないわね」
「むっちり感ではないが、女性らしい丸みをおびた体型、ニーハイのきつさも上手く表現できているしフェチにはたまらんな・・・」
「ふん。さすが変態の目線ね」
こいつ・・・人を蔑みつつ特大のブーメランが自分に当たっていることに気が付いていないようだ。
が、ややこしくなるのであえて指摘はしない。そこで話題を変える。
「英梨々。学校の噂でさ・・・二大美女がいるのしっているか?」
「知らないわね。何よそれ」
「さっきお前、自称『学校一の美少女』って言ってたけどな、もう一人いるみたいだぞ?」
「1人はあたしなの?」
「よかったな自称だけじゃなくて。一応公認みたいだぞ」
「誰の」
「さぁ?男子生徒のじゃないか?クラスにそういうのが詳しいやつがいてさ」
「ふーん。男子ってバカな話しが好きよね」
「お前ももう少し照れたり、否定して謙遜したりしたらどうだ?」
「倫也相手に?その方がめんどくさくない?あたしが美少女って事実よね?」
「・・・はいはい」
「何よ。文句あるならいいなさいよ」
「たいした自信だな」
「べ・・・べつに自信なんてないわよ。どんなに美少女でも好きな人に好きになってもらえなければ意味ないでしょ」
「なんか少女マンガみたいなこと言い始めたな」
「ほっときなさいよっ!で、もう一人は誰なの?」
「一個上にいるらしんだけどな。眠り姫って言われているらしいぞ?」
「何それ?」
「さぁ?なんでも授業中にいつも寝ているのに学年トップの座を譲らない天才なんだとか」
「へぇ・・・ラノベみたいな人ね」
「・・・だな。特徴は黒髪ロングの正統派らしい」
「ちょっと気になるわね。で、倫也はチェックしたのかしら?」
「いや、まだ」
「まだ?ってことはチェックするつもりなのよね」
「そんだけ有名ならその内わかるだろ」
「そうね・・・」
二大美女なんて聞けば、そりゃ興味もわく。建前は二次元しか興味がないとはいえ、気にならないわけがない。それに金髪碧眼の英梨々に匹敵するとなれば相当なんじゃないだろうか?タイプが違うだけかもしれないが・・・
「まぁ俺としては二次元しか興味ないから関係ないんだけどな」
「三次元に興味があっても縁がないんじゃないかしら?」
「けど1人は幼馴染という関係性があるからなぁ・・・」
「べ・・・別に好きで幼馴染やってるわけじゃないわよ。勘違いしないでよねっ」
顔が赤く染まる英梨々は、『幼馴染』という言葉に弱い。厳密には『幼馴染属性』ということになるんだろうか。中二病をこじらせている奴なので、そういうラノベ設定が好きなのだろう。
「だから、その二大美女の片方とだって、なんらかの関係性ができるかもしれないだろ?」
「で、関係性ができたらどうするのよ?告白でもするのかしら?」
「なんでそんなに飛躍するんだよ!?」
「・・・まっ、倫也には無縁な話しよね」
ピンポンパンポーン
『お呼び出しします。一年C組の安芸倫也くん。一年C組の安芸倫也くん。至急職員室に来てください」
ピンポンパンポーン
「・・・今、俺が呼ばれた?」
「そうみたいね。あんたまたさぼるんじゃないでしょうね」
「先生からの呼び出しだからしょうがないよね!?」
「はやく戻ってらっしゃいよ。また仕事押し付けたら承知しないんだからねっ」
「わかったよ・・・」
俺は職員に向かった。英梨々は1人になるが別に退屈するタイプでもない。ケータイで遊べるし、紙とペンがあれば落書きだけで時間を潰せるようなやつだからだ。
※ ※ ※
俺を呼び出したのは図書委員担当の中年女性教師だった。今日は司書がきていたので図書館に入荷する本について話しをきかれた。
