【全9話】倫也と仲直りしたい英梨々(高1ー1学期)   作:きりぼー

7 / 9
この話は原作とは違うけども
とりあえず恋敵の登場をさらっとする詩羽先輩。
モブキャラに徹する図書委員Bさんの苛立ちも

英梨々のイメージも注目



07 無自覚主人公と霞ヶ丘詩羽

『みんな聞いて聞いて~!霞詩子がおくる新シリーズ『恋するメトロノーム』が不死川文庫から登場!学年1位を譲ったことのない秀才で美人な先輩の正体は、女子高生人気ラノベ作家の霞詩子だった!! 霞詩子の大ファンだった主人公は突然、詩羽先輩の担当編集に任命されて…!? 「今夜は私を寝かさないことね」黒髪ロングの毒舌美女が、眉目秀麗な無自覚たらしのオタクと出会い、人気作家になることを決意する!妄想と文才がクロスする王道学園ラブコメ、『恋するメトロノーム』第二段は・・・ってもう30秒?!伝えたいことが多すぎる!不死川文庫』

 

 お昼休み中に放送が流れたあと、「おおっ~」と教室にどよめきが走った。

 先生に許可をとって1週間ほど放送部と連携を取って宣伝してもらっていた。内容は新図書室の完成とラノベなどの最新文庫をそろえたことを知らせるものだ。

 その一環として、以前話題になったCMを改変し借用させたもらった。朝、昼、放課後、下校時の4回流されるお知らせのあとに、放送部がこの早口なCMにチャレンジしてもらっている。

 早口のため聴き取りにくい長文の内容は各教室の掲示板にも貼ってあり内容が確認できる。ぜんぜん興味ない人も一度は目を通すし、友達同士でチャレンジしている姿もあちこちで見られた。思惑通り一定の話題にはなっているようだ。

 

 放送部は放送部で練習してくれたようで、4日目の昼についに噛まずに宣伝を終え、先ほどのどよめきにつながった。その時だけみんな静かになって放送を聞き入っていたのだ。

 

 進学校のせいか頭の固い先生はあまりいない。もちろん異例の放送に賛否はあったみたいだが、図書委員担当の先生が全面的に支持してくれたおかげで無事に放送が行われ、新図書室も人が大勢きて賑わっている。

 

 ラノベコーナーの本はすでに貸し切られてしまったが、それだけでなく、SFコーナーや推理小説コーナーなども好評を博していた。

 

 俺としてはミッションを終えた心境である。

 

※ ※ ※

 

「いつまでこんなに賑わうのかしら」

「さぁな。ラノベが一通り貸し出されたら収まるんじゃないか」

「本屋じゃないから売れ筋の在庫を仕入れればいいってもんでもないし、歯痒いわよね」

「そうだな。それでも1巻は3冊ぐらい用意してみたんだが」

「みんな借りられちゃってるじゃない」

 

 せっかく用意した棚には本が0冊。この想定外の自体に慌てた俺は、英梨々に頼んでイラストを急いで描いてもらい、『現在貸し出し中』の紙を用意した。登場するキャラクターの吹き出しなので、見た目も華やかで棚が寂しくない。

 

「図書室で本を読む人も増えるのね」

「波及効果なんだろうけどな。居心地もいいんじゃないか」

「おかげであたしの居場所はなくなったけど」

「別にいままで通りカウンターにいてもいいんだぞ」

「いやよ。いっぱい話しかけてこられるもの」

 

 曜日担当の時だけ英梨々は顔を出しているが、今は本好きの図書委員の数人が毎日図書室に顔を出して手伝ってくれている。賑わっているのが楽しくて嬉しいみたいだ。そういうわけで英梨々や俺がカウンターに立たなくても問題はまったくない。

 

 英梨々は他の図書委員に頼まれたポップアップや紹介文などを図書準備室でせっせと作っている。案外、この方が性に合っているので問題はまったくない。『美術部のエース』と呼ばれる日もそう遠くないだろう。

 

 図書室の蔵書は以前の三分の一程度まで減らして、その分読書スペースを広くした。長方形で分厚い木製テーブルは角を丸くカットして明るいパステルカラーに塗装した。また壁側にはソファーを配置して、オシャレなカフェのようになっている。飲食こそ禁止だが憩いの場として人気スポットになりつつある。

 勉強している生徒もちらほらとみえる。

 

