【全9話】倫也と仲直りしたい英梨々(高1ー1学期) 作:きりぼー
ドガガガガッ
ドリルの音が放課後の図書室に鳴り響く。ドアに鍵をかけているとはいえ大きな音なのできっと漏れているだろう。
「いいのかよ・・・」
「よかないでしょ」
カウンター横の柱にドリルで穴を開けているバカは、いうまでもなく英梨々だ。長い金髪が巻き込まれないように、ツインテールは制服の中につっこんでいて、うなじのあたりがいつもよりも少しエロい。
ドガガガガガッ
「バレたら停学になるんじゃねーの」
「あんたがね」
「俺が!?」
「当たり前でしょ、なんであたしが責任とらないといけないのよ」
「・・・お前が穴を空けているからじゃね?」
「はぁ?あんたバカなの?自分の発言ぐらい責任持ちなさいよ」
ドガガガガガッ
コンクリートをぶち抜く音は中々の騒音である。俺が言ったのは古びた木製の本棚ではラノベがぜんぜん映えないよなぁということと、カウンター横の柱の前がデッドスペースでもったいないよなぁということぐらいである。
「で、普通はその話からそこにマガジンラックを作ろうとは思わないだろ」
「そう?なら、あたしが天才美少女ってだけよね」
「めでてぇー頭だな・・・」
「だいたい何をびくびくしてんのよ、銀行強盗のための穴でもあるまいし」
「校舎に無許可で穴開けたらそりゃびびりもするだろ。修理代とか請求されたらどうすんだよ」
「こんなのコンクリ用のパテ埋め込んで壁紙張るだけでしょ。1000円もかからないわよ」
「DIY女子だな」
ドガガガガガガッ
俺としてはまずは草案のデッサンを起こし、次に先生を説得して許可をもらって、それから工事でいいと思うのだが・・・
思い立ったが吉日とばかりに工事をはじめるバカがいるとは思わなかった。だいたいドリルをどこからもってきたんだろうか。
続いてネジ回しでコンクリート用のアンカープラグをねじ込んでいく。もはや華奢な見た目の自称美少女とは思えない。ガテン系女子である。というか男子である俺がすべき作業ではないだろうか?
「倫也、その棚受けL字とって」
「ほらよ」
「あとネジもお願い」
「これか?どこで買ってきたんだよ」
「知らないわよ。頼んだらもってきてくれたんだから」
澤村家の万能執事にはモラルがないのか、お嬢様のわがままを全面的に聞いてしまうのはいかがなものだろう?
学校側ともめて問題になったら大変なんじゃないかと思ったが、考えてみれば英梨々が裏口入学するぐらいずぶずぶの関係だったな。
L字金具を壁に固定し、板をのせて木ネジでとめる。あら不思議、あっという間にオシャレなマガジンラックができあがった。
「いい感じだなっ!」
「幅もばっちりね。やり方わかったでしょ?あと2段とりつけててくれるかしら」
「それは構わんが」
L字ラックを取り付け、板を固定する。俺が作業している間に英梨々が新品のラノベを包装からはがし、自作ポップアップと組み合わせて準備している。
「ここだけ新しくなると、他もだんだん改修したくならねーか」
「そうね、建築デザインは得意じゃないけど、一応見積もりは出してもらってるわよ」
「・・・自宅の改築じゃないんだからな」
「学校なんて適当に予算があるんだから、適当に使えばいいのよ。ほら、できた?」
「こうでいいんだよな?」
「ええ」
棚を取り付けることに成功した。ドリルを使いだした時は大工事になるかと思ったが、そんなに時間はかからなかった。
採用した木材はユーカリの木らしいが、色も木目もとても美しい。今度は柱の壁紙が古臭かったのが気になったが今はどうしようもない。
「じゃ次はこれ、一番上に取り付けて」
英梨々に渡された自作パネルは、ラノベコーナーをうたっている。イラストもプロ顔負けだがお手製感を絶妙に残したデザインがいかにも高校生っぽい。英梨々に言われた位置に固定する。
「メインはこの本でいいのよね?」
「俺としてはそれがいいと思うが・・・英梨々も読んでみたか?」
「ええ、面白かったしいいと思うわよ。まだ完結していないのが気になるけど」
作品名は『恋するメトロノーム』多くのラノベに埋もれてしまってまったく売れていない。挿絵があまりマッチしていないせいもあると思う。俺のサイトで豆に宣伝して広めていて評判は上々だ。評価が高いので徐々に注目度が上がってきている。売り上げに貢献できれば嬉しいが・・・どこまで影響力があるかは疑わしい。
英梨々が本の表紙が見えるように並べて、ポップアップで飾りたてる。隙間には小物や小型フィギュアや玩具をおいて演出する。
本をぎっしり横並びにするような野暮なことはしない。インテリアと推薦図書を兼ねるのが狙いだ。
「だいたいこんなもんかしらね?どう倫也」