俺の提出したラノベ一覧は絶対に推薦するトップ10と、是非読んでもらいたい30冊、予算があるなら並べて欲しい100冊と段階別にピックアップした。ジャンルも学園もの、異世界転生もの、SF系、ホラー、サスペンス、推理など幅広く選んだつもりだ。女子向けももちろんある。 ただし性的に激しいものは避けて選んだ。
「あなたの推薦文はずいぶんと情熱があっていいですね」と司書の方は言った。落ち着いた雰囲気のアラサーと言った感じの女性だった。メガネもかけていていかにも本が好きそうである。
その後、ラノベについて質疑応答されたが、俺の想定内の質問だったので上手く答える事ができた。昨今の本離れに嘆いたので、その原因と対策についても議論をした。やはり世界や日本の名作を手にとって読んでもらいたいらしい。
「面白い本がたくさんあるのはわかります。でも、本離れがはじまっているからこそ、まずは楽しくて易しい本から読んでもらうべきではないでしょうか?読書経験の少ない人がいきなり『罪と罰』を読んでも疲れてしまいますから」
「そうよね・・・」
司書の彼女のお堅いおすすめ図書についてもディスカッションをしていく。俺がすべて読んでいたことに驚いていたが当然である。読んだことのない本を下げてラノベを並べたいだけという主張は通らない。
また司書の彼女もラノベをいくつか読んでくれらしい。面白さはわかってくれたが物足りないようだ。まぁそうだろう。絵本から童話、童話から短編、短編から長編とだんだんとステップアップしていくものだ。読解力がつけば純文学なども楽しめるようになる。
ラノベはそれとはまた別な発展を遂げている。その文化的背景やケータイの普及、それに海外で認められるアニメについてまで言及した。
さらに、図書館の在り方を変える事や部屋のレイアウトなどの変更、イベントを行ってもっと本を親しんでもらうことも提案した。それらについてもレポートにまとめておいたので鞄から出して提出する。時間があるならプレゼンしたいぐらいだ。
・・・かくして、俺の情熱は認められて、100冊の入荷が決定した。
※ ※ ※
「ごめん」
「・・・」
図書室はすでに閉まっていて、英梨々は先に下校していた。気になっていたがコンビニを覗くと英梨々がまた立ち読みをしていた。
「いや、あのさ・・・いろいろあってさ・・・」
「お金なら貸さないわよ?」
「そういう流れの会話じゃなかったよねぇ!?」
「もう、何しでかしたのよ。停学?」
「いや、悪いことは何もしてないです・・・」
「ふーん。どうだか」
「してないからな?図書室の本について意見を求められたんだよ」
「ああ、例のラノベの?あんたマジで言ったんだ?」
「そうだぞ?一応100冊ほどピックアップしてだな」
「はぁ?あんたバカじゃないの?そんなの通るわけ・・・」
「通った」
「ほんと?」
「ほんと」
「もしかして・・・うちの学校ってバカなんじゃ・・・」
「まてまて、お前までそんなにラノベをバカにするなよ。一応説得をしてだな、理解と協力をとりつけたんだぞ?まずは俺を褒めるべきだろ」
「その情熱はいったいどこからきたのよ・・・」
「英梨々からだろ」
「はぁ?」
あっけに取られている英梨々はどうやらことの発端を覚えていないらしい。
「英梨々が言ったんだぞ?」
「何を?」
「図書室の本がつまらないから、ラノベでもおけばいいって」
「・・・確かにそんなようなことはいったけど、それってただのぼやきよね」
「知らん。けど、もっともだと思ったよ。読まれることのない本が飾られる虚しさはあったからな」
「それで、実際に行動したわけ?」
「そうだけど・・・俺、何か間違ってたか」
「べ・・・別に間違ってないわよ」
「そういうわけで、今日は悪かったな」
「今日もでしょ」
「そうだな。来週は俺が1人で当番するからさ」
「・・・はぁ」
英梨々が溜息をついた。なんの溜息だろう?
