「……美味しくない」
先程狩った魔獣を焼いたものを食べながらそう独りごちる。調味料が塩すら無いと言うのもあれだが血なまぐさいのが一番来るものがある。生まれてこの方血抜きなどした事が無いのだ。前世の某動画配信サイトで見たやり方は朧気ながら覚えていたがやはりダメだった。今更ながら血抜きを作り出した先人や肉を加工して美味しくした生産職の人には頭があがらない。
血抜き不十分な肉の愚痴はここまでにして現状を纏めよう。今は何処かの森の中で焚き火をしながら肉を食っている。あの後父であるヴォーティガーンが生み出した隙に便乗してあの場から逃走したのだ。その甲斐あってか追手もない。
追手が無いのはいい事だが正直これからどうすべきか。幸いな事に顔はローブに認識阻害の魔術とやらが掛けられているらしく仮に顔を見られていても問題は無いだろう。名前に関してもあの時、父が呼んだ時以外に表に出てないから偽る必要とかも無いのだが。
1番の問題は衣食住である。衣はまあ、底無しの袋──私が命名した色々なものが入る袋──に色々と入れられていたから問題は無い。食もまあ最悪こういう魔獣を狩れば問題ない。でだ住が一番の問題だ。
私の父であるヴォーティガーンは死んだしおそらく父の配下とかもあの戦いで死んでいるだろう。親族はまあ、一応いる。記録の本に出てきた父の姪であるモルガンとその妹のアーサー王。モルガンは居場所は知らん。アーサー王はそもそもヴォーティガーンの息子である俺が会うには論外すぎる。戦争してた相手の息子なんて即刻打首にされるだろう。
故に今の私は住む所無しである。ほんとうにどうしよう。
「…………誰だ」
頭を悩ませていると微かだが気配を感じ腰につけていた剣に手をかける。
まさか追手か?と思うのもつかの間現れたのはローブに身を包み杖を携えた存在だった。
「イアン」
「!?……なぜその名を知っている」
父や宮廷魔術師しか知らぬであろう名前を知る人物に警戒を強める。まさか、生き残りでもいるというのか。
あの記録にも父からもそのような話は聞いていない。
いや、1人だけ可能性があるのがいた。
「……モルガンか?」
「しっかりと知識は入っているようですね」
そう言うとローブを脱ぎこちらに顔を見せたのは女性。あの時見たアーサー王よりも大人びている顔だった。血縁というのも納得のそっくりさだ。
「行く所が無いのでしょう?私の元へ来なさい」
善意からでは無いだろうな。あの記録本にはモルガンの事にも微かだが書かれていたおそらくは私を利用する気なのだろう。
だがこのまま根無し草ではこの先どうなるかわからない。
「…………世話になる」
「ええ、世話をしてあげましょう」
そう言って妖艶に笑った彼女は杖を構え魔術を行使する。一瞬目の前が光で塗りつぶせれ眩しさに目を瞑る。そして次に目を開けた時には見知らぬ建物の中であった。
「ここは……?」
「ここは私の魔術工房。貴方にはここで暮らしてもらいます」
確かにほんの微かだがモルガンの魔力の気配が建物中から漂って来ている。
「お母様?」
そんな家の中を興味深そうに見つめていれば何やら幼子がやって来た。金髪をした幼い少女だ。
「ガレス、どうかしましたか?」
「お客さん?」
ガレスとモルガンが呼んだ少女はモルガンの足にくっ付くとこちらをモルガンの足の影から伺うように見てくる。
「ええ、彼は貴方の従叔父にあたります」
「じゅうしゅくふ?」
「貴方にはまだ早かったですね。とりあえず貴方の親族関係である事を覚えておきなさい」
「はい」
こう見ている分にはモルガンは良い母親をしており、とても王位を簒奪しようとしている魔女とはとても思えない。しかし、人は見かけによらないとも言うしな要警戒ではあるか。
とりあえずガレスに挨拶でもしなければな。
「私の名はイアン。これから世話になる」
「ガレスです」
私が膝をつき視線をガレスの合わせながら自己紹介をすればガレスもそれに合わせて挨拶を返す。
流石モルガンの娘といったところか幼いながら所作に生まれの良さが滲み出ている。俺もそのうちこういうのは覚えた方が良いのだろうか。
「暫くはここで家や私の手伝いをしながら生活しなさい」
「ああ、そうさせてもらう」
俺はまだまだ生まれたばかりだ。まともに生活出来るだけでもありがたい。だがモルガンの期待するような瞳だけが不安だ。