「次はイベントをしようと思うんだが」

「これ以上忙しくする必要あるのかしら」

「変化がないと飽きられるからな。ここは本好きの人の参加型イベントをして勢いを保ちたいと思う」

「例えば?」

「そうだな・・・全校生徒で選ぶ名作100選投票とか」

「ふーん。面白そうね」

「全校生徒と言いながら、図書室で本を借りた人にだけ投票券を渡して投票してもらうシステムにすれば、本を読めば読むほど投票できるだろ」

「なんか不正の温床になりそうね」

「それも含めてだ。本好きが選ぶ推薦図書に名前を変えてもいいしな」

 

 ラノベ導入をきっかけに図書室の在り方が変った。また図書委員の意識も変ってきている。やる気のなかった委員長は忙しくなるのを嫌がって早々と辞退した。今は以前は前面にでなかった本好きの人が委員長を引き継いでいる。そして、何かと俺に相談してくるのだが、俺としては自立的に図書室が機能してくれるならそれにこしたことはない。

 

「飲食の許可がでなかったことだけが悔しいわね」

「それはしょうがないだろ。別に本は貸し出された後、食堂で読む分には自由なんだから」

「そうだけど、食堂とカフェじゃずいぶん違うわよね」

「うちの食堂は採光も明るいし、けっこうオシャレだからな。自販機も充実しているし、学生ならあんなもんだろ」

「いっそ、自分で読書カフェでも運営しようかしら・・・」

「あのコンビニの横にか・・・」

「あのコンビニを潰してかしらね」

「思い付きで商売するなよ・・・」

 

 そう。地元にできた新しいコンビニは健康志向の昨今を反映させた少しオシャレなコンビニで、オーガニック食品なども充実していることでも有名だった。にも関わらず、なぜか玩具菓子が充実しているどころか、最近では小さいがプラモデルコーナーまである。しかもピックアップの仕方が実に的確で・・・おかしいなぁと思ったら、経営に澤村家が一枚かんでいた。ゆえに英梨々の意見が多少なりとも反映されていたのだ。もっというなら俺の意見が取り込まれている。誰得の店だよ!?って疑問だったが、俺得の店なのもからくりがわかれば当たり前である。

 

「商売といえば、倫也のバイトの調子はどう?」

「一言でいうなら、非常に眠いな」

「そりゃそうでしょうよ。だいたい夜遅くまで起き過ぎなのよ」

「だって深夜アニメはみるもんだろ」

「録画しなさいよ」

「録画もしてるがな・・・」

 

 早朝に起きて新聞配達のバイトをしている。起床時間は実に4時。空がまだ暗いうちに販売店に出勤して準備をする。その分、給料はそこそこいい。また勤労青年のイメージもあるのがグッドだ。

 

 英梨々はしゃべりながらも描くことをやめない。手は動き続けている。

 

 図書室改装にあたり蔵書はだいぶ選別された。百科事典や図鑑に代表される『資料系』の本はすべて『第二図書室』に移動された。第二図書室はすぐ隣の非常用備品倉庫の中身を別な場所に移して確保した場所だ。引っ越し作業はもちろん図書委員が行った。

 

 この第二図書室は無機質に本棚と本だけが沢山並べてある。というか昔の図書室のままだ。したがって利用者はほぼいない。面白いもので『資料』を一番利用しているのはおそらく英梨々である。ポップアップの挿絵の参考にしている。ネットで調べるよりも自分で思いがけずに目に飛び込んでくるのがいいんだそうだ。図鑑などをパラパラとめくっていると夏休みの自由研究をしている頃の英梨々とあんまり変らない。

 

「新聞配達の仕事をしているとな、けっこう近所の人に顔を覚えてもらえるんだ」

「ふーん。朝早いのに?」

「年寄りの朝は早いんだろうな。直接新聞を受け取る人もけっこういるぞ。それでな『ご苦労さん』ってパンくれたり、小遣いくれたり」

「それ・・・倫也が貧乏に見えるだけじゃ・・・」

「ファンだろ?」

「ファンじゃないでしょ・・・どこまで楽観的なのよ」

 

 英梨々がクスクスと笑っている。

 

「あの~。安芸くーん」

 

 準備室に顔をのぞかせた図書委員の女の子が声をかけてきた。

 

「どうした?」

「えっと・・・霞ヶ丘先輩が質問があるみたい・・・」

「霞ヶ丘先輩?誰?」

「とにかく、表にいるから来てくれるかな」

「はいよ」

「あんた何かしでかしたの?先輩に呼びつけられるなんて」

「どこかで聞いたことある名前だよな・・・」

 

