【全9話】倫也と仲直りしたい英梨々(高1ー1学期) 作:きりぼー
6月の中旬。梅雨の真っ只中で今日も雨が降りしきっている。
学校帰りにいつものコンビニを覗き込むと、今日も金髪ツインテールが本を立ち読みしていた。雨の日ぐらいさっさと家に帰りたいと思わないのだろうか。しょうがないので声ぐらいかけてやろう。
傘立てにはビニール傘が一本と、高そうな持ち手の白い傘が一本さしてあった。俺は自分の黒い普通の傘の水を切ってから、クルクルと巻いて白い傘の隣にさした。
「よぉ」と気楽に声をかける。
英梨々は目つきの悪い顔で俺を確認すると、何も言わずにまたマンガ雑誌に目線を落としている。
「無視するなよ」
「今いいところなのよ。ちょっとぐるっと一周してからにしてくれるかしら?」
「へいへい・・・」
別に急ぐ用もないのでコンビニの中を歩く。オタク仕様にカスタマイズされているこの店はついにショーケースまで設置してフィギュアやプラモが並べられている。これがなかなかのラインナップで・・・
「って、サジタリウスだとぉぉ!?」
俺は思わずあたりを見回した。そしてこのショーケースには一応鍵がかかっているもののセキュリティーが心配になる。
というのはこの飾られている金色の玩具・・・サジタリウス・・・射手座の玩具は昭和に大ヒットした人気漫画の玩具で今も根強いファンがいる。リバイバルで生産された玩具は当時の小学生が大人になっているため価格設定は数万円の金属製だ。
まぁ仮にそのシリーズが12体ここに飾られていても俺は驚きはしない。だがこれはそんな金を出せばおいそれと手に入るものではなかった。
遠い昔、昭和の時代の懸賞で当たった人だけが手にはいる幻の一品だった。中古品、破損ありでも1万以下にはならない。箱無しの美品でも10万、箱入りになると今や「非売品」が当たり前で店の看板になったりする。
これは価格がついてないが・・・後ろには箱が、そして本体が飾られていた。出来栄えは正直チープでカッコいいデザインとはいいがたい。それでも重厚な金属の重みはみているだけで伝わる。
「英梨々!大変だ・・・」
「金なら貸さないわよ?」
「・・・あのな・・・」
「投資もしないわよ?」
「俺の信用はどうなってるんだ?」
「うーん、あたしからあーでもないこーでないといいくるめ、借金しまくっているクズ男ね」
「反論のしようもねぇな・・・・」
だって、このコンビニ・・・オタク心をそそる商品が充実しているのだもの。最新人気アニメグッズやDVD全巻セット。もちろん書籍も充実している。それだけじゃない、作家や声優のサイン色紙まであるのだ。もはや池袋やアキバに出店されていてもおかしくない品揃えなのである。少数精鋭という感じで厳選されているのもいい。
というわけで英梨々に借金が膨らんでいた。
「で、何よ?今度は何が欲しくなったのよ?」
「ちょっとこっち来てみろ」
俺は英梨々を連れてショーケースの前に立った。コンビニ奥のオタクコーナーの一角である。
ショーケースの中に輝くサジタリウスを指さした。
「これ・・・幻のゴールドクルスだ・・・」
「セーセンシリーズのよね?それがどうかしたの、これカッコ悪いじゃない」
「そうなんだがな・・・」
俺は一通りこの玩具の価値を英梨々に話をした。価値というのは相対的に決まることもある。供給がなく需要が高ければ価格は跳ねあがる。その極みのような商品がこれなのだ。
「ふーん」
「あんまり興味ねぇな・・・?」
「だって、見た感じはブサイクだしかっこよくないわよね?そういう希少性とか限定品に惹かれて、自分の価値観を失うのって感心しないわね」