「別にそんなことはいいわよ。でも倫也にしてはよくやったじゃない」
「だろ?褒めていいぞ」
「偉い偉い。じゃあ、からあげちゃん買ってあげるわよ」
「まじで!?」
「そんな喜ぶようなものじゃないでしょ」
英梨々が雑誌を片付けてレジへと向かった。
※ ※ ※
今日は遅くなって夕方である。俺は歩きながらからあげちゃんレッドを食べる。この辛さがやみつきになる。英梨々は塩味というシンプルなものだ。けっこういろんなバリエーションが売っている。
それを交換しながら食べるとすぐに家についた。もう少し歩きたいところなのだが。
「じゃ、またな。ごちそうさん」
「・・・うん」
「どうした?」
「いい時刻よね。そろそろ日の入りじゃないかしら?」
「そうだな。空も朱いしな」
「そこの公園まで」
「公園?」
「別になんでもない。じゃまたね」
「ん?なんだ?公園がどうした?」
「別に大したことじゃないわよ。そこの公園からだと夕日がちょうど見えるころなのよ」
「ああ、そういえばそうだな」
英梨々の屋敷は俺の家から坂道を上った先の高台にある。駅から続く商店街をぬければ目立つ場所に建っているのですぐにわかる。坂道の途中に小さな公園がある。ブランコしかないその小さい公園で英梨々と俺はよく遊んだ。
俺は玄関の鍵を開けてバックを置いた。
「じゃあ、ひさしぶりにいくか」
「倫也がそうしたいなら別に好きにしていいわよ」
「お前が誘ったんだろ」
「別に誘ってないわよ」
「素でいうなよ。そこはツンデレだろ」
「・・・めんどくさいわね。『べ・・・別にあんたを誘わったわけじゃないだし、一緒に夕日がみたかったわけじゃないんだから、勘違いしないでよねっ!ふん!』ってこれでいいかしら」
「ははっ」
2人で並んで歩きながら坂道を上がっていく。この坂道をずいぶんと久しぶりに歩いた気がする。夕日のせいで影が長い。
「あれ、こんなに狭かったっけ?」
「ふふっ、そうね子供の頃はもっと大きく思ったけど、考えてみればブランコしかないないんだもの」
「そうだな。誰がこんな公園作ったんだ?」
「元々は富士見台だったらしいわよ」
「へぇ・・・そういえば天気がいいと富士山みえるんだっけか」
夕日がみえた。秋は夕暮れというが、春先の夕日はそこまで紅く染まらない。それでも英梨々の髪がオレンジ色に見える。
「あたしが生まれた時にここにブランコを作らせたみたいよ」
「なんじゃそりゃ」
「だって、こんなところあたし達ぐらいしか利用しないじゃない」
「うーむ・・・」
英梨々の家はこの坂道の上にある高台の屋敷だ。そこから先は私道になって政治家などの住む超絶高級住宅街になる。住宅というよりは塀のある邸宅だ。したがって下々の一般人がこの坂道を登ることはまずない。車も関係者以外のものは通らないし、ナビにも表示されないのだ。
ブランコはメンテナンスはされているようで錆びたりなどはしていない。淡いピンク色に塗装されているし、座るところもそんな汚れていなかった。
「いい景色だな」
「子供の時はぜんぜん分からなかったでしょ?」
「そうだなぁ。高架線にローカル電車。沈む夕日とまばらな家の灯り。昔に比べてマンションが情緒を奪っているのが残念だ」
「あら、ちょっとだけ詩人ね」
「うーん・・・『斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。日没までには、まだ間がある。私を、待っている人がいるのだ』・・・わかるか?」
「さぁ?」
「確かにこんな風に夕日が沈むのを見ると焦燥感にかられるものがあるな。今のは太宰の『走れメロス』だよ」
「小難しいわね」
それからは言葉にならなくて、あたりが暗くなって少し肌寒くなるまで2人で静かに過ごした。
(続く)
うーん。
三話にして仲良しじゃね?
コンセプト忘れてね?
っと、思いつつ書き進める。