 俺が準備室から出てカウンターの方へ向かうと、黒髪ロングのえらい美人さんが立っている。おまけに胸もでかい。けど表情は固くどこか憂いているようにも見える。

 

「あの方」

「名前なんだっけ?」

「霞ヶ丘先輩。有名だよね?『天才眠り姫』とかなんとか?」

「曖昧だな・・・で、なんで俺?」

「別に安芸くんご指名ってわけじゃないけど、『なんで恋するメトロノームなのか?』って質問されたから・・・選んだのって安芸くんだよね」

「なるほど?」

 

 この『図書委員B』と言った感じの印象の薄い女の子と話をしていてもしょうがないので、直接話しかけるとする。

 

「こんにちわ。図書委員の安芸倫也です。ご質問内容を確認させてもらってよろしいですか?」

「・・・あの」

「はい」

「・・・どうして・・・この本?」

 

 偉い美人の霞ヶ丘先輩の声は小さい。指で示した先は貸し出されてはいるが『恋するメトロノーム』のイラストが描かれていた。

 

「このラノベはですね。まだぜんぜん注目もされていないし、ランキングも圏外で売れていないんですが、これから必ずブレイクすると思われる作品なんです。なんか売り出し方が下手で、現役女子高生作家?らしいんですけど、本の設定のためなのか、本当なのかは不明です。ただその謳い文句のせいで内容の評価が正しくされていなくって、『女子高生作家だから下手でも出版された』とか『女子高生がこんなのかけるわけないだろ。ゴーストだろ』とかいろんな関係ない批評で点数が低くされてて・・・って、あっしゃべりすぎか」

 

 俺は頭もぽりぽりと書きながら言った。好きなことはついついしゃべり倒してしまうのはタクの悪い癖だ。

 

「いいわ、続けて」

 

 霞ヶ丘先輩はぼんやりと佇んでいる。立ち話もなんだら座って説明したいぐらいだが・・・

 

「内容にあまり言及されていなくって、俺としてはすごく面白いと思うんです。まずなんといっても文章が洒脱で繊細。これは確かに現役の女子高生のような感受性がないと書けないかもしれない。にも関わず深い教養と卓越した文才がある。ラノベにするために余計な文章をそぎ落とし、推敲に推敲をか差ねているのがわかる。読んでいるだけで楽しい。これってすごく大事だと思うですよ。すんなりと情景が浮かび、無駄なくストーリーが頭にはいってくる」

 

「そう。それから?」何を考えているか読み取りにくいが、少し頬が赤いところから、俺の熱弁が聞いていて恥ずかしいのかもしれない・・・この辺で切り上げるか。

 

「ありきたりな設定の恋愛シーソーと思わせながらも、視点が新しい。だから恋愛に憧れる恋愛下手のヒロインの心境に共感しやすい、応援したくなるし続きが気になると思うんです。是非、読んでみてください」

 

「ねぇ・・・」

「はい」

「あなた、この作者さんにファンレター書いたことある?」

「いいえ」

「どうして?」

「どうして・・・?」

「だって、それだけのファンならファンレターぐらい書いて応援しそうじゃないかしら」

「ああ、俺・・・そういう応援のしかた・・・お金が回らない応援の仕方ってしたくないんです」

「お金・・・?」

「ちゃんと本を買って応援したいし、本がもっと売れればいいなと思って。この本もここで宣伝していますけど、実は学校の売店でも扱ってもらったんです。見にいってください。あっちもポップアップで派手に宣伝しているし、売れてきているようですよ」

「そう・・・」

 

 霞ヶ丘先輩はそう言い残すと、何も感想もお礼も言わず図書室から出ていってしまった。

 

「いったいなんだったんだ・・・」と俺はその美しい後ろ姿を見送った。

 

「安芸くん、用事が住んだら手伝ってくれる」と声をかけられた。

カウンターには列ができていた。

 

 図書準備室からは英梨々が半分だけ顔を出してこちらを睨んでいるが、別に何か悪いことしているわけでもないし気にしないことにする。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「安芸くんは返却の方お願い」

「おう」

 

 俺は返却本のバーコードを読み取り手続きを済ませていく。それから何冊か溜まった返却本を元の棚へと返していった。

 

 そして、返却された『恋するメトロノーム』一巻を棚に並べると、また直ぐに誰かが見つけて借りていった。

 

 図書室は当分は賑わいそうである。

 

(続き)




壁から顔を半分出して心配そうに睨む英梨々。このあたりがアニメ的にも現先的にも英梨々っぽさなのかもしれない。
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