「ごもっともだな・・・けど、これってどういう経緯で飾られているんだ?お前の意向が反映されているんだよな?」
「多少はね。『ヲタクが喉から手が欲しがるものを飾っておいて』って頼んだだけよ」
「抽象的だな!そして的確な対応だな・・・」
「これなら新型のクルスシリーズそろえた方がかっこいいと思うけど」
「気安く言うけど、それでも一体2万ぐらいするからな・・・」
「か・・・貸さないからね」
「あー、貸すといえば英梨々。大事な話がある」
「何よ」
「バイトの給料が入った」
「そう?」
「反応薄いな」
「だって別に倫也にバイト代が入ったからってあたしが得するわけじゃないわよね?何か奢ってくれるわけ?」
「からあげちゃんぐらいなら・・・」
「気前いいわね、ならバーベキュー味で」
「あとでな・・・それだけでいいのか?」
「何よ?あんまりお金あるからって奢ったりするとすぐなくなるわよ?」
「普通、まずは借金返せっていうだろ」
「ああっ・・・そうよね。あんたバイト代はいったなら、とっとと借金返しなさいよ。バカ」
「初めからその反応でないと調子狂うだろ?で、いくらだ?」
「えっと」
英梨々がスマホをチェックしている。
「5万8342円みたいね。あんた、こんなに借金する普通」
「高校生の借金する金額じゃねーな・・・」
「それもわずか2ヵ月でね」
「・・・このコンビニがおかしくね!?」
「あんたの自制心の問題でしょーが」
「いやいや、だいたい普通そんなに貸すか?踏み倒されたらどうするんだよ?」
「見る目がなかったって話しで、倫也が6万以下の男ってだけよね」
「さよですか・・・」
「で、返すの、返さないの。あたしまどろっこしいの嫌だから返すなら一括にしてよね」
「・・・ATMみてくるわ」
健全な高校生の俺は早朝は新聞配達、ゴールデンウイーク中は飲食店でウエイターのバイトも始めていた。どちらもけっこうがんばったので、その金額は合計で7万ちょい。一ヵ月で7万もバイトする高校生ってどうなんだろう?と自分で思いつつ溜息をつく。
6万を両替で卸した。残金は1万ちょいの明細がでてくる。
「5万8千といくらだっけっか・・・」
「5万8千とからあげちゃんでいいわよ」
「そうか、悪いな・・・」
紙幣を数えて借金を返済する。英梨々はそれを綺麗な細工のほどこされた財布にしまった。
無表情に淡々とお金を扱うあたりが実に英梨々で数万程度では動じないようだ。
※ ※ ※
「なぁ・・・少し寄ってかないか?」
2人で傘を差しながら並んで歩いている。雨が降っているのでからあげちゃんはビニール袋に入ったままで立ち食いはできない。
「・・・何よ、倫也・・・あんたそんなにからあげちゃんが欲しいわけ?」
「そうじゃねーよ」
俺は否定したつもりだが、英梨々は袋からからあげちゃんを一個つまみあげて俺につきだした。
手を汚すのが嫌な俺は口を開ける。
「あーん」
「『あーん』じゃないわよ!自分で食べなさいよ!」
「手が汚れるだろ。ほれ」
俺は馬鹿みたいに口をあけて待つ。雨の音が心地いい。英梨々はそのままつまみ上げたからあげちゃんを俺の口の中に押し込んだ。
「もうふぉいていにぇいだふぁ・・・(もうちょい丁寧にだな)」
「で、あたしを連れ込んでどうしてっていうのかしら?」
「んぐっ。別にどうもしねぇよ。けっこういろいろ買い集めたからな、アイテムを見に来ないかと思ったんだが」
「ふーん。どうだか」
「お前が何を警戒しているか知らんが・・・心配せんでも家にいるぞ」
「親?珍しいわね」