「いいんじゃね。俺のイメージ以上にいい出来だわ。よし、褒めてやろう」
「ふふんっ」
鼻息荒くドヤ顔している英梨々もまたカワイイ。しょうがないのでツインテールを制服から出してやろう。俺は英梨々の後ろに周りこんで髪を掴んだ。
「ひゃ!?ちょっ、何するのよ」
「もう工事おわったろ、髪を出してやろうと思ってな」
「・・・勝手にさわらないでよ。ビックリするでしょ」
英梨々の髪は硬質な質感があって煌めいているが、手入れがされているので絹糸でもさわっているかのようになめらかで柔らかい。
子供頃は触るのが好きだったが、ケンカ以来触っていなかった。
「あいかわらずいい髪してんなぁ」
「この変態」
英梨々は頭を振ってツインテールを躍らせた。いい香りがあたりが鼻をくすぐった。
「ほら、とっと掃除して片付けてオープンするわよ」
「あいよ」
掃除機が準備室にあったのでそれを使ってコンクリートのクズなどを掃除する。それから工具を片付ければ証拠隠滅だ。目撃者がいないから密室での完全犯罪?が達成された。
「・・・誰もこなかったな」
「立ち入り禁止にしているから」
「用意がいいな。うーん。鍵をかければ図書室で2人になれるんだな」
「そりゃそうでしょうよ」
「なんか・・・エロくね?」
英梨々がぽかーんと口をあけて、顔が赤くなっていった。俺としてはそんなに考えての発言ではなかったのだが・・・ギャルゲー的なシチュエーションだと思っただけなんだけど・・・
「あんた・・・そんなこと考えてたの・・・」
「いや、今ふと思っただけだよ。こういうシチュエーションもゲームにありそうだなぁって」
「放課後の図書室でDIYするギャルゲーって何かしらね?」
「DIYじゃなくて、密室で2人というシチュエーションがだな・・・」
「ふーん。じゃああたしは危険だったってわけね?」
「俺は襲わないからな?けど、そうだな・・・こういう男女2人は避けたほうがいいだろうな」
「倫也もバカなこと考える高校生男児になったのね。どこに学校内でいきなり襲ってくる人がいるのよ」
「わからんぞ?男子高校生なんて下半身が本体だからな」
「密室でセクハラ発言しないでくれるかしら?」
「なら、鍵を開けろよ・・・」
「・・・そうね」
英梨々が扉の鍵をあけてドアをオープンにした。利用者のほぼいない図書室である。開けたところで誰かがくるわけでもない。
英梨々は廊下の方へでていって、立ち入り禁止のコーンを持って帰ってきた。
「お疲れ」
「でも、倫也。このラノベコーナーを作ったのはいいけれど・・・人が来なければ意味ないじゃないの」
「ああそうだな。作戦の第二段階が必要だよな。それにもアイデアはあるんだが」
「あるのね」
こうして俺は誰もこない図書室で、英梨々と二人で次の作戦について話しあった。
もうすぐゴールデンウイーク前の初夏である。窓から見える新緑がとても鮮やかできれいだった。陽光に照らされた英梨々はときどき笑顔を交えながら、図書室の改装案をはなしている。
俺としてはこの古びた図書室の雰囲気も好きなのだが、規則正しく並べられた長方形のテーブルも、木製のイスも、あるいは古びて赤茶けてしまった本棚も、今の時代には合っていないと思う。ノスタルジックな昭和情緒漂う図書室にはもう人が集まらないのだ。
調べものをするために並べられた本を探す生徒はいないし、名作を探しに本を物色する生徒もいないし、それにここで勉強する生徒もいないのだ。
図書室は本をしまうだけの蔵のように死んでいた。別にそんなことは俺には関係ないしどうでもいいとおもっていたけれど、英梨々が今日作った棚は明るくて興味を惹かれるものがある。ふと、本を手にとってみたくなるだろう。
「って倫也、人の話、聞いているの?」
「ああ、悪い、聞いてなかった」
「もう何よ、ぼんやりして」
「なぁ?図書室ってまた賑わうことあると思うか?」
「思うわよ。倫也がなんとかすれば」
「俺か」
「当たり前でしょ。オタク文化を広げるんでしょ。まずはこの場所から発信しなくてどうするのよ」
「ネットで・・・」
「そうやってデジタル情報ばかり頼った結果がこの過疎った図書室でしょうに」
「ごもっとも」
デジタル文庫も多くなったが手にとる本もいいものだ。
カウンターに戻って並んで座る。誰もこないから英梨々は読んでいないラノベを手にとった。俺は次のプランのための書き物を始める。
放課後の静かな時間が図書室に流れた。
この雰囲気はとてもいい。校舎の僻地あるので校庭の運動部の音もそれほど聴こえてこない。
「なぁ英梨々」
「何よ?今いいところなんだけど」
「こういうのも図書館デートっていうのかな?」
「言わないわよ。ただの委員会活動だもの」
「・・・ですよねぇ」
英梨々がページをめくって、くすっと笑った。
(続く)