「いや、美智留が」
「はぁ?あんたバカなの?なんで氷堂美智留が平日にあんたの家にいるのよ」
「絶賛家出中らしい、親と喧嘩してるからな。うちから学校通ってるんだ」
「そんな理由で倫也の家に泊まりにくるわけ?」
「あいつの中では別宅ぐらいに思ってるんだろ、着替えもいろいろ置きっぱなしだしな」
「なら・・・どーしてもっていうなら寄ってあげてもいいわよ」
「別にどーしてもってこともないけどな、まぁいいや」
家の前で立ち話していたが雨の中で長話しもしずらい。俺は玄関に向かって扉を開けようとしたが鍵がかかっていた。ポケットから鍵を出してあける。
英梨々が傘をすぅとたたんで、クルクルと振って水を弾く。水の弾きもいい。
「どうぞ」
「・・・おじゃまします」
ひさしぶりに英梨々がきた。前回は4月だったか、美智留がいて口論して帰っていった。なかなか難儀な性格である。今日は事前に言ったので問題ないだろう。それに部屋のグッズを見るだけだ。
「ああ、美智留まだ帰ってきてねぇな・・・どうする?」
「どうするって?何がよ」
「いや、いねぇけど・・・あがる?」
「・・・」
英梨々が黙って傘立てに傘をいれて、濡れたローファーを脱いだ。気持ち頬が少し染まっているあたり恥ずかしいのかもしれない。いつのまにか女の子になちゃって、まぁ。
「ここがリビングだ」
「こないだ来たわよ」
「ふむ。では、こっちだ」
二階には俺の部屋と両親の寝室と、半分物置の美智留の部屋がある。俺は階段をトントンと上がっていくが、英梨々が上がってこない。
「俺の部屋、こっちだぞ?知ってるだろ」
「・・・知ってるわよ。こっちにも心の準備ってものがあるでしょ」
「いや、いらないだろ別に」
「あんたにはいらなくても、あたしにはいるのよ。バカ」
「まぁいいや、決意がついたら上がってこいよ」
「・・・決意が必要なのかしら・・・」
俺は構わず先に部屋に入ってドアの鍵をかけた。それから着替えた。ズボンとTシャツ姿になるとだいぶ気が楽になる。制服が少し濡れているのが気になるがハンガーにかけておけば乾く。シャツはまるめて洗濯だ。
ドアを開けると英梨々がもじもじしながら下を向いて立っていた。
「ほら、はいれよ。ちと、タオル持ってくるわ」
「・・・うん」
階段を降りてシャツを洗濯機の中にいれる。それからタオルを一枚用意して上に戻った。
英梨々は鞄をもったまま部屋に立ってキョロキョロしている。
「鞄ぐらい置いて好きにしてていいぞ」
「そう?」
「何か飲むか」
「なんでもいいわよ」
英梨々にタオルを渡し、俺はもう一度下に戻って冷蔵庫を開ける。あんまりろくなものがない。麦茶ぐらいあればいいのだがなかった。買い置きしたドクペがあったので、グラスに氷をいれて用意する。添えるようなレモンはない。
グラス二つと缶のドクペをお盆に乗せて上に戻った。
「あのなぁ・・・」
英梨々が俺のベッドの下を覗き込んでいる。いや、ベッドマットをもち上げて隙間を覗き込んでいる・・・が正確な描写だ。
「何してんだ?」
「えっ?男の子ってこういうところにエロ本を隠しているんでしょ?」
「俺は18禁には手は出さないんだが?」
「で、どこに隠しているのよ」
「持ってないからな、隠してもいないぞ?それに三次元のエロ本なんか興味ないからな」
「別に三次元でも二次元でもいいけど、あんたの性癖なんて興味ないんだけど?」
「興味ないならエロ本探しするなよ・・・」
英梨々がペタンとクッションに座った。夏服姿の英梨々はカワイイ。うちの学校の女子の制服はセーラー服タイプの襟元のブラウスに水色のニットベストだ。スクールニットなんていう言い方もする。もちろん真夏になればベストは着ない。
「ドクペでいいな?」
「いいわよ」
「ほれ、グラスもって。注いでやろう」
英梨々が氷入りの細長いグラスを持った。俺はそこにドクペをいれ、残りを自分のグラスに注ぎ入れる。
「じゃ、そういうわけで・・・カンパイ」
「何によ・・・」
「借金返済?」
「およそ高校生らしくないわね」
グラスを少しぶつける。キンとグラスの弾ける音とカランと氷の音がする。ドクペの甘ったるさが喉をすぎていく。香辛料の香りが実に爽やかだ。英梨々がクスリッと笑って、一口飲む。
「からあげちゃんも食べるわよね?」
「そうだな。他にも何か買ってくればよかったか」
机の上にからあげちゃんを広げる。先ほど1つ食べてしまったので、俺はあと1つだけ貰った。英梨々は口に丸ごと一つ放り込んでモグモグと食べる。気取らないのがいいところだと思う。
「んぐっ。で、なかなかいい部屋だろ?」
「んん」
「壁にポスターだろ、飾り棚にタペストリー、飾ってあるのは英梨々に貰った『魔装少女まさかまじか!?』のコンビニフィギュアだ」
「まだ棚が寂しいわね」
「そうなんだよなー。でもこれに並ぶ一品をそろえていきたいと思ったな。でも、上に1つだけ『ねんどいどろ』を置いてみたが」
「それ『昔物語シリーズ』の主人公よね・・・」
「そうだが?」
「黒髪ロングのキャラよね」
「そのとおりだが?」
「あんた、そういうのが趣味なのかしら?」
「ん?『ねんどいどろ』可愛いだろ?表情パーツもあるんだぜ」
「そうじゃないわよ・・・黒髪ロングが好きなのかって聞いているんだけど」
「もちろん好きだぞ?」
「・・・」
「それに、メインヒロインカラーのピンクも、地味な緑髪キャラも、もちろん王道的なボブカットもな」
「なんか抜けてないかしら?」
「何がだ?」
「金髪よ、金髪。だいたい世の中にピンクだの緑だのは実在しないでしょーが」
「アニメはアニメの良さだろ。実在する必要はぜんぜん無いんじゃないか」
「そうだけど、そうじゃないわよ。まったく」
「もちろん金髪キャラも好きだけどな・・・」
「・・・けど何よ。文句あるわけ?」
「別にお前に文句はねぇよ」
二次元の金髪キャラも好きだが、所詮はベタ塗りの黄色髪だ。英梨々のように光を集めたような硬質な金色とはまったく別物である。ましてや柔らかに風になびく様は二次元アニメでの表現では限界がある。
・・・もちろんそんなことは英梨々には言えない。
「それにしても、意外と片付いているわね」
英梨々がキョロキョロしている。これでオタクの幼馴染でなかったら俺では声などかけれないような圧倒的美少女感。さっき髪の毛を意識したせいかまともに目が見れない。整った細い眉にサファイヤブルーのような深い青色の瞳は興味深そうに部屋を見渡していた。
「片付けておかないと、美智留が勝手に人の物を捨てようとするんだよ・・・」
「はぁ?なんで?」
「あいつはオタク反対だから、せっかく進学校行ったんだし、彼女の1人でも作れとうるさくてな」
「彼女とオタクは関係ないじゃない」
「だろ!?」
「大きな声出さないでよ。びっくりするでしょ」
「あいつが言うにはだな・・・オタクっていうのは部屋の片隅で漫画読んで『げふっげふっ』って気持ちの悪い笑い方している生き物なんだそうだ」
「・・・あながち間違ってないわよね」
「偏見だよねぇ!?全員が全員が変な笑い方するわけじゃねーし」
「他は?」
「あとは、オタクっていうのは自分の好きなことは相手が聞いてなくてもたくさんしゃべるって・・・」
「それ、倫也のことよね」
「それから、相手が興味ないからさりげなく断っているのに、強くマンガやアニメを勧めてくるとか・・・」
「倫也よねぇ・・・」
「あとは、いつもパソコン画面見つめてぶつぶつ呟いて、ときどき変な笑いしているって」
「よくわかんないけど、氷堂美智留の中のオタクって倫也のことよね」
「偏見じゃね?」
「事実だと思うわよ」
「仮にそうだとして、それと恋愛は関係なくね?」
「うーん・・・自信ないわね。だいたい、その状況で出会いなんてないし、仮に誰かに出会ったとして声なんてかけれないでしょ」
「俺は別に女子とも普通に会話できるぞ?」
「・・・たしかに意外と倫也は社交的よね」
「オタクの全員が全員、陰キャとは限らないからな」
「で、あんた気になる女子でもいるわけ?」
「・・・俺は二次元にしか興味ないからな・・・」
「それ、オタクが彼女できないって認めているわよね?」
「くっ・・・そうか」
「あんた、けっこうバカよね」
「そこはツンデレ風にいってくれ・・・」
うーん。正直、陽キャのいう『彼女』とか『付き合う』とかよくわからない。ギャルゲーもさんざんやったし、恋愛マンガもアニメもラノベもたくさんみているが、どうにもよくわからん。
「だから、倫也には彼女なんて早いのよ」
「そういうお前はどうなんだよ?偉そうに言ってるけど、コミュ症のお前だって・・・」
「あら、あたしはいつでもできるわよ?すぐ告白されるもん」
「あーはいはい、さようですかー」
「だいたいなんで、あんたに恋バナしないといけないのよ。バカなの?死ぬの?」
「英梨々がふってきた話題だからな!?あっ・・・そうだ」
「何よ」
恋バナをしていて思い出したことがある。まぁ俺にはまったく縁がない話しかもしれないが・・・
「霞詩子ってわかるか?」
「・・・『恋するメトロノーム』の作者よね」
「そうそれ。現役女子高生ラノベ作家らしいんだが」
「眉唾よね」
「ところがだ、今度サイン会が和合市で行われるらしい」
「・・・へぇ・・・じゃあ、本物なのかしら?」
「別に『美人女子高生』などとは謳っていないからな、現役女子高生だけならありうるのかもしれん」
「そうね、でも、なんでサイン会?」
「第二巻が好評で重版がかかったらしい。あとネット上で嘘だ嘘だ言われているから証明したいんじゃねーの?」
「あの本ってそんなに売れたの?」
「ふふふっ、地味な普及が実ったんだな。元々実力はあったし内容も頭一つ二つ飛びぬけていたからな、読んでさえもらえば広まっていくだろ」
「倫也のサイトでもけっこう強く何度も押してものね」
「まぁ、どれくらい影響力があるか知らないけどな」
俺のサイトは登録人数が1万人を越えているから、プチインフルエンサーぐらいの影響力があるのかもしれない。バイト代の他にアフェリエイトの収入も多少はある。が、こちらの収入はサイト運営のためのラノベに費やされているから自由には使えない。
「まさか、あんたそのサイン会に行くつもりじゃないでしょうね?」
「そのつもりなんだが・・・」
「や・・・やめなさいよ」
英梨々が苦虫でも噛みつぶしたような顔で俺を軽蔑の目でみている。・・・その顔、きらいじゃない。いっそ踏んでくれ。
「気になるだろ?」
「なるわけないでしょ」
「でも、現役女子高生だぞ?」
「現役女子高生なら毎日見ているわよね?」
「ラノベ作家だしなぁ・・・一目みたいんだよな・・・」
「変態」
「純粋なファンだからね!?それにさ・・・言われたんだよ。図書室でほら・・・なんだっけ霞ヶ丘先輩?にさ、『ファンレターでも書いてみてたら?』って」
「・・・あの黒髪ロングね、あんたあの人が誰だか知ってるのかしら?」
「ん?だから、霞ヶ丘先輩なんだろ?有名なのか?」
「はぁ・・・あんたねぇ。二次元でオタク活動もいいけど、最低限の男女の噂話ぐらい知っておきなさいよ」
「男女の噂話?なんだ?英梨々が100人に告白されて全部断ったとか、ああいう尾びれのついた話しのことか?」
「124人よ。勝手に減らさないでくれかしら?」
「もうほぼ同学年の男子ほとんどじゃねーか」
「先輩からもされますけど、何か?」
「別にどうでもいいわ」
「どうでもよくはないでしょ」
「俺関係ある!?」
「・・・ないわよ。じゃあ、あんたは何?あたしが断って逆恨みされて、集団でレイプされそうになっても見て見ぬふりをするわけ?」
「どんなシチュエーションだよ!とんだエロ同人だな、おい」
「エロ同人のこと知ってるじゃない」
「・・・シラナイヨ」
「どこに隠しているのよ」
なぜ、こいつは俺の性癖を追及しようしているのか、変態なのか?オタクなだけでなく変態金髪ツンデレ美少女なんだろうか。キャラ濃いな、おい。
「ごほん・・・というわけでだな、サイン会いくか?」
「行かないわよっ!」
「・・・だよな」
「・・・あれ?今、倫也・・・あたしのことデートに誘ったかしら?和合市ってけっこう距離あるわよね」
「俺はオタクの同胞としてだな・・・一応声掛けしただけなんだけど」
「・・・」
「・・・」
なんだ・・・この気まずい空気は・・・
沈黙。
あれ?俺、英梨々と一緒にサイン会に行きたかった?あれ?
英梨々はベットに座って足を組んだ。えっ・・・見えて・・・
その時だ、玄関の開く音がした。ドタバタと騒がしい音がここまで聴こえてくるのは美智留が帰ってきたということだ。
「美智留が帰ってきたな」
「そう、ならそろそろあたしも帰るわよ」
「・・・そうか?別にここでギャルゲーを一緒にやってもいいだぞ?」
「やらないわよっ!どんな誘い方よ・・・まったく」
ドタドタドタドタッと、美智留が走って上ってきて扉をバタンと大きく開けた。
「トモ~~~!あっ~~~~!!」
「騒がしいななんだよ・・・」
「女連れ込んでヤった後だったか・・・」
「ヤってないからねっ!?」
「やってないの?なんで?」
「なんでって・・・なんでだよ!?」
「えっ、トモの彼女だよね?」
「ちがうわよっ」「ちがうから」
そこは会話に加わらない英梨々も強く否定するようだ。まぁいらぬ誤解だな。
「じゃあどんな関係なんだっけ?」
「えっとだな・・・英梨々とは・・・図書委員会仲間だ」
「トモ?普通は図書委員仲間の異性を部屋には連れ込まないから」
「ふっ・・・普通はな。が、こいつは特別なんだよ。特殊なんだ」
「その言い方は棘があるわね?何よあたしの何が変なのよ?」
「別に変とは言ってないからな。ほら、こいつは近所で幼馴染だから・・・」
「まっ、どうでもいいけど。連れ込むような真似は誤解を生むから、覚悟がないなら辞めた方がいいと思うよ。トモ」
「正論だな・・・」
「じゃ倫也、あたしは『帰って早くシャワー浴びたから』そろそろお暇するわ」
「事後じゃん」
「誤解だからね!?」
英梨々が俺に、『べぇー』と舌を出して階段を降りていった。
「はぁ・・・」と俺は深く溜息をついた。
もう少し美智留の帰ってくるのが遅ければ・・・いや、まぁ英梨々はサイン会にはいかないか。
(続く)
それでは良いお年を!
今年も過ぎるのがはやかったですね。
最終話は明日の夜0時5分にしておきます。